第81話:家族の温もり
こんにちは、暁改めアイラです。
西のルクス帝国の戦争が始まることが濃厚となり、軍官学校は一時休校となりました。
ボクたちは西の出身者を集めて西安候領の都ホーリーウッド市へ帰りついて。
護衛を頼まれていたシシィ、キャロル、ソフィも無事おばあさまとの邂逅を果たした。
「ん・・・ぅ・・・」
心地よい倦怠感と胸の中の温もりを感じつつボクは眼を覚ました。
胸元にしがみついているのはボクの姪、リコ。
まだまだ赤ちゃんらしい無垢な寝顔を見せている。
ボクはすこし寝ぼけたままでリコを起こさない程度に軽く愛でてからその場において体を起こす。
周りを見回せば、初めての里帰りの時から用意されていた特大の雑魚寝用ベッドの上。
窓にカーテンは引かれているけれど、このベッドの天蓋からもカーテンが引かれているため薄暗い。
そんな中ボクとリコ以外にユーリ、アイリス、エイラ、コロネ、アミ、アナ、アニス、サルビア、ガイ、ヘレン、サルート、ミズーリがそれぞれ誰かと抱きしめあって寝ている。
初めアニスがボクとくっついてリコを寝かしつけていたが、アイリスがアニスを可愛がるといって半ば無理やりにアニスを抱き枕にした。
ボクたちは初めチビっこたちを寝かしつけるつもりでこのベッドに乗り、アニスも寝かしつける側だったのだけれど、そのまま二人して夢の世界に落ち、ソレを見ていたボクたちもいつの間にか眠りに落ちてしまったらしい。
1歳ちょっとのちびっ子組は魔綿入りオムツをつけたゆったりとした服で、他の皆は外出着のままで眠っている。
ボクだけは、寝る前に脱いだらしく、外出着がベッドのベビーフェンスにかけてあった。
自分の体を見下ろすとワンポイントの胸元リボンのついた薄いピンクのスリップと同色の腿の半分までの長さのかぼちゃ型ズロースだけを身に着けた姿だった。
(ユーリが起きる前に服を着ないと・・・。)
寝る前に脱いでいたのが幸いして、ブラウスもプリーツスカートも皺になっていなかった。
ベッドの上でもぞもぞとシャツを着る。
しかし、子どもの楽園みたいなベッドの上だけれど、皆服が乱れていてちょっとみっともないね!
「見てごらんこのボクの服の皺ひとつないこと。」
なんとなく勝ち誇ってみるけれど、まだ皆寝てるのでだれも見ていない
ボクがベッドから出るとリコだけ一人担って寂しいとおもったので、背中からアイリスにしがみつかれてちょっと窮屈そうにしているアニスの前側にそっとリコを置くと、アニスは吸い寄せられる様に抱き絞めて心なしか穏やかな表情になった。
ベッドの縁から降りカーテンの隙間からベッドの外に出ると、サリィ、サークラ、キスカ、エッラ、フィレナ、ノラがお茶をしていた。
サリィがサークラの横に密着して座っていて、かなり甘えているのが見て取れる。
「すみません、かなりしっかりと午睡しちゃいました。」
照れ隠しに笑い、スカートを穿きながら5人の座っているほうへ向かう。
「アイラ、おはよう。」
サークラがボクに挨拶すると、サリィはスッと自然な動きで体をサークラから離した。
心なしか頬が赤い。
「アイラおはよー、起きぬけでもしっかりしてるわね。」
キスカがギリアム様の側室になったことで、人前でもボクに様をつけなくても良くなったのは非常に好ましいことだ。
継室のサークラともウェリントンの頃の様に歳の近い友達感覚で話しているみたいだ。
「もぅ、アイラちゃんってば、こんな素敵なお姉様が他にもいただなんて・・・聞いてませんよ?」
ボクが寝ている間にサリィはキスカとも仲良くなっていた様だ。
サリィは年上の女性に甘えたいタイプなのかもしれない。
エッラとフィレナは既にメイド姿だ。
ナディアとトリエラは・・・?
「ナディアとトリエラは旅の疲れが出ていたので、自室で寝てますよ。」
エッラが察して応えてくれる。
「サリィ姉様や二人も寝なくて良かったんですか?」
「せっかく念願のサークラお姉様にお会いできて、こんな素敵なおキスカお姉様までいるのに、眠っているなんてもったいなくって・・・。」
サリィは少しつやつやしている。
(これは・・・2時間くらい寝ていたボクより気力が充実している気がする)
「あぁそうだ。アイラちゃんちょっとお部屋にお邪魔してもいいですか?」
サークラが真剣な表情になる。
何か大事な事の様だ。
「わかりました、二人きり・・・ですか?」
「そうです、二人だけで話したいことがあります。」
二人で大事な話となると、ユーリに関する密約か、鑑定関連の話かな?
「それではボクが案内しますね。コチラへどうぞ。」
赤ちゃん部屋(元キスカの部屋)から、靴を履き歩きなれた廊下をボクの部屋に向かう。
部屋に着いたけれど、そういえば今回帰郷してからまだ部屋に入ってなかったね・・・。
部屋の中はホコリなんて積んでおらず、掃除が行き届いている。
初めて来た頃と比べるとイスやテーブルが少し小さくなったと感じながら。
サリィにソファを勧める。
「可愛いお部屋ですね。アイラちゃんにぴったり、イメージ通りです。」
かつては大変な少女趣味に驚いたものだけれど、慣れというのは怖いね、今はこの部屋が一番落ち着く。
(帰ってきたんだな・・・って安心するね。)
「それで、二人だけでの話というのは?」
声のトーンを少し下げてたずねる。
下げたところで所詮11歳女児の声なので、どうにも緊迫感のある感じにはならないけれど。
「はい、その・・・私、アイラちゃんとの約束を破ってしまって・・・。」
深刻そうな表情で語るサリィに思わず思考が停止しかける・・・。
ボクと彼女の約束というとボクが赤ちゃんを授かるまで、ユーリと結ばれないというものだったはずだ。
「ど、どういうことでしょうか!?」
まだ日も高いしあそこにはたくさんの人の目があった。
どうやって・・・・?それとも今日じゃないのか!?
そうだとしたら・・・今までユーリのことを信じてきたボクの立場は・・・?
いや、今日だってユーリの態度におかしいところはなかった。
それにボクがユーリを信じなくてどうする、何かの勘違いのはずだ・・・。
「サリィ姉様は一体何をなさったのですか?ボクとの約束いうのは?」
たずねるボクにサリィは眼を伏せ申し訳なさそうにしている・・・。
「あの・・・ね?さっきアイラちゃんとユーリ君が寝てる時に・・・、そのあんまりにもアイラちゃんが可愛くって、きっと眠たかったろうに服を脱いで下着姿で寝てるのがいじらしくってその、なでてたんだけど・・・ね?」
珍しく歯切れの悪いサリィの言葉を要約すると・・・だ。
下着姿でリコを抱きしめて寝ているボクをみてほっこりしていたところヘレンを抱っこして寝ているユーリが寝言でボクを呼んでうなされているのがサリィのハートにどストライクしてしまい、ついついおててニギニギとほっぺにキスをしてしまったそうだ。
「んー、別にソレくらいでボク怒らないですよ?」
妹や甥姪がいる立場としては、うなされているときに手を握る抱きしめるくらいは日常茶飯事だ。
サリィは従姉だし、それくらいのことならば別にボクに許可を得なくってもいい。
そういうことを伝えると、サリィは安心した様に長い息を吐いてから
「ありがとうアイラちゃん・・・」
と手を握ってきた。
涙目の美少女に手をギュッとされるのは、いくら女の子としての生活になれた今のボクでも、ドキドキする。
なんだかユーリに悪い様な気がして、でも安心させてあげたくてボクはサリィの手を両手で握り返す。
「アイラちゃん?」
不思議そうな眼でキョトンとボクの顔を見るサリィ
「サリィ姉様もボクの大好きな姉様なのですから、たとえケンカをしたって、嫌いになんてなりません。ボクとサリィ姉様との密約は、ボクがユーリの子を授かるまで、ユーリと子どものできる様なことをしないことです。」
それだけ伝えると、サリィはボクの手をもっと強く握り返してきて言った。
「私がアイラちゃんと約束したときってアイラちゃんが子どもが出来るまでは、ユーリ君を好きになっちゃダメって意味かと思ってました、あの頃でもうアイラちゃんはそんなに割り切って考えてたんですね・・・。」
ボクにとっては、このホーリーウッドの家族も、サリィも、王都邸で共に過ごしている皆も、大切な家族だ。
この温かいものを、決してもう守れないボクではない。
戦争は始まってしまった。
それならば後はもう、ボクはボクが失ってはならないものを守るために、やれることは全部やろう。
王都から離れても、幼い日のボクとの約束を守ろうとしてくれたサリィの手の温もりは、ボクの決意を促すには十分なものだった。
それから丸2日の間、まだ顔を合わせていなかったエドワードおじい様や、孤児院を守るアンナ、カテリーンやコリーナとも顔を合わせて、守るべきものを再認識したボクは3日目の朝グリムへ出撃するホーリーウッド防衛隊第3陣6200人とともにホーリーウッドを出発した。
今度こそ、守るべき家族を友人を失わないために。
風邪治りかけたと思いましたが、治ってませんでした。
戦争は短めにするといったのに、まだ戦争に参加すらしてないですゴメンナサイ。
相変わらずの不定期更新でご迷惑おかけします。




