第152話:鍵と魔剣と神器
こんにちは、暁改めアイラです。
2泊3日予定だったお墓参りに出掛けたボクたちは、魔王となったノヴァリスの幻術と精神操作系の魔法を受けて約2ヶ月に及ぶ行方不明となってしまっていました。
ノヴァリスとオルセーはボクたちがウェリントンに対してどの様に思っているかを確認するために様子見をしていたそうだけれども、ボクの精神汚染耐性が高かったため最初に強固にかけすぎて、なかなか元に戻せなかったらしい
その後捜索隊のキャンプに向かったボクたちは、捜索隊の隊長を勤めていたウェルズと対面、捜索隊の撤収を任せて、ホーリーウッドに帰還した。
「ユーリ!お前たち!よくぞ戻った・・・・」
最初にボクたちを迎えたのはギリアム義父様
「心配をおかけしました。」
ギリアム様は丁度兵士達と調練中でディバインシャフト城の庭にいらっしゃったのだ。
応えたユーリを抱き締めるギリアム義父様。
兵士達の楊子を見ると困惑の色が浮かんでいたので、恐らく一部の兵士以外にはボクたちの行方不明は知らせていなかったのだと思われる。
混乱を避ける為か人払いをして、ディバインシャフト城の応接室に入った。
さて、なにから話したものかと、少し考えていると人払いをしたハズなのにものすごい音を立てながら近寄ってくる反応。
ほどなくドアが開かれてその主が部屋に駆け込んできた。
「アイラ!アイリス!」
わが姉サークラが、あの賢い姉が髪や服が乱れるのも気にせず飛び付いてきた。
「お姉ちゃん!」
「心配かけて、ごめん」
「いいの・・・無事で良かった・・・。」
サークラはボクとアイリスとを抱き締める、涙を溜めたその表情は、不謹慎かもしれないがとても色っぽい。
「サークラ、気持ちはわかるけど、放してあげないと二人とも辛そうよえぇぇぇぇぇ!?」
キスカも入ってきた様で声が聴こえるが途中から驚愕の声へと変わる。
「ちょっとキスカ、いきなり何よ?大きな声を出して、はしたないわよ?リリがまねしたらいけないでしょ?」
サークラは驚いて、ボクたちを開放しながら振り向く、その為まだその絶叫を上げさせた原因に気が付いていない。
「サ、サークラ落ち着いて、アイラの後ろを見て・・・気を、しっかりもってね・・・?」
キスカの指は、ボクの背後を示すが、その指先は震えている。
同時にその頬には既に涙が流れている。
「何よ、キスカったら・・・みんな無事にか・・・・・え?」
サークラはボクの後ろを見て固まった。
「久しぶりサークラ、・・・サークラ?」
固まったサークラにノヴァリスが挨拶をしたが、サークラは固まったまま後ろに倒れ慌ててキスカが受け止めたものの支えきれずに尻餅をついた。
「ちょっとサークラ!サークラ!?」
約5分後
「・・・アイラ?アイリス?」
ゆっくりと目をさますサークラは、その視界にボクとアイリスを認めると、確かめる様に頬を手でなぞった。
「良かった、夢じゃなかった。貴方たちが無事だったからかな、お姉ちゃんなぜかノヴァリスまで一緒に帰ってきた夢を見てね、しかもオルセーまでいる夢でね・・・」
「サークラ、目が覚めたみたい。」
「ほんと?あたしもそっちいく!」
ノヴァリスがサークラの覚醒を報告し、リリと遊んでいたオルセーが駆け寄ってくる。
「・・・ウソ?本当に?本当にノヴァリスとオルセーなの?ノヴァリスは確か遺体が見つからなかったからまだわかるけれど、オルセーは病気で亡くなったと記憶してるわ、私の記憶違いなの?」
サークラは大変に混乱をしている。
それもまぁ仕方ないよね、ボクたちも昼には大変に混乱した。
正直あれから4時間しか経ってないのでまだ混乱はしている。
「ううん、あたしはたしかに死んだよ、多分サークラの覚えてくれてる通りに・・・」
「だったら!?・・・・だったら目の前のオルセーはなんなの?」
オルセーの頬にも手を当ててなで始めたサークラは涙をボロボロこぼしながら問いかける。
「話すと長くなるんだけどさ、ご縁があって龍王様が新しい体を用意してくれたの」
ニヘラと笑うオルセーの笑顔をサークラは抱き締めた。
湿っぽい空気がダメだったのか途端にオルセーはおちゃらける。
「ウヒャー!サークラすっごいおっぱい!揉んでいい?」
「オルセェ・・・」
そんなオルセーの言葉にはお構いなしでオルセーを抱き締めていたサークラはしかし少したってからノヴァリスの方へ視線を向けた。
「ノヴァリスは、若いままに見えるけれどただのノヴァリス?生まれ変わったりしてない?」
「サークラ、私もちょっと普通のノヴァリスじゃないかな?やどり木型のエントにつかれてさ、体はヒト族とは変わってしまったみたい、でも心はノヴァリスのままなんだ。」
先程キスカに話したのと同様、ノヴァリスは魔王になっていることは伏せた上で、三年と少しの間ウェリントン跡地でオルセーと暮らしていたこと、二人でウェリントン跡地を開発して、人が暮らせる建物や柵や畑を作っていたことを説明した。
「ほぅ、それではウェリントン跡は既に人が住める状態なのか?」
ギリアム様の声は僅かに気色ばむ
「はい、5人分くらいの家を15棟と村長屋敷をひとつ、それから、家畜小屋と教会、風車小屋は用意ができてます。魔物避けの柵が作成途中になってますが、アイラたちが大きめな魔物を片付けてくれたので、あと一ヶ月もあれば人を住まわせられるかと思います。」
ノヴァリスが、明るく、かつてよりは大分思考して説明する。
「渡りに舟、というべきなのかな?現在、将来を見越して農村を増やしているところなんだが、君たちは、君たち以外がウェリントンに住むことに賛同できるかい?」
ギリアム様は 為政者としては失格なのかも知れない、実利よりも感情を優先させてしまうのだから。
「ボクはお墓参りに支障がなければ」
「私もアイラと一緒です。」
「私もキスカも妹たちと同じ意見です、貴方の横を離れるつもりもありませんから。」
姉妹3人とキスカは一致。
あそこはウェリントンだけれど、もうボク達のウェリントンではないのだから。
「私もユーリ様のお側で寵愛を賜る立場ですから、お墓参りだけ出来れば問題ないです。」
エッラもあのウェリントンにすむつもりはないらしい。
「君たちはどうかな?」
ギリアム義父様はオルセーとノヴァリスにも意見を求める。
「私たちの意見も聴いてくれるんですか?」
ノヴァリスは不思議な表情。
「君たちの意見こそ、尋ねなければならない、何せ君たち二人が復興させた村なのだろう?」
優しい義父の声にノヴァリスは頬笑み
「村は人が暮らしてこそです。私もオルセーも女の子だから、人を増やせなくって・・・是非人を住まわせて欲しい。」
と伝えた。
すかさずオルセーが手を挙げて
「ハイハイ!あたしもひと言良い?」
と尋ね、ギリアム義父様はもちろん、と返す。
「村長に成る人だけは顔をみておきたい」
真面目な表情のオルセーは、射抜く様にギリアム義父様をみつめ続ける。
「エドガーさんみたいに賢明な人じゃないと、僻地の村長はつとまらない、村を大事にしてくれる人にウェリントンを引き継ぎたいんだ。」
「わかった。現在編成中の植民隊の中にアンナ君の孤児院出身の子が中心になったものがある、その子達を明日紹介しよう、二人には部屋を用意させる、あとユーリたちは心配掛けた人たちに挨拶して回りなさい、特にリムとサクヤはひどく不安がっていたから、まずは子ども部屋に至急向かいなさい。」
オルセーはとりあえず納得して笑顔を返した。
「アイラ様!皆様方!」
子ども部屋に入ると、真っ先に近づいて来るのはエイラ、その腕にはサクヤが抱かれている。
「ユーリ様!」
「マ゛シ゛ュダァァァァァァ~!」
その声に遅れて気付く二人の古参お側メイド
そして・・・
「マ、マァァァ」
「ん゛ぅ~!」
プリムラとサクヤは言葉になりきれてない叫びを上げる。
「うぁ、サクヤ様、暴れないでくださいませ!」
プリムラは自立していたのでボクに駆け寄ってきたが、サクヤはエイラの腕の中で暴れる。
「サクちゃんゴメンね!ゴメンね!」
慌ててエイラからサクヤを受けとる神楽は謝りっぱなし
「プリムラもごめんね、ママたちが、揃っていなくなって心配したよね」
足元にしがみつくプリムラを抱き上げて抱き締め、頬ずり、キスを浴びせる、それからすぐにユーリに抱かせる。
「ゴメンね二人とも、心配したよね」
神楽から受け取ったサクヤとを両腕に抱いてユーリが頬擦りする。
「3人にも心配かけてしまったね」
メイドたちにも、謝罪をする。
「いいえ私たちは」
「かならじゆご無事にお戻りになりゅと信じでまじだぁぁ・・・」
「おケガもないようで安心いたしました。」
メイドたちは三者三様に答える。
ナディアとエイラは平静を保ちつつも笑顔だが、トリエラは顔面大洪水で目と鼻から盛大に漏れている上、尻尾と耳がピコピコ喜んでいる。
「トリエラ、顔を拭きなさい」
「ずびばしぇーん、ズビ・・・」
その後もディバインシャフト城内で各所にあいさつ回りし、終わったらホーリーウッド城へ、一応事前に連絡は行っていた様だが、特にフローレンスおばあ様には御心配お掛けしたので時間を掛けた。
その間中抱いていたプリムラは、ある程度機嫌を直してくれたものの、下ろそうとすると泣いて抵抗するのでエドワードお爺様(国王)にご挨拶するのに幼児抱きのままという不思議な状態になってしまった。
なおサクヤも同様だ。
「お爺様、ユークリッド、恥ずかしながら帰参いたしました。長い間挨拶が途絶えてしまい申し訳ございませんでした。」
ユーリが代表して挨拶する。
ボクはプリムラ、神楽はサクヤを抱っこ、アイリスはリリと手をつないで、エッラが両側にシシィとシトリンと手を繋いでいる。
シシィもシトリンも
「いや良い、こうして無事であったのだから、後ろのお嬢さん方も、10年近く遅れたが、自立できるまでホーリーウッド家で面倒をみようと思うが、どうかね?」
挨拶回りの間に前もって二人のことをギリアム義父様からエドワードお爺様にお伝え頂いたので、お爺様はかつてノラやエッラにしたのと同じ対応をしてくださる。
「良いの、でしょうか?私もオルセーも、ヒト族ではなくなっておりますが・・・」
二人はやや及び腰だった。
「連邦は、ヒト族やそれ以外の種族の扱いには差は付けぬ、もちろん各種族のしきたりは尊重するし、必要な差はつけるがな。見てみい、そなたらの隣にも、キスかシャかわからぬメイドが居ろう?」
そういって優しい目でボクたち全員に目をやるお爺様は今も昔も、良識的でお優しい方だ。
「ユーリ、明日イシュタルト王にも連絡をいれる様にな、今日は時間ももう夕方だ医官から体調のチェックだけ受けて皆ゆっくりと休む様に」
その後ディバインシャフト城に戻り健康診断を受けたボクたちを待ち受けていたのは妊娠約120日目だというクレア、そして・・・
「えー、アイラ様、アイリス様、エレノア様ご懐妊おめでとうございます、お三方とも妊娠80日前後ですね、ベス先輩ほどの精度はありませんが、間違いないと思われます。」
ボクたちは盛大にやらかしてしまった。
にこやかに言祝いでくださるカタリナ先生には申し訳ないがタイミングが悪い。
カタリナ先生はキャロルの専属医をされていたエリザベス先生の後輩の一人で、ボクたちの帰郷に合わせてホーリーウッドに招いた先生だ。
やらかしたというのは別に妊娠を喜んでいないわけではなく、アスタリ湖攻略を控えたこの時期にという話だが、満面の笑みでおめでたを伝えるカタリナ先生に責任はないので、素直に喜ぶしかない。
「カタリナ、ありがとう」
「出産まで頑張って参りましょう、特にアイリス様とエレノア様は初産です。この時期は流産しやすいので安静にしておきましょう。」
「はい、先生」
「はーい♪」
アイリスはただ嬉しそうに、エッラは愛しそうにお腹を撫でながら返事をした
さらに夜シシィを含む子どもたちを寝かしつけたあと、ユーリ、アイリス、エッラ、神楽、クレア、オルセー、ノヴァリスとで話し合い、議題は鍵についてだ。
「それでは確認させて頂きたいのですが、ルクスで神器、イシュタルトで魔剣という名で伝わっていたモノがドラグーンの間で鍵と呼ばれるモノなんですね?」
クレアが身重の身にも係わらずやや興奮してオルセーに尋ねる。
「そうだよ・・・です、ついでにヴェンシンでは宝枝と呼ばれてたみたい、です」
クレアとの距離感を掴みあぐねているオルセーの口調は覚束ないが、妙にボクの手や膝を擦りながら応える。
「さっき見せてもらった槍と二本の剣も間違いなく鍵、です。」
覚束無い話し方が少し気になったらしいクレアがオルセーの方へ手を伸ばす。
「オルセーちゃん、話しやすい様に話してくださって構いませんよ?私たち本当なら年も近いのでしょう?それにアイラさんのお友だちなら、私ともそろそろお友だちになれるはずです。」
差し出した手をひらひらさせる。
「あ、えっと・・・いいの?お姫様なんだよね?」
オルセーはおそるおそるとクレアの表情を伺う
「もちろんです、それにその理論でいけば、アイラさんやアイリスさんも姫様ですよ?同じくらいまで打ち解けましょう?」
それなら、とクレアの手を握り、オルセーとその後ノヴァリスもクレアとお友だちになった。
「話を戻そう、オルセー、ユーリ様やカグラさんが持っている物も鍵なら、御二人はそのうち魔王になるの?」
エッラがノヴァリスの件を気にして尋ねる。
「それはないと思うよ、本来ヒト族は魔王化しない、するのは混血亜人種と魔人だよ、多分ノヴァリスは死んでエントに寄生されたから魔王化できたんだと思う。」
結果こうやってノヴァリスにであえたからボクはうれしいけれども。
ユーリや神楽が魔王化しないと聴いて安心しているのも事実。
「ではボクたちがこうやって鍵を持っていることは悪いことではないんだね?」
「うん、ドラグーン的にも鍵の回収と大陸の開放は望む展開らしいから。大丈夫だと思う。」
「オルセーは他の鍵のありかは聞いてるの?」
今回の斧がベナムスワンプの発生源だったらしいのは確認できた。
ベナムスワンプは斧が直接発生させたものではなく、亀島のあったあの湖が斧の発生させた地形で、そこから漏れ出た魔力を含んだ水が水はけの悪い土地に溜まり腐ったのがベナムスワンプだったらしい。
こういった予想のずれは連邦の国境をなくす事業に影響するのできいてみたのだが・・・
地図をにらんでいたオルセーは指を指して行くが、ベナムスワンプ以外の場所はクレアが予想していた通りの場所、ヘルワール、古代樹の森、アスタリ湖、紅砂の砂漠、水晶谷、悪魔の角笛だったので、大きな変更なく行けそうだと安心したつかの間、オルセーは8つ目のポイントを指差した。
昨日の夜に間に合わせるつもりが寝落ち、今朝に間に合わせようとするも間に合わず、昼休みとなってしまいました。