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第155話:顔合わせ

 こんにちは、暁改めアイラです。

 約束された王都との通信も終わり約束の前まで時間も潰し、中庭にやって来た。

 中庭にはすでに植民団の村長候補たちとアンナが待機していて、ボクたちは逸る気持ちを抑えてゆっくりと近づいていった。



「ユークリッド様!お久しぶりです。アイラ、アイリスもエッラたちも久しぶり~、最近顔を見せられなくってごめんね~!!」

 アンナが笑顔でボクたちを迎えてくれる。

 アンナにはボクたちの行方不明は知らされておらず、単にタイミングが合わなくて顔を合わせなかったことにしている。


「こちらこそ、二回足を運んでくれたのに、顔を見せられなくてごめんね?ミズーリは元気?」

 ボクたちとアンナはそもそも血縁、ずっと母の従妹だと言われていたが、ホーリーウッドに来てから、母ハンナの妹だと判明している。

 つまり叔母なのだが別に周知して回っていることではないため、一般の人からみればホーリーウッド家肝いりの孤児院の院長が現王の孫で王子の正妻と第一側室に馴れ馴れしく抱きついている図となる。


「ちょっと!アンナ先生!姫殿下に馴れ馴れし過ぎますよ!」

「可愛らしい殿下に気持ちが昂るのはわかりますがお止めください!」

 アンナはサークラ以上にハンナ母さんと似ているので、会うときアイリスが少し涙目になるのも誤解させる要因かもしれないね


「いいんですよ、アンナとボクたちはとても仲がいいんです。親戚なので」

 そういうと二人はおとなしくなった。

 3人の候補者には見覚えがあった。

 それぞれアンナの孤児院でホームの兄姉役を任せていたものたちで17~20の若者たち、アンドラス、ゲイリー、セーラの3人。


「セーラ・・・」

 思わず名前を呼んでしまった。

「ご無沙汰致しております、アイラ様。」

 ボクより2つ年上の、ボクが目の前でその父親を殺害した少女。


「セーラ、ボクは・・・」

 許してくれなんて言えない。

 戦争だったし、彼らは武器を構えて居たので、ボクには一切の罪状はつかないけれど、当事者同士、しかも目の前で親殺しをしたボクを彼女はきっと憎んでいるはずなのにどうしてアイラ様、だなんて


「おいセーラ、お前アイラ様と顔見知りなのか?」

「すごえな、俺遠くから一回しかみたことないぞ?」

 アンドラスとゲイリーがセーラの肩を叩く、セーラはそんな二人に微笑みかけて


「ちょっとしたご縁があって、アイラ様のご紹介でアンナ先生のホームに入ったのよ」

 と二人に説明した。

 それからすぐにこちらに向き直って。

「アイラ様にずっと、お礼を言いたかったんです。」

 そういってボクたちの方に歩み寄る。


「アイラ様のお陰で、私はまた家族が出来ました。アンナ先生のホームのみんなが私の家族、この二人も、クラウディアに行ったリエッタちゃんも、まだ幼いミズーリ君も、私にとっての兄弟になってくれました。」

 あのセーラにこんなに優しいまなざしを向けてもらえるなんて思わなかった。

 一生憎まれたままだと思っていた。


「あの戦争で、家族を失ったのは私だけじゃない、私の父も砲兵でした。誰かの命を奪っていたのかもしれない、アイラ様たちは今あんな戦争が起こらない国作りを目指していると聞いています。私には出来ないことです。私はアイラ様を敬愛しています。」

 ちゃんと挨拶もせずに話始めたセーラにアンナは少し苦い顔をしているし、アンドラスとゲイリーはなにがなんだかわからないと首を傾げているけれど。


 ボクは言葉を選んで、セーラに伝える。

「ボクは、ボクに出来ることしか出来ない、セーラも、ユーリやアンナも同じ、ボクたちは平穏で安らかな生活を目指している者同士だ。ボクたちの出会いは平穏なモノではなかったけれど、次に会った今日はこうして穏やかに話ができている、ありがとうセーラ、ボクに笑いかけてくれて。胸の支えが取れた気分だ。」


 一生、憎まれて当然だと思っていたのに、またあの冷たい眼を向けられると、身構えたのに、セーラは穏やかな笑顔でボクを迎えてくれた。

 それがすごくうれしい、だからボクも感謝の言葉をセーラに伝える。


「ええっと、言いたいこと言って安らかな表情になってるところ悪いけれど、そろそろこの子たち紹介していい?」

 アンナは予定通りに進められなかったので少し困り顔だったが、3年半ぶりに会ったのだから多目にみてほしい。


 それからアンナの紹介で、アンドラスたち3人の人となりを聞き、ボクたちの方からもいくつか質問をした。

 内容としてはなぜホーリーウッド市内での暮らしではなく開拓、植民の道を選ぶのか、近いうちに結婚するつもりはあるか、など。


 結果その場でアンドラスとゲイリーがセーラにプロポーズをしてしまうという珍事が発生して、セーラは眼を白黒させていたが

「私、コルネットパン店のエルクとお付き合いしてるの・・・えっと知らなかった?ごめんね、村を開拓するときは一緒に行こう、って約束してるしアンナ先生にエルクのご両親にも挨拶してもらって、その私としては、こ、婚約してるつもりなんだけど」

 と、アンナと顔を見合せて困り顔でごめんなさいした。



「それではウェリントンの村長は、セーラと今日は来ていないけれどエルクさんにお願いしますね」

 話し合いの結果、エルクの人となりをアンナから聞いたところ、パン屋の三男だが経営や人の使い方にも明るいそうなので彼らに任せることにした。


 何より結婚を考えている事が大きな理由だが、これからアンナの孤児院出身者を中心にした村作りが始まるのに、早くその村出身の子どもに生まれて欲しいというのがその狙いだ。

 セーラたち3人には先に帰ってもらい、リリとプリムラはトリエラとエイラにお散歩をしてもらっている。

 ここからもうひとつの顔見せがあるのだ。


「夕べ、ギリアム様に連絡頂いた時は何を馬鹿な、って思ったけれど、本当に貴方たちなのね・・・。」

 アンナの目には涙があふれている。

 昨日の挨拶回りにはアンナは含まれておらず、連絡のみ行っていたが、それだけで話し合いの間中表情に出さなかったアンナは大した役者だ。


「アンナ、元気みたいだね、良かった。」

「生き残りの中じゃアンナが一番打たれ弱そうだもんね、まさかこんなにすごいシスターになってるなんて思わなかったよ」

 アンナは現在400人を超える子どもを抱える孤児院の主催者だ。


 子どもたちをいくつかのグループに分けて、子どもたち同士でも家族の様に世話をさせたり、教育を受けさせたりしながら母代りになっている。

 実際に自分が生んだミズーリも同じ孤児院内で暮らさせていて、余りに平等に扱うため子どもたちの方からもっとミズーリに構ってあげてと言われた程らしい。


 そんなアンナは、守るべき子どもたちが去ったとたんボロボロに泣き崩れてしまった。

 それだけ、ノヴァリスとオルセーとの再会は衝撃的なのだ。

「本当にあの頃のままの姿だし、二人ともヒトではなくなったともきいたけど、私がおむつ代えたりしたノヴァリスとオルセーで間違いないのよね?」

 アンナは子どもの姿のままのノヴァリスとオルセーの肩を抱いている。


 そんなアンナを大切そうに抱き返す二人もちょっと泣きそうだ。

「まぁあたしもノヴァリスもそんなの覚えてないけどねー。」

「私はオルセーのおむつをアンナが代えてたの覚えてるよ?オルセーは暴れん坊だったから、いつもアンナの顔とかに散ってて大変そうだったよ」

 涙声で笑うノヴァリスに反論するオルセーの声が重なって、ボクも懐かしい気持ちになる。


 アイリスもエッラも楽しそうに笑い、いつのまにかここがあの教会の部屋であるかの様な錯覚に陥る。

 いつのまにか話題は誰が一番手のかかる子だったか?

 という話になっていて、ノヴァリスとオルセーがお互いに汚名を擦り付けあっていた。


 途中で帰城してきたサークラとキスカも加わり、ボクもアイリスも久しぶりにこれでもかというくらいコロコロと笑い。

 そんなボクたちをいつのまにか散歩を終えて戻ってきたリリとプリムラを抱いていたユーリが、微笑んで見守ってくれていた。



 それからアンナも帰り、些事も済ませて子どもたちはそれぞれの個室で眠った後、ユーリの部屋でユーリとナディアと3人だけでまったりしている。

「今日はごめんねユーリ、ずっとウェリントンの内輪ネタで盛り上がって閉まって」

 知らない身内話を横で聞いているのはさぞ退屈だったろう。


「話はあまりわからなかったけどさ、アイラもみんなもすごく楽しそうにしていたから。アンナさんもあんな風に笑うんだなとか、うん、楽しかったよ?」

 そういってボクの顎の下をくすぐる様に撫でる。

 ユーリはボクの身体を扱いなれているので、あっという間に気持ちよくなってしまう。


 するとナディアが

「ユーリ様があんな風に、とまでおっしゃるアンナ様の笑い方というのは是非拝見させて頂きたかったですね。」

 顔は微笑んでいるけれど悔しそう


 今日は久しぶりに3人で寝ようと言うことで、ナディアにはもうメイド業務は終了させていてキャップもカチューシャもつけていない。

 長い黒髪をそのまま下ろしているナディアは微笑んでいるととても艶っぽいので少しムラムラとしてしまった。


 業務が終わっていても口調は丁寧なままのナディアにお願いして髪をさわらせてもらう。

 さらさらで艶のある黒髪は神楽のものより少ししっかりした髪質で指でつまむとハッキリと違いが判るけれど、同じ石鹸を使っているので匂いは同じ・・・つい匂いを嗅いでしまったけれど、ボク変態っぽいかな?


「アイラ様、くすぐったいです。」

「じゃあ僕も」

 ナディアがボクにひと言述べると、ユーリが便乗してきた。

「ひあっ!?」

 匂いを嗅がれたとたん真っ赤になるナディア


「ユーリ、今のは良くないよ、好きな男の子に匂いを嗅がれるの、すっごい恥ずかしいんだよ?」

 君も前世女の子たったなら分かるでしょ?

「いいえ、いきなりだったから驚きましたが、ナディアめはメイドでございますから・・・」

 言葉ではそういうけれど、ナディアからはほんのりと女の匂いが漂い始めた。


 それに気付いたのかユーリもナディアも少し気まずそうにしている。

 とうとうこの時が来たか・・・。

 思えばナディアももうすぐ20、この世界では遅い方・・・。

「ユーリ、ボク今日はアイリスと寝るね。」


「アイラ?」

 この状態で二人きりにするの!?と言いたげな顔。

「本当ならナディアの晴れ姿をボクも隣でみていたいけれど、興奮してこの子に何かあったらナディア、気にしちゃうだろうし。」

 そういってお腹を撫でて見せるとユーリは納得の表情を浮かべ、ナディアも、ボクの言っていることを悟ったらしく、さらに真っ赤に縮こまってしまった。


「ア、アイラ様、私なんかが・・・ん!?」

「また、私なんか、なんて言って・・・ナディアはボクの、そしてユーリの大切な女の子、こうなるためにエイラに道を譲ったでしょ?ボクたちと添い遂げてくれるんでしょ?」

 そんな悪い口はユーリと二人がかりで塞いでやる。


「は、ふ・・・ぅ。」

 しばらく、キス責めしているとナディアの表情はさらにとろんとしてきて、部屋に漂うナディアの匂いも強くなってきた。

 そろそろいいかな?


「じゃあ今度こそボクは行くよ、ユーリ、ナディアをよろしくね?」

 もう抵抗しなくなったナディアと愛しい夫をベッドに残し

 そういってボクは夫婦の寝室を後にした。

セーラをアンナのところに送ったままだったので、ウェリントンに出荷することにしました。

グリム盆地南側丘陵地にある、ハリーのお墓が遠くなるので墓を移してあげた方がいいのか、一回お墓参りをさせるか、そもそも語る必要もないのか迷いますね。


アンドラスとゲイリーは村長には選ばれませんでしたが、3人とも同じウェリントン跡地に開拓に行きます。

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