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第158話:調査報告

他者語のほうにアスタリ湖攻略までの話を更新しておりますそちらを見ていただいてからの本編閲覧を前提に書いておりますのでお手数をおかけしますが確認をお願いいたします。

 おはようございます、暁改めアイラです。

 数日前、アスタリ湖の攻略が完了したと連絡が入った。

 すでに観測隊を残してアスタリ湖から本体は撤収をはじめ、ダンジョン内部に作った拠点もすべて退去済みだという。

 そして今日の朝には王都を発つという連絡があったため今日の昼過ぎから夕方には神楽の飛行盾で愛しい人たちが、ホーリーウッドに帰ってくる。



 朝。目が覚めると目の前にはあと60日足らずで3歳になるリリが大の字になって寝ていた。

 かけ布団は蹴脱いでいていかにも子どもらしい寝相の悪さで、ついつい笑ってしまう。

 ボクが体を起こすと、逆側で寝ていたプリムラがボクのおなかの辺りに手を乗せていたみたいで、おきてしまった。

「んー、ぅー」

「おはよープリムラ、今日はパパが帰ってくるよー?うれしいねー?」

 ボクの問いかけには答えないまま、まだ眠たい目をしたプリムラはベッドをパンパンと叩きながら欠伸をした。


 本当はリリもプリムラももう一人寝をさせないといけないし、二人の個室もすでに城内に用意してあるのだけれど。

 ボク自身が6歳直前までアイリスとアニスと3人で、ホーリーウッドにきてからもその二人にユーリやノラ、リウィ、トリエラやサルビアまで加えて頻繁に添い寝をしていたせいか一人寝が寂しい体質になってしまっていて、なかなか二人を手放せないでいる。


 時間を見ると、トリエラたちが来るまでまだ30分ほどもあるけれど、起きた以上は生理現象のこともあるので着替えて起きよう。

 今日は4月1日、ユーリたちが帰ってくる日なので、夕べはパジャマパーティもせずリリたちと早めに寝たのだ。


 とりあえず服を着替えたボクはプリムラをベッドから抱き上げて二人でトイレに向かった。

 リリはもうおむつの中に出ているみたいなので、満足するまで寝かせておくことにした。


 いつもの用に帰り道はプリムラの手をつないで一緒に歩きながら戻っていると、ボクの部屋の中から泣き声が聞こえた。

 部屋からもれるくらいの声ということはかなりの大泣きだ。

「リリ!?」

 あわててプリムラを抱き上げて部屋に飛び込むと、ベッドの上で泣いていたリリがこちらに気づいて両手を広げて泣き叫ぶ。

「ママァ~!リリちゃんなんでぇおいていくのー!ねー!」


 顔が涙と鼻水でぐちょぐちょだ。

「おーごめんリリ、ちょっとプリムラとおトイレ行ってたんだよー」

 朝起きたら誰もいなくってびっくりしたのか、それとも何か悪い夢でもみたかな?

 プリムラの靴を脱がせて部屋の中に下ろしてすぐにリリのほうに向かうリリは抱っこを要求しているので両脇の下に手を入れて抱き上げて胸元に寄せると、全身でしがみついてくる。

 すぐに大泣きはやめたもののまだグジュグジュいっていて、少しかわいそうに思えてくる。

 しかしこんなでは一人寝はまだ先になりそうだ。

 それからトリエラとエイラがきたので二人にプリムラの世話と着替えを任せてリリとトイレにトンボ返りした。



 それからボクの服と配色の近いワンピースを着せてようやく機嫌を取り戻したリリと朝食に向かう前に、今日の予定についてお話しする。

「リリ、プリムラ、今日パパ帰ってくるよ?うれしいね?」

 柔らかな絨毯の上でプリムラを抱きかかえるようにして座り込むリリに問いかける。

「リリちゃんうれしー、リムちゃんもうれしいねー?」

 リリは自分の股の間に座らせたプリムラの顔を覗き込みながら嬉しそうに声を弾ませた。

 けれど、プリムラはボクとリリがトイレに行っている間に遊び始めた毛糸の鞠球に夢中で、今はうっかり手からこぼしてしまったそれを追いかけたいのにリリに羽交い絞めにされている状態・・・。

「あーぅ、やーぁ・・・」

 不機嫌そうな声を漏らすばかりで、リリはちゃんと応えてくれないプリムラに苛立ちを覚えたのかより強く羽交い絞めにしながら言葉を続ける。

「ねぇーリムちゃんもうれしいね?」


 もうすぐ鞠に手が届きそうだったのに再び引き寄せられ羽交い絞めにされたプリムラは怒ってリリの腕の中で暴れ始める。

「リムちゃんいーこして!」

「んー!ぅーママー」

 もがくプリムラのひじがリリのおなかに何回か当たりリリは羽交い絞めをさらに強くする。

「ママ、リムちゃんがね!リムちゃんがね!」

 ちょっと収集がつかなくなってきたので鞠をプリムラに手渡してやり、その上でリリからプリムラを引き剥がして抱きかかえた。


「リリ、おねえちゃんなんだからプリムラが嫌がることはしないの。」

 そういいながらもう一度正面にプリムラを下ろす。

「もう一回お顔見ながらお話してごらん」

 そういってやるとしかられたことに気分を害するでもなくリリはプリムラの顔を見る。

 プリムラは正面から見られたことでリリの言葉が自分に向けられたものだと理解できたのか、今度はリリの問いかけに頷いて返した。



 朝食後、ユーリたちをお迎えするのにおめかしをしようということになった。

 ボクも普段は髪型なんて後ろで二つお下げにするか、下ろしたままにするか位だけれど。

 せっかくなので久しぶりにおめかしをすることにした。


「アイラの髪を弄らせてもらうのなんて何年ぶりかしら?」

 ボクの髪を梳いてくれるのはサークラ。

 ホーリーウッドに戻ってからはまた以前のようにボクの世話を焼きたがる姉。

 ただ普段はギリアム義父様のお仕事に随行したり、ガイたちの相手もしているので、なかなかボクやアイリスに構う余裕もないが、今日は上の子たちは学校に出ているし、リコとサルートはお勉強中なのでサークラがボクとアイリスの髪を弄るのに名乗りを上げたのだ。


「ボクはほら、よく動くから髪とかやってもらってもすぐぐちゃぐちゃになっちゃうし」

 久々にサークラに髪を触られるのだけれど、妙に気持ちいい。

 ナディアやトリエラ、エイラに梳いてもらうほうが技術は上のはずなのに、まるでこうしているのが当然と思える様な安心感がある。


「私はたまにやってもらってるもんねー?」

 と隣に座っているアイリスがちょっと自慢げにサークラと笑顔で「ねー」とシンクロする。

「エッラの髪もだいぶ伸びたわよね、前は前髪で顔を隠す様にしていたのに美人な顔がよく見える様になってる。」

 キスカはエッラの髪を弄っている。

 エッラは軍官学校に行く頃から顔を隠さなくなり、後ろ髪は肩甲骨の辺りまで伸ばす様になった。


 性格もメイドらしいものを経て凛とした強い女性のものへと変わった。

 今のエッラは孤独な身の上から侯爵家のメイドとなり、さらに努力し認定勇者を経てホーリーウッド王家の側室まで成り上がったというシンデレラストーリー的なヒロインの様に持ち上げられていて。

 彼女自身そんな民からの羨望に耐えるための自分磨きに余念がない。

 とはいえ彼女のその幼げに見えなくもない美貌と、その圧倒的な胸部はそれだけでも十分にヒロイン的で、民衆からの人気は高い。


 無論ボクとアイリスも負けてはいないし、クレアも政治に利用されていた平和を愛する姫君をユーリとボクたちが少数で切り込んで救い出した物語のヒロインとして周知されていて元敵国の姫にもかかわらず民には愛されている。

 それにシトリンも最近ますます可愛くなってきている。


 そんなユーリの嫁が5人がかりでおめかししてお迎えするのだから、ぜひユーリには感動のあまり抱きつくくらいやって欲しい、ただシトリン以外は妊娠中なのでお手柔らかにして欲しい。



 昼過ぎになってユーリたちが帰ってきた。

 早い段階で空を監視していた物見の兵士から連絡があったので、いつもどおり城のディバインシャフト城の屋上に着陸した彼らを4人の妻と1人の婚約者、2人の娘、サークラ、キスカ、リコにサルート、それにメイドたちと一緒に出迎える。


「おかえりー!ダンジョン攻略お疲れ様ー!」

「おかえりーユーリー!」

 全員が好きに叫ぶので自分の声と隣のアイリスの声しかはっきり聞き取れなかった。

(リリはちょっと元気がよすぎるね?何を叫んでるかわからないくらい・・・)


 行きと違って盾にはユーリと神楽とサクヤとナディアとセシリアしか乗っていないけれど・・・アイヴィはどうしたんだろうか?

「やぁみんな休んでなくて大丈夫?赤ちゃんに響かない?」

 ユーリの第一声はただいまではなくボクたちの身を心配するものだった。


「うん、農村の人なんか妊娠してても農作業とかする人もいるくらいだしね、激しく動かなければ大丈夫だよ。」

 全員を代表してボクが言うとユーリは微笑みを浮かべて

「そっか、ただいまみんな、ユークリッド・ホーリーウッド、無事帰還いたしました。」

 そういってボク、リリ、プリムラ、アイリス、嫁たちと順にハグしていく。


 それを横目で見ながら、ボクは神楽とハグしあったあとサクヤを抱っこする。

 神楽には申し訳ない気もするが、養子に出したとは言え、対外的には神楽の実子ということになっているとも言えやっぱりお腹を痛めて産んだ子なのでサクヤもボクにとっては特別可愛い娘の一人だ。

 少し見ない間にますます赤ちゃんから子どもよりの顔立ちになった気がする。


 それに今シトリンと抱きしめ合っているシシィもしばらく姉に甘え、帰り道にフローリアン様にも甘えてきたからか、非常に気力が充実しているのがわかる。

 出発のちょっと前に、キスの話なんかでちょっと動揺していたのが嘘のようにシャキッとしている。


「ねぇところでアイヴィは?」

 かつてボクの心友であった絶壁ちゃんがいないのはやっぱり気になる。

 けが人や死者はでなかったと聴いているけれど。


「あぁアイラ、アイヴィのことだけれど、しばらく帰ってこない、今回の攻略に関連して少しの間ペイロードに出向という形をとっている。そのうち帰ってくるけれど、まぁ3ヶ月くらいは遅れると思う。」

 と、ユーリはくすくすとしながら語る。


 よくわからないけれど、笑っているということは悪いことじゃあないんだろうから、気長に待つとしよう。


 それから子どもたちをサークラたちに見てもらってボクとユーリ、神楽、エッラ、クレアとオルセーとでダンジョン攻略に関する報告を話し合うことにした。



「~~ということで、ダンジョン内はほぼカエル型とスライム、それにローパーが群生していて、カグラからの情報通り、ダンジョンのエリア外とは明らかに魔物の強さというか、厄介さが上だったのと、前半はともかく後半は建材に至るまで人工物で、前半も構造を考えれば人工的に作られた可能性が濃厚だった。それと、見立て通りに魔剣でも神器でも鍵でもいいけれど、特殊な力を持った武器が安置されていたよ。魔物や金属板で試したけれど、どうやら腐食させる性質があるみたい。」

 安置されていた武器は槍・・・というよりはハルバードの様な形状をしたものでユーリの収納に回収されたらしい。

 そして・・・


「これが記録官たちに取らせた、なぞの女性が残したメッセージの複写だね。」

 そこにはこの世界の表音文字で書かれた文字の羅列・・・そして・・・。

「これはすでにカグラによってほとんどの部分が解読されてジークにもその内容は伝えてある。」

 カグラが解読・・・?

 こっちの人が表音文字で記録しないといけないような言葉を?


 テーブルの上におかれた表音文字と神楽が解読した結果の文字列に視線を落とすそして頭の中で読んでみる。


(・・・クニハーチケーオカエルタメーノナナツノソウチノヒトツガハイチサレテイマス)

(・・・地形を変えるための七つの装置の一つが配置されています)

(ユウシャタルモノニシカサワルコトハユルサレズヒトビトオミチビクニタラヌモノワミナスイホウニキスダロウ)

(勇者たるものにしか触ることは許されず、人々を導くに足らぬ者は皆・・・・・・?)

 神楽の日ノ本語の語彙が足りない部分はちょっと訳しきれていない部分があるけれど、これは日ノ本語の音だ。


 残りは表音文字のほうを自分の頭の中で訳しながら読んでみる

(【しかしいつの日にか、アシハラの封印を解き、この世界をあるべき形に戻せる時がくると信じて、いつの日か人の子らがすべて共存の道を選べることを信じて、和の心が再び紡がれることを信じて、7つの鍵をこの大陸に残す、ここがそのひとつ目、砂の墓標、水晶谷、山岳と死・・・山岳都市か、火を生む大地、森のドーム、亀の楽園、この6つが残りの装置の場所です。これらすべてを回収するにはその土地を治める知的種族と理解しあう必要があるでしょう、そして七つすべてを集めた時装置はアシハラへの鍵の役割を果たすことができる、鍵は全部で5つ、すべての大陸に鍵は存在する、そのすべてを集めた時この世界はあるべき形を取り戻す、しかしながらこの大陸の人の子がすべての大陸を回るのはまず不可能、ゆえに、いえだからこそ、この星のすべての人が共存し手を取り合って進めるようになったときこそこの世界はひとつの形に戻れる。それでももし貴方がすべての鍵を一人で集めようとする無茶な人であったときのためにすべての大陸の一つ目の装置の場所を示します。一つ嵐の大洋、一つ天に昇る柱、一つ黒き火の平原、一つコウキ満ちる森、もしたどり着けたならここと同じ用に案内します。それとももう他の大陸から来た人だったのでしょうか、もう部屋に着きますね、この部屋にあるのは物質を腐食させる性質を持ったシキヨクのカマ、どうか貴方がシキヨクに溺れる者ではありませんように、いつか世界が正しい有り様を取り戻せることを信じています。さようなら、愛しい貴方たち】)


 直後にシキヨクに溺れるという表現をしているのと武器がハルバード状だったことから、これはたぶん色欲の鎌ということになるのだろう。コウキ満ちる森というのも芳香が立ち込めているか光輝いているのかどちらか・・・後者ならたぶんこの大陸でいう精霊の森の様なところがあるのだろう。


 しかし・・・明らかに日ノ本語だ。

 この世界のどれくらいかわからないけれどはるか昔に少なくとも発音は日ノ本語が使われている国があったということ?それとも単なる偶然?

 たとえば長い間地続きになることのなかった土地同士でも似た性質の土地に似たような形状に進化した生物が発生することがあると前世の知識で知っている。収斂進化とかいうやつ。

 あるいは前世の神話や、民話の類に似通った話が出てきて、たとえば生物が海から発生したことを知っていたかの様に大洪水かそれに類する話があったりと共通するモチーフがあるというもの・・・そういうことでたまたま日ノ本語と同じ言語が古代に使われていたか・・・・?


(ありえないとは思うけれどここが本当は未来の地球だとか・・・・?)

 ちょっと混乱してきた。


「アイラさん・・・お腹の子に障りますから、他の大陸のこととかあまり難しく考えないほうがいいかもしれません」

 神楽が心配そうにボクを見ている。

「そうだね、今はただボクたちの目指す国境のないサテュロスのためにできることをやる、ボクは早く元気な赤ちゃんを生んで、それからだよね・・・全部」

 カグラも不安だったはずだ。

 一人でこれを解読して・・・まだアイビスやラピスたちには知らせていないだろうし、攻略から日もたっている・・・一人で抱え込んだことだろう。


「そうだよアイラ・・・いったん休もうか、僕たちもちょっと疲れてるし、神楽も飛ぶのに疲れたでしょ?いったん部屋に帰って休んでて、エドワードお爺様への報告は僕がやっておくから、アイラは神楽が寝るまで話し相手でもしてあげてて」

 ユーリがそういって締めくくって、話し合いはお開きとなった。


お詫びとお知らせになります長いことセシリアの年齢設定について矛盾を抱えた状態になっておりました。関連いたしまして12話、38話の年齢に関する記載を変更しております。申し訳ありませんでした。

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