第34話:軍官学校の話と、狂い姫の話。
ここまでにアイラに伝えられていない情報や、アイラが知らない話が堪ってきているので外伝的なやつをそろそろ進めたいのですが、本編を進めるペースが遅れているのでなかなか手を出せないでいます。
時間と睡眠欲に負けない身体が欲しいです。
夜8時くらいから眠いのってだめですよね。
こんにちは、暁改めアイラです。
ユーリとの婚約から、約1年が経ちました。今は夏季休暇中
ボクたち7人は無事中級クラスになり、今のペースなら来年末には卒業も可能な成績です。
また今年度末にはユーリが基礎学校を卒業します。
学校で一緒にお昼が食べられなくなると思うととても寂しいです。
あれから特に事件は無かったけれど、慶事がひとつあった。
わが姉サークラが妊娠し出産したのだ。
丁度サルビアと1年差の1月生まれになった。
サルビアが去年の1月24日で姉の子が今年の1月36日生まれとなった。
姉とギリアム義父様の長男ガイラルディアと長女ヘレニウム。
二人の誕生はユーリ以来の領主家一族の生誕となりホーリーウッド市上げてのお祭りとなった。
そして身内の赤ちゃんというのはかわいいもので、ボクもアイリスもアニスもかわいい赤ちゃんにメロメロとなった。
乳母にはまだおっぱいの出ていたキスカが収まった。
サルボウの遺伝なのかサルビアがおっぱい大好きで、1歳なった今でも毎日たっぷりと授乳している。
そのためかキスカは乳の出が大変よく、気心もしれているのでその枠に収まったのだ。
自分のママのおっぱいを飲む双子のことをサルビアはいつも興味津々で見つめていて、もしかしたら姉弟だと思っているかもしれないね。
さてユーリの卒業が見えてきたことで、大きな懸案事項がひとつ出てしまった。
貴族の嫡男の義務として、ユーリが4年間王都の軍官学校に通うことになる。
軍官学校は王国が主催する、軍人や冒険者を育てる学校であり。
上は上級将校や大臣候補の政務官下は戦闘武官や冒険者になる。
武官と冒険者は同じ程度のもので、冒険者になるのはあくまでも現在が戦時下ではなく、余分な兵隊を食わせておく余分が国には無いからだ。
その分国は冒険者の支援にも力を入れており、各地にある狩場やダンジョンと呼ばれる特殊な構造体とそこで取れる素材を使った産業に力を入れている。
話がそれたけれども、ユーリが4年間ホーリウッドを離れるというのはボクにとっては大変な懸案事項だ、なぜならその軍官学校の在学期間に、ボクたちは結婚できる年齢になる。
にもかかわらずその大事な準備期間をともにできないのだ。
これまで一年間濃密ないちゃいちゃを繰り返してきただけに、いきなり年末から離れ離れねって言われても困るのだ。
すごく寂しい。
そしてさらにもうひとつ、アイリスが治癒魔術の下級を使えることがバレたため、アイリスも軍官学校に通うことが決まってしまった。
こちらも義務である。
軍としては治癒魔法使いは貴重な存在であり、そのすべてを出来れば予備役の軍人として扱いたいそうで、街にいる医者も中級以上の治癒魔法を使える人間は大体軍から年金をもらっているそうで、有事の際には所属する地方の防衛隊などに組み込まれることになる。
アイリスも7歳という低年齢で下級治癒魔術を使える以上、軍官学校で学べば中級以上を覚えるだろうということで、基礎学校卒業後は通わなければならなくなった。
そして、双子の姉であるボクも可能性を考慮して、招聘されている。
こちらは義務ではなくお誘いだけれど、アイリスを一人にする選択はそもそもないので、ボクも基礎学校卒業後に行く予定となった。
これならユーリと離れる期間は1年+1年で2年分かな?
なんてことを考えていたらユーリが驚きの選択肢をとった。
「僕が軍官学校に入るのを一年遅らせればいいよ。」
ユーリの宣言はボクにとってはうれしいけれど、貴族のとる選択としてはどうなのだろうか?
「ボクはうれしいけれど、義父様やおじい様はどうおもわれるのですか?」
「われわれに依存はないよ、私も軍官学校に入ったのは12歳の歳だしね。」
ギリアム義父様は穏やかな表情で言う、最近義父は心の余裕があるというか
もともと穏やかな方だったけれど、よりいっそう懐が深くなったと思う。
子どもが増えたからかな?よくサークラとキスカがいる部屋へ執務の合間に出かけていっている様だ。
キスカも乳母となって暫くしてから、ギリアム様に対しても萎縮することなく接している様だしいいことだね。
サルビアがよく義父様に懐いて寄っていくのが心配だけれど。
双子のことだけじゃ無くギリアム義父様のこともパパだと思ってるかもしれない。
「義父様、ユーリがボクやアイリスためにわざわざ軍官学校入りを遅らせるのは、良くない噂が立ったりしませんか?」
軟弱モノとか好色モノとか
「仮にそうだとしても所詮噂、それに婚約者の年齢が近ければ、入学年をあわせるのは良くあることだ。それにそのような噂が立ったとしても四侯爵家、いや東を除いた三家では、外戚の台頭を防ぐほうが重視されるからね。」
東を・・・?そういえば前にもいつだったか、東征侯の二の舞は避けたいとか言ってたね。
外戚関連でなにかあったってことか。
「アイラは、”狂い姫”の物語を知っているかね?」
狂い姫?
「聞いたことが無いですが、どの様な話ですか?」
「僕はそのお話嫌いです!!」
珍しくユーリが声を荒げた。
「ユーリ?どうしたの珍しいね?ユーリがこんなに嫌がるだなんて」
ユーリの表情は今までに見たことが無いほど憎しみを持った目をしている。
「まぁさわりだけ話そう、その物語はね、今の東征侯が自分たちの主家簒奪を正当化するための物語だ。
内容的にはあるとき侯爵夫妻が亡くなり、年頃の姫と男女の双子が残ったが、心が狂った姫が男児を殺してしまい、女児も手にかけようとしたのでなくなった侯爵夫人の実家のセレッティア家が女児を保護し、姫を征伐して、保護した女児と孫を結婚させて侯爵家は存続した、実は侯爵夫妻を手にかけたのも姫だったのだ。という話になっているが」
「他家はともかく3つの侯爵家はだれもそんな話を信じてはおらんよ、アレは外戚が侯爵夫妻を事故に見せかけて殺害し、姫に婚姻を迫ったが断られたため邪魔な王子ともども姫を排除し、与しやすい幼少の姫一人を残して自分たちが成り代わったものじゃ。リリ姫はそれはそれは優しい娘じゃったよ、ワシより5つ年下での、まだ12歳じゃった。」
途中からユーリがボクの手を強く握ってきている。
もしかしてボクたちにそういう暗殺とか、謀り事が及ぶことを心配してくれているのかな?
「まぁじゃからの、ユーリを一人で王都に送り出せば、ユーリも一人の子どもじゃからの、本人にその気が無くとも酒で酔わされて・・・なんてこともありうる、それで余計な外戚を作るのはお断りじゃ」
それなら確かに嫁つきで送り出したほうが安心かもね。
ユーリは暫くうつむいていたけれど、ボクだって君の誠実を疑ってるわけじゃあないよ?子どもの身体では出来ることできないことがあるんだってことを良くわかってるから心配なんだ。
ユーリが悲しそうな表情なのが、見ていられなくってボクは初めて自分からユーリに口付けした。
「ん・・・アイラ?」
何で?っていうか初めて?と唇をなぞるユーリは不思議そうな顔だ。
「なんとなくユーリが愛おしくなったから、そんな顔しないでよ、ユーリがボクたちに何の相談もなく女の子を連れ込むなんて思ってないし、言ってくれればよっぽど変な女じゃなきゃボクもアイリスも君の決定を尊重するよ?それでもボクたちは子どもだから、騙されたり無理やりされたりってことに抵抗できないこともあると思うから、ユーリがボクのためにいろいろしてくれてうれしい、だからボクもユーリのためなら何だってするから」
だからいまは不安そうなユーリにこうするね
そうしてもう一回軽いキスをした。
そうして決まったのは、ユーリは基礎学校卒業後1年間ホーリーウッドでお勉強してから、ボクとアイリスと一緒に王都へ進学すること
そしてその際にはトリエラ、ナディアがついてくることだ。
ノラとエッラは現在のところ保留となった。
ノラはアニスが一番大事だし、エッラはキスカと一緒になってサークラの子育てを手伝っている。
でもとりあえずこれでボクたちは5年後まで予定が決まったね。
甥っ子姪っ子なのか義理の兄弟なのかいまひとつわからないけれど、ガイとヘレンの一番かわいい時期を見られないのはちょっと寂しい、来年末までせいぜいかわいがってあげよう。
朝食後、育児室となっているキスカの部屋に行く
「おねえちゃん、どっちか抱っこさせて。」
そう頼むとまだ軽いからという理由で、エッラが抱いていたヘレンをボクに抱かせてくれた。
ユーリがガイを抱っこする、二人で乳母のキスカが使うのベッドの上で赤ちゃんを抱っこして
「なんだかもう子育て中の夫婦みたいですね?」
なんてキスカとエッラがからかってきた。
言われて照れているとアイリスも部屋にやってきた。
双子はボクたちが抱っこしているので、アイリスは自分が抱きかかえるには大きいサルビアを膝に抱えて対抗してきた。
まだ朝だというのに、抱っこしたヘレンがやわやわぬくぬくの極上触感だったせいで、抱っこしたボクのほうが眠くなりそうだ。
となりの二人も同じ様で・・・その日は仲良く昼過ぎまで6人でキスカのベッドを占拠してしまった。
アイラの今後の人生の中でもっとも波風の少ない予定の7~9歳の時期に入りました。
波風がないということはお話にすることも少ないです。




