第4話:漆黒のヒーローの戦う理由
お久しぶりです。智神です。
今回はイッカイが遂に……。
「やあやあ、パーフェクトギャラクシーアルティメット天才科学者のポーロニアだ。とある住宅街でレストランを営んでいたヴァイパー・ブラッドヴェセル、スフェル・チューナー、マステラ・プリテンドの三人組。彼らには義賊団ラドリオとしての顔があった。ある日いつも通り活動していると、4Cが現れ―――」
「前回俺ら出てないじゃないですか!主人公なのに!」
「うるさいよ、今私があらすじ紹介してる途中でしょうが。てかこの物語の主人公私だし」
「いやいや、俺ですよ。題名に―――」
「はいっ、第4話スタート!」
「無視しないで下さいよォ!」
◆
サンドイッチを頬張りながら新聞を眺めるポーロニア。
コーヒーを啜り、ある記事を見て溜め息を吐く。
「どうしたんですか?」
「4Cがまたラドリオに逃げられたらしい。これで何度目だ…?」
「ラドリオ?」
「エドエンシスのみで活動する盗賊団だ。尤も、一般市民からは義賊と呼ばれてるらしいが」
「ふーん」
「それで…今日の予定は覚えているよね?」
「はい、今日は『国立最先端科学研究所』へ訪問するんでしたよね?」
国立最先端科学研究所。
通称は国最研
およそ5千年前に設立した、その名の通り科学分野に関する事を研究している施設。
が、魔術を研究している課もある、らしい。
「ああ、君も一緒にね」
「え?」
何で俺も?という表情をするイッカイ。
一方ポーロニアは首を傾げていた。
「あれ、言ってなかったかな。まあいいや、どのみちキミに会わせたい人がいるからね。さあ、行くよ」
「え、その格好で行くんですか?」
イッカイが指摘したポーロニアの服装は至ってシンプルなものだ。
いつもの白衣、ダメージジーンズ、そして数式がところ狭しと書かれたパーカー。
「いやいやいや!なんすかそのパーカー!?」
「オーダーメイド」
「ダサッ!今からでも良いから着替えましょうよ!」
「別に誰にも何も言われなかったんが……」
「その服指摘する人なんて居ませんよ!てかそのリュックも何ですか!数式大好きなんですか!?」
「大好きだが」
「ああもう!」
結局イッカイの方が根負けし、ポーロニアは数式Tシャツを着ていく事になった。
ポーロニアは満足気だったが、研究所に行く途中の人の視線が痛かった。
◆
「でけぇな……」
高さ100m超えの建造物を見上げ、語彙力のない感想を口にするイッカイ。
外壁は白一色で、無数の窓が取り付けられている。
「何してるんだい?早く行くよ」
「あ、はい!」
その後、自動で動くドアや、昇降機と呼ばれる移動装置等の最新技術を目の当たりにし、興奮するイッカイ。
ポーロニアに次々と質問を投げ掛ける。
国最研の職員たちになんだコイツという目で見られたが、特に気にしていなかった。
そうこうしている内に目的地に着く。
「いやここ所長室じゃないすか!」
「そうだが?」
「俺が来ていいんですか!?」
「じゃなきゃ連れて来てないよ」
そう言って所長室の扉を開ける。
その奥には所長とおぼしき男性が座っていた。
そこからは、荘厳で重厚な雰囲気が醸し出されている。
「久し振り、父さん」
「えっ?」
「良く来たな、我が娘よ。そして…えぇ~、家政夫くん」
「えっ?」
混乱するイッカイ。
一つはポーロニアと所長が父娘の関係だった事に対して。
もう一つは所長が自分の事を知っている事に対して。
そのまま黙っている所長――――だったが、何故かいきなり叫ぶ。
「だぁぁぁ!ああもう堅ッ苦しい!もう止めや!」
「ちょ、父さん!雰囲気台無しじゃん!もうちょい抑えられなかったかなぁ?」
「出来る訳ないやろ!第一なあ、お父さんはなあ、こういう、もう、何て言うか…この空気感が嫌いなんや!」
そこには先程までの威厳ある風格を纏った男性はおらず、代わりに『フォッサウェスト弁』で喋る饒舌な人物が居た。
「……ああ、びっくりさせてゴメンな。とりまそこ座っとくれ」
「えっ、えっ?…あっ、はい」
ソファーに座るイッカイとポーロニア。
所長もどっこいしょ、と言いながら座る。
ソファーがボスン、と音を立てた。
「えーと、まずは自己紹介からやな!俺はハイド。ハイド・アインシュタイン。今は国最研の所長してる…って見りゃわかるか。年は38で、身長は―――っと、お菓子とお茶ないやん!ごめんな気付かんで。ヘィ、エニグマ!」
「お呼びでしょうか?ハイド所長」
「あっ、エニグマ久し振り~!」
「お久し振りです、ポーロニア様」
ハイドが手を叩きその名を呼ぶと、魔法陣が展開され、国最研の制服を着た少女――エニグマが現れる。
ポーロニアは笑顔でエニグマに抱き付く。
その姿に何処か違和感を覚えるイッカイ。
「茶菓子持ってきてくれへん?」
「了解しました」
「ありがとな~助かるわ~」
「ちょちょ、ちょっと待って!」
「?どうかされましたか」
エニグマを呼び止めるイッカイ。
首を傾げるエニグマ。
「君…人間?」
「いえ、マギノイドですが」
「マギノイド?」
聞き覚えのない単語に困惑するイッカイ。
いきなりフッフッフ、とハイドが不敵に笑う。
「そう!マギノイドとはこの俺が開発した自律式魔導ロボット!自分で認知し、思考し、行動する!人間と同等、いやそれ以上の知能を持つ俺の最高傑作や!」
自分の発明品を自賛したがるのは遺伝なのか―――と思うイッカイ。
ハイドが咳払いをし「少し話してもええか?」と聞き、真剣な表情でイッカイを見つめる。
先程とは打って変わった様子に、イッカイは思わず身体が硬直した。
「例えば―――君が正義の為に戦っていて、ポーロニアみたいな力を持っているとする。目の前にカラミティに襲われて、死にそうな人間が居た。どうする?」
「どうする、って……勿論助けますよ!」
「そっか。じゃあ―――その人間が君にありがとうの一言も言わず一人だけ逃げたら、君はどう思う?」
「えっ、いや、それは……」
黙ってしまうイッカイ。
その姿を、ポーロニアは見詰めている。
暫くして、イッカイは口を開いた。
「―――多分イラつくと思います。“何でアイツは感謝もしないんだ”って」
「ふーむ……君は人助けに見返りを求めているのかもしれへんな」
「…………」
そんな事、考えた事も無かったとイッカイは思う。
人に助けられたら感謝する。
だから、誰かを助けた時見返りを要求するのは当たり前だと考えていた。
それが当たり前だと思っていた。自分も他人も。
でもそれが本当に正しいのか、自分は間違っていたのかと、落ち込むイッカイ。
突然けたたましくアラートが鳴り響く。
カラミティの出現を知らせるアラートだ。
「っ!カラミティか!」
「おう、いってらっしゃいなポーロニア」
「あっ、俺も行きます!」
「ちょいちょいちょい、君はここで待機や」
走り出すポーロニア。
イッカイもそれに続いて追いかけるが、ハイドが止める。
「えっ、何ですか?」
「いやいや、フツーカラミティに突っ込んで行くの自殺行為やからな?……で、キミに聞きたい事があるからやな」
「何ですか?聞きたい事って」
「さっきの話の続きなんやけどな。もし世界中の人間が助けられて感謝もしない連中ばっかやったら――――君は人間を助ける事を辞めるか?」
「―――絶対に辞めません」
「それは何でや?」
「俺の故郷には、家族も、友人も居るんです。多分俺が諦めたら、ソイツらの期待を裏切る事になる、失望させてしまうと思うんです。―――そんな事、耐えられないですから」
静かに、しかし熱を秘めてその強固な意思を口に出すイッカイ。
「戦う理由は故郷の為、ってことやな?」
「はい」
「そっか―――気に入ったわ、君!」
冷静な口調から明るい口調へかわるハイド。
オンオフの差が激しい人だな、とイッカイは思う。
「何かもう、そのあっつい魂の熱がブワーッって伝わって来たで!いやー本当本にしたい―――」
突然、国最研の玄関口から爆発音が聞こえた。
恐らくポーロニアとカラミティのものだろう。
「すいません、少し行ってきます!」
「あ、ちょ待って待って!コレ受け取ってくれ」
ハイドから何かを渡される。
それは――――
「エレメントキー……」
「それにはカラスの属性が籠ってる。御守り代わりに持っといてくれな?」
「……ありがとうございます!大切にします」
そう言いながら所長室を走って出ていくイッカイ。
エニグマはハイドへ問う。
「大丈夫でしょうか」
「大丈夫や。イッカイ君は強いからな」
「根拠は」
「故郷の為に戦うっていう意思があるから、やな」
◆
イッカイが玄関口へ駆け付けると、ポーロニアは変身解除されていた。
ポーロニアへ駆け寄るイッカイ。
「ポーロニアさん!大丈夫ですか?!」
「大丈夫じゃないよ……」
鶏のような風貌をしたカラミティが耳障りな唸り声を上げる。
もう一度変身しようとするポーロニア。
が、イッカイがウェイクアンロッカーを取り上げる。
「え?何する気だい?!」
「アイツを倒します」
「キーを持っていないのにか!?」
「キーなら、あります」
[WAKE ANLOCKER!]
ウェイクアンロッカーを装着し、キーを装填する。
[CROW KYE!]
[ANLOCK!]
ポーロニアが変身した時と同じ様に『ソニックドライブファクトリー』が展開する。
「―――変身」
そう言うと同時に、ウェイクアンロッカー上部のスイッチを押す。
腕をカラミティへ向け、挑発するように指をクイッと曲げる。
そして、『ソニックドライブファクトリー』で製造された装甲がイッカイへ装着された。
[漆黒激烈情熱!C!C!!C!!!CROW!WONDERFUL!]
そこには、漆黒の戦士が居た。
スプリットと同じくスタイリッシュなデザインになっている。
俯いた顔を上げ、赤い複眼がカラミティを視界に入れる。
そして―――叫んだ。
「こっからは……オレの無双だァァァァァァァァッッッ!!!!!」
どうでしたでしょうか。
相変わらずうちの猫が可愛いです。