第150話:意味が分からないよ
こんにちは、暁改めアイラです。
ウェリントンの墓参りに来たはずのボクたちは、気がつけばウェリントンで生活していた。
コレを仕組んだのはノヴァリスらしいが、彼女はすでに死んでいるらしい。
そしてなぜかオルセーも訳知り顔で苦笑いしているのだった。
子どもに聴かせる話ではないからとリリを神楽に任せて散歩をさせて、その間に二人の話を聞いた。
けれど、何を言ってるのかわからなかった。
このノヴァリスとオルセーというのは、ウェリントン子ども組の中でも頭より体が動く子で、説明が下手だった。
それでも辛うじて聞き取れた内容はとても理解できる内容ではなかったのだ。
ノヴァリスの話を要約すると
あの襲撃の夜、彼女とアルンもケイトやモーラの例に漏れず、執拗な暴行をくわえられていた。
しかし、いち早く救援部隊の来襲に気付いたらしい賊は二人の口に布を詰めて、担いで逃げ始めた。
逃げる為の人質か、奴隷にするか・・・そんなことを言っていたと言う。
ノヴァリスらの家を襲撃していた賊は3人だったが隣の教会を襲っていたらしい2人が、ジジイ一人しか居なかったとぼやいて合流していた為、相手は5人組の賊、ノヴァリスも、きっとアルンも、コレからに絶望していたらしい。
森の中に入ってしばらくすると賊の一人が悲鳴をあげたそうだ。
「その賊は横合いから出てきた補食型のエントに、脚を刺されていた、残りの四人はね、そいつを見捨てる選択をしたの、どうせもう走れない以上助かる見込みはなかったから」
「それから少し走って、私が担がれてたから気分悪くしてね、口の中にパンツ突っ込まれてたからさ、吐いた物が喉に詰まってね、でも臭いで私がそういう状態って言うのが判ったらしいの」
「それで次のエントに遭遇したときに私を囮にしたの、補食型エントでも最弱最悪の、生きたまま丸呑みして、液体につけて徐々に溶かしていくやつだった。」
最弱最悪のと言うことは、ウツボカズラみたいなやつのことだろう。
連中は動きが緩慢で刃物に弱い、動物を捕まえてその体内の液体で徐々に溶かすのだけれど、歩くときには口を横にしないと歩けないため餌に脱出される。
そのため補食中は上に口を向けて立ちっぱなし、しかも仔ウサギ一匹消化し始めるのに三日三晩かかる上に、人の爪でも同じところを擦り続ければ繊維を裂けるほど構造が脆いそうだ。
(その分なのか打撃には滅法強いが)
「あいつら弱いからさ、刃物があるなら、戦えば倒せるはずなのに、奴らは私を放り捨てた。私は必死にね、丸呑みしようとするその口を手で抑えて、耐えてたんだけど気分悪かったし、ナイフとかもなかったからさ、時間の問題だった。」
大人から見れば弱い魔物でも女の子には充分に脅威であろう
「そしたらあいつらが逃げた方からね、アルン姉が走って来て、私を押し退けて、食われた。」
アルンは内側からノヴァリスにこう言ったそうだ。
『私はコイツにはやられない、逃げられるから、ノヴァリスは早くウェリントンに走りなさい』
ノヴァリスはすぐに助けるから一緒に逃げようと提案したけれどその提案は叶えられることはなかった。
アルンが走ってきた方から賊たちが走って来て、一瞬自分達を捕まえ直しに来たのかと思ったら、セラファントに終われて逃げていたのだそうだ。
セラファントは主にエントを食べる雑食の魔物で、大食のため体の大きく動きの鈍いエントを狙うが、冬は繁殖期のため、種族を問わず雌を狙う。
同種でも異種でも子を成せるが故にセラファントは人の娘も狙うが、立ちはだかる牡は殺す。
故に賊たちはセラファントに追われたのだろう。
「私は逃げた。絶対アルン姉を助けるから、絶対に戻ってくるからって思うと、吐き気なんかもう気にならなかった、絶対に助けを呼んで、アルン姉を助けるんだって走って・・・でも途中で、イバラ型のエントに襲われた。脚をとられた私は逃げられなくなった」
イバラ型は動物を絡めとり失血させる移動しないエントで、セラファント対策の毒を持っている種類、村から4キロ以上離れたところにしかいないはずのものだ。
「私のお腹や背中に棘が突き刺さって、すごく痛かった、もうダメかなって思った。そうしたらまた別のエントが出てきて、最初に賊の脚を刺したやつと同じ種類のやつが私の血の臭いで寄ってきたの、それでその二匹がケンカをはじめて私は力の入らない体で逃げ始めた。脚も筋を切られてたから、腕の力だけで、そうしたら次に出てきたのが、やどり木型のエントで、私は洞穴にもって帰られて苗床にされた。」
傷口や口などから体内に種をまくタイプは女性にとっては特に嫌悪感の強いエントである。
その時のことを思い出したのか一瞬俯いて顔をしかめるノヴァリスはしかしすぐに頭をあげた。
「苗床にされてから放り捨てられて体に蔦が這っていく感じがしてね気がついたら不思議なことにまた歩ける様になってたんだよ。私を苗床にしたエントはもう居なかった。私は、私のすぐ近くに柄の長い斧が有るのに気づいて、それを引き抜いて、アルン姉を助けに向かった。」
結論から言えば、アルンは助けられなかった。
否、とっくに誰も居なかったという。
「それもそのはず、私が起きたときにはもう、ウェリントンの襲撃から6年近く経ってたんだから。それが判ったのも、オルセーと再会してからだけどね」
オルセーの方をみて頬笑むノヴァリスのあの頃のままのいたずらっぽい笑顔。
「そもそも、なんでオルセーがいるの?うれしいよ?うれしいけどさ、ボクたち皆で見送ったよ?それは覚え間違いないよね?」
オルセーは悲しそうに笑い
「まぁあたしのことも気になるかもだけど、先にノヴァリスの話を聞き終わってからね?」
アルンが食われたはずの地点にはすでになにもなく、声をあげて泣いたノヴァリスは、やがて近付いてくるものたちに気付いた。
そいつらは迂闊にも下卑た声で村娘か?魔物にでも襲われたか?
いやぁ生き残って災難だったね、俺たちが美味しく頂いておこう。
と、いった様な内容を話していたらしい。
そうして・・・
「どういうわけかその人たちが、悪意をもってウェリントンに近づいているのが分かったから、私は斧を振り回して戦った。戦いながら気付いたけれど、斧には不思議な力があって、そいつらはいつのまにかお互いで殺しあって死んでいった。ちょっと違うか、私が切り殺した者がいつのまにか立ち上がって、まだ生きているそいつらに切りかかった。」
そうして出会ってから二時間もしたら、ノヴァリス以外だれも立っていなかったらしい。
「連中を片付けた時、不思議となんの感動もなかった。ただもしかしたら姉は、ウェリントンに逃れているかもしれないと、私はウェリントンに向かったんだ。」
そこでノヴァリスが見たものは、すでに草が生い茂り、ほとんどなにも残っていない故郷の村。
無事だった家もほとんどボクたちが棺の材料にしたため無事だったのは教会と船小屋くらいのはずで、事実サークラたちが墓参りした際はそういう有様であったという。
高台の墓場までたどり着いたとき、立ち並ぶ墓に自分と姉や何人かの名前がないことに気付いて、オルセーに再会した。
それからノヴァリスは斧の力を使いこなし、記憶の限り村を建て直して村を守るための結界を張った。
斧の能力で産み出したウッドゴーレムたちが、かつての村人たちの代わりに生活し、ウェリントンを知るもの以外入ってこられない幻術の結界を施した、そんなノヴァリスの夢の世界。
それが・・・
「ここで待っていて良かった。ようやく、アイラたちに会えた。」
ノヴァリスは涙を浮かべて、ボクの手を掴んだ。
(冷たい。)
「ずっと考えてたの、もしかしたら生き残った人たちはウェリントンのことなんて覚えてないんじゃないかって、もしそうなら、許せないとも思えた。私はここでずっと待ってたのに・・・でも良かった、覚えていてくれて、これで心置きなくアルン姉をさがしに行ける。」
そのまま崩れる様に膝を折る
アイリスとエッラがノヴァリスに駆け寄った
「じゃあ次はあたしの番かな?」
先程は固辞したオルセーがノヴァリスの肩を慰める様に撫でながら口を開く
「オルセー・・・」
「オルセーちゃん」
ノヴァリスの体にさわりながらオルセーを見つめるアイリスとエッラ、ボクも無論オルセーの言葉を聞き逃すまいと見つめる。
「まず最初に言っておくと、あたしは、オルセー・グランデじゃない」
その一言目はあまりにもあんまりな言葉
「何を言ってるの!?いや、でもそうか、オルセーは死んだもの、ここにいるはずがない、でも、だったらどうしてこんなにもオルセーそのものなの?」
「そうよ貴方はオルセーだわ、話し方も、笑いかたも記憶の中のオルセーそのものよ、オルセーじゃないと言うなら貴方は誰なの?」
エッラは困惑している、さきほどからの話の急転に追い付けていない
「アイラ、ナタリィを覚えている?」
無論覚えているとも、無言で首肯する。
「じゃあ、フィー、ゼファー、ダリーのことは?」
「覚えてるよ!それがなにさ!?」
その3人はドラグーンであるナタリィの御付きの様なものたちだ。
「あたしは、フィーたちと同じものになったの・・・だから、皆が見送ってくれたオルセーと今のあたしは同じ魂を持っているけど、今のあたしはドラゴニュートのオルセーなんだ。」
(なにを言ってるのか全く分からない。)
「あたしは、ナタリィの助けでオルセーのまま生まれ変わったの、あの時ゆっくりと死ぬだけだったあたしにナタリィは聞いた、選ばせてくれた。このままゆっくりと死ぬか、死んでオルセーのまま生まれ変わるか。」
(転生?ナタリィたちは意図的に転生を引き起こせると言うことか?)
「生まれ変わったのだとして、それではなんでオルセーと顔かたちがそっくりそのままなの?」
「これはあたしがあたしをこういうものだって認識してるからなんだってさ」
ナタリィがそう言っていたと言うことか?意味は分からないが本人の認識が、外形に影響すると言うことか
「オルセーが帰って来ることを、テオロさんとオルリールさんは知ってたの?」
「そうだよ、ナタリィたちとパパママと皆で話し合って決めて、転生には、龍の島に帰ってから準備が必要だから、帰ってくるのに最低でも5年はかかるし、成功率も絶対じゃない、転生してもオルセーじゃなくなってしまう可能性も少しある。それでも私がまた皆と遊べる様になる可能性があるならって、話し合って決めたの、だから私は治療を止めて死んで、ナタリィたちに魂を運んで貰って、ナタリィの卵を使って転生させてもらって、人界に降りる許可を貰うために頑張って修業して・・・やっとウェリントンについたのに誰もいないんだもん・・・お墓がいっぱいあって、パパとママのお墓もあって・・・、あぁもう私の帰る場所ないんだなって・・・・」
オルセーは途中から泣いていた。
「あたしは泣いた。泣いて泣いて諦めた。折角人間であることを捨ててまで、帰ってきたのに誰もいなくって不貞腐れて寝たの、このまま朽ちてしまおうって思った、いっそオルセーの記憶がなくなればって思った。そうしたらね泣く声が聞こえたの。聞き覚えのある声だなって思って近づいていったら、ノヴァリスだった。嬉しかったけれど驚いたなぁ、最後に別れたときとほとんど同じ姿だったから」
オルセーの言ったことを整理すると、ドラグーンは特殊な儀式をおこなうことで、ドラグーンの無精卵と同意を得た魂とを使い、ドラゴニュートとして転生させることが可能で、成功率は絶対ではないが転生が可能らしい。
ボクはナタリィがドラグーンであると知っていたが、エッラたちやユーリはそれぞれ驚いていた。
ドラグーンは神話の存在だし、エッラたちからすればナタリィたちが!?という驚き。
でもその次のオルセーの言葉はよりボクたちを驚かせる。
「でもノヴァリスを一目みて、あたしは気が付いたんだ。ノヴァリスが魔王になっている事に。」
なるべく早めにノヴァリス視点とオルセー視点も用意したいのですが、なかなか感情を表現できず滞っております、なるべく早くしたいと思います。