第80話:帰郷
こんにちは、暁改めアイラです。
ルクス帝国の軍事行動を受けて軍官学校は一時休校となった。
各地帯にいる冒険者や予備役の士卒に声がかけられ王国側も動員を始めているはず。
北と西の常備兵が国境に配備されているので、すぐに国土を侵される・・・ということは無さそうだ。
ボクたちは182人で西部への帰路へついた。
王族までいるのにいつぞやの時と違い護衛はなく、ボクら学生が行軍訓練をかねての帰路だ
途中の町で少しずつ生徒を置いていき。
12日目の午前中ホーリーウッド市についた時には40名まで減っていたが無事にキャロルやソフィをホーリーウッドに届けた。
ホーリーウッドより南地域に棲む生徒らが6人残ってしまったが、夜警部隊が送ってくれるそうだ。
戦争が始まっただけあり、街の中にはいつもほど人がいない、それでも活気はあり行き交う人々は明るかった。
「アイラちゃん、わたくしはホーリーウッドは初めてでフローレンスお婆様にお会いするのも初めてなのですが、大丈夫でしょうか?苛烈な方だとお訊きしているのですが」
キャロルとはこの道中で大分仲良くなれた、四六時中一緒にいたし、仮にも義従姉妹だし、仲良くなる努力はあまり必要なかった
ソフィがエッラ(のおっぱい)を大層お気に入りでしょっちゅう呼び、すっかりなついてしまったので、自然とエッラとキャロルも仲良くなっている。
「そうですね、ソフィが健康に育ってるのがわかればきっと、ご機嫌になると思います、子どものお好きな方なので。」
事実・・・ボクたちはホーリーウッド市に入ると門番から、ディバインシャフト城ではなくホーリーウッド城に入る様に言われ、従うとあれよあれよという間におばあさまの部屋近くの会食室に通された。
ソニアやアナも半年ぶりの実家に顔を出したいだろうに、ホーリーウッド市に入った随行者全員が会食室に通された。
そしてすぐさま・・・
「アイラ!」
サークラが抱きついてきた。
久しぶりの姉の匂いを肺いっぱいに吸い込む・・・ミルクの甘い匂いが混じっている。
学生の中の男子がざわつき、サリィは羨ましそうな顔でボクをみている。
(そういえばサリィはサークラ大好きだって言ってたよね)
サークラはボクを放したあとアイリス、ユーリと強くハグし、そのあとエレノア、ナディア、トリエラ、ソニアとより軽いハグをしたあと
最後にサリィの方を向いて
「サーリア姫様申し訳ございません、妹たちをみて安心して挨拶を疎かにしてしまいました。」
と仰々しく御辞儀をした
「御無沙汰いたしておりますホーリーウッド夫人。この度は私と姉妹、姪を受け入れてくださりありがとうございます」
サリィは少し寂しそうな顔をしながらも丁寧に挨拶を返し、キャロルもそれに続く。
それから全員を見回したサークラは
「皆さんよく無事にホーリーウッドに帰りつきました。良い畜肉と酒を用意してあるのでお土産に持ち帰ってください。お昼も、このままこちらにお出ししますので帰宅の前に是非食べて行かれてください」
サークラが述べると小さく歓声があがる、四候家の食事が食べられるのは希少な機会だから、喜んでいる。
1時間ほどかけての昼食を取り皆ごちそうに満足した様子で市内か郊外の自宅に帰っていった。
城に残ったのは、ボクたち8人と、サリィ、シシィ、キャロル、ソフィ、コロネ、フィレナ、アナ、アミの16人
アミは今実家に帰っても家族が任務の為不在だそうで、急遽ボクたちに付いてきた。
ボクの補佐をしてくれる彼女は中央シュバリエールの幹部だけれど、将来の就職先にはホーリーウッドを考えているそうだ。
ほぼ身内だけになってから、おばあさまの部屋に移動する。
おばあさまは相変わらずおきれいで、ボクもああいうおばあちゃんになりたいな、と思える素敵な笑みを浮かべてボクたちを迎えてくれた。
「ユーリ!皆さんよく無事に帰ってきました。」
約半年前に里帰りした時もそうだったけれど、去年の冬頃からさらに足の具合が悪化したらしいおばあさまはベッドの上で体だけ起こしている。
「おばあさま!」
「おばあちゃん!」
ボクとユーリとアイリスが先に飛びだす。
ベッドの上での生活が多くなったおばあさまは以前よりも少し肉が落ちているけれど、顔色はよさそうだ。
ボクたち3人の手を握り、少しだけ話て次の人たちと話す。
ソニアやメイド達には労いの言葉を、初対面の人たちにはボクたちのことを頼んでいる様だ。
そして・・・。
「あぁ貴女がソフィアリーナ・・・私の初曾孫なのね・・・。」
感極まった様子で、小さなソフィの頬をやさしくなぞるおばあさま。
ソフィはお腹いっぱいで少し眠たそうで、おとなしく触られている。
キャロルがソフィを軽く抱き直して
「ソフィ、バーバのママよ・・・」
と、言いながらソフィをおばあさまに差し出す。
おばあさまがソフィを軽く持ち直した後布団の上に置いたところ、眠たいソフィはそのままおばあさまの膝上で丸くなってしまった。
「申し訳ありません、フローレンス様、なにぶんまだ分別の付かない年頃なもので・・・。」
申し訳なさそうにソフィを抱き直そうとするキャロルをおばあさまはそっと手で制した。
「眠るのも子どもの仕事です、母である貴女がお嫌でないならこのまま寝かせてあげて頂戴」
とつげ、キャロルは「では、このままコチラでお昼寝させてください」と、ソフィをおばあさまに預けることにした様だ。
そして長い馬車旅でふかふかお布団を恋焦がれていたシシィもソフィが気持ちよさそうに寝ているのをみて吶喊を仕掛け見事おばあさまのハートを射抜き膝上ではなく横を獲得した。
その後ソニアもお土産(ちょっと多め)を貰いディバインシャフト側の家に帰った。
多少距離があるので護衛として黒騎兵が一人つけられた。
それから、会議室へ移動したボクたちは黒騎兵の隊員に現在の状況を確認している。
最初のフェムス間道の動員が確認されてから既に19日が経過して。
西側の状況を聞けば決して仕掛けてはこないもののグリム盆地は閉鎖され、2万近い兵が陣形を組んで昼夜待機しているそうな。
これが陽動なのか本体なのかわかり難い。
西側の防衛状況としては、森林地帯と湿地帯はまだ一兵たりとも突破してきていないそうだ。
北の状況がわかればいいのだけれど・・・。
とりあえず、3日後にホーリーウッド軍の第3陣がグリム盆地に出発するため、ボクたちもそれに随行することになった。
ギリアム様は既にグリム盆地入りしており、エドワード様は3日後に送る部隊の編成を行っているため多忙、挨拶は夜になりそうだ。
ひとまずホーリーウッド城にはシシィ、キャロル、ソフィを残して残りは皆でディバインシャフト城へ向かうことにした。
ディバインシャフト城に着くと懐かしい面々がボクたちの帰りを待ってくれていた。
「お帰り!おねえちゃん!」
学校から帰ったばかりなのか街娘ファッションのアニスがボクに飛びついてきた。
軍官学校に通いはじめてから3回目の帰郷だけれど、見るたびにますます可愛くなっていくこの妹は恐ろしい生き物だ。
ボクのわずか3つ下、年度的には4つ下だけど。
にもかかわらずボクの庇護欲と母性を同時にくすぐるこの子悪魔は初見となるサリィ、エイラ、コロネ、フィレナ、アミ、アナを一瞬で骨抜きにした。
いつの間にかサークラをそのまま幼くして、更にお利口さんよりは、天真爛漫よりの性格にした感じ・・・、かなり凶悪な可愛さだ。
さらにたたみかける様にサルビア、ガイ、ヘレン、1歳になるキスカの第2子サルート、同じく1歳になるサークラの第3子アプリコット、アンナの息子ミズーリによる乳幼児の多重攻撃という圧倒的布陣が長旅に疲れたボクたちを待ち受けていたのだった。
この日のボクのお昼寝が捗ったのは言うまでもないことだろう。
本当は1個前の話に含めるつもりの話だったので短くなりました。
幸せとは程遠い話なので、あまり長くならない様にしたいと思いますが、対帝国戦が始まろうとしてます。
通信技術の発達して無い世界で戦争を一人視点でってかなり厳しい気がしますね。




