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第159話:郷愁

 こんにちは、暁改めアイラです。

 ユーリたちがアスタリ湖の攻略を終えて半月ぶりに帰ってきました。

 攻略自体は災禍なく完了し、ユーリも、探索に参加してない家族たちも無事の帰還を果たした。

 しかし、その攻略において確認された謎の女性による音声メッセージは、神楽とボクの心に大きな波を起こしていた。



 ユーリが、お爺様への報告のためにホーリーウッド城へ向かったあと、ボクは神楽の部屋で二人でベッドに隣り合って腰をかけていた。

 心配をしていなかったとはいえ、無事に神楽が帰ってきてくれてすごくうれしい、神楽もきっとボクと再会したことをきっと喜んでいると思う、それは信じていられる。

 ただそれ以上に今ボクたちの頭の中には謎の女性の残した言葉について、その話した言語について、考えがまとまらないで居た。


「アイラさん、神器って何なんでしょうか?ここは・・・どこなんでしょうか?」

 今ボクたちが神器について持っている情報は少ない、まず呼び名は、イシュタルト王国においては魔剣、ルクス帝国では神器、オルセーが言うにはドラーグーンたちには鍵と呼ばれていて、今回のメッセージでは日ノ本語で装置、7つ集めたら鍵になるといわれた。


「わからないよ・・・ただこの世界は、何らかの形でヒノモトとかかわりがあるか、もしくはまったくの偶然で、ヒノモト語と同じ言語が過去に存在していたことになる。」

 神楽はすごく、なんていって良いのかわからないほどに、落ち込んでいるように見えた。


「もし、この世界の神話の時代より前に、ヒノモトがこの世界にあったとしたらそれって、この世界はずっと未来のチキュウだってことでしょうか?お母さんもアマネお姉様も、クロノお姉様も、リアお姉様テノンお姉様ナッチャンもカナチャンも、セッチャンもみんな・・・もうとっくの昔に死んでいるってことでしょうか?」

 ようやく神楽がすごく不安になっている理由ががわかった

 ボクは姉のことに考えが向かっていなかったが、神楽は姉妹のことに考え至っていた


「カグラ、不安にならないで、少なくとも君は一瞬たりとも意識を失わずにこの世界に迷い込んだ。それってつまり、この世界とボクたちの朱鷺見台は同時に、どこかに存在していたってことだよ。」

 どこか別の世界に愛しい家族が生きているのと、もうとっくに死んでいてどこにも居ないのでは、同じ逢えないでも、意味合いが異なってくる。

 それは9歳で単身こちらにやってきた神楽にはきっと耐えがたい恐怖になるだろう。


「そう、なんでしょうか。今もどこかの世界に私がいたことを覚えている家族が、居るのでしょうか?」

 神楽はそのいつもは強い意思を湛えている瞳に大粒の涙を溜めて、手を握り締めて震わせていた。

 ボクは神楽の涙が頬を伝うのを見て、その震える手を包み込む様に手を重ねて、その頬にキスをした。

 薄い塩味がボクの唇を濡らして、神楽の不安や悲しみをボクに伝える。


「カグラ、カンナ様やコウヤ様たちはクレイドルという世界に転移されたけれど3ヶ月ほどで戻ってこられた。ツバサさんたちもネビウスに迷い込んだけれど、2週間ばかりで帰ってきた。それってやっぱりトキミダイのあったボクたちのチキュウと他の世界は何らかの事象でつながった別世界で、感じあえないほど遠くても、どこかに存在はしてるってことなんだよ」

 だからこの世界もきっと朱鷺見台となんらかの事象でつながっているはずだ・・・。

 だからそんな眼をしないで欲しい。


「キミが、帰りたいというのならば、ボクが何年かかっても必ず、キミが姉妹たちの元に返れるようにして見せる。だから、そんな顔しないで・・・?笑っているカグラが好きなんだ。」

 神楽にとってボクと再会したことがハッピーエンドだなんて自惚れていた自分が恥ずかしくなる。

 ボクとの再会は君を孤独ではなくしたけれど、それで悲しみがすべて癒されたわけでは断じてなかった。

 この星に生まれ育ったたボクと違って、神楽は朱鷺見台で生まれたのだから。

 心残りであったボクのことを確かめた神楽は朱鷺見台に帰してやるべきだったのだ。


「アイラさん・・・?」

 困惑する神楽の顔ももっと見て居たいとは思うけれどベッドの縁に立ち上がってその頭を抱きしめた。

「ボクはカグラのことが好きだよ。」

 勘違いはしないで欲しい、決して君を遠ざけようという意味じゃない、手放したいわけじゃない、それでもボクは、君には帰るべき家が存在することを、思い出してしまった。


「私もアイラさんが、好きです。姿形が変わっても貴方はアキラさんの心を持っている・・・それだけでも、私にとっては貴方を愛する理由になるんです。その上でアイラさん自身のことも私は愛しています。」

 妊娠と授乳期を繰り返すせいでここ数年膨らんだままのボクの胸に顔を埋めて、カグラがポツポツと語る。


「アキラさんとして振舞う貴方が好きです。ありのままに振舞う貴方が好きです。だからどうか、私をそばに居させてください、少なくとも今の私にとって貴方の傍が私の居場所なんです。」

 どうしてこうなってしまったんだろう。

 ボクと神楽の関係は・・・どうしてあのまま朱鷺見台で結ばれることができなかったんだろう。

 どうして、ユーリと結ばれる前に出会えなかったんだろう。

 どうして、こうなってしまったボクを赦し愛してくれているんだろう。


「キミが帰るか残るかは今は決めなくっていい、ただボクはキミに選択肢を提示できる様に努力するから、帰る方法を見つけるから」

 そういって抱いていた頭を離して正面から顔を見つめる

「アイラさん、私帰りたい訳じゃないです。ただ、あっちの家族が私のことを今も探してくれているのなら、私はこっちで元気で暮らしていますって伝えたいんだと思います。」

 ボクを見つめ返す神楽の眼は塗れたままだけれど、今はまたいつもの強い光を宿している。

(やっぱりキミはこうじゃないとね。)


「直接聴いたわけではなかったですけれど、ヒノモト語を聞いたからなんですかね、ちょっと沈んじゃってましたけど、アイラさんのぬくもりで安心できました。たぶんお母さんやお姉様のぬくもり、見たいなものに飢えてたんですかね、もう半年で25歳だって言うのに・・・恥ずかしいです。」

 そういって照れて笑う表情はとても純粋で、暁の守りたかった神楽そのものだ。

 今のボクの体の熱が、少しでも神楽の渇望を満たすことができたのなら、それはとてもうれしいことのはずなのに、ボクも思いがけない日ノ本語に遭遇したからか、焦燥感みたいなもので心の中が埋め尽くされて、喜びを感じる余裕はなかった。



 それから15分ほど経って、しばらくボクの膝枕で甘えていた神楽だけれど

 泣きつかれたのかそのまま眠ってしまい、ボクは子どもたちの部屋に向かった。

 さっきは報告会なんかもあったので軽くなってしまったサクヤとのいちゃいちゃをするためだ。

 ナディアやサリィからいろいろ聴いている。

 赤ちゃん返りとまではいわないけれど、またおっぱいに吸い付くようになったらしいとか、走っていてこけても、泣かずに自分で立ち上がれる様になったとか、両極端な変化をこの短い期間に見せてくれたという。

(ちょっと楽しみだよね・・・。)


 子どもたちが居るはずの部屋にやってきたボクはまずノックをして

「アイラだけど、入っていいかな?」

「はいマスター、どうぞお入りください。」

 とすぐに声が返ってきたので中に入る。


 この部屋はおもちゃのある部屋で、以前はサルビアを生んだ直後のキスカの部屋になっていた部屋だ。

 アクアの部屋と並んで子どもたちを世話する一種の保育室になっている。

 今日の勉強は終わったらしいリコとサルートも合流していた。

 リコは久しぶりに帰ってきたサクヤを抱きかかえてプリムラと3人で積み木で遊んでいる。

 サルートは絵を描いていて、それをリリとマリアナがあばあばいいながら並んでみていた。

 そして部屋の入り口側ではサークラ、キスカ、エッラとナディア、エイラがお茶を飲みながら子どもたちを見ていて、先ほどの声の主であるトリエラは静々とボクの隣にやってくる。


「アイリスは居ないんだ?」

「はい、つわりがおつらいそうでお部屋に戻られてます。クレア様はお庭ですね。」

 トリエラはボクの隣についてうれしそうに耳をピコピコさせた。


「サクちゃん、久しぶりのおねえちゃんたちと遊んで楽しそうだね?」

 サクヤはリコの脚の間でニコニコしながら遊んでいたが

「アーラママ、おーでー、おーでー?」

 ボクが声をかけると呼び始めた。


 可愛い娘においでと呼ばれていかないわけにはいかない

「んー?なぁに?」

「ママはー?」

 相変わらずか細い声で庇護欲を掻き立てる。


「カグラママはねんねのお部屋・・・疲れたんだって・・・。」

 一歳半とのおしゃべりは会話らしいものが成立するけれど、正直聞きなれてないとちゃんとした言葉に聞こえない程度のものだ。


 それでもこちらの伝えたいことの趣旨は理解しているらしくウンウンと頷いたあとサクヤはボクのほうに手を伸ばした。

「マーマー、ママ、うぅぅぅ・・・」

 どうも神楽のところに行きたい様に見える。

 ちょうど午睡にはいい時間かもしれない。


「カグラマーマのところに行きたいの?」

 そういって目線を合わせて尋ねるとサクヤはボクではなくサークラたちのほうを見ながらウンウンと首を振った。

「良し、じゃあカグラママのところに連れてってあげる。」

 そう言うとトリエラが

「マスター、身重なのですから私が抱っこしますよ。」

「あぁ、そっか・・・でも久しぶりのサクヤだし、プリムラのことは今も毎日抱っこしてるから、平気平気、ボクに抱っこさせてよ?」


「それではアイラ様間を取りまして、私もお手伝いするので、サクヤ様の両側から手をつないで・・・というのはいかがですか?」

 ナディアがボクとトリエラに妥協案を提示してきた。


「サクちゃんは歩く元気ある?」

「あぅ」

 小さく首を振るサクヤ、少し眠たくなってきたかな?

 今はまだ楽しさで持ちこたえているけれど。


「よしじゃあちょっと急ごうか、リコおねえちゃんにまた遊んでねーって」

 空気を読んで抱っこを解除したリコにお辞儀をするサクヤ、それを見ていたプリムラが状況を理解する。

「アッアッー、リゥも」

 そういいながら今にもなきそうな声でボクの脚にしがみついてくる。


「プリムラも一緒にお昼寝しにいく?」

 鼻の穴をひくひくとさせながら目もぱっちり開けてウンウンと首を振るプリムラ。

 お猿さんみたいで可愛い。

 いや自分の娘にお猿さんみたい・・・っていうのもちょっとひどい気はするけれど


「あ、ママ、ママリリも、リリも・・・」

 おいていかれると思ったのかリリが半泣きになりながらあわてて立ち上がりこっちに走ってくる。

 結局ボクとナディア二人がかりでサクヤの手をつないで、トリエラがプリムラの、エイラがリリの手をつないで一旦神楽の部屋へ戻り、寝ている神楽の隣にオムツとお昼寝用のスリップに着せ替えたサクヤを寝かせて、リリとプリムラはリリの部屋で寝かせようと移動しようとしたら、サクヤがボクの袖を引っ張って

「アーラママ・・・」

 と甘えた声で引っ張るものだから、ボクも日ノ本語の件で多少故郷を思い出して寂しくなっていたこともあって一緒に寝ることにした。


 収納からベッドを一つ取り出し、隙間ができないように配置。

 神楽との間にサクヤとプリムラ、ボクの外側にリリが横になって、子ども体温が暖かすぎて初夏の4月には暑かったので、はしたないかなと思ったけれどボクも下着のキャミソール姿で薄い布一枚風除けにみんなのお腹にかけてもらって寝ることにした。

 メイド3人も室内でもしものために待機してくれるようになり、ボクは家族のぬくもりや、かすかに聞こえる声を聴きながら、プリムラとサクヤの胸をトントンと叩いて寝かしつけて、やがてボク自身も意識を手放した。

アイラやラピス、アイビス、ヒースたちと神楽とでは朱鷺見台への想いに差異があります。

その差がすぐに何かを生むというわけではありませんが、異世界転生と異世界召喚による自分の居場所の感覚の違いをアイラが感じ始めました。

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