第74話:情緒不安定
こんにちは、暁改めアイラです
幹部アルバを含む12名の退学者を出した東の過激派はその勢力を一気に縮小した。
ボクたちが入学した歳の年末には過激派60人と穏健派12人、脅迫や強姦の秘匿をネタに東に入っていたと推定される90人前後を抱えていたその陣容も、更に前の世代の過激派の残りであった当時の3、4年生が卒業したあとはなかなか規模を維持できず。
昨日のラピスの事件で過激派9名、穏健派6名推定被害者14名とその数を大きく減らし、とうとう他のシュバリエールより圧倒的に人数が少なくなった。
例年全校生徒が1600~2000人程度の間で推移している中、本来のシュバリエールの人数は中央が200人前後、東西南北は幹部6~10人一般構成員50人程度なのを考えると、以前の肥大具合と現在の衰退が見て取れるだろう。
基本的にシュバリエールは紹介、推挙制なのに手当たり次第に入れてたからねあの頃の東は・・・
今はボクたち3シュバリエールと今年は中央シュバリエールが抑止しているため上手くいっていない様だ。
この環境下で上手くやれるならそれはセルゲイの能力が高いということになってしまう。
今回の検挙であわよくばセルゲイも処罰をしたかったが、またいともたやすくアルバを切り捨てた。
1年からの仲間だろうに。
セルゲイはユミナ先輩と同じ年度生まれの19歳のはずだけれども1年のときは急激な東シュバリエールの人口増大を自分の能力の高さ故だと豪語し、大水練大会以降や、昨年の1年生の引き入れ率が悪く人口が大きく落ち込むと
『俺が功績を上げ学校の歴史に名を残すことを嫌い、女のクセに身の程を知らぬ北の性悪や媚びを売ることしか能のない女男、大義も知らぬのに、遊びで西シュバリエールに加担するメスガキに、王族というだけで威張り散らすカスどもが、恥を知れ!!』
なんて子どもみたいなことを東サロンで言っていたらしい。
軍官学校に2年も通っているのにまだ優秀なつもりらしいのがアホを通り越していっそかわいいね?
今回中央シュバリエールを組織立てたのは、継続して東の暴走を抑制する、あるいはいつか他のシュバリエールも暴走する可能性があるならば、ソレを未然に防ぐためのものだったけれど。
中央シュバリエール発足とそこに加わった北候、南候の娘たちの存在に焦りを覚えたらしいアルバの暴走により、結果的にはつぶす手間が省けた形になった。
そこでこの中央シュバリエールを対東を念頭に置いた組織ではなく、次の段階へ進めることを考えている。
「・・・・ということでね、中央は現在は、そもそも中央とつながりの強い家の子や王領出身者、が入っておく組織なわけですが、せっかく四候のシュバリエールと同時に加入できるのですから。いっそ全校生徒一旦入る仕組みに変えませんか?」
昨日の事件に関する話し合い、場所は西のサロンだけれども、この場に居るのはフローネ先輩とコロネとレオンことレオンハルト3人の監督生と、3シュバリエール的公式見解では今も監督生のマグナス先輩、ユーリ、ユミナ先輩、ラピス、アイビス、ボクだ。
メイド達に入り口を守ってもらい、秘密の会談中。
とりあえず今年のところはボクが預からせていただいているこの中央シュバリエールを、もっと門戸の広いものにしては如何かと提案させてもらった。
ボクの中の構想としては前世の学校組織における、生徒会や学生会の様なものにできないかと考えている。
すなわち全校の生徒を自動で中央シュバリエールに所属させて、推薦や紹介された生徒を、中央シュバリエールを挟んで、各シュバリエールへの加入を要請、承認したり、生徒たちの要望を各シュバリエールや学校側へ伝えたりといったことを中央の役割の中に含めることを目指している。
コレによって前述の各シュバリエールの暴走は抑制できると思うのだ。
そしてこれを実際のモノにするには、最後には東とも話しあいをする必要があるのと、監督生というか生徒会長の選出も行わなくてはならないということだ。
そして公平さや、暴走の抑制のために、各シュバリエールからも幹部を一人ずつ擁立できる様にしないといけない。
それらについても説明させてもらった。
「私は悪くないと思う。」
ユミナ様は認めてくれた。
他の人の反応は・・・ちょっと良くわかってない感じの子がおおいけれど、とりあえずダメっていう人はいないね。
日が傾いてきたので、この日の話し合いは終了した。
とりあえず監督生選出のための選挙については、大水練大会時のコンテスト要項に生徒会長を選ぶための項目を増やそうと考えている。
仕組みを変える話なので、今日一日の話し合いでどうこうできることじゃあない。
気長に仕組みを整えていかないとね。
それはわかっているのに、なぜか妙にイライラソワソワする。
焦っているのか?それとも東に対しての鬱憤が溜っているのだろうか?
屋敷に帰ってからも妙に落ち着かず、ストレス発散や癒しの効能を求めて、入浴中に湯船の中でアイリスを抱っこする、トリエラの耳と尻尾を堪能する、ナディアとエイラにマッサージをしてもらうなど、いろいろやってみたけれど落ち着かない。
落ち着かせるための行動をいろいろやっているボクの挙動に気づいたのかエッラがその胸をお湯に浮かせながら近づいて来て言う。
「アイラ様は昨日初経を迎えられたので、その時期にはそうやって妙に不安だったり苛立ったりする人が多いときくので、そのせいかもしれません」
いつもだったらつい触ってみたくなるその胸の膨らみにも何でか今日は嫉妬してしまってるんだけど。
なるほどそうか、そんな風になる人もいるのか。
自分が異常なんじゃないといわれると少し安心する。
じゃあこの良くわからない怠さも、ちょっとした無気力感も女性ホルモンとか成長ホルモンの分泌量のせいなのかな・・・。
すると、今度はアイリスからぎゅっとされた。
「私もすぐおいつくから、一人にさせないからね・・・。」
この妹である!アニスといいアイリスといいたまにすごく革命的だったりボクには思いつかない様なことだったりを言ってくる。
(この妹たちの姉たらんと欲するならば、無様な姿は見せられないよね。)
しっかりしなくては
とはいうものの、朝起きてべっとりと股に張り付く濡れた魔綿はやはり気持ち悪いし、少し乾いてかゆい。
こうしてボクの生活習慣に朝からお湯を浴びる習慣が出来た。
トリエラと朝からお風呂、トリエラは出会った頃はあまりお風呂は好きじゃなかったけれど、今は誘えばホイホイついてくる。
長湯できる程度に少し早めに起きているので、十分に体を洗ってから、湯槽の中でたっぷりとトリエラの耳と尻尾を撫で回し元気を取り戻したボクは今日も姉として、未来のユーリの嫁として、みんなの妹兼勇者として恥じぬ立ち振舞いで魔導特務兵の授業を受けた。
魔導特務兵のクラスは少数精鋭、3年生のクラスメイトはわずか12人これは例年の倍近い数字らしいけれど4年度はさらに特性に合わせて2クラスに別れるから、もっと寂しくなる
12人しかいないクラスなので全員それなりに仲良くやっているが、そもそもみんな知り合いだ。
ユーリ、ボク、ソニア、ナディア、エッラ、エイラ、サーニャ、アイヴィ、ハスター、オーティス、ノヴォトニー、フィーナの12名が
現在の3年魔導特務兵コースの生徒だ。
ノヴォトニーとソニアはギリギリの合格点だそうだけどこの二人はなかなか面白い。
雷撃系の適性を伸ばしていった結果ソニアは遂に学校一の雷撃使いと呼ばれるに到り、その奥義魔法斬鉄剣はただのショートソードの周りに電気を纏わせるだけの魔法であるにも関わらず、触れるだけで鉄を熔断する。ソニアは武技に関しては並なので一般の魔法戦技兵クラス相当なのだけれど、この斬鉄剣のお陰で魔導特務兵クラスに入れた
防御不可は強い。
ノヴォトニーは体に触れているものを体の別の部分に移すことができる特殊な魔法を持っており、身体強化や恵まれた体躯もあって近接戦に強く、魔法も地と風が中級と中々強い
前述の魔法のせいでかなりやりづらい相手だけれどそれでも魔導特務兵として求められるラインギリギリだそうだ。
この二人は端から見ているとお互いに意識しあっていて、いつ付き合い始めてもおかしくなかったはずなんだけれども、そうならないまま2年たってしまった。
何かの時にソニアに好みのタイプを尋ねると『ユーリみたいにかわいい男の子がいいな!』と言うことだったので
自分の恋心に気づいてないのかもしれない、ノヴォトニーの方はソニアとの年齢と体格差を気にしてる様に見える
この世界では2桁差なんてままあることなのだから6歳、35cm差なんて気にしなくていいのにね?
(見ていて歯痒いよね・・・)
逆に見ていてちょっと引くのはオーティスだ。
オーティスは南候家とホーリーウッド領の境目付近に領地をもつキス族の大家の嫡男で、アイリスの親友のアンリエッテの夫でもある。
彼は特殊な鍛え方をした剣で魔法なしでも鉄を切れる名手だが、それを魔法で強化している。
さらには彼自身は稀有な召喚魔法と精霊魔法の使い手で3種の犬型魔物を召喚獣として使役し、水精霊、風精霊、地精霊、火精霊を犬の形にして疾駆させる独自魔法を扱うことができる。
まさに魔導特務兵の鑑とも言うべき、魔法と近接、更に使役獣のコンビネーションは、一人で小規模な軍隊を成しているに等しい。
若年だがガタイがよく身体能力にも優れその風貌も戦術眼もまさに歴戦の兵といった格を感じさせる。
そんな彼が、だ。
「エッテ!今日は東のやつらにちょっかいかけられなかったか?今日も美しい毛並みだな、どれ・・・匂いは・・・うむ、いいにおいだ。」
放課後にエッテを教室に迎えにいくとコレである。
ボクたちもいつもアイリスとトリエラを迎えに行くのでよく教室までご一緒するのだけれど。
大の男(犬耳犬尻尾)が尻尾をフリフリしながら30cm近く小柄なエッテを抱きしめて頭の匂いをかぎだしたりするのだ。
「オーティス様、恥ずかしいですよこんな人前で。」
真っ白な毛並みのエッテの肌が真っ赤に染まり、オーティスを制止するが、オーティスは大儀名分を持っている。
「何が恥ずかしいものか、夫婦の間のことぞ」
堂々としてて清清しいけれど、ユーリとボクはあそこまで割り切れないかな、人前は恥ずかしい。
「アイラ、ハグする?」
首を傾げながらたずねるボクの愛しい人。
いや、人前は恥ずかしいし、婚約者といっても年頃の男女節度というものは守らなくてはね?
オーティスとエッテが幸せそうに尻尾を振りながらハグの後の口吸いを交わしている。
「ん・・・ちょっとだけ。」
別にうらやましかったワケじゃなくて、ユーリのせっかくの申し出を袖にするのは、婚約者としてどうかなって思ってのことだよ、それにボクが先にコレをしないと・・・・
「じゃ、じゃ次は私の番だね!」
ボクとユーリが離れるとすぐにアイリスがユーリに飛びつく。アイリスは半日ユーリに会えなかったんだからソレはもう、ユーリに甘えたいはずだけれど、正妻が甘えないことにはなかなか・・・ね?
暑苦しい二人と別れ今日は会議もないので、放課後15分ほど校内を見回ってから帰宅。
すぐに自室に入り鍵をかける。
学校で一度魔綿を取り替えたものの、下着まで染みるほどの量は出ていない様だ。
「良かった、あまり下着を汚すと、洗ってくれてるメイド達に何か申し訳ないし」
そういえば昨日まではたまに感じたイライラもないし、お腹や頭の痛みもほぼない。
とりあえずハジメテは落ち着いたのかな?
(ボクはまだ若いので定期的に来るというわけではないだろうけれど。)
魔綿を専用のゴミ箱に捨ててから部屋の鍵を開けて廊下に出るとユーリがいた。
「ユーリ?」
ユーリはちょっとソワソワした感じでボクの部屋の目の前に立っていた。
「アイラちょっとお部屋に、入れてもらってもいい?」
「もちろん」
気恥ずかしそうにするユーリを部屋に招き入れる
そして二人でベッドに座った。
テーブルの方でも良かったのだけど、さっきそっちで魔綿を取り替えたから、ちょっと気恥ずかしかったのだ。
「それでなにかな?」
ボクはスカートがシワにならない様気をつけて座り、軽く裾を整えてからユーリのほうに向き直る。
ガバッ!とユーリが抱きついて、押し倒してきた。
「ちょ、ちょっとユーリ、いきなりどうしたの?制服がシワになっちゃうよ?」
オーティスたちの熱に当てられたのだろうか?それとも単に甘えたいのだろうか?
ユーリはボクの胸元に顔をうずめて・・・ごめんなさいおこがましかったです、顔を当ててで十分です。
「なにユーリ?オーティスのマネかな?さすがにその・・・お風呂も入る前に匂いをかがれるのは・・さすがに恥ずかしいよ?」
ユーリはボクの上にかぶさったままでスンスンと匂いを嗅いでいる。
少しの間そうしたあとでユーリは顔を上げてボクの顔をまっすぐ見つめていった。
「アイラ、ボクもうすぐ13歳になるんだ。」
「うん、3月24日だもんね、もう1ヶ月ちょっとだよね。」
ボクたちが正式に婚約した日でもあるし、大事な誕生日を忘れるはずがない
「アイラが12歳になったら。ボクたちも、結婚しようね?」
「それは勿論そうだよ?ずっとそのつもりで生きてきたんだから。」
たったの5年だけれど、それはアイラにとっては人生の半分に等しい、普通は4、5歳から物心がつくことを考えればほとんど人生のすべてだ・・・。
「僕、不安なんだ・・・アイラは小さくて可愛いけれど、ドンドンきれいになってる。一昨日はとうとう、体も大人になり始めた。」
「うん。」
ソレに関してはボクも不安だ。
ボクの体は小さい・・・、ちゃんとユーリの赤ちゃんを産めるか心配なんだ。
でもユーリの心配はもう少し違うことらしい。
「アイラのことを力ずくでも欲しいって人も出てくるかもしれない、僕は命に代えても君を守るけれど、いつも一緒に居られるわけじゃない、アイラだって一昨日みたいに倒れてしまうことだってある。それがよからぬ人の前だったらっておもったら・・・・。」
(あぁ・・・)
「ボクが、倒れてしまったから、君の事を不安にさせてしまったんだね。ボクは君以外の男を受け入れるつもりはないけれど、ボクの意思も君の意思も介在することなく、ボクが奪われたり失われたりするのが怖いんだね?」
「うん。」
涙を湛えた瞳で、そして不安を帯びた顔で、ユーリはボクの肩の上に腕をついて、ボクに覆いかぶさったまま頷く
「もしもユーリが、それで安心できるっていうのなら。ボクは今このまま君に抱かれたっていい。ハグ的な意味ではなくてね?」
そういいながらボクはユーリの背を下から抱きしめた。
「でもボクは君が好きだから、後悔する様な選択をして欲しいわけでもないから、君が決めていいから。」
本当は、今年の年末のボクの誕生日の日に身内だけで結婚のパーティをして、そのあと二人っきりか、アイリスと3人でかわからないけれど、3人で並んで寝たあの部屋でホーリーウッドの夜景を見ながら・・・はおじい様の部屋から見えてしまうから。逆側の塔の客間でもいいかな、ディバインシャフトの夜景でも見ながら、とびっきりムードを大事にして、思い出を作りたかったけれど。
(でも今君が不安だというのなら、ボクが肌を脱ごうじゃないか。)
「ありがとう、アイラ・・・」
言いながらユーリがキスをしてきた。
「ユーリ・・・・。」
(とうとう完全に君のモノになるときがきたんだね?)
眼を瞑って、ユーリが体に触れてくるその瞬間をボクは・・・・。
・・・・・・・・・?
(触れてこない、脱いでたりもしない・・・?)
眼を開くとユーリは、落ち着いた様子で微笑んでいる。
「ありがとうアイラ、君のおかげで僕は後悔しないで済んだよ、僕は君とのことを、安心したいだけの道具にしたくはないから、だから、結婚までコレはとって置こう。」
迷いの晴れた表情で、あるいは達観してしまった様にユーリがつぶやいた。
(ボクの覚悟は!?)
「ん~~~~~~!!」
自分でも良くわからないけれど、耳まで熱くなって、真っ赤になっているだろうボクは近くにあった枕をつかんでユーリをポカポカ叩いてしまった。
「わ、アイラごめん、ごめん!でもありがとう!!」
ユーリはそういって笑いながら、ボクもユーリを叩きつつ顔では笑いながら、貴族の子女にあるまじきじゃれ合いをして、最後には大笑いした。
「もう!スカートがシワだらけになっちゃったじゃないか!」
そういって怒ったのは、それくらいしか怒れることがなかったからだ。
ボクたちって、幸せだね。
そうしたら丁度ドアをコンコンと叩く音がして
「マスター、お夕飯できますよー。」
ボクを呼ぶだけで幸せそうなトリエラの声が聞こえてきた。
それがまたなんとなくツボに嵌って、ユーリと二人で大笑いしてしまった。
ちょっと時間がかかってしまいました、ごめんなさい。
一日中咳が出る状態が早10日ちょっと続いているため、もうしばらくは更新が安定しない可能性があります。
継続してお読み頂いてる方々にはご迷惑をおかけしますが、もともと不定期連載なので、おおめに見ていただけるとうれしいです。
明日は更新します。




