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第149話:幸せ2

 こんにちは、アイラです。

 里帰りしてから2週間が経ちましたが未だにウェリントンにいます。

 なにかやらないといけないことや、約束があった気もするのですが、居心地の良い古巣から出るに出られません。


「ん・・・うぅ・・・?」

 カーテンの間から射し込む日射しに目を覚ます。

 頭がちょっと痛い、目の前にある可愛らしくも凛凛しい寝顔を見て思い出すが、ちょっと夜更ししすぎた様だ。


「ふいー」

 朝からお風呂に入るのもほとんど毎日のことになってしまった。

 仕方ないよね、本も新聞も仕事もないから、家でやれることが少ないんだ。

 内職手伝おうとしたら要らないって言われちゃったし。


「そろそろ帰ることも考えないとなぁ」

 居心地がいい実家だけれど、ずっとここに住むわけにも行かないだろう。

 それになにかやらないといけないことがあった気がするし、妙に胸騒ぎがするときもある。


 それにリリがどういうわけかいつまでたっても両親にも村人にも懐いてくれない、唯一懐いているのがオルセーくらいだ。

 これさえなければ、ウェリントンの様な自然一杯な田舎での子育ても悪くないのだけれど。

「よし!」

 ザバっと音を立ててお風呂を上がるとボクは台所へ。


 台所に着くと父は食卓に座りなにかの図面を凝視していて、母は食事を作っていた。

「母さん、ボクも手伝うね」

 スッと隣に入り、自然に調理を引き継ぐ、母さんとももっと一緒にいたいけれどそろそろ潮時かなと思う。

(潮時?ボクはなにか選択を強いられている訳ではないのに、なぜそんな言葉が胸に浮かぶのだろう?)


 朝食後、今日はお休みの日なので、リリを連れてお散歩することにした。

 リリは家に一人にすると泣いてしまうので、こうやってよく連れて歩く。

 間にリリを挟んでユーリとまったりお散歩、リリはなんとか楽しそうにしているが、やはり少し不安が見て取れる。


「なんで、リリ落ち着かないんだろ?」

 夫に視線をやると、ユーリは少し考え込んでから

「田舎で虫や魔物が多いからかな?リリは勘が良い子だから気配にも敏感なのかも?」

 と、憶測を述べる。


 両親に孫を抱かせたいのだが、あまりにもリリが嫌がるので両親が顔を見れただけでいい、あまり無理強いしてやらないでくれと自ら身を引いた。

 申し訳ないと思う。

 リリはこんなにかわいいのに、父母に抱かせてはやれないのだ。


 リリの歩きたい様に歩かせていると教会についた。

 中に入っていくと懺悔室が倒れていた。

 なんでそのままなのかわからないけれどなにか訳あってのことかも知れないから放置しておこう。


「神父様、お久しぶりです。」

 倒れた懺悔室の事など目に入っていない様子でマディソン神父が祭壇の辺りでなにか作業をしていらしたので挨拶をする。

 珍しく今日はボクの事をちゃんとアイラだと認識できている様子だ。


 神父のこともやっぱりリリが怖がってしまった。

「こらリリ、神父様に失礼でしょ?すみません神父様」

 気のいいマディソン神父はカタカタと笑い許してくれたが、リリは結局神父様の顔も見ようとはしなかった。


 教会を出ると丁度カグラとエッラが散歩していたので声を掛ける。

 するとどこから聞いていたのかアイリスがリルルと一緒に駆け寄ってきた。

「アイラ、お散歩中?」

「うん、このまま高台の方までいってみようかなって」

 教会の近くには高台があって、そこは本来墓地だけれどまだ歴史の浅いウェリントンでは、墓は数えるほどしかないのと、見晴らしがよいので子どもの頃はよく名前の刻まれていない、一番奥の墓にお邪魔していたものだ。


 そのまま七人で歩くことになった。

 2分ほどで高台の上の方に着くと先客がいた。

「オルセー、どうしたのこんなところで、泣いてるの?」

 オルセーは瞳に涙を溜めていた。


「んにゃー?アイラが戻ってきてから毎日楽しいなぁって、アイラ、前にお別れしたときの事覚えてる?」

 お別れって言うと、ボクがウェリントンを出たときか

 もう9年も前のことだからかあまり覚えていない、幼かったとはいえ、故郷を出発する時のことだから、覚えていそうなものだけれども、なんで覚えていないんだろう?


「ごめんオルセー、あんまり覚えていない。」

「そっか、仕方ないなー、アイラ今と違ってちびっ子だったもんね」

 そういってオルセーはチロリと舌を出す、その赤さに何かを思い出してドキリとする。

「ちびっ子って、それを言ったらオルセーなんて未だにちびっ子じゃない」

 自分の言葉に違和感がある、どうしてオルセーがこんなに小さい?

 オルセーはボクより年上だったはずなのに、なんでこんなに小さいんだろう?


「アイラとはね、今度また遊ぼうねって約束したんだよ」

 そういってオルセーは振り向く。

「そんなのここのところ毎日遊んでるじゃない、リリもオルセーには人見知りしないし、助かってる。」


「そうだね、毎日楽しいなぁ・・・でもね、そろそろ終わりにしないといけないんだ。」

 そういってオルセーは墓の前から立ち上がる。

 墓・・・誰の?


 オルセーが立ち上がったことで今までその体で隠れていた名前が見える。

 リルル=リン=リルレー・・・・?

(!?)

 慌てて振り向く、後ろにはユーリ、リリ、アイリス、カグラ、エッラの5人

「アイリス!リルルはどこにいったの!?」

(なんのいたずらだ!たちが悪い)


 ボクの剣幕にアイリスは少したじろいで、それでもすぐに

「どこって、アイラの隣にいるじゃない」

 と、困った顔で答える。

 慌てて自分の左右を見渡すとすぐ隣に130センチほどのマネキンの様な木製の人形が立っていた。


 その人形は首をかしげる様なポーズをしたあと、片腕をボクのおでこにあてる。

 なんと言っているか分かる。

 これは、『大丈夫?お熱でもあるの?』だ。

「うわぁ!?」

 思わずその腕をはね除けて飛び退く。


「ちょっとアイラ!リルルが可哀相じゃない!ただでさえ体が弱いのに!」

 エッラはボクを責め、アイリスは大丈夫?と人形にかけよりボクを睨む。

(これは、なんだ・・・!?)


「あら、アイラさんはもうお人形遊びには飽きてしまいました?」

 女の子の声がしてすぐにそちらを見ると、特徴的な赤毛のサイドテールの女の子がいた。

「アルン!?君は本物?」

 ボクは混乱している、今もアイリスたちにはこの人形がリルルに見えている、それならばこの目の前のアルンも人形かもしれない。


「うーん、どうでしょうか?ちょっと遊んでみたら分かるのではなくて?」

 思い返す、アルンはエッラより年上の女の子だ。

 それが今こんなにも、若々しいを通り越して、ボクと同じくらいの見た目をしているものだろうか?

 あぁでも、エッラは今も顔は童顔だし、身長も低いので胸以外は10台前半と言われてもしんじられるか・・・。


 わからない・・・

「ねぇ、オルセーさんはどう思う?私は本物のアルンかしら?」

 アルンはオルセーの方を見る。

 ボクも追い掛けてオルセーを見ると、オルセーは涙を流していた。

「ありがとうね、これは私のために見せてくれた夢だったんだよね?」

(夢・・・?オルセーの為の?どこからどこまでが?)


「べつに、オルセーさんの為じゃないわ、コレは、私の為の夢よ、そうでなくてはいけないの!」

 アルンは怒った様な声をあげる。

「アルン、オルセー、どういうこと、なにを言ってるの?」


「賢いアイラさんでもさすがについてこれないか・・・でもうれしいわ、私たちの事を忘れたわけではなかったのね。私とオルセーがここに帰ってきて三年ちょっと経つのに、今まで誰も来なかったから。てっきり私みたいに、死体が見つからなかったか、もうウェリントンのことなんて覚えてないんじゃないかって心配していたのよ?」

(アルンの死体・・・?)


「何を言ってるのアルン、なにか様子がおかしいわ?」

 エッラが頭を抑えながらアルンに問いかける。

「そーね、私はもうとっくにおかしいわ」

 アルンはそういって手を振るった。

「きゃ!?」

 アイリスが小さく悲鳴をあげて、リルルのふりをしていた人形から離れた。


 同時にボクは全てを思い出した。

 周りを見るとたくさんの墓が並ぶ。

 ただそれらは記憶の中のそれらよりも綺麗に整備されていて、誰かが時間をかけて墓を整えたのが判った。

 高台から村の方を見下ろすと。

 木で出来た人形たちが、村中を闊歩していて、そこかしこで集まって話し込んだり、広場のベンチに座ったりしていた。


「ねぇアイラさん、どうだったかしら、久しぶりのウェリントンは、楽しかった?貴方だけかかり・・・が悪くて大変だったのよ?あぁ大変といえば貴方の娘もか、最初すぐにかかったのに、そのあととけちやったのよね。」

 どうもボクとリリ以外はまだ『夢』の途中なのか?


「ねぇアルン、何を言ってるの?怖いよ、なんでこんな震えが止まらないの?」

「アルン?オルセー?リルルはどこに行ったの?」

 アイリスとエッラは怯えていて、神楽とユーリはどうしていいのか分からない感じ


 何となく見えてきた。

「ねぇノヴァリス、なんでこんなことをしたの?」

 まず目の前の彼女はアルンではない

 ノヴァリスは目を大きく見開いた。

「驚いた、アイラは本当に賢いんだね、どうして私がノヴァリスってバレたのかな?」

 

「さっき私みたいに死体が見つかってないって言ったでしょ?その『私』が誰なのか、考えてみたんだ。今目の前にいるのが本当のアルンなら自分のことを死体だなんて言わないよ、アルンは計算高くて臆病者なんだから、だから目の前で笑っているのは多分ノヴァリスだって思った。生きてたんだね。」

 そういうとノヴァリスは、少しだけ嬉しそうに言う。


「そっか、半分不正解かな?私はノヴァリス・パースフィス、だけどノヴァリスはもう死んでるんだよ、私の死体と言ったのは、アイラの言う通りアルン姉のことだけれどね。」

「ねぇ死んだとか死体とか、なに言ってるの?怖いよ?」

 アイリスは怯えてしまっている。


「君が死んでいたとして、なんで、こんなことになってるの?目的は?」

 アイリスもエッラも先程までのボクと同じ様に、ウェリントンの襲撃の事を忘れさせられているのだろう。

 思わず、ノヴァリスを睨み付けてしまう。


「ボクは偽物とはいえまた、故郷を失ってしまった。この2週間ほどのトーレスや父母との記憶も全部、幻覚だったんだね?」

 涙が溢れる。


「ごめんね騙すつもりはなかったんだよ、ただこのウェリントンは、私がここで誰かを待つ間、寂しくなくするための夢だった、私もいつの間にか夢だと言うのを忘れてたけどさ」

 悪気はなかったのだと、悲しそうにノヴァリスは言う。

 なんなんだろう、この状況は、それに・・・。


(アレらが夢だったとして、どうして今ボクの隣にいるオルセーは消えていないんだろうか?)

 そもそも夢っていうのはなんだ?あの人形たちはなんなんだ。

「ノヴァリス、まずはさアイリスたちの事を元に戻そう?」

 オルセーが提案するとノヴァリスは小さく頷いて、何かの術を唱えた。


 すると村中にうごめいていた人形たちは全て動きを止めてその場で糸が切れたみたいに倒れ込んだ。

 直後に始まったアイリスとエッラの叫びは、混乱したユーリと神楽の涙は、落ち着くまで時間がかかった。


 それらがなんとか収まったあとで、ノヴァリスは落ち着いた口調で話し出した。


しばらく考えましたが、この国境なきサテュロスが終わったらお話を一区切りして、タイトルをわけて、方式を変えてみて続きを、と考えています。

まだ大分先の話なので気持ちが変わるかもしれないですが

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