表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/182

第145話:明日歌う歌

 こんにちは、暁改めアイラです。

 楽しい月日は、あっという間に過ぎ去ってしまう。

 夏に次期生徒会長がアミに決まり、隣でずっと仕事を見てきた彼女には引き継ぎや教育の必要もほとんどなくて、秋には会長職を譲った。

 もちろんそれで終わりではなくて、生徒会の仕事は手伝っていたけれど肩書きが外れたことでボクは少し落ち着いた様な寂しいような不思議な気分を味わった。


 冬に差し掛かった頃には、サリィ姉様に待望の王子が誕生した。

 その日のうちにユーリとボクとが城に呼び出されて、名前をつけて欲しいとサリィから頼まれたユーリが恥ずかしそうにしていたのが今も瞼に焼き付いている。


 アルタイルと名付けられた王子は、鑑定の結果、鑑定と強運、水棲を保有していることが判明していて、ジークが鑑定持ちの誕生したことを喜んでいた。

 同時に曾孫の存在がかわいくてたまらないといって、曾孫に乳をやる孫の姿を見ようとしてフローリアン様に叱られていた。


 ボクの在学中のイベント事も全て片付いて、残すは卒業式のみとなって

 友人たちの進路は、実家に戻るものがほとんどでノヴォトニーとソニアが結婚のためホーリーウッド市のホーリーウッド側に中古の家を買って移り住むのと

 アイヴィがホーリーウッドの近衛としてディバインシャフト城に住み込みで働く様になったことくらいか?


 ハスターはアミにプロポーズして、アミは卒業後もボクに仕えてもいいのならと条件付きでオーケーを出した。

 ハスターも優秀なので、今年はアミとクラウディアで暮らして、来年アミと一緒にホーリーウッドに来てくれる予定。

 その間は実家で暮らしつつ軽めのダンジョンを探索して生計を立てるらしい。


 サーニャとリスティは精霊の森に、オーティスとアンリエッテも故郷の町に帰る。

 フィーナは既に家をでていて新婚生活中のため卒業後しばらくは子孫繁栄に努めてそれから軍官学校の教官になる予定らしい。



 明日、とうとうボクたちも卒業という日。

 途中で戦争が始まった時はどうなるかとも思ったけれど・・・予定より2年遅れたけれどこれでホーリーウッドに帰れる。


 トリエラとアニスに手伝ってもらって部屋を片付けていたのだけれど色々懐かしい物も出てきて、ついつい思い出に浸ってしまう。

 ボクたちがホーリーウッドに帰るとこの屋敷には、アニス、ノラ、リウィ、アイビス、テティス、シャオ、フラン、アミ、通いのエリナだけになってしまう。

 アリーシャとアリエスも予定より2年も長く屋敷につなぎ止めてしまった。

 今後はアルタイルとサリィに仕える近衛メイドに加わるらしく、アリエスが涎を垂らして喜んでいた。


「来週からお屋敷の人数一気に減るけど、アニスは寂しくない?」

 まだ11歳の妹を王都に残していくのは少し不安

「大丈夫だよ?もう小さなこどもじゃないんだし、おねえちゃんの見張りがなくってもシグルドを連れ込んだりもしないから安心して」


 そういってイタズラっぽく笑うアニスは年相応に幼く、同時に大人びてきている。

「アニスが美人になってきてるから、お姉ちゃんは心配、シグルドが我慢できなくなるかも」

 優しいとはいえ男は男、普段は理性で抑えていてもなにがきっかけで若さが暴走するかわからない。

「シグルドはそんな度胸ないから平気だよ?」

 あっけらかんと笑い否定するアニス、結婚を考えている年上の男に自分を押し倒す度胸はないと笑っていう少女・・・末恐ろしい。


「アニス、お姉ちゃんたちは先にホーリーウッドに戻るけど、例のダンジョン攻略の前なんかはこっちにも顔を見せるからよろしくね?」

 アニスの頭を撫でる。

「うーん、お姉ちゃんさ?ひょっとして私がお姉ちゃんたちを恋しがって泣くとか思ってない?私は物心ついてから半分くらいはお姉ちゃんたちと居ないんだから、心配しなくていいんだよ?ノラおねーちゃんやリウィちゃんもいるし。ティスやシャオちゃんもいる。城に行けばリアン様やサリィお姉さんもいる。寂しくなんてないよ?」 


 そういえばそうなのかな?アニスは今11歳後半、物心がついて7、8年くらいか?

 ウェリントンの頃のことはほとんど覚えていないしそのあともボクたちだけで学校に来ていた期間は寂しい思いをさせていたかも知れない。

「それより、おばあちゃんがさみしがってるだろうから、帰ったらリリたちを抱かせてあげてね」

 シグルドの話の時とはうって変わって、慈母の様な笑みを湛える妹、その落差にボクは少しだけ不安を覚えた。



 卒業式を迎えるにあたり、ボクは卒業生の代表としての答辞の役目を務める。

 なお送辞の役はアミだったのだけれど「来年追いかけますから待っていてください、アイラちゃん先輩」なんて公衆の面前で言われた時にはどうしようかと思ったね。


 答辞で校庭に用意された壇上に再度上がる時、これが最期だと思うと少しソワソワした。

 それでもなんとか、暗記してきた原稿に少しアレンジして、教官方や、卒業式に参加してくれた在校生や来賓たちを泣かせることに成功、自分は優雅に壇上を後にしようとしたところ。


「おねえちゃん!!」

「アイラちゃん先輩!!」

 とアニスやアミら知りあいの後輩たちが一斉に立ちあがりボクを呼び止めた。

 進行には含まれない展開にボクは少しだけ混乱して立ち止まり。

 その後醜態をさらすことになる。


 立ち止まったボクをみつめながらアミとアニスがまずは二人で歌い始める。

 それは戦後連邦で人気の希望を謳う歌。

 アミのアルトとアニスのソプラノがきれいにハモる。


 突然歌い始めた妹とお気に入りの後輩の姿に、ボクの思考は追い付くことができず戸惑う。

 ただその希望の歌は、母を喪った子のささやかな明日への展望を歌ったもので、ただでさえ卒業でナイーブになっていたボクの胸によく刺さった。


 なぜこのタイミングで?と不審がる来賓や教官方も、次第に増えていく在校生たちの声に、無様に泣顔をさらしている卒業生代表の姿に、多分これが彼の女生徒の好きな歌なのだろう程度の認識でこの生徒たちの演出を受け入れた。

 以降卒業式の際に参加する在校生が生徒会長を務めた生徒を泣かせるための演出や出し物を毎年やる様になったそうだがこれは翌年アミに聴く話。



「アニスー!」

 ボクは怒った。

 式が終わり皆、思い思いに友人たちと別れを惜しむ中、妹の姿を見つけて声をあげる。

「格好よく締めくくりたかったのに、よくも泣かせてくれたねー!」

 実際そう怒っている訳でなくて、単なる照れ隠しである。

 だって式後、後輩や来賓から「泣顔はじめて拝見したけれど可愛かったです。」とか「側室いっぱいだし夫婦生活に不安があるかも知れないけれど頑張ってね」なんて優しい・・・言葉を沢山頂いて、今まで築き上げて来た、頼られたいのになかなか弱味をみせないしっかりものの妹系勇者会長のイメージが崩れてしまった。


「お姉ちゃん、顔が笑ってる。」

 逃げるアニスを追いかけて、捕まえて、抱き締めて、ボクは輝かしい明日からの生活に思いを馳せた。



 これから一旦は新しい生活の場に身を移し、連邦は3月に控えたアスタリ湖ダンジョン制圧に向けて用意をする。

 少し期間を空けるのは、冬場のアスタリ湖には魔物ではない巨大なヘラジカが群れていて危険だからだそうだ。

 春になれば角が抜けて、バラけて山に帰るのでその後に挑むのだ。


 予定では認定勇者21名と量産型セイバー装備兵40名、王国軍の中級以上の治癒術士10名と冒険者や卒業生を200名程度をダンジョンに投入して、ダンジョン内外にキャンプ地を用意しての大規模な作戦を計画している。


 我が家からはユーリ、ボク、アイリス、エッラ、神楽、トリエラ、ナディア、エイラが参加する予定である。

 その間リリは大人しくしてくれるといいのだけれど、説得するしかないかな?



 10月27日早朝ボクたちはクラウディアを発った。

 見送りにジークやサリィも来てくれた。

「これからは早々アイラちゃんにも会えなくなりますね。」

「通信機がありますからサリィ姉様に呼ばれたらすぐに飛んできます」

 さすがにまだアルタイルはお見送りには連れ出せずにお留守番、昨夜お城でささやかなお別れパーティーもしてもらったのでその時にユーリはずっと抱き締めていた。


 一番ダメージが大きいのはシャオだった。

「うにゃーん!アイラお姉様!旦那様ぁ!トリエラさん!シャオもすぐに追いかけますからぁ!絶対忘れないでくださいよぉぉぉ!?」

 ボロボロ泣き崩れてボクにすがるシャオはテティスに慰められていた

「シャオお姉ちゃん、テティスだってママたちと離れるのよ?でもテティスが泣いたらママたちが安心できないから泣かないの。だからシャオお姉ちゃんも泣かないで?」

「だってー」

 普段は勝気なのに寂しがり屋のシャオ、しゃべり方は幼いままだけれど大分成長が見られるテティス

 それが見られて安心できた。

(この二人を組み合わせたのはなかなか正解だったかも知れない。)


 ボクたちは三台の馬車に別れて12人の警備とともにホーリーウッドへの帰路についた。

 以前と異なり馬車に補助動力がついている、山道も悪路もスイスイ行けるため、わずか七日間でホーリーウッドにたどり着ける。

 リリを膝に載せ、ユーリに抱かれ眠るプリムラを撫でながら、ボクは何となく耳に残っている歌を口ずさみ始めた。


アニスとアイラが一緒に居られる貴重な時期だったので出番を増やしたかったですが、余り増えませんでした。

本当はきっと色々なドラマがあったはずなのでいつか少しくらい書けたらと思います。

ここから先は飛ばせる箇所が少ないので次の次くらいから武器拾い頑張ります(アイラと神楽が)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ