第26話:恋心と迷子
すみません、思ったよりも遅くなり、進みもしませんでした。
こんにちは暁改めアイラです。
今日は事件がありました、中庭で食事中ユーリとニアミスしたことと
カテリーンの取巻きに追い回されて、彼らが先生に懲らしめられたこと
そしてボクは恥ずかしい思い出をひとつ増やしたのだけれど
「ねぇユーリ!なんで学校で声をかけてきたの?」
城に帰ってユーリと交わした最初の言葉がこれ
ユーリが声をかけずに通り過ぎていれば、ボクは無駄に疲れず、その後の4人組みの絡みも無かったはずだ。
つまり、ユーリが今日の騒動の原因なのだ。
「おかげでたくさん言い訳したりとか、やっかみうけたりとかしたんだから。」
プンスコ怒るボクをサークラやエッラが仕方ない子だっていう顔で見ているけれど
実際ボクは4人組に絡まれて尊厳の危機を味わったのだ。
ただ逃げたり撒いたりなら危機を味わう必要も無かったけれど、連中の矛先がいつアイリスや他の班員に行くかもわからない以上一度、先生方に目をつけていただく必要があった。
ユーリは暫くボクの文句を聞いていたけれど、暫くして一言だけ
「じゃあボクがあそこで素通りしたらアイラはどう感じたかな?」
とたずねてきた。
「それは、婚約を決めて発表するまでは内緒なんだから、仕方ないと思うよ?」
そう言ってから気付く、仕方ないというのは残念だってことだ、それは本心では声をかけて欲しいってことだ。
そう思い至ってからユーリの顔を見るとユーリは勝ち誇った顔をしている。
悔しいけれど、ボクの負けだね。
「仕方ないけど・・・寂しいって思うよ。」
そうか、だからユーリは秘密よりも自分やボクの気持ちのために声をかけたんだね?
「僕は好きな女の子に一言も声をかけずに行くなんて出来ないよ、僕は君のことが大好きなんだ。」
今までは、ユーリはここまで素直な言葉をかけてこなかった。
この間のキスからだろうか?今までは理性で抑えていたものが、抑えられなくなっているのだ。
まっすぐな熱い瞳、まっすぐな言葉、どれをとっても神楽に負けず劣らずの恋心をボクはもうなだめすかすことは出来ない、暁のときそれが出来たのは暁のほうが神楽より年上だったから
神楽を守るべきだという自分自身への戒めがあったからだ。
ボクは今ユーリの年下の女の子で、ユーリはボクを求めてくれている、ならばボクはもう彼を受け入れるか、切り捨てるかのどちらかしか選べないのだ。なだめたりごまかしたりなんてズルはもうできないのだ。
(それならば、その2つしかないのならば・・・・)
認めてやろうじゃないか
「ユーリ、ボクも君が好きだよ。」
言ってしまえば簡単なものなのだけれど、コレを認めてしまえばボクはもう神楽への未練を、暁の未練を捨てなければならない。
それでも一度声に出した好きという気持ちはボクの胸にスッと入っていく。
「アイラそれは・・・?」
もう抵抗することもないよね、アイラは君が大好きなんだから。
「ユーリ、様の気持ちが変わっていないのならば、ユーリ様のプロポーズ、アイラ・ウェリントンは謹んでお受けいたします。」
この言葉は暁がアイラとして生きているから発した言葉ではなく、ボクがアイラとして生きて出した答えだ。
まだ50日ほどの付き合いだけれどそれで十分すぎるほど、ボクはもう乙女にされている。
ストレートな好意をぶつけられ続けることがこんなにも自分を揺さぶるとは思って居なかったけれど。
今のボクにユーリを突き放して生きるということは出来そうに無い。
「アイラ・・・!!」
感極まったらしいユーリに抱きつかれた。
サークラやエッラ、トリエラにナディアという人目もあるけれど、いつもの様に拒んだりなんて出来ないね。
だってボクだってうれしいんだから。
この世界に生まれてきて、暁と神楽の失ったものをユーリとアイラが手に入れた。
ボクがアイラじゃなかったら、二人は出会えなかったかもしれないんだ。
だからボクは、ユーリに思いっきり抱きつき返してその柔らかく温かな身体を堪能した。
その晩のうちにおじいさまやおじさま、おばあさまにも婚約を受けることをお話した。
そしてかねてからの約束どおり、アイリスも同時に婚約したいということもお願いした。
おじいさまたちは、かわいいアイリスを最初から側室として婚約することに少し躊躇していたが、アイリスの説得を受けて、最後には認めてくださった。
これから学校に通いながら、徐々に作法やらドレスやら仕度して、4月末からの夏季休みの間に婚約披露宴を開くことになった。
あと3ヶ月くらいだね。
子どもの決めたことなので、気が変わるかも知れないからともう1ヶ月半は伏せておくそうだけれど。
その後は関係各所へ招待状を贈ったりするので後戻りできなくなるそうだ。
手紙を出す前にもう一度教えてくださるそうなので、やっぱりおじいさま方はボクを大事にしてくれている様だ。
それからも学校でまじめに勉強し、城ではユーリといちゃいちゃしたり、サルビアを愛でたりしてすごした。
学校ではあの4人は表立っての悪行は減ったものの相変わらずボクに対してやっかんでちょっかいかけてくることもあるけれど、直接的なものはないし良かったと思おう、
それから暫く経ち
家では夜寝るときに週に1日ずつボクとアイリスがそれぞれの部屋でユーリと一緒のベッドに寝るのが通例になり、更に一日だけユーリの部屋で3人で寝る様になった。
婚約者っていうよりまだ婚約者ごっこって感じなのがくすぐったい
あとはサルビアをかまいすぎてアニスがやきもちをやいたりして可愛かったけれど、アニスもボクとサルビアが居たらサルビアにばっかりかまうからね、お互い様だよね。
今日はそんなアニスのためにサークラたちは置いてきた。
ボクとアンナとふたり(こっそりと護衛は付いてきている。)で、アニスのためプレゼントを買いに街に出てきている。
誕生日を過ぎて、3歳になったアニスはユーリやナディアに毒されたのか、かわいい下着集めにご執心で、今日の買い物の目的もアニスのためのパンツと美味しいお菓子でも買って帰ることにしている。
目的のものは概ねそろい後は、久しぶりにアンナと2人での会話とショッピングをした。
アンナはいま現在無職のままであるが何もしていないわけではない、子どもの世話をする仕事を目指しているのは変わっていない。
それは一重にアンナという心優しい女性が子どもが好きで、また敬虔な聖母教の崇拝者だからだけれど。
今彼女がしていることは例の屋敷の作り替えで、おじいさまとの話し合いの結果新しい孤児院を造ることになった。
現在の孤児院はいくつかあるが、老朽化と施設職員の高齢化が進んでおり。
行き届かないところがあるということと、もうひとつ、院を出た後の自立したはずの孤児たちがいつの間にか姿を消してしまうため、ホーリーウッド市にとって、孤児院の運営が上手く言ってないということだ。
手をかけて育てた孤児たちがホーリーウッドの経済に寄与しないのであれば領主としては旨みがないのだそうだ
無論元孤児たちがどこか新天地で、新しい幸せを手に入れているならそれに越したことは無いのだけれどもね。
それならば新しく孤児たちにとって今以上に愛着を持てる孤児院を設立し、彼らにとっての故郷となってもらおうということで、疑似家族型の孤児院設立のテストケースということで現在準備中なのだけれど、父親役をどうするかなのだ。
出来れば実際にアンナと夫婦になってくれる様な男性がいいそうだけれど、身持ちの固いアンナとすぐに信頼関係を築ける様な男性は現在居ないため難航しているとか
「アンナ姉さんは美人ですし、身体つきも女性らしく成熟しているので、あとは良い男性との出会いだけですよね?」
露店のアクセサリを見ながら今年で21になる叔母を見上げる。
「ありがと、でも今の生活だと出会いが少なくってねぇ・・・」
ため息を吐くアンナ。
孤児院設立に奔走するアンナは現在城と屋敷を往復する生活で出会う男性といえばおじさまと、子どものない男性職員候補として出入りを始めたロイだけれど、ロイはマローネという奥さんが居る。
二人を両親役として、ホームをひとつ任せるためだそうだ。
手を繋いで城に戻りながらこれからの予定などを聞いていると
「ママ!やっと見つけた!!」
そんな悲痛な叫び声とともに突然アンナのお尻に衝撃があった。
手を繋いでいるボクにも軽く伝わる振動
見ればボクよりも背の小さな女の子がすすり泣きながら
アンナの尻にしがみついて顔をうずめていた。
迷子の話が終わりませんでした明日また続きを書きます。




