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幕間1:道程

11話のちょっとしたところを修正しました、あとエドガーの部分を追加しました。電気の海に飲まれた部分なので、書いたつもりになっていました。

今回は特に短いです。幕間1とありますが、次回は章立てが変わりますので、幕間2は次の章立てのときになると思います。いつになるやら。

 こんにちは暁改めアイラです。

 早朝4時前にウェリントンを出立して半日が経ちました。

 今は昼の2時頃です。

 ボクたちウェリントン生存組は、何とか生き残っていた交易用馬車に乗せられて、ホーリーウッドへの途上にある。

 ボクは、いやボクもいろいろと考え込んでいた。


 ボクがもう少し、早く刀を抜いていれば、母も助けられたのではないだろうか?

 いやそもそもボクが眠らずに、父や兄と共に戦えば、もっとたくさんの人を護れたのではないだろうか・・・?

 苦しめられて、あるいは辱められて死んだ村人(かぞく)たち、その傷を、その涙を思えば、出てくる言葉などない。

 誤算もあった、アイリスにまだ服を着せていない母の遺体を見られた。

 年嵩の割りに察しの良い賢い妹は、その母の身に起きたことを一部察してしまった様で、すなわち男に殺されたことをわかってしまった様で現在護衛してくれている防衛隊の人たちに対しても、女性のアビーさん以外に対して警戒してしまっている。

 

 コレはアイリスの将来にとって大変大きな影響を与えるだろう。

 完全な男性恐怖症である。


 姉サークラもかなりの苦痛を受けただろうに、幼い妹達(ぼくたち)の前であるためか明るく振舞っている。

 アニスも別の意味で不安になる、まだ3歳にもならない幼子が、「おねぇちゃんたちがいきていてくれてアニスはとてもうれしい」とつぶやくのだ。

 両親の死もトーレスの死も理解しているし、その上で無事だったものがいることを喜ぶのだ。


 周囲から見ればボクもこういう子どもだったのだろうか?とも思うけれどいつか可愛いアニスがいなくなってしまいそうで怖い。


 そしておそらく孤独ではないことが大きいのだろうが、この3人(ぼくも入れるのであれば4人)は食事もちゃんと摂れているし、眠ることもまぁまぁできている。

 問題はその他の4人だ、アンナとエッラは比較的ましだ、エッラは家族が殺害されるところを直接みてはいないためか、食事も睡眠もできているが一人になりたがらない、お風呂まではともかく、ベッドもトイレまでも誰かと一緒に居ようとする。

 

 アンナはサークラとともに皆を慰める側に回っている。

 そうすることで自分を保っている様に見えないこともないが、まぁしばらくはそれで問題もなさそうだ。


 キスカは初めは目も当てられない状態であったが子どもを生むという目的を強調して話すと多少持ち直しいまではご飯もちゃんと食べるし、睡眠もとる様になった、母は強いのだ。


 一番の問題はノラだ。

 日中もすぐ呻く様に泣く、ソラとモーラの名前をつぶやく、深夜に飛び起きてソラを探す、食事は口に入れることもできない。

 無理やり食べさせ水も飲ませているが、今のままでは長くは持たないだろう、青白い顔は既に生気を失いかけている。

 

 ホーリーウッドまで40kmをきった、ココまでくればもう安全だと、少し遅めの昼食を摂ることになった。

 時刻は昼4時前、何箇所かで簡単なかまどを作り、火を熾す。

 食材が少なく、麦粥だけだが、ないよりは大分ましだし、消化にもやさしい、問題があるとすれば味気がないことだが・・・。

 

 せっかくの食事だ美味しいほうがいいだろうとボクは秘蔵の肉を取り出す、先日作ったジャーキーだ。

 ジャーキーを鍋にほぐしながら入れると、芳醇な肉と醤油の香りが広がる。

 そういえば醤油の甕のひとつも持ってくれば良かったな。

 

 味気ない粥に、旨みが加わりいい感じになったね。

 みんなにもおすそ分けしてもいいかな。

 防衛隊のみんなの鍋にも少しずつジャーキーを分けて回る、評価は上々でこの干し肉どうやって作ったんだ?いい味じゃないか?

 と何人かに聞かれたので、醤油を使ったボクの手作りですよ?といったらほめてもらえた。目の付け所が良いな、こんなに合うならうちでも今度作ってみよう、なんていわれるとチョットうれしいね。


 さてノラは・・・うんやっぱり食べれてないね、喉は渇くのか麦粥の上澄みの重湯の様なものをちびちびとすすっている。

 このままではそのうち本当にノラは体を壊してしまうけれど、本人が食べられない以上、本当にボクらにはできることはないのだろうか?

 

 サークラが甲斐甲斐しく世話を焼いているが、反応は薄く、刃物でも渡せばすぐさま喉をかいて死んでしまいそうなほど打ちひしがれている。

 そのときだった、アニスが得意げな表情でノラの膝に乗った。


「アニス、やめなさい、今ノラおねーちゃんは疲れてるから・・・」

 サークラがアニスを軽くしかろうとするが、途中で止めてしまった。

 どうかしたのかなとそちらにノラに視線をやると、心なしか表情が戻っていた。


 思えば教会の学習室で、ノラはウェリントン家の誰よりもアニスと一緒に居たね、ソラとアニスの面倒を一番見ていたのはノラだ。

 お互いになついているのかもしれない。


 アニスはしばらくノラのほうを見ていたが唐突に

「ノラおねーちゃん、あーん」

 といって大きく口を開けた。

 

 一瞬アニスがノラに給仕してやるのかとも思ったけれど、単に自分が甘えたかっただけなのかもしれない、それでもノラが少しでも元気になるのならと、ボク達は様子を伺い続けた。

 

 突然のことに目をパチクリさせたノラはすぐに涙ぐんでしまい、動けなないままだった。

 あるいはソラに食べさせてやっていたことなんか思い出していたのかもしれない。


 それでもアニスが不機嫌そうに口をモニュモニュさせて待っていると、ノラは目を開けて左手で器を掴み右手に匙を持って掬い、アニスの口に入れてやった。

「はい、アニス、アーン」

 アニスは満足そうに口を閉じると口の中のものを軽く噛んでからにんまりと笑った。

 両手がふさがっているノラもつられてフッと微笑んだ。

 そして次の瞬間に、目を見開いた。

 

「ん~♪」

 アニスが両手のふさがっているノラの顔をアニスが両手で掴み口付けた

「ん!!?ん・・・ぐ・・・」

 アニスはノラに麦粥を口移しした様だ。

 離れた唇の間に白濁した粘性のある液体が橋を作る。


 それを切り落とす様にアニスの唇がぺロリとその赤い舌でなぞられ。

「ごちそーさま。」

 と小さく言った。


 ボク達は声も出せずに見ていた。

「アニス、いきなり何を!?」

 ようやく粥を飲み込んだノラが非難する様にアニスを睨む。


 ノラは顔が少し赤いし、眼にも光がある。

 あぁアニスにやられたなぁ


 一方睨まれたアニスは臆することなく笑顔。

「おいしかったでしょ?」

「え?」

 呆気にとられて固まるノラをもう一度アニスは甘える幼子そのもののように首を傾げてノラを見上げる、 そして幼子をあやす母の様に

「ごはん、おいしいよね」

 とノラの頬をなでながらつぶやいた

 

「う・・んおいしい・・ね、ひっぐ・・・ふぐぅぅぅ・・・」

 ノラの眼から涙が溢れ出した。

 その後ノラは10分ほどに渡ってアニスの頭を抱えたまま泣き続けて、それから照れた様にこちらに向き直ると

「なんか・・情けない、こんな小さな子にまで慰められて。」

 とぼやいた。

 アニスは初めノラの鳴き声をうるさそうに聞いていたが、今はもう夢の世界に居る。


「仲別に悪くなかったけど、お勉強のできない姉だって思って見下してたモーラお姉ちゃんに助けられて、大事なソラまで犠牲にして助かって、それが惨めで・・・穏やかに死にたいなんて逃げて・・・それなのにこんな粗末なご飯が美味しくて、体は生きようとしているんだって、こんな小さな子どもに気づかされて、アニスだって親とおにいちゃん失くしてるのに」

 うつむくノラにサークラが答える。

「ノラ、ノラの悲しみはノラだけのもよ?似た経験はしたかもしれないけれどノラの悲しみ、私の悲しみ、死んだ母さんやモーラの悲しみは全部別のものそれぞれのもつ痛みよ?でも私には護るものがまだいっぱいあるの、可愛い妹たち、それに生き残ったノラやエッラもアンナさんやキスカさんも、みんな私の家族だよ、だから、私に貴女のことも支えさせて?そして私のことを支えてほしい。」


 支離滅裂なサークラの説得。

 その瞳は何を汲み取ったのか、ノラは少し黙ってサークラを見返してから小さくうなずいた。

 それからすっかり冷めてしまった麦粥を涙で赤くなったままの目でもそもそと食べた。


 食事後移動を再開したボク達は、夜24時直前、日が代わる前にホーリーウッド市に到着した。


アニスはたまにとんでもないことをやっていきます。さすがはアイラの妹です。

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