第66話:大水練大会2回戦・・・観戦せず!
こんにちは、暁改めアイラです。
ヴェルガ皇太子の三男グレゴリオへの裁きは両腕の切断と王家からの追放と言う11才に下すにはあまりに苛烈なものだった。
裁きを下し自ら剣をとりグレゴリオの腕を切断したヴェルガ皇太子の苦しい表情をボクはわすれない
さて観客席について2回戦第2試合を観戦しようとしていたボクだけれど
一応コロネ先輩に顛末を伝えた方がいいのかな?
ブリミール先輩とレギナ先輩の試合の勝者が次のボクの対戦相手な訳だけど。
レギナ先輩は午前の試合で見せてもらったけれどブリミール先輩の試合は見られなかったからね・・・。
でもそのあとの試合は全部顔見知りの試合だから観戦したい
ユーリとエッラは家族だしね
よし、寮に向かおう。
敵情視察より、家族とこれから家族の様に付き合う予定のコロネ先輩を優先したボクは、競技場を一旦後にした。
ナディアは学校的にはソニアのメイドなので今回は留守番して貰った。
ちょっと話すだけだしね。
エイラを連れて学内を歩くと試合中のため人はまばらだけどもすれ違う人に声をかけられる
「あ、アイラちゃんだ!格好良かったよ!」「本物の方だ!本当にかわいい!応援してるね!」
「応援してます!握手してください!」
ちょっと歩くのが大変目立つ感じになってるねビックリだよ?
本物の方って言ったのはたぶんアイリスとあったことがあるんだろうけど、両方本物だからね?
握手は・・・女の子からは受けよう。
男はダメだ、ボクにはユーリという愛しい人がいるからね。
「応援してくれてありがとう。」
握り返すとぎゅっと握られる
女性の先輩はボクの手を握ると一気に緩みきった表情になる。
「うはぁちっちゃ・・・やわやわだわ・・・。」
え?鍛えてるしそんなにやわやわってことはないと思うんだけれど・・・
自分で触ってもぷにぷにするだけであまりわからない・・・。
握手アリだとわかると人の欲望はつきないのか要求をエスカレートさせる人も出始める。
「だ、抱き締めてもいいかな!?」
「すみません、人に会いにいくところなのでそろそろ行かないと」
残念そうにされても仕方ないんだよ・・・きゃーきゃー言われるのは悪い気はしないけれど、もみくちゃになるのは困るね。
なかなか前に進めない。
その後はエイラが先導してくれる様になり正面から来られなくなったことで少しは進みやすくなった。
学生寮は学校の敷地のすぐ外にある、戦争時代の旧兵舎を改築した物で全校生徒の8割を収容できる作りになっている。
むかって右側が女子寮・左側が男子寮になっている
建物自体は2階建てで1人部屋から6人部屋まであり2人部屋はまともな仕切りがないが、4・6人部屋は仕切りがしっかりされている
受付で名乗り、コロネ先輩の部屋を訪ねると
メイドのフィレナと相部屋の2人部屋らしい。
案内された部屋の前に着いたのでノックをすると
「はい、ただいま!」
聞き慣れたうちのメイドの声。
「あら、アイラ様、エイラも、試合はお済みになったのですか?」
「はい、お陰さまで準決勝進出です。」
出迎えたアリーシャとボクの声に、なにかを鞄に詰め込んでいたコロネ先輩が顔をあげた。
「アイラ様!ご無事で良かった!」
「コロネ先輩はボクがグレゴリオ程度に後れを取るとお思いですか?」
彼はすでに王子ではないから呼ぶのが楽だね
「それは、勿論アイラ様の方がお強いですけれど、でもっ・・・!」
人差し指をコロネ先輩の口許に差し出す。
「ありがとうございます、心配してくださったのですよね?でも・・・」
ボクはことの顛末とグレゴリオの処遇をコロネ先輩に話した。
「それじゃあ・・・もうグレゴリオ殿下の命令に従う必要も怯える必要もないんですね!?」
顔を綻ばせるコロネ先輩でも違うんだ。
「コロネ先輩、もう彼は殿下ですらありません、一人のただのグレゴリオとして、母親の実家の保護下で慎ましくくらしていくだけです」
自業自得とは言え僅か11歳で両手と全ての身分を失う彼を哀れと思わなくもないが、引導を下したボクに言えることじゃあないね。
「あのアイラ様、それではこのお引っ越しはいかがなさいますか?」
アリーシャが手を止めてたずねてくる
それを聞いてコロネ先輩はシュンとしている。
どうも楽しみにして下さっていた様だ
「それに関しては、コロネ先輩がお嫌でなければ継続です。グレゴリオはいなくなりますが、まだ東シュバリエールにはセルゲイがいますから、要らぬちょっかいを受けるかも知れません、彼も大概邪悪みたいですから。」
うん、目を見れば聞かなくてもわかるね。「コロネは東シュバリエールが怖いから、アイラ様たちと暮らしたいです!!」
ほらね
「ではこのままお引っ越しは続けてください、それとみんなもユーリの試合くらいは見たいでしょ?だからお引っ越しの手伝いに来ました。」
「アイラ様、手伝っていただくのはありがたいのですが、その・・・アイラ様に荷物をお持ち頂くわけには・・・」
そうだね、たいした量は持てないし非力だしね。
でもいまのボクには空間魔法があるんだよね
「大丈夫ですよ、空間魔法を覚えたので少量なら重量を感じずに荷物を運べます、なので重くて嵩張らないものはボクが運びますよ」
と伝えるときょとん?とした顔をされる。
(あれ?)
「ア、アイラ様!まさか勇者になられたのですか!?」
「へ?なんのことですか!?」
恐ろしい勢いでアリエスがボクの肩を掴む。
勇者にはなったけれど、なんでバレたんだろう
「アイラ様、空間魔法は『勇者』系の適性に目覚めた方だけが使える魔法とされています。ここにいる私たちはもう仕方ありませんが、勇者認定される前は人前での発言は避ける様にしましょう。」
アリーシャが教えてくれた。
ちょっと聞いてないよ!?ジークめ、そういう大切なことは教えてくれないと・・・
「そうなんですか?なにか使える様になって便利だな、程度にしか考えていませんでした。人前ではそこまで使ったわけではないのでばれてないと思います。」
とりあえず勇者のことはジークが発表するまでは内緒ということになっているのでごまかす。
知っているのはジーク、サリィ、おそらくヴェルガ皇太子とフローリアン様それからユーリ、アイリスだけだ。
「ボク勇者なんですかね?自覚はないですが」
でもここのみんなには少なくとも空間魔法はばれたので、適当なことを言っておこう。
「アイラ様は御年の割りにステータスが高過ぎですからね、ありえるとコロネは思います。そうじゃなくってもアイラ様はコロネを救ってくださった勇者ですから!」
屈託のない笑みで言うコロネ先輩にズキリと良心が痛む。
(こんな子を騙してないといけないなんて・・・)
ともあれ
「まぁそういうことなのでこっそり使ってみましょう?」
異次元収納にはフィレナさんの使う用の魔導剣など金属製で重たいものなどを放りこんだ。
その後運びだすものを運び出し荷車に載せてそれから備え付けの家具を清拭した。
1年半に満たない僅かな期間とはいえ、コロネたちにとっては4年間お世話になるつもりだった部屋だ。
思い出もあっただろう・・・コロネ先輩は黙って机やベッドを拭いていた。
入るときにも通った受け付けで退寮の手続きを取り、鍵を返却する。
荷運びはメイド達がやってくれるというので、ボクとエイラとコロネ先輩は会場に戻ることにした。
あれから既に40分以上は経っている。
どれだけブリミール先輩とレギナ先輩の試合が長引いていたとしてもエッラの試合も終わってるころだと思われる。
エッラの試合を見られなかったのは申し訳ないなぁ・・・。
「まだユーリの試合には間に合うと思うので。急いで会場に行きましょう」
そういって急いで競技場に戻る、コロネ先輩が遅いと、エイラが途中からコロネ先輩を抱き上げて走った。
お引越しのときも思ったけれどエイラって結構力持ちだよね?
会場についてエイラはコロネを床におろす。
『ワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
丁度その時大歓声が響き渡った。
はしたないとか言ってられない、今はドレスじゃなくって水着だしちょっとくらいいいよね?
ボクたちは急いで階段を駆け上がり、そしてその歓声の正体を知る。
「信じられない・・・」
コロネ先輩がそういうのもわかる。
そこにあったのは風を纏ったレイピアを構えたエッラと、そこかしこに散らばり水の中に落ちていく50本以上の「火精の石弓」
学生同士の大会というにはあまりにも派手な光景だ。
「決まったぁぁぁ!!あまりにも!あまりにも信じられない展開です!!一体誰が!シリル選手以外にかの『銃姫』を下せると考えたでしょうか!?勝者は、エレノア・ラベンダー・ノア選手!なんという番狂わせか!40分に及ぶ激闘を制しエレノア選手再びの大金星です。」
割れんばかりの拍手の中エッラは自分の名を呼ぶ声にレイピアを持ったまま手を振る。
そして最後にボクのほうに向いて花が咲く様な笑顔で両手を振った。
それからエッラはマガレ先輩としっかり握手した後ともに散らばった火精の石弓を拾い、自身の突撃槍と凧型盾も拾い退場した。
40分二人が戦っていたって事は、レギナ先輩とブリミール先輩は5分も戦ってない感じなのかな?
サーニャたちに聞いたところそれなりに競り合っていたが途中で急にレギナ先輩の動きがとまり、その間にブリミール先輩が一太刀浴びせて終わったそうだ。
東シュバリエールの選手がかかわると大体流血沙汰だね・・・?
でもエッラすごいね、学園でも最強格と名高いマガレ先輩と長時間戦うというのもすごいけれど、まさか勝ってしまうだなんて・・・。
それにエッラが試合を長引かせてくれたおかげでボクはユーリの戦いを最初から見ることが出来る。
なんてすばらしいことか!
「それでは本日最後の試合となります、本戦2回戦第4試合をはじめます。両者とも西の選手となり本来なら南北からスタートしてもらうのですが、今回片方がホーリーウッド家の方となりますので、ユークリッド様を西、シリル選手を東スタートとさせていただきます。それでは東から入場していただきましょう!」
あぁ・・・始まってしまう、学校最強格の筆頭シリル先輩と、ボクの最愛の人の試合が。
武芸の大会なのに主人公が次の対戦相手を見ないという暴挙!
別に書くのが面倒になったとかじゃないです。
体調が悪いのでいつも以上に不定期な投稿になり、継続してお読み頂いている方には、ご迷惑おかけします。




