第2話:雇い主が変身ヒロインだった件について
第2話です。
初っぱなから戦闘シーンです。
上手く書けてるか心配です。
「ポーロニアさん…ですよね?」
「―――スプリット」
「え?」
「バネって意味のスプリングと、ラビット、それと分裂って意味のスプリットを掛け合わせた名前の―――ちょっとした、変身ヒロインさ」
高らかにそう名乗るポーロニア―――否、スプリット。
その姿は、全体的にウサギに似ていた。
『スプリットヘッド』のデータ収集装置『SPノーズシグナル』でカラミティのスペックや能力をスキャンする。
「実験―――」
右脚へ重心を掛け、脚の脚力増強バネ『ホップジャンプスプリンガー』を縮ませ―――
「―――開始!」
一気に解放し、カラミティへ肉薄する。
あまりのスピードにカラミティはスプリットを認識できず、モロにパンチを喰らってしまった。
そうして出来た隙を突いて、スプリットは高速ジャブをお見舞いする。
カラミティも負けじと腕のクローでスプリットを引き裂こうとするが、スプリット自慢のスピードで躱された。
「そんな単純な動きじゃあ、私には到底敵わないよ」
チッチッチ、と言った風に指を振る。
ならば、とカラミティは糸を吐き出す。
しかしスプリットは、それすらも軽く避けてしまう。
が、避けるという事は流れ弾が何処かに当たるという事なので―――
「あ」
「う、動けねぇ……」
糸を解こうとジタバタするイッカイ。
そんな彼を横目に、スプリットとカラミティは戦闘を続ける。
しかし、カラミティはスプリットに翻弄され、ダメージが溜まっていく一方だ。
ある時、カラミティが膝を着く。
「よし、データも集まったし、実験終了といこうか」
ウェイクアンロッカーのスイッチを押す。
すると、ウサギ型のエネルギー体『スプリットラビット』が現れる。
カラミティへ近付き、アッパーを喰らわせ上空へ飛ばし、自らもスプリットラビットと共にジャンプするスプリット。
そして右足を突き出す。
「はああぁぁぁぁっ!」
スプリットラビットがスプリットを蹴り、キックを加速させる。
そして――――
[R A B B I T F I N I S H!]
[WONDERFUL!]
カラミティの身体を貫いた。
黒い爆炎と断末魔を上げ、カラミティは消滅した。
スプリットはそのまま地上へと―――
「ふぎゃっ!?」
不時着した。
勢いを殺し切れず、転がっていく。
結局誰かの家に激突し、スプリットは止まった。
「え、えぇ……」
非現実的な光景に、唖然とするイッカイであった。
◆
「あーあ、クモさんやられちゃった。お気に入りだったのに」
そんな彼らをとある屋根の上から見ていた人物が居た。
声質から少女だろうか。
紫のミニスカートを履き、ダボダボのセーターの上にネコミミが付いたパーカーを羽織っている。
屋根から飛び降り、黒い鍵型デバイスを拾う少女。
「ま、いっか。また造ればいいんだし」
鼻歌を歌いスキップしながら、そこから去っていく。
「じゃ、またいつか会おうねポーロニア、イッカイくん」
◆
カラミティを撃破してから30分。
イッカイに纏わりついた糸がラピッドアローでも切れず、四苦八苦していたのだ。
と、そこへ馬車がやって来る。
ボディアーマーを身に付けた人間が十人程降りてきた。
「やっぱお前か、ポーロニア」
隊長らしき人物が話し掛けてきた。
藍色の髪はボブで、琥珀色のつり目は不機嫌な雰囲気を醸し出している。
腰からは奇妙な形の剣を携えていた。
「やあファント、遅刻とは感心しないな」
ファント―――そう呼ばれた青年は、不機嫌そうな顔をして否定する。
「違えよ、元々これとは他の任務やってたんだ。急にココにカラミティが出現したらしいから来たんだが―――もう片付いたらしいな」
「ああ、私は天才だからね!サクっと終わらせ―――」
「で、あの一般人は誰だ?」
話を途切れさせられ、頬を膨らませるポーロニア。
「え、俺っすか?」
「お前以外誰が居んだよ」
「彼はイッカイ・トリニティクロウ。私の家政夫だ」
「へぇ~……」
興味深そうにジロジロとイッカイを見るファント。
何故か剣の柄に手を掛ける。
「えっ、えっ?何?何何何何?!」
腰から剣を引き抜き、勢い良く降り下ろす―――
「うわぁぁぁぁ!止めろォォォォ!」
「フンッ!」
「うわァァァァ……えっ?」
糸が切れた。糸だけが切れた。
イッカイは身体どころか、彼が着ているモッズコートにも傷一つ付いていない。
ファントは再び剣を腰に納める。
「ったく、俺が守るべき市民を斬るわけねえだろ。王子なんだし」
「お、王子ぃ?!」
「そう、正真正銘王子だ。ファント・ヴァイスシュヴェールト。つっても第2だけどな。ついでに言うとポーロニアの知り合いでもある」
「マジかよ……」
ふんす、と言い胸を張るポーロニア。
イッカイはその時、ポーロニアのとある部位(どこかとは言わないが)が残念である事に気が付いた。
気が付いてしまった。
「おいイッカイ君、何か物凄く失礼な事考えてないか?」
「イエ、ナニモ」
「あ、あぁ~…気にすんなイッカイ。コイツの胸囲は昔っから―――」
そこまで言いかけて、ファントはポーロニアにシャーマンスープレックスを喰らわせられる。
沈黙するファント。地面からは煙が上がっている。
「さ、そろそろ帰ろうか、イッカイ君?」
ポーロニアは笑顔だった。
張り付いた笑顔だが。
イッカイはとてつもない恐怖を感じていた。
◆
その日の夜。
イッカイとポーロニアはテーブルを挟んでハンバーグを食べていた。
因みにポーロニアの希望である。
「ハンバーグは脳の回復に一番良い」とか言っていたが、要するにハンバーグが大好きなのだ。
雇い主の意外に子供っぽい一面を見たイッカイであった。
「あの……」
「ん?なんだい?」
「ポーロニアさんが変身に使ってた鍵みたいなのって何ですか?」
「ああ、これか。これはエレメントキーと言ってね。動物の力や、様々な属性が宿っている鍵型デバイスだ」
「へぇ~……どっかで見たような……。あっ、そう言えば、俺って住み込みなんですよね?」
「ああ、そうだけど、それが?」
「いや、ポーロニアさんは大丈夫なのかなぁ~って……」
「ん、ああ。大丈夫だよ、別に。いや、君が私に対して疚しい気持ちを持っていなければの話だけどね」
思わず飲んでいた水を噴き出すイッカイ。
その様子を見て、ポーロニアはニヤニヤしている。
「そそそ、そんな訳ないじゃないですか!」
「えぇー、ホントかなー?もしかしたら、君の中にケダモノが潜んでたりして……」
「ご馳走さまでした!失礼します!」
席を立ち、ポーロニアに与えられた自室に籠る。
ポーロニアも席を立つ。
そして、黒板の隣にある本棚を移動させる。
すると、隠し通路が現れた。
奥には部屋が見える。
そして―――
「彼にもコレを知らせないといけない、かな」
次回は新戦騎が二人登場します。
3/31 必殺技の際のウェイクアンロッカーの操作を変更しました。