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第142話:妹の初恋と姉の役目

 こんにちは、暁改めアイラです。

 軍官学校に正式に新入生が入ってきました。

 新入生の初授業の日の放課後後シグルドの訓練をしている闘技場にやって来たアニスが、ボクとそれなりの人数の公衆の面前でシグルドをキスで強襲し、その後彼と婚約したいと言い出しました。

 ハンナ母さん、エドガー父さん、ボクはどうすればいいのでしょうか?



 少しの静寂のあと、末妹の放った一言は、ボクを大いに混乱させた。

(なにを?今婚約と言ったの?)

 気圧されてはいけない、姉として、ユーリの正妻として威厳を保たねば。

「アニス、何を言っているか分かってる?一応聞くけれどシグルドと面識があったわけではないよね?」

 アニスが王都に来たのは2回目で前回の終戦直後はシグルドはクラウディアにはいなかったはず。

 今回もクラウディアにきてから、適性試験の日以外は屋敷で赤ちゃんたちと遊んでいて、適性試験の日はずっとシャオたちと一緒にいたはずだ。


 知り合うタイミングはなかったはずだけれど、名前を知っていたのは毎日の様にここでユーリがシグルドに稽古をつけてるのはそれなりに知られているから誰かに聞いて分かったとしても、それでいきなり婚約なんて発想にはならないはずだ。

 もしかしたらボクの知らないところで面識があったのかも、と少しだけ期待して尋ねてみるが


「ううん、顔をみたのは今がはじめて、名前を聞いたときから早く会いたいと思ってた。」

 そういって邪気なく笑う。

「だったらなんで・・・」

 そんな大事なことを言ってしまえるのか、初対面の人に唇を捧げられるほど奔放な娘に育ってしまったのだろうか?


「なんでって、それは運命を感じたからだよ、私はシグルドと出会うべくして出会った。それが理解できたからだよ?お姉ちゃんもそんな経験あったんじゃない?」

 そういって好奇心の強い目でボクとユーリとを見て、それからアニスはいまだぼんやりしたままでいるシグルドに顔を向けると


「シグルドはどうかな?私のこと嫌い?私のチュー嫌だった?」

 声をかけられてはじめて、今のがキスであったことに気付いた様にシグルドはビクリと体を動かした。

「自分は、今のがはじめてでした。もっとその、女性は雰囲気とか相手との関係を気にするものだと思ってたんですが、戯れに口付けるものなのでしょうか?それなのに自分はこんなにも昂っているのでしょうか?」


 シグルドはどうもアニスのキスが気持ち良かったらしい。

よろよろと立ち上がりながら、アニスの方を見つめる。

 顔が真っ赤だ。

「私のチュー気持ち良かったんだ?良かった。私もお姉ちゃんたち以外にするの初めてだったんだ。」

 どうも幼い頃のノラやエッラとのキスは計上されていないか、覚えていないらしい。

 シグルドの反応をみたアニスは嬉しそうに頬を綻ばす。

 その表情にあるのは安堵と喜びの色、本当にうれしいという感情。


 並の感性の男なら即死させる様な笑顔を浮かべた美少女、それを真正面から受けた純朴なシグルドは顔をさらに真っ赤にして崩れ落ちた。

 場内はざわついていて、アニスだけが余裕の表情を浮かべている。

 ひとまずは両親代わりの姉としての役目を果たさないと、クラウディアにいる中で一番上の実姉としての面目が立たない。

 倒れたシグルドは放って置こう、頭は打ってないみたいだし


「アニス、ひとめぼれだと考えていい?」

 ひとまずは意思の確認。

「はい、そう考えてもらって構いません」

 アニスは淀むことのない真っ直ぐな瞳で答える。

 ボクが真面目に訊いているのがわかってかそこにいつもの気楽さはない。


「シグルドもまんざらではなかった様だけれどひとめぼれでそう簡単に婚約はさせられない、でも男女の間のことは他人がどうこう言えることでもないし、幸いにして二人とも自由に恋愛できる立場でもある。」

 商人や職人にも政略的結婚が多い中、シグルドの家は武官の家柄ながら恋愛結婚推奨の家だし、うちは言わずもがなユーリ以外はみんな自分の意思で相手を選んでいる。


 ボクが淡々と話す間アニスは所々頷いて無言で結論を待っている。

「シグルドが学校を卒業するまでお付き合いしてみて、それまで気持ちが変わらなければ、ボクに異論はない、結婚をするならアニスの卒業後になるけれど学生の範囲でのお付き合いならボクは咎めない。」

 そこまで言ってやるとアニスは弛んだ顔で了承した。


 要するに、シグルドを卒業までに落として、その相思相愛を二人とも卒業するまで保ち続けなさいということだ。

「はい、お姉ちゃん!」

 ビシッと直立して条件を飲んだアニス、姉としての立場はこれでよいだろう、後は生徒会長としての立場だ。


「皆さんそういうことですので、ボクの妹がシグルドに恋をした様ですが、温かく見守ってやってください。あまりに目に余るアプローチをしてる様ならボクの方へ報告お願いします。相思相愛になった様ならそれはそれで報告をお願いします。」

 これで過激なアプローチは出来ないはずだ。

 10才の美少女から、15才の非モテ少年への恋とあって女の子からは応援の声が、男の子からは怨嗟の声が響くが、妹がこれからどうなるのかは見守るしかない。

 それともうひとつ姉であるボクのするべき挨拶がある。


「ルイーナは今朝以来だね、アニスと同じクラスだったの?」

 妹の友達への挨拶だ。

 アニスの基礎教育学校のお友だちには挨拶できなかったし、もう一人の妹(アイリス)の友達はボクにとっても級友や友達となり得る存在だったけれど、アニスの同級生はボクにとっては後輩で、頼れるところを見せておきたい相手だ。

 なるべくそれらしい姉を演じていたいのだ。


「はい、アイラ先輩私と、あ、紹介しますね、アニスちゃんに誘われて同じ班になったルティア・ウルスラちゃんです」

 そういってルイーナが紹介してくれた子は模擬戦の時アニスたちの横にいた子で、みた感じからアニスやルイーナより1つか2つ歳上に見える落ち着いた雰囲気の子だったが、その名前に違和感を覚える。

「それって確か今年の最年少の子の名前・・・?」

 そうつぶやくと、ルティアは少し嬉しそうな顔をして

「はい!今年唯一の9才です。ア、アイラ先輩も入学されたときは9才だったとうかがってます。私もアイラ先輩みたいな立派な魔法剣士になりたいと思っています!」

 と、少し興奮ぎみに応えた。


「ありがとう、ルティアの様な子がアニスと友達になってくれてうれしい。これから四年間、アニスの相手をしながらは大変かもしれないけれど勉強頑張ってね。」

 なんだこの大人びた9才は!?

 12、3才かと思ったのに、まさかの最年少生!

 なんとか平静を保ってみたけれど


 ルティアの身長は14才のボクとほとんど大差無い、ボクはまた大分成長して146センチまで伸びているのだけれど、まだわずかに成長は続いている。

 ルティアはみた感じ142センチといったところだ。

 9才としては大きい方で、深い青と緑の間の色の髪は落ち着いた印象を与え、胸も・・・・心なしかある!


「もー、おねえちゃん!?私の方がルティアよりお姉さんなんだけど!」

 なんて言ってアニスはプンプンしているけれど、二人並べたら100人中200人がルティアが歳上だと答えると思う。

 この数値は一度ネタばらししてもウッソだぁ、となる可能性を考慮したものだ。

「アイラ先輩、私はアニスさんのことも尊敬しています。今の告白にしたって、私にはとてもマネできそうにないですし、班決めであぶれかけてた私のことも、すぐに気づいて仲間に入れて下さいました。」


「そっかアニスもボクのよく知ってた頃のアニスではないんだもんね。子ども扱いしてごめん、でもシグルドとのことは条件変えないからね」

 子ども扱いを謝ったとたん、じゃあ!という表情を浮かべたので先に条件緩和がないことは伝える。

 するとちょうど、気を失っていたシグルドも目を覚ましたらしい。

「アイラ、シグルドが目を覚ましたみたいだよ」

 ユーリがわざわざ教えてくれた。


「シグルド、これからアニスが迷惑をかけるかも知れない、やり過ぎない様には言って聞かせるけれど、まずは君の大事な初めての・・・」

「いきなりちゅーしてごめんなさい!シグルド・・・先輩の初めてを奪ってごめんなさい、気持ちが抑えられなかったの!!」

 勢いのよいアニスの謝罪。

「いいえ、自分こそその、先程は戯れに等と言って申し訳ありませんでした。お気持ちは嬉しかったですし、アニス様は大変魅力的な方だと思います。」

 静かに、確かめる様に語るシグルドに、アニスは表情を明るくするが


「ですが、自分はアニス様と婚約はできません。」

 続いて紡がれた言葉にアニスは悲痛な表情を浮かべる。

「ですので、まずはお友だちから、はじめさせて頂けませんか?」

 そういって手を差し出すシグルド、そのシグルドの手はアニスのそれよりも遥かに大きく手の大きさでみればまるで親子だけれど。

「いいの・・・?」

 とアニスは涙を浮かべてその手を触るのが恐ろしいのか躊躇した。

「アニス様の様な美人に言い寄られてぐらつかない男はおりません、事実自分はアニス様の笑顔にその、気を失うほどのぼせてしまいました。」


 シグルドもアニスもすごくうぶで、見ている方が恥ずかしいくらい。

 先程はなんであんなにも積極的だったのかわからないほどだけれど、アニスはシグルドの手を握り、二人は友達になった。

 この二人が後にどんな伝説を打ち立てるのか、ボクはまだ知らないけれど、妹の初恋を応援したくない姉なんていない、相手がイイヤツならなおさらだ。



 帰宅後

「あ、アニス、聞いたよ!?フラれちゃったんだって?」

 玄関を開けると満面の笑顔のアイリスがボクたちを迎えた。

 そして、アニスに駆け寄るとその頭を抱き締め。

「お姉ちゃんが慰めてあげるよー」

 と言ってワシャワシャアニスの頭を撫でる。

 アニスは顔を真っ赤にして抵抗しながら

「違うし、友達から始めましょうって言われただけで、まだフラれてないし!!アイリスちゃんのクセにー!」

 なんて言って賑やかにしていた。

 どうもアニスは照れている様だ。


 クラウディアに来てからこっちボクはアニスのことをほとんど構ってこれなかった。

 無論、里帰りしていたときには可愛がっていたし、リリ妊娠中はほとんど毎日コミュニケーションをとっていたけれど、学校の友達やましてや好きなタイプの話なんてしたこともなかった。


 まさかのシグルドにひとめぼれとは思わなかったけれど

 シグルドは身長は15才にして178センチとなかなかの高身長、筋肉質で顔もなかなか格好いいし、剣技も同じ学年の中では上位で、ユーリを相手にしているせいで弱く見えるし、感覚に頼ったところがあるので上達もしていないが、性格もいいし、気遣いもそれなりにできる。

 ちょっと女の子にモテないのが珠に瑕だけれどそこは、付き合う女の子からすれば美点だし、かなりの有望株だ。

 そこまで考えて不審な気持ちになる。


(あれ・・・?シグルドってなんでモテないんだろう?)

 ユーリと訓練していて弱かろうが、普通に有望だ。

 家柄も代々上級武官を排出する家柄だし、問題ない。

 それがなぜあぁもモテないのか・・・?

 まぁいいか、そのお陰で友達からとはいえアニスの初恋が玉砕はせずにすんだのだから。


「こらアニス、アイリスの服が伸びちゃうよ、アイリスも励まそうとしてるのはわかるけど、ちょっとからかいすぎ」

 二人の関係は始まったばかり、これからもアニスが笑っていられることを祈るばかりだ。


しばらくお腹がなんかおかしくて病院に行ったら、腸内の無害な菌やら善玉菌が異常に増えてる状態による腸炎だと言われました。

・・・善玉?・・・無害?

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