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第10話:暗夜

本当は10話で一区切りの予定でしたが眠たいので11話にします。間に合いませんでした。


 こんにちは、暁改めアイラです。

 ウェリントンでは昨日から続けての、冬の間の保存食の確保中。

 といっても冬だからと食料がまったく取れなくなるわけじゃなく、今がまさにその冬なのだけれど

 悪天候で食料の補給がおぼつかなくなったときのための保険の様なものだね。

 とにかく、今をガンバれば、後は温かい春を待つばかりなのだから

 ボク達はただ、前を向いていよう、まだ子どもだしね。


 策士キスカの手によってボクは母の母乳の味を覚えているという秘密を暴かれてしまった。

 今子どもじゃなかったら村を出ていたね。

 キスカと分かれて、次の目的地へ


 教会にたどり着くと、アンナが農作業をしていた。

「アンナ姉さん、こんにちは」

 律儀なアンナは手を止めてこちらを向いてくれる。

「こんにちは、アイラ今日は学習室によっていくの?アルンとノヴァリスだけが毎日着てるわよ?」

 

「そうなんですか?じゃあちょっとよらせてもらおうかな、でもその前に、アンナお姉さんはなにかお手伝いすることはありませんか?」

「うーんココは手が足りてるから、神父様の様子をちょこっとだけ見てあげてくれないかな?お水いりませんか?お腹すいてませんか?お昼は1時間後です。くらいでいいからさ」

「はーいじゃあまた後で」


 教会の左手のドアに入ると部屋が3つあるそのうちのひとつが村にたった一人の神父マディソン・スクエアの部屋だ。

 一昨年くらいからボケ始めてしまって、たまに意識がはっきりしているときもあるのだけれど、今日はどうかな?


 ドアをノックすると中からどうぞと声がしたので入室する

「こんにちは神父様」

「おや、よくきたねアンナ・・・・」

 そういって頭をなでてくださる神父様、今日はダメだったみたいだ。

「ボクはアイラですよ神父様、喉が渇いたり、お腹すいたりしてませんか?」


「あぁ、そうだねアンナ君のご飯を作ってあげないとね。」

 そういって立ち上がろうとする神父様だけど、もう独力では立ち上がれないほど弱っている。

「あれ・・・おかしいな・・・上手く体が動きませんね。」

「神父様はお疲れなのですから、ゆっくり休まれてくださいお昼ご飯は1時間後だそうですよ。」


「おや、アイラさんそれを伝えに来てくださったのですか?ありがとうございます。」

 すこし意識がはっきりしてきた様だ。

「神父様お水は今いらないですか?」


「んーちょっと喉が渇いたかもしれない、お水と塩玉をもらえるかな?」

 塩玉は簡単な解毒や、風邪を引いたときに舐める飴玉で塩と砂糖、少量の果汁でできている。

「どうぞ」

 水は結露のひしゃくで出し、戸棚から塩玉を出す。


「ありがとうアイラさん、君は優しいねぇ・・・、でも気遣いばかりじゃなく友達と元気に遊ぶのも子どもの仕事なのだから、もう行きなさい。」

 そういって笑う神父様は本当に子どもが好きなのだろう。

「それではまた」

 ボクは神父様の部屋を出た。

 

 こんなお年で、ウェリントンにやってきたときももう結構な年だったろうに、彼の様な優しい方が一人で赴任してきたのは何でなんだろうか。

 理由とかあるかもしれないけれど、アンナが教会に住み込まなければ彼はずっと一人で教会で過ごしていたんだろうか?

 まぁ気にしても詮無いことか。


 逆側の部屋に入るとアルンとノヴァリスが勉強していた。

「こんにちは、アルン、ノヴァリス、モーラもいたんだね?」

 ドアから死角になる位置でモーラが一緒に勉強している。

「あら?こんにちはアイラさん、貴方もお勉強?」

 アルンはボクの様な子ども相手でも丁寧な明るい口調で話しかけてくれる。

「いいえ、誰かいないかなって見にきただけです。」


 するとノヴァリスが助けを求めてくる。

「そうだよねアイラー、勉強なんてかったるいからやってられないよねー?」

「バカ言わないの、あんた頭スカスカなんだからちょっとは詰め込んどかないと、それにアイラさんは今の時点でこの村の子どもの中でサークラさんの次に賢いわよ?」

 アルンがペンでノヴァリスを小突く、その間もモーラは勉強している。


「アルンとモーラはがんばってお勉強してるんですね。」

 モーラはもうちょっとノヴァリス寄りだとおもってたよ。

「そうですね、私は来年はホーリーウッドの職人学校に入りたいんですよ。そのためにも勉強をがんばって、基礎教育試験を受けないといけないですから。」


 基礎教育試験っていうのは、地方出身者が都市の学校卒業と同程度の学識があるかどうかを試験するもので、コレに合格するか、一芸で認められないと地方出身者は職人学校に入ることができない。

「アタシも似た様なものかな?ウェリントンにもっといい船を持ち込みたいんだよね。ホーリーウッドとは川がつながってないし運ぶの大変だからじゃあ自分でつくっちゃうかって」


「あれ?もしかして将来のこと考えてないのって私だけ!?」

 ノヴァリスが危機感を抱いた様で、その赤毛頭を両手で抱える。

「そうよ?だからあんたもしっかり勉強なさい、今しか私はみてあげられないんだから。来年は自分のことで手一杯だろうからねぇ、あんた最悪アイラさんにお勉強教えてもらうことになるわよ?」

「それはイヤー!」

「じゃあ手を動かす!!」


 お勉強ならあまり邪魔しても悪いかな?

「モーラ、ノラたちはうちで妹たちと遊んでるから。帰る時間になったらお迎えに着てね、アルンたちはお勉強がんばってね。」

「ありがとうアイラさん、気をつけて帰ってね」

「アイラ、4時くらいになったら行くからって伝えておいて。」

「良いですよ、じゃあまた」


 部屋から出るとまだ中からワイワイと声がする。ノヴァリスは大丈夫かな?

 まぁなるようにしかならないか、後どこ行こうかな?

 

 一通り歩き回ってそろそろ家に帰ろうかなと帰路に着く、自宅近くの広場に差し掛かった辺りで大人が何人か騒いでいるのを見かけた。

 近くにピピンがいたのでちょっと聞いてみよう。


「こんにちはピピン」

「あ、あぁアイラ、こんにちは」

 少し挙動不審のピピン、声が上擦っている。

「何か騒がしいみたいだけど、何かあったの?」

「あぁうん、何かトーティスが見当たらないらしいんだ。」


 トーティスは村一番の慎重派で、腕も立つ頼りになる男だ。

 アンナに惚れていて、いつも狩りの成果で一番美味しいものをアンナにささげているけれど、まったく気づかれない不憫な男でもある。


「トーティスは今日も狩りだったよね?彼が夢中になって帰ってこないってことは考えにくいから、どこかで怪我でもして・・・・?」

「かも知れないけどちょっと状況がわからないから、今から捜索隊を出すんだってさ」

「そっか・・・」


 結局、日没まで捜索してもトーティスは見つからず。捜索は一時打ち切りとなった。

 ただトーティスが未知の魔物に襲われた可能性も考慮して村の入り口には警備兵が置かれた。

 20時になるともう眠気がピークだったので、トーティスのことは心配だったけれど、ボク達は不安を抱えたままで就寝した。



 目が醒めた、尿意はないし、別に喉も渇いていない、同じベッドで寝ているアイリスやアニスが世界地図を描いているわけでもない。

 なのにどうしてこんなに気持ちが昂ぶるのだろう・・・。

 こんなの暁が死んだ夜以来かも知れない。


 ボク達の寝室には窓が一箇所あって、そこは村の外の森の方向に向いている。

 その森に火の赤が移りこんでいる。

 村が、燃えている。

 

 何者かの襲撃か、火災か?先に襲撃が思い浮かんだからにはおそらく襲撃だろう。

「・・・アイリス、アニス起きて?」

 この部屋には現在ダブルサイズのベッドがひとつだけ置かれている。

 体の小さなボク達はこのベッドに真横の方向に3人並んで寝ている。


「むにゅ・・・まだおひっこないよぉぅ?」

「おねーちゃ?なぁに?」

 アイリスはかなり寝ぼけている、アニスはまぁ少しぼんやりしてるけど、だいじょうぶそう。


「二人ともすぐに上着を着て、靴下を履いて、逃げるか隠れるか考えないといけない」

 そういいながら2人の着替えを用意して手渡し、自分も身支度をする。

 払暁も持った。

 

 家の中からも物音がする。ちょっと急いだほうが良いかも

「アイリス、アニスをつれて暖炉の地下室へ」

「アイラ?どうしたの」

「わからないけど、とりあえず隠れる」

 暖炉の脇まで移動したあたりで部屋のドアが乱暴に開かれた。


「!!」

 ドアを開けたのはハンナ母さんだった、サークラも一緒だ。

「アイラ・・・持つべきは賢い娘ね、貴女とサークラがいてよかった。そのまま暖炉に入りなさい、明日の朝になるまで絶対にそこから出てはいけません。」

 やはり襲撃だった様だ。

「母さんたちは?」 


 首を横に振る母。

「母さんもサークラも姿を見られました。今はトーレスが必死に時間を稼いでいますが、私たちが貴方たちと一緒に隠れるわけにはいかないの」

「アイラ姉さんたちは、窓から逃げるからあなたたちは絶対に暖炉からでてはダメよ。絶対に生き延びて。」


「でもそれじゃあ二人は・・・・」

 アイリスが母に口をふさがれる。

「もうお別れをする時間もないのアイラ、貴女のなすべきことは、妹をなんとしてでもまもることよ。」

「貴女たちが隠れるのを見届けたら母さんたちも逃げます。貴方たちが生き残らなければ、私は生き延びる意味もないのだから。」

 母に背中を押され暖炉に入る。

 キスもしてくれなかった。それだけ状況は悪いということだ。


 暖炉の中に入ると黒い壁に一箇所だけ黒幕が張ってあってその奥に入ることができる。

 そこに隠し階段があってこの家が建てられる前からそこにあった空洞につながっているのだ。

 子どものころは隠れて泣くのに使っていたが、本来はいざというときのためのシェルターだ。

 まさか本当に使うことになるとは思っていなかったが


 3畳ほどのスペースで天井は1m40cmほどで大人でもしゃがめば入ることができる程度には広い

 そこに3人で身を寄せ合って隠れた。

 地下空洞には扉も敷設してあって普段はあけているけれどこういうときには閉じられる様になっている。

 本当なら火事のときに煙が入ってこない様にするためのものだけどね。

 

 なるべく声を出さない様にして2人を抱きこんで座っている。

 アニスはどこか遠い目をしていて何を考えているかわからない。

 アイリスはようやく状況が飲み込めてきたのか青い顔で何で何で・・・?とつぶやいている。

 真っ暗じゃなくってよかった。

 こんな狭いところで真っ暗だったらきっともっと心細かったろう。

 生活魔法道具の小さな明かり一つがこんなにも心強いとは・・・。


 どれくらいたったのだろうか?

 さっきから上で少し物音がしている。

 気配は読めないが、誰かいるのは確実だ。


 賊の人数はわからないけれどさすがにこの家一軒に10人とかは着ていないと思う。

 せいぜい3~4人なのではないか?それくらいならば何とかできるのではないか?

 そんな無謀が頭に浮かぶ。

「ママ・・・パパ・・・」

 アイリスの不安げな声が耳に届く。

 

 そうだ、ココで僕らだけ生き残っても6歳前2人と3歳前が1人でみんな女の子、一体どうやって暮らしていくというのか

 ボクは無謀と思いつつも覚悟を決める、せめて母と姉だけでも助けられないかと


「アイリス、アニス、よく聞いて。今からおねえちゃんチョット様子をみてくるから絶対にココから出てはだめだよ?お姉ちゃんが戻ってくるまでココから動かないで、声も小さくして、待っててね?絶対戻ってくるから。」

 そう告げたとたん今までずっとおとなしくしていたアニスが突然ボクの胸倉を掴んだ。そして今まで聴いたことないくらいはっきりした発音でボクに捲くし立てた

「だめだよ!お姉ちゃん、ママが行ったでしょ、絶対にでてくるなって、行かないで・・・お姉ちゃんが死んじゃうよ・・・」


『死』

 その言葉は単純に恐怖だ。

 一度経験したこととはいえココで今、この幼い妹を残して死んでしまえば・・・・それでもそう考えても今行かない選択肢はなかった。

 

「ごめんねアニス、お姉ちゃん絶対に大丈夫だから、今までお姉ちゃんがアニスにうそついたことないでしょ?」

「そうだけど、でも!」

 アニスが頭を振って泣く、その目はボクの死を確信している。


「アイリス、アニスをお願いね・・・」

 無理やりにアニスの手を引き剥がしたボクは、扉に手をかける、手をかけるとアニスは声を小さくした。

 どこまでわかってるんだか・・・・賢い子だ。

 それでもアニスは小さな声ですすり泣いている。


「うぅ・・・・こんなじゃダメなのに・・・。」

「アイラ、絶対に帰ってきてね?」

「うん」


 短く会話して扉を閉じる。


 さて・・・上にいこうか。

 子ども部屋の近く、暖炉の暗幕まで行くと部屋の中の声が少し拾えた。

 まぁ階段の途中でも少し聞こえていたし、賊が母や姉の様な美人に何をするかは大体わかっていたけれど。

(胸糞悪い)


 賊の気配は・・・3人だね

 窓が割れているのは丁度逃げ出そうとしたというのを演出するためなのだろうか。

 目の前で近しいものが乱暴されているのはボクの心の均衡を大きく乱した。

 目に映るものは見えている。

 母が床で男1人と、姉がさきほどまでぼくたちが寝ていたベッドで2人がかりで乱暴されている。

 

 その映像で頭がショートしそうだった。音なんてなにも拾えていなかった、ただこの後どうやって2人を助けるのが正しいのかを数秒考えてしまった。

 そしてサークラの叫びを聞く。


「イヤアァァァァァァァ!!お母さん!お母さん!!」

 現実に戻される、音が、視界がクリアになる。

「あぁーあ首が折れちまった、ちょっと加減間違っちまったわ。」

「おいおいもったいねぇな、結構美人だったのによ」

「しかしこの家はあたりだったな、そっちも美人だったけど、こっちの娘なんか、帝都で買えば一晩で10万ヤークくらい飛ぶぜ?」

「なぁこっち死んじまったからよぅそっちまぜてくれや。」

 

 なんだこいつら・・・・何話してるんだ?


「ちょっとまてよ、こいつ上玉だけどよさっきまで生娘だったもんだからヘッタクソでよ・・・てかいつまで泣いてるんだよ、さっさと咥えろつってんだよ。」

 サークラの前側にいた男がサークラの頭を掴み自分のほうへ動かすが、すすり泣くサークラは口を閉じていたため男を苛立たせた様だ。

「おいさっさとしろよ?後が使えてんだよ!!」

 男がサークラの鼻をつまみ無理やり口をあけさせようとする。


 瞬間母の首を手折った巨漢の頭部が吹き飛んだ・・・・。


 あれ?今何が起きたんだっけ?

 とボクの頭はまだ理解できていないけれど、ボクの体は動いている。

 払暁に光が奔る、体は加速して思考も加速しているけれど、倍率があっていないようだ。

 体に軽い衝撃があり、直後に理解する、あぁ今度はサークラの処女を奪ったやつの首を跳ね飛ばした。

 

(ごめんねサークラ、君の初めての人、ボクが殺しちゃったよ?)

 次はサークラの頭に・・・

 体に衝撃が走る。

「ガゥッ!!」

 何だ・・・?何がおきた・・・?全身にひどい痛み、あれ・・・?何で?

 ボクの思考も体も加速が徐々に解除されていく、なぜか部屋の端っこの壁沿いにボクは震える足で払暁を杖代わりに立ち上がろうとしていた。

 太ももを熱い液体が伝う・・・口からも何かが出てる、ズキンズキンと胸が痛むのは骨が折れているのだろうか?

 さっきまでサークラの頭を掴んでいた男がゆっくりこっちに近づいているのが見えて。

 ボクの意識は失われた。


 

ガゥッ はアイラの呻き声です。可愛くない台詞ですが、可愛い声で出てると信じてます。

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