第53話:大水練大会1日目
こんにちは、暁改めアイラです。
5月に入り、水練が始まった日、ボクにカリスマという特殊能力が発現していることが判明した。
この能力は人が好意的に見てくれるという能力で、特にまだ距離感があるけれどあの人素敵だね、なんて思っている人に対して効果が大きいとのことだ。
この能力の発現によって勇者の適性が出たボクは、年末の組替えで勇者認定されることになった。
勇者ってなんだろうと思って、屋敷に帰ったあとエイラとナディアに少したずねてみたら、勇者は意外と身近なものだとわかった。
王国内でも数年に1人か2人は輩出されているそうだ。
勇者は1人でも戦況を覆しうる存在のため、どこの領地でも引く手数多であると言う。
ダンジョン攻略に、ユニーク個体の討伐、隣国への牽制と仕事は多い。
さて勇者認定を受けたモノには2種類あるそうだ。
かたや適性職に勇者をもつもの、これは一般の鑑定石でも判別可能で表示されるらしい
かたや適性職に、勇者以外の固有ジョブを覚醒させたものである
彼らも勇者同様に戦況を覆しうるが、「勇者」でないために軽んじられ、雇い主が役目の後に「処分」をしようとしたりする事件がいくつか発生したため現在の勇者認定制度が発生したと言う
ボクは勇者が含まれてるので前者だね
勇者のことはユーリとアイリスにだけは話すことにした。
「勇者・・・すごいね、アイラ。」
「勇者ってすごいの?アイラ」
(ユーリは勇者を知っていたみたいだね)
「すごいらしいから、まだ秘密ね。」
と指を口にあてて秘密のジェスチャーをするとアイリスはジェスチャーをまねして、嬉しそうに笑った
ひみつが嬉しい年頃らしい。
ユーリはいつも通り冷静に
「勇者になっても僕のカワイイアイラのままでいてね?」
と優しい眼差しをくれた。
少しキュンとしたのでそのまま3人でいちゃついてから寝ることにした。
今まででも時々一緒に寝ることはあったのだけれど、王都にきてからのユーリのいちゃつき方はやや性的なものの含有率が高くなった
以前なら長く口吸いするくらいであったキスも肩や胸元にまでしてくる様になったし、薄いアイラの皮膚がわずかに内出血する程度には強く吸われる
キスの最中には指を絡めてくる様になり、口の中に指を入れてきたりもする様になった。
11才のユーリは今もまだ美少女の様な顔立ちだけれども最近は体つきが少ししっかりしてきた気がする。
体の成長のジャマになるから筋肉はつけすぎない様にすると言っていたけども男の子だね。
以前のぷにぷに柔やわなユーリもたまらなかったけれど、最近はユーリに抱き締められると、ボクの体温が上がるのがわかる。
かわいいとか柔らかい感触への感動じゃなくて、恥ずかしさのせいでもなくて、気持ちよくてドキドキしている。
アイリスはまだ恥ずかしさで見悶えている、キスも口に触れる程度のままだ。
今日もボクとユーリの睦みあうのを、目隠しした指の間から真っ赤になりながら見ていた。
(前ならキスされた時点で真っ赤になって呆けてるばかりだったから、見ていられるのは大分耐性がついた感じだね)
お互いの絆と愛を存分に確かめあったボクたちは手を繋いで眠りについた。
その日僕は夢を見た。
僕はかつての暁の姿で、目に涙を浮かべた天音義姉さん・・・いや違うね、これはきっと神楽だ・・・天音義姉さんはこんなにグラマラスではなかったし
こんな風な泣き方をされる方ではなかったはずだ。
目の前の神楽はサークラと同い年くらいで、だけど子どもの様にただ泣くばかりで暁にすがりついて泣いている。
神楽の姿は9年間正しく年をとった様に見える。
その姿は、あの頃の幼い面影を、愛しい輪郭を、涙の熱さを・・・僕に伝えていた
僕は堪らなくなってあの頃ねだられなければ決して自分からは求めなかった神楽の唇を奪った。
その熱も、粘膜と唾液の甘さも、涙のせいで塩辛く感じられたけれど、確かにそれは神楽の・・・・・。
目を覚ますとボクの両側にユーリとアイリスがいて、安らかな寝息を立てていた。
ボクはとても切ない夢を見ていた気がする。
だって起きたのにまだ涙が流れてるんだ。
アイリス、ボクの大切な半身の妹、この妹の可愛さに、笑顔にどれだけ癒されてきただろうか?
ユーリ、ボクの大切な婚約者、その気高さに優しさに、どれだけ憧れただろうか?
普段ならキスの一つもするところだろうか?
だというのに、いまボクは二人の寝顔を見ても他人の様に、ただ綺麗な子どもが仲睦まじく寝ているだけの様に感じている。
(イヤな感覚・・・まるであの暗い部屋の中にいることに初めて気がついた時みたいな喪失感だ)
アイリスの髪を撫で付けて、口元に親指をやると、まるで幼い日のアニスの様にその指を口に含んだ。
まるで吸啜反射の様にちうちうとボクの指を吸い、舌で指先をノックしてくる。
その温みに、あるいは柔らかさに心が解けてくるのがわかった。
(ああ・・・こんなにも愛しい妹のことを、一瞬でも他人の様に感じるだなんて・・・)
ボクはアイラなのに、なんて罪深いことか・・・。
ユーリを見つめる。
ボクの婚約者は今朝も女の子の様にかわいい、睫毛も長いし、肌のきめ細かさといったらもう・・・。
「朝からしてあげたら喜ぶよね・・・」
自分にそんないいわけをしつつユーリに口付けた。
うん、やっぱりボクはユーリのことが好きだ。
だって、彼の唇はこんなに甘いもの。
だから、ボクが選んだ生き方は間違っていないハズだよね?
ボクはユーリの婚約者、アイラ・ウェリントンなのだから。
さぁ、ユーリとアイリスから英気は貰った。
今日は5月31日今日から35日までの5日間は大水練大会だ。
今日はリレー形式の水泳大会、練習期間に決めた各クラスの代表達4人で一人150m、全員で600mの距離を泳ぎ、着順を競う。
他の選手を直接邪魔をしないという条件付きで魔法の使用も可能、筋力と、強化魔法だけの力技で泳ぐのも可能、魔法を使った特殊な泳ぎ方を披露すれば、別のチームに真似されることもあるので画期的な手段は最後までとっておくといいとかなんとか・・・・。
ボクもクラスの代表の一人になった、うちのクラスの代表は全員がボクの班員で、ボク、ナディア、エイラ、サーニャの4人だ。
ナディアとエイラはメイド式泳法と呼ばれる魔力式泳法で、体の周囲の水に固定化という魔法を掛けた上で器用に足の裏部分から水流を発射して進むという泳ぎ?方で150mを僅か30秒程度で泳ぎきる。
サーニャはエル族特有の風魔法、幌の翼という空中で跳躍するための魔法を用いた泳法で、本来は周囲6m程度の範囲の空気を魔法の膜で包んで後方に扇ぐことで空中で移動する術だが、コレを周囲1mくらいの範囲で水中で行い、前方へ進む泳法を用いている。
ソレに対してボクは予選までは跳躍と身体強化と加速の併用で乗り切ってきた。
水の中で足場を形成してソレを強化した脚力で蹴る、それも加速ありでという力技だね。
結果決勝まで駒を進めることが出来た。
いままでの対戦相手も、脚ひれと強化魔法だったり、人魚の様なひれに強化魔法だったり、水底を魔力腕でつかんで無理やり体をひっぱたりと、ユニークな移動方法を見せてくれたけれど。
チーム全体が速いうちの敵ではなかった。
1年生チームでしかも、全員が平均入学年齢の14を下回るチームの活躍に会場はおおいに盛り上がった。
だが次なる決勝の対戦相手は、シリル先輩率いる、魔導特務兵4年チームだ。
このチームは全員がエアートンネルという魔法で水の中に空気の筒を作り、その中を空気塊で自身を押し出すという方式をとっている、全員がメイド泳法よりやや早いくらいのスピードをもっていて、大変に総合力が高い。
ボクたちも1年とは言え、勝負する以上は勝ちにいくが、厳しそうだね。
全員が定位置に着き試合の開始を待つ。
相手の一番手はデメテル先輩だ、先輩はリザードマンのため、人よりも水への適応力が高い、油断できる相手ではないし、ボクたちは今回秘策をヒタ隠しにしてきた。
すべては決勝で使うために・・・。
スタートの合図がなり、両者が泳ぎだす。
まぁちゃんと泳ぐ人はいないけれどね。
先輩はやはりエアトンネルだ、これはかなり難しい魔法の様なので、予選からだしていっても一朝一夕で真似されないと考えてのことだろう。
決勝でも予選と同じ泳法ならば勝機はボクたちにある!
一方のうちの一番手はナディアだ。
ナディアは魔力量の都合で、秘策を扱うことが出来なかった。
そのため通常のメイド泳法を用いているため、デメテル先輩のゴールとは6秒半程の時間差が出来てしまった。
が、ここからだ!
2番手のエイラからは秘策がある。メイド泳法改、足元に水流ではなく、スクリュー方式をとることにした。
魔力で作り出した3枚の羽を回転させることで推進力を得る、コレによってメイド泳法の1.4~5倍の速度を出せる様になった。ただし初速はやや劣るため秒数でいえば僅かに4秒ほど速くなるだけだった。
そしてここでサーニャの登場だ、サーニャは幌の翼とこのスクリューを併用している。
差をだいぶ詰めて、ゴール時の差は僅か3秒、しかし3秒というのはこのボクにとってはとても長い時間だった。
ボクは時間を加速してその瞬間を待ち続けた。
1/3秒でも早くシリル先輩に追いつくために。
僕の泳法はスクリュー+加速というシンプルなものだけれども最高速度は1秒で100mほどだ。
ソレに対してシリル先輩は・・・体の底面に魔力のプレートを敷き後方に魔力塊を打ち出して加速を獲ている様だ。
一人だけまったく異なる術だね。
既に半分ほど進んでしまっている。
ボクはアレに勝つには、残り2秒程度で、150mすべてを終えなければならない、加速はそのためにも常時発動だ。
サーニャの手がボクに触れた瞬間ボクはすべての能力を開放する。
ボクは5倍加速によって、本来なら最高速に到達するのにかかる時間をギリギリまで減らして・・・。
観客には何が起こったかなんてわからなかったかもしれない。
もしかしたらシリル先輩にも良くわからなかったかもしれないけれど。
ボクたちは負けた。
僅かな差だったけれど彼らのほうが速かった。
あと0.2秒でもボクたちが速ければ勝てた、なんてことを言ったって詮無いことだが、悔しいものは悔しい。
ボクの決勝における遊泳時間は僅か2.3秒ほどだけれど。
体感時間は14秒ほどだ、短かろうが長かろうが、敗北は敗北なんだ。
「アイラ様、1年生とは思えないすばらしい泳法でした。」
「シリル先輩こそお人が悪い、隠してましたねあの泳法???」
試合後寄ってきたシリル先輩に賛辞を送る。
今いるのは観客席部分というか、水場になっているところのすぐ外側だ、フィールドは水没しているので。
試合が終わったら上に上がるのだけれど。
今は泣きそうだから、水の中のままが良かったなぁ。
「アイラ様たちこそあの不思議な泳法はなんですか?」
この世界にはまだスクリューによる動力は発見されていない。
ゆえにスクリュー構造を用いた魔法泳法も存在しない。
魔法の力押しが多すぎるよね。
ボクはシリル先輩と、ついでに聞きにきたらしい魔導工学者の偉いらしい人に細かい説明を始めるのだった。
明日はお休みなので2回くらい更新できたら・・・と考えてます。
初日の水泳大会はこんな感じにしてみました。
バトルでもないので、短めに。
明日はバトル描写をしないといけませんね、苦手なのでどうにか格好良く見える様に書きたいです。




