第161話:龍の脅威
おはようございます、暁改めアイラです。
偶発的な攻略もあったけれど、魔剣回収も残すところ一つとなり、ボクたちホーリーウッドの新しい世代も立て続けに誕生し明るいニュースが続いている。
今回ボクたちはイシュタルト家の鑑定スキルを目当てに王都クラウディア、その王城へとやってきていた。
サリィの執務室の隣の応接室に集まり和気藹藹としていたボクたちだったけれど、その一枚の紙を前にしては声も出ず。
ただ子どもたちのはしゃぎ声だけが、時間が止まったわけではないのだと教えてくれていた。
大人たちは誰一人とて、声が出せず。
問題のステータス表を眺めていた。
オルセー・グランデ F9ヒト・ドラゴニュート/
生命36205魔法98意思229筋力173器用27敏捷97反応102把握42抵抗79
適性職業/竜戦士 観測者 守護者
技能/竜咆哮 尾剣術9 精神汚染耐性8 毒耐性8 自然治癒力7 忍従5 水上歩行5 掘削5 分析5
魔術/身体強化魔法上級 地魔法上級 風魔法中級 火魔法中級 水魔法下級 治癒魔法下級 浄血魔法下級 解毒魔法下級 雷魔法下級
特殊/竜化 人化 半竜化 切断強化 龍鱗化 龍王の加護 盟約
なんというか、いくつか疑問もあるけれどまずは聴いておこう
「オルセー、ナタリィは人の姿では力を存分に振るえなかったり、龍の姿では言葉を発せないっていっていたけれどキミは人の姿のままでも戦えるってこと?」
ボクの問いかけにオルセーはいつものままのにこやかな表情で
「うん、ドラグーンは祝福されてないから、龍の島の外だと人化しているときはヒトと同等の力しか引き出せないんだって、その代わりドラグーンの力はすごく強いからほとんどの場合ドラゴニュートが10人がかりでも勝てないんだってさ」
と、恐ろしい回答をくれた。
「オルセーお嬢ちゃんと同じ位強いドラゴニュートが束でかかっても勝てないほどにドラグーンの力は隔絶しておるということか?」
もしそうなら、ドラグーンの力はどれほどまでに強大なのか、彼らが気まぐれに力を振るうだけでどれだけの人が死ぬのか・・・想像するだけで恐ろしい。
「あたしはナタリィの始めて生んだドラゴニュートだから、特別力が強いの。一般のドラゴニュートの戦士は私の10分の1くらいの生命力しかないし、ドラグーンも普通は私の5分の1くらいだってナタリーがいってた。」
安心・・・していいのかな?それでもばかげた数値だけれど、、ボクの知り合いで生命力が高いのは、トレントのリスティで5000ちょっと、あとはサルファー先輩やジャン先輩が卒業時2000弱、エッラが2200くらい・・・エッラはすごいね?
普通ヒト族の女の子は300いけば高いほうだというのに。
ちなみにボクの生命力は300台後半に到達している。
体はやや小柄だけれども伊達に修羅場をくぐってきたわけではないのだ。
それはそれとして・・・。
「ばかげた数値をしているねぇ、オルセーとケンカしたらボク絶対勝てないじゃない。」
「そんなことないよ?ナタリィから聴いてるけど、アイラって5歳の時にナタリィと戦って腕半分くらい切断したんでしょ?一応普通に斬られても平気な程度に魔力強化してたのに切断されたから内心気が気じゃなかったってナタリィ言ってたもの」
そういえばそんなこともあったか・・・って
(あ、これやばいネタだ。)
「アイラ、どういうことだ。幼少期にドラグーンとであったことは聞いていたが、戦ったとは聞いていないぞ?」
せっかく当事者がボクとアニスしかいないために今までうまく隠していた部分をオルセーがばらしてしまった・・・。
仕方ないので当時の顛末を話す。
聞かれてまずい人もいないしね・・・。
「アイラ・・・」
ユーリがあきれた様につぶやく、彼はボクが転生者だと知っているからただあきれるだけで済むけれど。
「無茶苦茶な娘だとは思っていたがここまでとは・・・。」
ジークが頭を抱えてつぶやき、他のみんなも似た様な反応、龍を見て殺しにかかる5歳というのはやはりおかしいらしい。
「たぶん、ボクの持っている光輝剣がその当時も発動していたんだと思います。」
実感は当時なかったが、魔力強化までしていたナタリィの腕が斬れたのだから、おそらく無意識に光弾が発動していた可能性がある。
そうでなければいくら加速と剣術があったとしても、魔力強化されたものをアイラの子どもの腕で中ほどまでとはいえ切断はできなかっただろう。
思えば、ウェリントン襲撃の際も光弾を2つだけ使うことができたのは、感情が昂ぶったことで、無意識にできたものだった。
あの時も、トーレスを死なせたくないために、感情が昂ぶっていたからできていたのかもしれない。
「でも、無事でよかったです。」
サリィが短くつぶやくとみな納得した様にうなづく、過去よりも未来のことだ。
「少なくともドラグーンたちは、今後もヒトと敵対はしないということで間違いはないのだな?」
「うん、少なくともこの1万年で一度もそういったことはなくて、ただ鍵と魔王の観測しかしてこなかったみたいだから、これからも問題ないと思うよ?」
ジークの問いにオルセーは応える。
「そもそもその鍵と魔王の観測というのはなんなのだ?」
「鍵はイシュタルとの神話で魔剣って呼んでたもののこと、神話だとネクレスコラプスの体の部位が変化したものってなってるよね?本当はなにか違うらしくって、鍵の周りの地形が切り立った山岳だったり、広い湿地帯だったり特殊な環境に変化して、それによって魔物や亜人が適応することを目的に設置された道具みたいなことを聞いてるけれど、あたしもよくわからなくって・・・ただドラゴニュートはドラグーンが六聖と交わした盟約の影響下にあるから見ればわかる様にはなってるんだって」
そういってオルセーは席を立つと、少し離れたところにボクが置いたベッドの上でごろごろとしている子どもたちの方に歩いていって。
リリの後ろから目を手で覆って「だーれだ!?」
と、遊び始めた。
「オルセーは、鍵と魔王と他には何がわかるの?」
ボクは次いで浮かんだ質問をしてみる。
「鍵と魔王になってるかどうかと、勇者かどうかくらいならわかるよ?」
オルセーに聞いた話を整理すると魔王は、鍵の影響で変化、発生する存在で、新しい亜人種を導く者となるものだったはず・・・。
そして勇者は、魔剣の影響を受けずに所有することができると・・・。
無論魔剣で攻撃されれば死ぬけれど。
(結局魔剣に関することだけわかるってことだよね?それならドラグーンたちの盟約の役割はなんなのだろう?魔剣の所在を把握しているのに、ただ観測しているということは、魔剣の確保や安置が目的ではないということだ)
確保が目的なら自分たちで回収しておけば良い、そこに安置させておくこと、地形を維持し継続して魔王や新しい亜人の誕生を見守るのが目的なら魔剣が奪われない様にドラグーンか強力なドラゴニュートが守っていれば、人は魔剣を持ち出せないはずだ。
「オルセー、ドラグーンたちが魔剣を見守る目的はなんなの?」
「それは盟約だからってことしかあたしにはわからない、デュラン様やナタリィ、それかナタリィのお兄さんたちならわかるかもしれないけれど、あたしは魔剣の場所もこのサテュロスの地図に載ってる分しか教えてもらってないしただ鍵の回収と大陸の開放は望む展開らしいから問題ないと思うよ。」
そういってオルセーが小さな袋から地図を一枚取り出した。
アレ?
「オルセー、それって収納魔法?」
エッラがオルセーにたずねる。
確かに今オルセーが取り出した地図は4つ折りにされていただけのそれなりに大きなものだった。
明らかにその袋の大きさでは地図は入らない。
「あ・・・。」
あ?
「ナンデモナイヨ?キニシチャダメダヨ?」
ごまかすだけれどオルセー、目が泳いでいる。
「あぁ龍の島の道具なのかな?地上の人には見せちゃだめなやつだったりする?」
「う!?うぅ・・・絶対ダメというわけではないけれど、見られないようにしなさいねってナタリィから言われたやつだった・・・。」
オルセーはションボリとした表情になって、リリを開放して戻ってきた。
それを聞いたみんなは空気が読める大人なのでそれ以上その袋に関する追及はしなかった。
「ところでここに今魔剣が6本あるわけですが、困ったことがおきていますね?」
とクレアが次の議題を提示した。
「ちょうど地図もありますし確認いたしましょうか?」
サリィが、オルセーが取り出した、おそらくは今イシュタルトやホーリーウッドが持っているのよりも正確なサテュロス大陸周辺の地図を広げながら言葉をつなぐ。
「オルセーさん、貴方が龍の島で教えられていた魔鍵の安置場所はどちらでしたっけ?」
クレアがオルセーにたずねると、オルセーは地図を一箇所一箇所指で示しながら。
「ウェリントン南部の湖、ヘルワール火山、古代樹の森、アスタリ湖、紅砂の砂漠、水晶谷、悪魔の角笛、島国マイヒャンの聖峰フゲン・・・8箇所だね?」
オルセーは気分を切り替えたのか明るく答える。
「そうですね、8箇所ですね。それに対して、例の謎の女性の遺した暗号をカグラさんが解析した結果と示し合わせると、現場であるアスタリ湖、砂の墓標というのがおそらくは紅砂砂漠とそのダンジョン入り口があった三角錐型の遺跡のことでしょう。水晶谷はそのままですね、火を生む大地がヘルワールで、森のドームがカグラさんが攻略した古代樹の森、亀の楽園がウェリントンの南の湖だったということは想像できます。また別の大陸にも同じ様に鍵と装置はあるという内容でしたので、オルセーさんから伺っていたマイヒャンのモノは距離から考えてセントール大陸のものなのでしょう・・・。問題はオルセーさんのほうには悪魔の角笛が含まれていますが、こちらでは山岳都市となっていることです。」
クレアは山岳都市といいながら、ホーリーウッドとルクセンティアの間、先の大戦の激戦地であったグリム盆地の少し北を指差した。
「そこに町があるんですか?」
ボクはそんなところに町があることを知らない。
「はい、ここにはかつてカプラスというサテュロス族の都市国家がありました。サテュロスで山岳都市といえばそこくらいしかありません」
確かに、そもそもイシュタルトは森と砂漠は多いけれど、大陸北西部以外には目立った山がない、山岳都市と呼べそうな街を作れる様な場所がないのだ。
「カプラスは1000年前くらいにできた小国で、今から350年前くらいに滅んだ国だから例のメッセージの山岳都市とは関係ないと思うよ?」
と、こともなげにオルセーは答える。
あまりにはっきり断言するので、オルセーの皮をかぶった偽者かと疑いかけたくらいだ。
「というと、悪魔の角笛は昔山岳都市だったということですか?」
サリィがたずねる。
「そうだね、あたしが教えられた内容だと、サテュロス族の王国の首都が今の悪魔の角笛の場所にあったってさ」
さらっと、あまりにも唐突に知らされた内容にボクもたぶん他のみんなも驚いた。
「まってください、それってもしかして神話の!?し、失礼しました!」
神話や伝承が大好きなナディアが普段の落ち着きを失って口を出してしまい、真っ赤になってしまった。
「いいよナディアみんな気になったところだから、そんなにかしこまらないで」
すぐにユーリがフォローする。
「えっとーなんだっけ、イシュタルトの建国神話だと、イシュタルト王とルクス王、それからヴェンシン王がサテュロス族の国に発生したバフォメットを倒して、イシュタルトがそこに国を作ったよーってなってるんだっけ?」
本当に気にした様子もなくオルセーは応える。
「なのでこのクラウディアこそがそのサテュロス族の王都の後だったのではないかと思っていたのですが、違うのですか?」
サリィが扇子でクラウディアの位置と、悪魔の角笛の位置を指しながらたずねる。
「そうだねー、どっちもたぶん間違いじゃないよ?認識してるものが違うだけでね?魔神バフォメットの国があったのは確かにここクラウディアだけれど、バフォメットが生まれた王国は悪魔の角笛にあったんだよ。あたしもナタリィたちに教わっただけだけれどね。」
イシュタルトの建国神話を、その史実をオルセーが語り始めた。
龍や竜人がステータス高いのは形式美ですよね、オルセーはアホの子なので器用さが低いですが・・・・
なお竜化してなくってもステータスがあまり下がらないだけで、竜化しているほうが強いです。
次回はちょっとイシュタルとの建国期の話をおじいちゃんの昔話レベルで聴いてきたオルセーの話になります。