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プロローグ『予言』

『異星人王女とのまったりラブライフ』




 毎年7月になると思い出す。

 20年前。1999年の7月のことを。



 遥か昔、ある予言者が1999年の7の月に恐怖の大王がやってくると予言した。

 俺は当時、小学1年生。両親や友人からこの話を何度も聞いた。そこまで深くは信じなかったけれど、実際にそんなことが起こったらどうなるのだろうと興味を持っていた。



 いよいよ、7の月がやってきた。

 友達のうちの何人かはとても興奮していた。


 しかし、何日経っても何も起こらない。

 恐怖の大王がくるなんて、予言者の妄想か作り話なんじゃないかと思い始めた。友人もがっかりしていた。



 ただ、夏休みが始まってすぐのこと。

 夜になり、窓を開けると流れ星が見えたのだ。すぐに消えるかと思ったら、実家の近くの山に落ちていったように見えた。


 その光景を見て俺はとても興奮した。もしかしたら、恐怖の大王が宇宙船に乗って地球にやってきたのかもしれないと。

 友達にこのことを話して、翌日から近所の山に宇宙船探しを始めた。


 しかし、宇宙船は見つからない。

 一緒に探してくれる友達は段々と減っていき、7月が終わると同時にゼロとなった。


「きっと、君が見たのはただの流れ星だったんだよ」


 最後まで一緒に探してくれた友達はそう言ってくれた。けれど、


「お前もあの予言者みたいに嘘つきだな」

「おとぎ話に付き合わされたせいで夏休みが潰れた! 返してくれよ!」


 宇宙船探しを機に一切話さなくなった奴もいた。それも仕方ない。

 結局、世間も8月になると、恐怖の大王が降りてくる予言について話題にすることはなくなった。


 時間が経つに連れて、俺を含め、あの予言は子供の頃や若い頃の懐かしい話題として話される程度となった。



「もう、あれから20年経つのか……」



 ただ、当時は平成だった元号が今年の5月から令和になった。そのためか、20年以上の時間が流れたように思える。

 小学1年生だった俺も今や社会人5年生。あの流れ星を見た実家を離れ、今は一人暮らしをしている。



 7月5日、金曜日。

 今日も定時で仕事が終わり、俺は自宅の最寄り駅である夏川なつかわ駅まで戻ってきた。

 金曜日ということもあってか、他の平日のときと比べ、すれ違う人達の表情がいい気がする。俺も明日と明後日が休みだから気分はいい。

 今も暑いし、帰ったら冷えたビールやカクテルでも呑むか。確か、冷蔵庫に何本か冷やしてあったはず。


「ねえねえ、あの人見た?」

「見たよ。今からハロウィン気分なのかな。でも、可愛かったよね」

「可愛かったね」


 すれ違う女性達からそんな会話が聞こえた。

 ハロウィン気分……ってことは、コスプレをしている人が近くにいるのかな。人がたくさんいる都心の方だったらまだしも、郊外の夏川市にそういう人がいるとは。

 ハロウィンかぁ。学生時代は、2人の妹や学校の友人にコスプレをすることに付き合わされたな。


「あの、すみません。風見宏斗(かざみひろと)さんでしょうか?」


 知らない女性の声で、横から俺の名前を呼ばれたので、その人の方へと振り向いた。

 すると、そこには長い茶髪が印象的な女性が、可愛らしい笑顔を浮かべながら立っていたのだ。とても綺麗な顔立ちで、高貴な雰囲気もあって。スタイルもいいので目を引く。

 ただ、やけにリアルな猫耳がついており、黒のゴシックドレスのようなものを着ている。高そうなバッグも持っているし、さっきの女性達が言っていたコスプレしていた人って彼女――。


「えっ?」


 服の後ろから、何か細長いものが動いているのが見えるのでよーく見てみると、それは猫のしっぽのようなものだった。


「あの、そのしっぽは……」

「やはり、これが気になってしまいますよね。地球の方にはないものですし。これは作りものではなく、私の体から生えている本物のしっぽです」

「そういうものですか……」


 きっと、7月になって、恐怖の大王のことを思い出したからか、俺は変な夢を見ているに違いない。今週の仕事の疲れが溜まって、帰りの電車の中で眠って――。


「これは夢ではありません。ところで、先ほどの質問の答えをまだ聞いておりません。あなたは風見宏斗さんで間違いないでしょうか?」

「はい。私が風見宏斗です。あなたは?」

「初めまして。私は20年前の7月、地球から遥か遠くにあるダイマ王星という星からやってきましたエリカ・ダイマと申します」

「20年前の7月……まさか!」


 思い出すのは、あの日、実家の俺の部屋から見た流れ星のこと。近所の山に落ちたけれど、まさか、そのときに彼女が地球にやってきたというのか?

 夢なのか、それとも現実なのかを確かめるために、舌を軽く噛んでみると確かな痛みがあった。どうやら、これは現実のことのようだ。

 すると、エリカさんは嬉しそうに笑って、俺の手をそっと掴んできた。


「やっと、あなたに会うことができました。実際に見ると本当に素敵です。幼い頃のあなたの姿を一目見たとき、私は心に決めました。風見宏斗さん、私と結婚してください」

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