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第15話:ご挨拶

ホーリウッド市についてまだ12時間ほどです。

 おはようございます、暁改めアイラです。

 黒髪ツインテールメイドのトリエラがボクの御付になってくれるそうだ。

 昨日の今日でごくごく短い付き合いなのになぜかすごくなつかれている。

 でもマスターなんて呼ぶくせに、子ども扱いもしてくるのはなんだか納得いかないんだ。


 メイドにドアを開けてもらい部屋を出る。

 ボクも僅か一晩でずいぶんとお嬢様になったものだ。


「おはよう、アイラ」

「おはようございますアイラ様、夕べは良くお休みになれましたか?」

 部屋を出たら目の前に、美少女と美少女メイドが居た。

 じゃなかった、美少年(・・)と美少女メイドだ。


「お、おはようございます。ユーリ様、ナディアさん、おかげさまでぐっすりで、お昼になっちゃいました。」

 少しうろたえたが、ごまかせただろうか?


 サラサラした金髪を肩まで伸ばし、顔立ちは大人びた少女の様、夕べ見たときも思ったがユーリは見た目美少女だ。

 服装も良く見れば男のものだけど、ちょっとした飾りが、女モノに見える。

 ただでさえ可愛いのに、小物にまで女モノを使っているのならそれはアチラのケがあると思われても仕方ないだろう。


 ところでトリエラ?どうして「あ、やばい」って顔をしているのかな?

「着いたのが遅かったし仕方がないよ。」 

 ユーリは気にした様子もなく、にこやかに振舞っているけれどどうもココで待っていた様だね

 おきてから20分ほど、その前にトリエラに撫でられていたと考えればもう5分は伸びるだろう。

 ずっと待っていたなら30分ほど待っていたのかもしれない。

 

「ユーリ様申し訳ありません、ボクがおきるのが遅いばかりに、お待たせした様です。」

 ペコりと頭を下げる。

「今来たところだから。」

 とユーリはにこやかに手を振った。

 気を使われた様だね、ユーリは女性に厳しいという話だったけれど、気遣いのできる子の様だ。


 ところでトリエラ安心した表情をしているけれどこれ後で折檻するからね?

 次はその犬尻尾を触らせてもらおうかな。


「お昼には起こすって話だったから、一緒に食堂に行こうとおもって」

「良いのですか?ご一緒しても。女性が好きでない風なことをお聞きしましたが」

 コレは今後のためにも必要なことなので早めに聞いておこう。


 ユーリは目をパチクリしてからやさしく微笑んで言った。

「僕が嫌いなのは僕を家柄で見る人や、向こうに大人の汚い思惑が見え隠れする子だよ。その点アイラは最初から身内だから、素直に向き合える、仲良くして欲しいっておもうよ。」

 微笑を浮かべる美少女(しょうねん)というのはなかなかに攻撃力が高い、そろそろ限界かもしれない。


「ありがとうございますユーリ様、ボクとも妹やエッラたちとも仲良くしてくれるとうれしい。ただごめんなさい、せっかく待っててくれたのに、食堂には一緒に行けそうにありません。」

「ごめん、いきなりなれなれしかったかな?」

 悲しそうな目をさせてしまったがそうではないんだ。


「違いますよ、ユーリ様が悪いんじゃないんですよ?ただ・・・・ボク寝起きなんですよ。」

 コレを異性に直接いうのは、かわいいお嬢さん(アイラ)を目指す者として憚られる。

 トリエラ・・・はダメだからナディアの目を見つめる、察して欲しい。

 ナディアは一瞬トリエラのほうを見て、何も期待できないと察したのか、トリエラに声をかける。


「ところでトリエラ、例のことはアイラ様にお許しいただけたの?」

「あ、うん、そうなの!アイラ様のことマスターって呼んでも良いって」 

 主人になることか、うんトリエラのことはボクが責任もって一人前のメイドにしてみせるよ。

 先は長そうだけどね。


「ではユーリ様、私は少しアイラ様にトリエラの取り扱い注意をお話してから参りますので、トリエラと先に、食堂へ向かってくださいますか?」

 ナディアがユーリに提案し、ユーリはそれを首肯した。

 

「確かに、トリエラの扱いには注意が必要だね、わかった・・・・先にいくよ、トリエラ、お父様に報告もしないとね。」

「え?あっちょ、ユーリ様お待ちください!」

 首でOKサインを出すとトリエラはボクからはなれて、ユーリのほうへはしってついていった。


「ふふ、アイラ様はトリエラのことはもう言わなくてもわかってそうですね、あの子いい子ですけどすごくおっちょこちょいなんですよ、それじゃあ私もユーリ様から離れたついでなので、お花摘みさせていただいてもいいですか?」

 うんやっぱりナディアは気づいてくれたね、ただユーリもあからさまに気づいていたね、チラッとトイレのほうをみてたし、同性のはずのトリエラだけが気づいてないとは。


 それからナディアと一緒に食堂に着くとメイドを交換する。

 食堂には既にウェリントン組とギリアムおじ様、ユーリ、ナディアとトリエラ、数人のメイドとメロウドさんが居た。


「おはようございます、ボクが一番遅かったのですね、お待たせして申し訳ありません。」

 もう昼だというのにおはようございますと挨拶するのは、気持ちが悪いというか、申し訳ない。


「おはよう、アイラよく眠れたかい?」

 ギリアム様は、穏やかな表情でボクを見て微笑む、ボクはユーリとアイリスの間の席に案内されて座る。


「おかげ様で、よく眠れました。柔らかくて良いベッドでした。」

「それは重畳、急いで用意させた甲斐もあったというものだ。ところで、トリエラを引き取ってくれるそうだね?」

 引き取るといっていいのだろうか、お給料はディバインシャフト城の収支から出ているはずだけれど。


「彼女、はキス族の特性を持っているからね、主人が居ないと、力を十分に発揮できないからね。君が彼女を育ててあげてくれ。」

「年上のトリエラを育てられるほど、作法を存じているわけではありませんが、主人として認められたからには、最低限の勤めは果たしたいと思います。」

「それから・・・・」


 これからの生活について

 いろいろとお話して、ボクたちはギリアム様のことをおじさまと呼ぶ様になり。

 サークラだけはギリアム様と呼び続ける様になった。

 またメイドになったキスカ、エッラ、ノラはエッラとノラはアイリスの正面の部屋で2人部屋。

 キスカはそのうち子どもも生まれるからとアニスの正面の部屋に1人で部屋をもらっているのだけれど。

 アンナには実家が割り振られた。

 

 アンナの実家というか母ハンナにとっても元の家であるブロッサム家は、ホーリウッドで起きた骨肉の家督争いの際に失脚した家のひとつであり、責任を取るべきものはすべて責任をとり処断された。

 子女や使用人などはそれぞれ穏便にすまされたが、エドガー父が前侯爵の隠し子だと知るものは、軟禁状態にされた。

 これらはすべての関係した家に言えたことであったが、ほとんどの家族は離れ離れにされたが、責任を取らせる必要がないものなどは今も、侯爵家で働いているらしい。

 

 そんな中責任をとらせざるを得なかったものの見逃された子女や使用人のなかで、比較的優秀そうなものや、見目麗しいものを何人か混ぜた、ウェリントンとその周辺の開拓村が設けられた。


 もう20年ほども前のことで、当時幼かったアンナは覚えていなかったが、他の家のものは兄弟も別れ別れにしてしまったので、従妹ということにして同じウェリントンに送ったものの実際はハンナとアンナは姉妹であったそうだ、幼いアンナに配慮して一緒の土地に送ったそうだけれど、周囲にバレたら配置換えという約束だったらしい。母もよく隠し通したものである。


 そのブロッサム家の実家という場所はウェリントンに入植してすぐハンナとエドガが結婚したことから、戻ってきたときの家の候補とされて、ずっと管理されてきたのだそうだ。


 その家をエドワード様名義からアンナ名義に変更された。

 まぁまだ本人に生活基盤がないため管理も整備もすべてホーリーウッド家が持つそうだ。

 敷地内に礼拝堂もある敬虔な聖母教信者の屋敷であったため、アンナは喜んだ。


 またここはボクたちウェリントン姉妹にとっても母方の祖父母の家ということになるらしいので、屋敷内に子ども部屋が整理されていて、いつでも泊まれる様になっている。

 ボクたちの存在はまだ公になった訳ではないので対外的にはココがボクたちの家になる。


 ボクたちを今はまだ隠す理由は、ボクたちに取り入ってホーリーウッド家と関係を持とうとする家が現れるかもしれないからだ。

 急にあの家に住んで、しかも実際には城に住むため関係は怪しまれるだろうが、それを表立って探れば侯爵家から不興を買うし、かといって知らぬ存ぜぬで手を出してくればそんなこともわからないのか?と侮られる。

 そのため現状で手を出してこれる貴族はおらず、いまの状態でも安全だということだ。


 次にユーリとの距離感をつめることにした。

「ところでユーリ様、先ほどは迎えに来てくださったのに、ご一緒できず申し訳ありませんでした。」

 隣に居るユーリに謝るとユーリは気にした様子もなく

「トリエラの主人になってくれるんだから、仕方ないことだよ。トリエラも、この歳でこんな素敵な主人などそうそういないのだから、よく尽くすんだよ?」

 とトリエラにもやさしい言葉を投げた。


 あれだよね?女性に厳しいって話だったけど本人の言っていたとおり身内には自分を出していけるって話だったから、本当はすごくやさしい子なんだよね?


 そう感じてしまえば、ボクにとってユーリは可愛い、やさしい、そして婚約者(候補)で薄いながらも血縁がある、うんなんかちょっと神楽と暁みたいだね、歳の差は1年分しかないからもっと、親密に慣れるかもしれない、ボクが昔は暁だったという認識からくる、精神的な同姓愛を乗り越えられればだけど。


 少女としてまもなく6年、最初は赤ちゃん枠だったから女の子扱いされだしたのはココ2年くらいだけど、それよりも圧倒的に長い15年弱物心ついてからでも10年以上男だったし、婚約者ができてから3年はより一層男としての矜持の様なものを感じていた。


 それでもボクはアイラとしての自覚をもって生きようとしてきたし、実際に女性らしい所作も少しはでてくる様になってきた。

 それでもいざ婚約となると、神楽の顔がちらついてなかなか思い切り良く行かない。

(だからかな?可愛いとはいえ男の子のユーリを見ていて女の子を、神楽を幻視するのは)


 考え事をしているとおじさまが会話に入ってきた。

「ユーリ、君が自らアイラを迎えにいったのかい?お見合いやパーティではいつも相手からにさせている君が?」

「簡単なことです。アイラは僕の家柄をみていないし、見る気も意味もない。だったら最初から僕自身を出していける。僕も本当は女の子をエスコートしてあげたいんですよ?僕だって可愛い女の子は好きなんですから。」

 にこやかに答えるユーリ

「ユーリ、君が好きなのは女の子に限らずカワイイもの全般であろう、その点で言ってもアイラたちは合格か?」

「合格だなんて僕が女の子を採点する様なマネするとでも?でもまぁアイラのことは非常に好ましく思ってます。これから一緒に大人になっていくのが楽しみです。」

 一緒に大人に・・かユーリは成長したらどんな男の子になるのかな?可愛い男の子のままなのか、それともクールな容貌のイケメンになるのか・・・ワイルド系はなさそうだ。

 

 そしてボクはどんな女性になるのだろうか?サークラほどじゃないにしろ美人になれるといいなぁ。


「大人になったらユーリ様はすごくモテそうですね。」

「ん?サークラさんは僕よりお姉さんなんですから、どうぞ僕のことはもっと気軽に呼んでください。」

 サークラの言うとおりユーリは大人になったらさぞやモテるだろう。

 今の時点でも特殊な性癖の貴族のお姉さん方にはモテそうだけれど。


「でもユーリ様は領主様のお孫さんですから。」

「おじい様は、サークラさんたちのこともそう扱うとおっしゃいました。あぁ僕の呼び方が悪かったですね、実際にはお父様の従妹なのですよね、サークラさん・・・ううんねえさん」

 少しの逡巡の後ユーリは満面の笑みでサークラのことをねえさんと呼んだ。

 

「はわぁ・・・ユーリ君かわいいねぇ・・・」

 サークラは突然できた弟に一瞬でメロメロにされてしまった。

 トーレスからと同じ呼び方なので、ちょっと子どもの頃を思い出してしまったのかもしれない、ボクたちが生まれてきた頃は、サークラがボクたちにかまいすぎて拗ねることもあったトーレスの機嫌をとるのに猫なで声で可愛がるサークラの姿もよく見ていたけれど、それに似ている。


 ユーリの頭をなでなでするサークラとおとなしくなでられる笑顔のユーリ、その隣で見ていたボクは、「だったらボクもユーリ様のことユーリお兄ちゃんって呼んじゃおうかな?」

 なんて気軽に言ってしまった、このときボクがもっと周りを見ていれば、もう少し考えて発言したのだけれどね。


(バン!!)

 ボクからみてユーリの逆側アイリスがテーブルを叩いて立ち上がった。

 その目は涙を溜めていて、憎憎しげにボクとユーリを見ている。


(あのアイリスが!ボクを!睨んでいる・・・!?)

 アイリスはボクの後ろをいつもべったりついてくる妹、可愛い可愛いボクのお姫様なんだよ?

 そのアイリスがボクを睨むだなんて・・・。


 世界の終わりでも迎えたかの様な絶望感を感じるなんでだ?何を間違えた?


「アイラもサークラお姉ちゃんもヘンだよ!アイラのおにいちゃんはトーレスおにいちゃんだよ!?サークラお姉ちゃんのことただのねえさんって呼べるのは、トーレスおにいちゃんだけなんだよ!?なのに2人はどうしてそんなに笑っていられるの?」


 どきりとした。ボクは、ボクたちはトーレスを両親を失ってまだ、1週間も経っていない、何でこんなに普通で居られるんだろう・・・?

(ボクはトーレスのことを泣いただろうか?父と母のことを泣いただろうか?)

 自分の頭のなかを探してみるが思い出せない。


 あぁボクは、あんなにもアイラとして生きると決めておきながら、まだどこかアイラを他人としてみていたのか・・・、だからこんなにも笑っていられるのか。

 アイリスの言葉は、ボクの胸に刺さる、お前は他人だ。って事実を突きつけられた様で気分が悪くなる。

 愛おしいはずのアイリスの顔を見て、お前なんて護られただけの子どものクセに、なんて、思ってしまうだなんてボクはなんて醜いんだろう。

 目の前が真っ暗になる。


(パチン)

 軽い音が響いた。

 顔を上げるとアンナがアイリスの頬を叩いていた。


 どうして?って顔でアイリスがアンナを見上げている。

「ゴメンね?姉妹のことだから黙ってみてようって思ったけれど」

 アンナは悲しそうな声色で、涙声で語る。


「ねぇ、アイリス・・・貴女は泣いた?」

 短く言うアンナの声にアイリスは少し怪訝そうな顔をした後ハッと目を見開く、見開いてから怯えた顔になった。


 そうだ、ボクもサークラも人前では一度だって泣いていない、そしてアイリスの泣いているところも見ていない

 そんなアイリスを見てからアンナはやさしく撫でながら言い聞かせる。

「みんなゴメンね、年長者の私がもっとしっかりしていれば、3人がこんなにガンバらなくっても良かったのに」


 極限状態だったんだ、みんな張り詰めていて、みんな泣くのを耐えてきただけだったんだ。

「3人とももう良いんだよ、ココには大人が居るんだから、あなたたちを護ってくれる大人が居るんだから、3人は泣いて良いんだよ、貴方たちを護るのが私じゃないのは悔しいけれど、貴方たちは子どもなんだから。」


 その言葉を聴いたとたん、ボクもアイリスもサークラも声を張り上げて泣いた。

 妹が泣いてないのに、姉が泣くわけには行かないでしょ?だから妹が泣いたならばボクもサークラも泣けるのだ。

 あぁ、父よ、母よ、兄よ、今まで泣いてあげられなくってごめん、護らないといけないものがあったんだ。

 

 子どものボクは大人に護られて成長する、父さんの遺言通りボクはおじい様やおじ様を頼るよ。

 


メイドさんやギリアムおじ様は気まずい空気の中音も立てずに待っています。

恐るべき台バンプレイヤーアイリスさんは空気を読むのは苦手です。

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