第76話:ハリボテ
こんにちは、暁改めアイラです。
水練の授業期間の5月、東も騒ぎを起こせない程度に弱まり、ボクたちは中央シュバリエールの引継ぎの支度のために執務室で作業をしていたのだけれど・・・。
「アイラ【ちゃん先輩、オレの言うことがわかってるんですね?】」
ラピスに日ノ本語で話しかけられた。
執務室の中に、気まずい沈黙が流れる。
突然のことに頭がついていかない。
「エイラ、アミ、人払いを、ボクはラピスとお話があります。」
「わかりました。」
エイラとアミが席を立ち部屋を去ろうとすると、ラピスが待ったをかける。
「先輩方、申し訳ありません、ヒースとアイビスも呼んできていただけないでしょうか?」
ラピスの願い出に、エイラがボクの方をを見る。
言うとおりにしていいと、首を縦に振ると、二人は出て行った。
なんで、だろう・・・落ち着かない・・・・。
ラピスと二人で何も喋ることなく数分が過ぎた。
ここで二人を呼ぶということきっとあの二人も日ノ本語を話せるということなのだろう。
そして二人がやってきた。
「いかがなさいましたか、ラピス様。」
「ラピスちゃん、きたよ?」
やってきた二人はなんで呼ばれたのかはいまひとつわかっていない。
それはそうか、日ノ本語を喋れる人に会うだなんて思って居なかった。
「【あぁ、二人とも待ってたよ、ここでは日ノ本語で話そう。】」
ラピスがその可愛らしい容姿に不釣り合いな男の子みたいな喋り方をする・・・日ノ本語で。
「【ちょっと、先輩の前で内緒話するのは感じ悪くない・・・?】」
ヒースが、いつも通りかわいく、でもラピスに対して対等な言葉遣いで話す。
「【いいんだよ、アイラちゃん先輩も、日ノ本語話せるみたいだから。】」
ラピスの言葉にアイビスとヒースが驚いた表情をボクに向ける。
「【その通りです。ただ11年ぶりに日ノ本語を使うので、ちゃんと話せてるかどうか。】」
おっかなびっくり、日ノ本語を話す。
信じられないといった表情でグイと詰め寄るヒースとアイビス
「【すごいすごい!仲間を見つけたのアイビス以来だから・・・・5年ぶり?】」
「【アイラちゃん先輩も仲間だったんだ!うれしい。】」
二人から手を握られる。
すごく歓迎されているけれど・・・・。
「【オレは、木下 昌人、オレたちは3人とも立花藩の朱鷺見台に住んでたんだ。死んだ時は、14歳だった】」
とラピスが悲しそうな、でもどこか他人事の様につぶやいた。
「【私は、百武 環昌人君と同い年だけど13歳だった。前世はちゃんと女の子だったんだよ?】」
あっけらかんというのはヒース。
そして・・・
「【わ、私は円城寺 此花死んだときは9歳だった。私たち、幼馴染だったんだ。】」
アイビスの前世、円城寺此花は、知っている名前だった。神楽の同級生の子だ。
年齢もボクの記憶の中のソレと合っている。
あの朱鷺見台の夜になくなったのだろう。
「【それでアイラちゃん先輩は?】」
とラピスが急かす、そうだね君も前世が男だったって言ってるしね。
少し息を吐いて言う。
「【僕は、近衛 暁、前世では男で、死んだ時は14歳だった。此花ちゃんのことは、知ってる。桐生の四つ子とは、お友達だったよね?】」
ボクが神楽のたち名前を出した途端アイビスの表情がパッと変わる。
「【桐生ちゃんたちも、来てるんですか?】」
まだ仲間が居るかもと期待させてしまった様だ。
「【あぁ、勘違いさせてごめんね。僕が今まで出会ったのは君たち3人だけだよ、でも良かった、僕の日ノ本語、通じるみたいだね。】」
「【は、はい、通じてます、ソレでどうして、私の名前を?】」
おどおどしながら話すアイビスいつものアイビスと同じ感じだけれども、神楽から聞いていた通りの此花ちゃんそのものだ。
「【桐生神楽がね、僕の婚約者だったんだよ。それでなにかのときに此花ちゃんってお友達がいるって聞いてたんだ。】」
そういうと納得したのか、手のひらを合わて息を吐くアイビス。
「【オレたちはあの日、オレの誕生日のお祝いに、うちの家に集まってパーティしたあと泊まっていったんだ。そしたら真夜中にすごい音がして、真っ黒で大きな犬がううん、あれはたぶんこの世界の魔物だった。オレ一応男だからさ、二人のこと守ろうと思ってイスで殴りかかったんだけどさ・・・。気がついたら丁度赤ちゃんとして生まれるところだったんだ。周りが心配そうにしててさ、後からそれとなく聞いたら死産になるところだったんだってさ、だからか知らないけれどこっちの父さん、すごく過保護でさ?お姉様もすごく優しくしてくれてるから、何か申し訳なくって。】」
ボクと同じ様な悩みを抱えているらしい、ラピスという少女の人生を奪ったんじゃないかって。
「【私はあの夜ね、昌人君が犬の前足で払いとばされて、意識を失って・・・アイツに、たべられそうだったから走って近寄っちゃったの、そしたらそのままパクリって食べられちゃって、ほとんど丸呑みみたいにされてね、ところどころアイツの牙が食い込んですごく痛かった。お腹の中で・・・意識失うまであぁ、私死んじゃうんだ・・・って泣いてたの。そしたら私赤ちゃんに生まれ変わってて。驚いたなぁあのとき、男の子になっちゃったのは勿論びっくりしたんだけどあるときこっちのパパが主君のお嬢様にお目見えするから二人ともおめかしして来るようにって言われて、初めてパパの職場に出かけたのだけど・・・】」
そういってラピスと手を繋いで視線を交わすヒース
「【すっごくかわいい女の子だなって思ったらつい日ノ本語でかわいいって言っちゃって。そしたらたまたまそれが】」
「【オレだったわけだ。】」
そんな偶然があるのだろうか・・・・。
「【で、俺はさ、前世で環のこと好きでさ、正体が環だってわかった夜父さんに言ったんだ。あの男の子が欲しいって、父さんいつもオレのワガママ聞いてくれるのに珍しく渋ってさ・・・まぁそうだよな、まだ幼い娘がいきなり男を欲しがるだなんておかしいもんな、でもそれから一目惚れだと説得して1年間お付き合いを経て、婚約したんだ。】」
アミに聞いていた情報と差異があるね、たぶん貴族家だから、一目惚れとかだと重みがないのでそういう風な筋書きに変えたのだろう。
「【私、は、二人が食べられちゃうの、見ていることしか出来なくって、小さいときから隣に住んでた、大好きな昌人お兄ちゃんと、学校に行くように、なってからお世話になってた、環お姉ちゃんが、目の前で死んで・・・、私も、お腹から食べられて、痛くて・・・・でも気付いたら赤ちゃんだったの、夢だったのかな?って私本当は最初から、アイビスで、全部長い夢だったのかなって・・思ってたの。それでね、二人の婚約って、王都に居るとき王様の眼前でしたんだけどね?丁度私とパパママと王都に来ててね。婚約に立ち会ったの。】」
アイビスがうれしそうに言う。
「【それでその後ね、ちょっと3人で遊んだんだけど、二人がね、日ノ本語でひそひそばなししてて、びっくりして、私も日ノ本語でしゃべって・・・ね、グスン、夢じゃなかった・・・・って。】」
その時のことを思い出して感極まったのか涙を浮かべるアイビス
「【そっか・・・よかったね、君たちは大事な人たちに、コチラに来てからも出会えたんだね。運命だね。】」
神楽は生きているはずなので、コチラに生まれ変わってきているということはなさそうだ。
あの魔物に食われて最後に死んだのは暁だと、エドガー父さんが言っていたからね。
「【うん、死んだときは辛かったけどさ、死んだものは仕方ないし、こっちの家族みんな良い人たちだし、妹もいるんだけどさ、すっごくかわいいんだ。】」
ラピスが妹がかわいいといった途端、アイビスが不機嫌そうな顔をした。
(2人は気付いていない様だけど・・・。)
それから15分ばかり、割愛してボクの生い立ちを話す。
固有名詞や表現できないものが多いので、こちらの世界の言葉で。
「・・・・それで、今に至るわけです。」
簡単にだけれど、コチラに生まれてからの出来事を話し終えたのだけれど・・・・。
「グス・・・ヒッ・・・・グ」
「アイラちゃん先輩にそんな過去が・・・・。」
「神楽ちゃんとっ、幸せに、なれなかった分、ユークリッドさん・・・と、グスッ幸せになってくださいね。」
3人とも号泣だった。
それからさらに5分くらい経って。
「【今日は久しぶりに日ノ本語が話せて、うれしかったありがとうね、3人とも、あえてうれしかった。】」
「はい!アイラちゃん先輩と秘密が出来てうれしいです!」
はつらつと応えるラピスはもういつもの、無邪気で人の話をきかないラピスだ。
「私も、アイラちゃん先輩と、これからももっと親しくしていきたいです。」
「はい、お願いしますね、ヒース」
ヒースとラピスの中身が逆なら丁度良かったのにね。
勿論ヒースがペイロードの次男とかならってことになるけれど。
もしそうだったなら、アイビスが悲しい眼をしなくてもすんだんだから。
「わたし、は、いつかアイラちゃん先輩が、カグラちゃんに会えるって、信じてます。」
この子はきっと前世でも今も、ラピスのことが好きだ。
でも同性だからずっと一緒に居られない。
それでも庶民ならまだ何とかなったかもしれないけれど、アイビスはスザク家の娘だ・・・難しかろう。
せめてヒースがペイロードの次男で、ラピスがジル先輩の妹だったならば、2人と結婚という選択が出来たかもしれないのに・・・・。
この3人の関係は少し壊れかけている。
今は平穏というハリボテを、アイビスが支えているに過ぎない。
ハリボテにしているのもアイビスで、アイビスが壊れかけていることを、二人はたぶん気付かない・・・ならば。
「アイビスは、名前の音がボクやアイリスと似ているので親近感が沸きますね、年も同じですし、髪の色も割りと近いです。生まれたのはちょっとだけアイビスのほうが早いですけれど、ボクはお姉ちゃんなれしてるので、アイビスさえ良ければ、ボクのことお姉ちゃんってよんでもいいですよ?」
ボクの謎の発言に、ラピスとヒースは怪訝な顔をする。
けれどもアイビスは・・・。
「アイラ・・・おねえちゃん?」
と不思議そうな、少し惚けた表情を浮かべて、ボクを呼んだ。
「はい、なんですか、アイビス。」
それから少し眼を輝かせると
「おねえちゃん!」
と今までにない勢いと言葉の強さで抱きついてきた。
この子は妹タイプだね・・・可愛がり甲斐がありそうだ。
身長はボクよりも高いけれど。
「アイビス?」
ラピスが、何があったのか良くわからないという顔をしているけれど。
アイビスは他に何人可愛がっていてもいいので、自分を妹として可愛がってくれる人が欲しかったんだ。 南候の家族構成がどうなっているか知らないけれど。
ソレなのに甘えさせてくれると思ったラピスは自分を対等な年齢の友達としてみていて、ヒースは自分にたいしてはお客様か扱いだ。
それがイヤだったんだろう。
勿論、コチラの世界で偶然出会えたことはうれしかっただろうし、嫌いというわけではないだろうけれど、この子はもっと甘えさせてくれるものを求めていた。
だから、神楽が可愛がっていたこの子の欲求をボクが叶えようと思ったのだ。
ボクは全校の女生徒の妹という称号を持っているけれど、学校の中でアイリスだけが、ボクのことを姉と慕っていた、そこに新しくアイビスが加わった。
いつか神楽に出会ったときに、お土産話が出来るね、出来ればアイビスも一緒に神楽に会いにいけるといいな。
気付いたら、王都に入ったころに想定していた話とだいぶ違う展開になってきました。
アイラの母性か父性を感じ取っているのか・・・アイラに甘えたいという願望を持つ人が増えてます。
日付的にそろそろ2~3日中には外伝のほうの更新をしたいと思っています。
早く風邪が治ればいいのですが・・・




