第163話:7つ目の場所
こんにちは、暁改めアイラです。
オルセーから、イシュタルトの建国神話についての情報を聞いたボクたちは、その内容に少し暗い気持ちになった。
疑問はいくつか解消されたものの、またいくつかは増えた。
ひとまずメインの話題であった山岳都市と角笛については、例の女性があのメッセージを仕込んだ頃にはまだ角笛に魔剣が刺さっていて、なおかつすでにサテュロス族が街を作っていたのに、その後どこかの世代で魔剣は抜き放たれて平地の都市になっていた。
それからバフォメットの事件のあと再び魔剣が戻されたことで現在の角笛の状況に至る・・・と
オルセーの説明では、魔剣は新たな亜人を生み出す環境を作るための装置でもあったはずなのに、どうしてすでに都市のあるホルンだったのか、もしかしたら、あの女性がメッセージを仕掛けたのは装置のセットと同じタイミングではないのかもしれない?
なんて推測くらいしかできないけれど、とにかく現在最後の魔剣があるのは悪魔の角笛であることは間違いないのだから、ボクたちはあの自然の要害を攻略しなくてはならないのだ。
「ジーク、今のところ、『角笛』の場所は見つかってないんですよね?」
念のための現状確認
「うむ、外縁と山道沿いは何度か捜索させておるが、成果は出ておらんな、それらしい遺跡や洞窟なんかは発見できないままだ。もしかすると、山道の表側には出ておらんのかもしれぬ」
やはり以前と変わりなく角笛のダンジョン入り口はいまだ発見できていない様だ。
悪魔の角笛は、サテュロス大陸最大の山脈で、その形状はホーリーウッド領の東よりの場所をザクセンフィールドの南を避ける様に湾曲した形になっている。
山脈の中央を二つに割る様にU字谷が走っておりその切り立った谷沿いにへばりつく様に山道が整備されていて、山道付近はすべて魔物が狩りつくされているし、治安維持のための兵が常に何箇所かの拠点に駐屯している。
馬車ごと野宿するための広場も設けられていて、峻険な地形であるにもかかわらず、交通の要衝となっている。
「一応はな、検討はつけて居るのだ。山道でないほう・・・南東側の結界の外側に離れた山があるだろう?」
確かに弓のような南東に向けて開けた弧を描いた山脈に、やや包まれる様にして4つの峰を持つ連峰が存在している。
「そっちの山との間の谷にシカ型、イノシシ型、ヒツジ型の魔物が群生している地域があってな。その付近の調査が思うように進んでおらんのだが、同じく山の上のほうにヤギ型とイノシシ型魔物がおってそちらも調査が進んでおらん、あそこを調査するなら小数の兵ではなく大規模な動員をせねばならん。」
角笛の山道の魔物は狩りつくされているときいていたけれど、まだ魔物のいる山も残っているのでそちらにダンジョン入り口がある可能性はある。
「ではやはり、派兵をせねばならない様ですね。」
サリィがお茶を置きながらつぶやく、前回のアスタリ湖攻略では被害らしい被害を出すことなく攻略に成功したが、今回はさらに困難な可能性がある。
まず魔物が大型のものが多い、ヤギ型とイノシシ型を含んでいる。
ヤギの魔物は悪路に強く厄介だ
正直山で出会えば動物のヤギやイノシシでも厄介なのに、それが魔力強化をしているものだというのだからその厄介さは、どれほどのものになるのか。
そして拠点を築くための平たい場所が少ない山地だ。
最悪キャンプを分けたりする必要があるが、そうするとどうしても警備の手間が大きくなる。
(山脈の内部の地形だから攻略が難しい・・・)
「ねぇ・・・さっきから何の話をしてるの?」
オルセーが不思議そうな表情で難しい顔を突き合わせていたボクたちに質問した。
「なにって、悪魔の角笛のダンジョンがどこにあるか確認するための話し合いだよ?」
それを聴いてオルセーはお茶を飲んで、再開したボクたちのあーでもないこーでもないをしばらく見守ってから唐突に言った。
「魔剣のある場所なら知ってるよ?」
「「え?」」
ほとんどの人の声が重なり、それがなんとなくツボだったらしいプリムラとサクヤが珍しく大きな声を上げて笑っている。
「ねぇオルセー?本当に場所を知ってるの?」
信じられない様子でユーリがオルセーにたずね、オルセーは首肯する。
「言ったでしょ?ドラグーンたちはずっと鍵のことを観測してるって。だから場所はわかるよ?」
「だったらどうしてすぐに教えてくれなかったの?」
エッラはいつの間にかヴァニラにおっぱいをやりながらオルセーにたずねる。
(ってもうそんな時間か。)
「最初は、何を探してるってわからなかったのと、あと、観測が役目だからあまり干渉しちゃダメみたいなんだよね。だから大丈夫そうかな?って考えてたの」
「そっか・・・じゃあ場所の件は解決したとして、出兵して前回同様、安全重視で攻略かな?」
「オルセーは攻略の時一緒についてきてくれるの?」
ユーリが頷きエッラが尋ねる。
「攻略自体には手を貸せないけれど、場所の目星は教えられるよ、あとは魔物から拠点の人たちを守ることはできるかな?」
「その2つだけでも十分ありがたいねありがとうオルセー」
そういってボクが笑うとオルセーは照れ笑いを浮かべていった。
「そりゃあたしのファーストキッスのアイラの為になるならちょっとくらい手伝うよ、それよりおちびちゃんたちがヴァニラのことうらやましそうにしてるし、そろそろお昼にしない?」
と爆弾を投下しつつ締めくくった。
今がお昼です。朝ごはん7時だったのに、ひどいや・・・。
題を決めて書いたらオルセーのせいですごく短くなりました。