第156話:アスタリ湖攻略、留守番
おはようございます。暁改めアイラです。
些末事を色々と片付けつつ、とうとうこの日がやって来ました。
今日はアスタリ湖攻略のためにユーリと神楽、ナディア、サクヤ、アイヴィがクラウディアへ出発する日だ。
アビーやウェルズ、セメトリィらはすでにアスタリ湖に発っているおり、アスタリ湖攻略まであと三日しかないが神楽の飛行盾ならば余裕で間に合うのだ。
「じゃあ、僕たちいってくるね」
ディバインシャフト城屋上、順にユーリと抱き合うボクと側室たち。
これからも少しの間、ユーリも神楽もいない日が続く。
「シシィ、ちゃんとお約束守って大人しくしてるんだよ」
追加で、シシィがサリィにあう目的でついていくことになった。
「連れていって頂くのにワガママいってしまいましたから、これ以上はご迷惑お掛けしない様にします。」
オレンジ色のゆったり目のドレスを着たシシィは胸はって応える。
大丈夫そうかな?
この間のサリィとの通信で里心がついてしまった様で、今回の攻略についていくことにしたシシィだけれど、普段お利口だからこれくらいワガママには含まないのにね
「ちょっとユーリと神楽の家族旅行についていくだけなんだから、このくらいワガママには入らないんだよ?シシィは家族なんだから。もっと甘えて欲しいくらいだよ?」
そういって抱き締めてやると大人しく抱かれてくれる、その程度にはボクたちはもう家族になれているのだから、ワガママとか迷惑とかじゃないってわかりそうなものだけれど
「行ってらっしゃいシシィ、お土産話、楽しみにしてるね。」
「はい、お姉様・・・」
順番に一人ずつ見送りの言葉をかける。
「カグラ、サクヤ、風邪とかひかない様にね、サリィにもよろしく」
「はい、アイラさん。ほらサクちゃん、アイラママに行ってきますしてー」
神楽はサクヤの小さな手を離れない様に握り込んでいる、親子らしいその姿に、心の中の暁の部分がポカポカする。
「ってくーね?」
サクヤは舌ったらずに手をグパグパする、心なしか最近幼い頃の神楽に似てきた気がする、子は親に似るというのはこういうことなんだろうか?
「ほらプリムラもサクちゃんに行ってらっしゃいしてー?」
そういってお見送りにつれてきたプリムラの腰に手をやって促すけれど、プリムラと手を繋いでいるリリはサクヤの頭に手をやって何か励ましている風なのに、プリムラはモジモジしてしまっている。
「プリムラが行ってらっしゃい言ってあげないとサクちゃんが安心しておでかけできないよ?パパにも行ってらっしゃいって言ってあげてほしいなー」
背中をわしゃわしゃしてやると、ようやくプリムラはモジモジをやめて、手を小さく振った。
そしてすぐにリリに抱きついて顔を隠してしまう。
「頑張った頑張った・・・」
頭を撫でてやるとおしりをプリプリと動かす。
そういうオモチャみたいで可愛い。
後でいっぱい愛でようと思う。
「ナディアも気を付けてね、あっちにいる間はユーリのお世話頼むね」
「はい、お任せくださいませ」
多分あの夜、ユーリと結ばれたはずのナディアは今までと変わらずにメイド勤めを果たしている。
多分子どもを授かるまでは、或いは出産してもメイドは続けるのだと思う。
子どもを授かるのは今回の遠征中だって構わない訳だ。
「タイミング的にユーリとの新婚旅行みたいな感じだね?赤ちゃん生まれたらボクにも抱かせてね?」
ヒソヒソと告げるとナディアの頬が朱に染まる
これで少しは意識してくれるといいのだけれど
ボクがいない上に容認しているのだから少しは積極的にユーリとイチャイチャできるよね?
「アイヴィも護衛役お願いね?」
「任せてよ!アイラちゃんこそ、しっかり栄養摂ってまた元気な子ども産んでね、私にも抱っこさせてよ?」
男なんじゃないかと思うほど薄い胸板を叩いて任せろというアイヴィ、かれこれ6年ばかりの付き合いだが、彼女もまたぶれない
可愛いもの好きで元気で前向きで、その前向きさには何度か救われた。
「任せて、今度もむちゃくちゃかわいく産んで、アイヴィにまだ結婚しないの?赤ちゃんこんなにかわいいのにーなんていってからかってあげる」
だからボクもついつい学生時代のノリでからかってしまう。
「アイラちゃーん、出会いが少ないんだよー碧騎は女性しかいないし他の隊は既婚者ばっかりな上年齢が合わないし」
涙目になっているけれど、いつもの感じだね。
これで安心して見送れる。
「じゃあそろそろいきましょうか」
神楽が大盾を出すとそれぞれの乗り込んでいく。
はじめてのアイヴィは、ちょっと怯えていたけれど・・・
「それじゃ行って参ります。」
一度浮かび上がると、盾はあっという間に高度をあげて、クラウディアの方向に消えて行った。
これでしばらくはユーリも神楽もいない・・・さみしい。
予定では、3月中には攻略して帰ってくる予定だけれど・・・
神楽から聞いた古代樹の森攻略やヘルワール攻略の様子を思い出すと少し不安にもなる。
ユニーク進化した魔物の数々はダンジョンの環境に完全に適応していて、近隣の魔物たちとは比べものにならないほど厄介だったという。
八本足で糸まで吐くタイガータイプに投網の様に粘着質な糸を投げてくる魔物だったか、他にも頑丈な殻を持つ虫型や巨大蜥蜴、神楽の親友であったというキス族の少女の生命を奪ったスライムタイプも、ローパータイプや地を這う者タイプの魔物と同様にダンジョンにはよくいるものらしいし・・・
(それでもユーリやナディア、アイヴィたちなら大丈夫のはずだよね?)
アイヴィやナディアには魔導籠手の最新型が配備されたし
ユーリは強いし、うん、余り不安がっていても仕方がない、切り替えよう。
室たちのまとめ役として、子どもたちの母として、不安がっているところは見せられない。
「よしプリムラ、今日はママとリリお姉ちゃんとお買い物行こうか?」
可愛い娘に不安な心を癒してもらおうと、お出掛けに誘う。
「ママとおでかけ!?」
「おあいお?」
リリはお出かけが好きなので大喜び、プリムラはなにかよくわからないけどリリが喜んでるのがわかるのか手をバタバタして、多分喜んでいる。
「アイラ様、大事なお体なのですから無茶はなさらないでくださいね、私たちメイドも付き添います。」
と、エイラ
「アイリス様とエレノア様はどうなさいますか?」
トリエラもついてくる気満々なのか楽しそうに二人に尋ねるが、二人は初めての妊娠で不安なため留守番をするそうだ。
まぁそういうわけで昼食後、ボクとリリ、プリムラ、シトリン、トリエラ、エイラ、マリアナとでディバインシャフト市街に遊びに出た。
適当な碧騎の人に馬車を出して貰いまずは春の狐亭へ
狐亭は、それなりに歴史ある由緒正しい旅館で、ホーリーウッドへ旅行に来る子爵くらいの貴族なんかが好んで宿泊する老舗だ。
ウリは広く整えられた庭と美味しい料理、ただでさえ評判だったのに最近はホーリーウッド家の料理人とも意見交換をする様になり、うちの厨房どもども味を上げている。
それに加えて・・・だ。
「いらっしゃいませ!アイラ様!6ヶ月ぶり位でしょうか?ご挨拶にも参らず申し訳ございません」
夜の時間帯だけ玄関でお客様を迎える狐亭の若女将、コリーナ・フェブラリはスレンダーな美女だ。
年齢を考えればまだ美少女で許されるはずだが、これを美女と呼ばない選択肢はボクにはない。
「コリーナ!久しぶり、コリーナからは学生の頃の様に呼んで欲しいな?」
そしてそんなコリーナは基礎学校に通っていた頃に大層お世話になった大事な友人で、ソニアの親友でもある。
「それでは失礼して、アイラちゃんお久しぶり、相変わらず可愛いです♪うちのウェンディたちもアイラちゃんみたいな美人さんに育って欲しいですね」
そういうコリーナの足下には、フェブラリ家の第3子がじゃれついている。
名前はたしかプリシラだったか?
「うちの子たちこそ、コリーナみたいなしっかりした子になるといいんだけれど、君ががプリシラちゃん?」
確かめるために声をかけると
「あーい」
と小さな手を挙げて応える。
プリシラはプリムラたちの直後の8月2日に生れた1才半程の子だ。
「そうですよ、ごめんさないねプリムローズ様の、プリムラちゃんって語感が可愛かったから真似しちゃいました♪ごめんねプリムラおねえちゃん♪」
プリシラを抱き上げながら悪戯っ子の様な笑顔を見せる先輩ママは、そのままボクの抱いているプリムラにプリシラを近付けて挨拶をさせる。
「良いよーって、ほらプリムラ良いよーって」
「いよー」
軽く体を揺らしつつ、余りに実のない会話をしてしまう。
「ありがとうプリムラちゃん、リリちゃんにシトリン様もこんにちは、トリエラさんとエイラさんもご無沙汰してます。こっちの子ははじめての子ですね?」
「親戚の子でマリアナっていうの、かわいいでしょ?」
その後リリがプリシラにじゃれつくのを見ながら来月に迫るソニアの結婚式の話や、ボクが参加できなかったカテリーンの結婚式の話を聞いたりしながら一時間程お茶をしてから狐亭を後にした。
結局ウェルズの兄嫁と買い物に行っていたコリーナの長女と二女には会えなかったが、子どもたちが飽きてきていたので、本来の目的通りお店を巡る事にした。
子供服店サマーズ・エンジェルスでリリたちにソニアの結婚式で着ていく用のフリフリの子供用ドレスを注文し、ついでにシトリンまでの子どもたちに選ばせてひとつずつ帽子を購入。
新しい、自分で選んだ帽子でご機嫌のおちびちゃんたちを連れて公園で噴水を見ながらお散歩してから帰宅した。
思ったより早く帰宅することになったのは、リリたちのお腹が空いた為だ。
もう少し前なら最悪ボクが乳房を提供すれば事足りたのだけれど、今日は子どもに食べさせられるおやつも手持ちがなかったのだ。
ディバインシャフト城に戻り食事した後はアイリスやオルセーたちと合流しボクの部屋へ、相変わらず白とピンク基調で大変に少女趣味だが、今となってはそれなりに好きなカラーリングだ。
リリが生まれる前に一度改装してあり、他の赤ちゃん部屋と同様部屋の入り口に靴を脱ぐ為のスペースを設け、家具を置いていない所の大部分が絨毯敷きになっている。
これによって赤ちゃんを床で遊ばせても大丈夫な部屋となっていて、ボクたちも床に座れる仕様になっている。
今夜はユーリがいないのをいいことにメイドも含めてここでパジャマパーティーの様なことをする。
参加者はボク、アイリス、エッラ、クレア、リリ、プリムラ、シトリン、トリエラ、エイラだ。
オルセーとノヴァリスは誘ってみたが今日はサークラたちと夜過ごすのだそうで、夕食までの付合いとなった。
ボクの部屋は広いので勇者の空間魔法を駆使して模様替えしてベッドも全員で寝れるだけの面積分並べて寝るつもりだ。
まずは晩餐の時間までおしゃべりして過ごした。
おしゃべりの議題は、ボクたちの行方不明の間のプリムラとサクヤの成長の話からスタート。
したと思っていたら、ひとつめの議題が終わる前に晩餐の時間となっていた。
愛娘たちの成長の話は時間を吹き飛ばす効果でもあるのだろうか?
手早く晩餐を済ませた頃、ユーリたちから二時間ばかり前にクラウディアに着いたと連絡が入った。
道中に関しては全く心配していないが結晶通信機の子機を食堂まで運んで来てくれた通信士の好意に応えユーリと少しだけ会話をした。
リリが、声はするのに姿は見えないユーリを探して食堂内を歩き回っていて可愛かった。
早々に寝るための仕度を全て終えた後は予定通りパジャマパーティーを開始した。
今夜は無礼講、エイラとトリエラもメイド服は脱がせている。
いつもと違う環境に興奮していたリリとプリムラも、いつもより30分程長く起きていたが、7時半には両方寝てしまった。
遊んでいる途中だったのに急に動かなくなってしまった。
スヤスヤと寝息をたてるリリとプリムラをボクの普段から使っているベッドに並べて寝かせる。
参加者の大半がユーリの室なので、話すことは自然にユーリの話になり、その幼少期の可愛らしさと優秀さ、ボクと出会ってどう変わったかをトリエラが熱弁した。
幼い頃のボクやアイリスの話になると異様に照れ臭かったり、恥ずかしかったりもしたけれどボクたちは、ユーリ達が帰ってくるまで毎晩の様にこのパジャマパーティーを、人員を入れ換えつつ楽しむのだった。
少しの間、本編の更新は滞ります。更新していなかった視点やアスタリ湖攻略の様子など他者の方でお届けしたいと思います。
本編の方は次回はアスタリ湖攻略後からとなります。