第140話:最上級生として1
※3/17 オーティスが増えていたのを修正しました。
こんにちは、暁改めアイラです。
今日は軍官学校に新しい仲間を正式に迎える日です。
先日の適性試験の結果、アニスとリウィ、シャオとテティスは揃って剣士課となりました。
四人とも魔力は持っていますが、主人枠のアニスとシャオの身体スペックが高めなため剣士課になった様です。
「おねーちゃん!アイリスちゃん!早く早くぅ!」
同じ年ごろの時のボクの様に耳の高さで左右に結んだお下げがピョンピョンと飛び跳ねる。
つい先日、クラウディアに到着して適性試験による組分けが終わってから初めての登校、本当なら去年に入学できたのに戦争のため入学が遅れたアニスは、とうとう軍官学校に通えることが嬉しい様だ。
「もー!私もおねえちゃんなのにー!」
アニスは両腕でボクとアイリスの手を引っ張り、前へ前へと進もうとする。
平常時に走るのははしたないので、ボクが軽く抵抗してはや歩きくらいのスピードになっているけれど、アニスの力は存外強いようだ。
アイリス一人ならば完全にパワー負けしてなすがままになっているはずだ。
今日くらいはアニスを優先してあげることにしたので、リリはエイラが抱っこしている。
テティスはユーリと手を繋いで甘えていて、あぶれた?シャオとリウィが仲良く話をしている。
そんなボクたちは大人数な上に目立つ存在の集まりなので当然人目を引く。
「アイラちゃん先輩、ユークリッド殿下おはよーございます!かわいらしい方が増えてらっしゃいますね!」
「おはよう、マリエラ、君の方こそ可愛い子をつれているけれどそっちも妹ちゃんかな?」
顔見知りでユーリと同い年の赤毛の後輩がよく似た赤毛の一回り小柄な子を連れているので妹だろうと当たりをつけて話す。
「はい、剣士課に入る妹で・・・」
「ルイーナ」
マリエラが妹の名前を紹介しようとしたところ妹が先に名前を告げた。
「で、あってるよね?」
うちの妹が・・・
「・・・!?すごい、もううちの子の事を覚えてくださったんですね。ルイーナ、良かったねあんた目立たないのに。アイラちゃん先輩の妹君様だよ!?すごいよ!」
ルイーナと呼ばれた少女は目を見開いて驚きの表情を浮かべている。
「どこか、で・・・?」
目立たないと言われたルイーナは確かに地味な印象を受ける子だ。
同じ年の頃のノラを赤毛にしたら多分こんな感じかな?
ノラと比べてソバカスが少し多いかな?
そんな驚いているルイーナに、アニスは事も無げに答える。
「検査のとき、地味な子がいるなぁって逆に覚えちゃった。」
姉も認めたし、地味なのはたしかだけれど、それを面と向かって言うのはよくない。
「こらアニス、失礼でしょ!ごめんね?ルイーナちゃん、でいいんだよね?うちのアニスも剣士課なんだ。マイペースな子だけど気を悪くせずに友だちになってくれると嬉しいな。」
姉としての体面を意識しつつ、妹の同級生(組分けはどうかわからないが)に努めて優しくあいさつする。
「いいえ!いいえ、私地味ですから、名前を覚えてくれた子がいて嬉しいです。アイラ先輩もアニス様もよろしくお願いします。」
ニコニコして言うけれどずいぶん落ち着いた子らしい。
それに比べてうちのアニスは・・・
「アニス」
ぶっきらぼうに名前を呟く
「・・・?」
ルイーナは困った様子だ、顔は笑顔のままであるけれど
するとアニスはルイーナの手を取り言葉を継ぐ。
「アニスでいいよ、私もイーナって呼ぶから。」
と告げた。
アニスはどうやらこのルイーナが気に入ったらしい。
ノラと似てるからとかじゃないといいけど。
「えっと、いいの?」
ルイーナの問いかけに小さく首肯くアニス、ルイーナは先程までの笑顔が霞むくらいの笑顔になった。
「じゃあアニスちゃん!って呼ぶね?」
「うん、よろしくイーナ。」
「出会って足掛け四年のボクとマリエラよりも、二人のほうが仲良くなったみたいだね。」
隣でなり行きを見守っていたマリエラは少し悔しそうにしている。
「私もアイラちゃん先輩と同じ年に入学してたら特別な仲良しになれていたのかしら・・・・」
なんて呟いていた。
「あれ?そういえばなんでルイーナちゃんは軍官学校へ?妹なんだよね?」
だったら特別才能があるか、目的がない限り軍官学校へ来る必要はないはずだ。
するとマリエラは以外意外な答えくれた。
「それが、なにか不思議と出会わなければならない人がいる気がして、だそうで、うちの両親が軍官学校で出会って結婚してるので、両親が許可しちゃったんですよ。そういう予感かもって」
子どもの勘で入学金を払える程度には裕福らしい、給料で返せるとはいえ入学金はそれなりに負担だろうに
それにしてもうちのアニスといい流行ってるのだろうか?
「じゃあアニス、今日は入学祝いのご馳走を用意してもらってるから、お友だちと遊ぶのはいいけどあまり遅くならない様にね?」
校門についたのでアニスに必要な事を告げる
「大丈夫、円形闘技場にお兄ちゃんがいるんだよね?だったらそこに行くから、一緒に帰ろ!」
そういってアニスは左手にルイーナ、右手をリウィと繋いでご満悦の様子で一年の剣士課のほうへ向かっていった。
四年生になってうちのクラスは組が別れる予定だったのだけれど、教官不足の煽りを受けて3年時と同じままのクラスになった。
うちのクラスは戦争中に結婚したフィーナとホーリーウッドという安全な土地にいたソニアを除けばみんな少なからず戦争に参加していたため、実戦に勝るものはないと言うことで実はすでに戦闘に関する座学は切り上げている。
ソニアもフィーナも将来の進路はお嫁さんに変更となり、激しい戦闘訓練ではなく座学で領地単位での財政の管理を、他のみんなもおもに内政や領地運営の勉強と模擬戦闘訓練という不思議な組合せの授業を行うことになった。
普段はこれからのサテュロスのために運営を中心にならい、闘技場が使えるときは戦闘訓練というわけだ。
戦後、軍官学校が再開されるとノヴォトニーは真っ先に、ソニアに求婚した。
戦中命の危険を感じた際にソニアの顔を三回ほど思い浮かべる機会があり生きて会えたなら・・・と考えていたらしい。
色好い返事を聞ければ程度の考えで、その場でイエスをもらえると思っていなかったノヴォトニーは喜びの叫びをあげ、二人の婚約は学校中に知れ渡ったのだった。
既にお互いの両親の了承も得ているが、冶金鍛冶の家柄のソニアと中級とはいえ代々役人や指揮官を輩出しているクレイマンの家格は通常釣り合わない、がホーリーウッド家の屋敷で世話を受けられる様な立場にあることも後ろ楯となったらしく、ノヴォトニーからお礼を言われたりした。
少し話はそれてしまったが、本日は時間と場所があるということで、まだ実技どころか座学の授業すらやったことのない剣士課一年生たちの前で模擬戦闘を見せることになった。
これが悩ましいもので、今のボクやユーリ、エッラの模擬戦闘を見ても一年生で目が追い付く者がいるとは思えないのと、それによって自信をなくさせる可能性がこわい。
少なくともオリエンテーション代りに見る戦闘訓練じゃないよね。
さらにボクは刀、ユーリは巨大剣、エッラは通常なら馬の上で使う突撃槍と武器も一般とかけ離れている。
そもそも魔導特務兵なんていう組分けの時点で、皆何かの特化した戦術を持っているので、まだなにも形の定まらない一年に見せる様なものではないと思うのだ。
或いは、決まった形なとないという見本にはいいかもしれないけれど。
闘技場内に入ると、例年より多い剣士課の一年生達が幾つかのグループを作ってこちらを見ている。
そんなグループのひとつにアニスたちとルイーナも居り、女の子が一人増えて6人で集まって座っている。
そっちに目をやると一生懸命アニスが手を振っているので、小さく振り返しておく。
その方向にいた学生たちから歓声があがる。
さて、ボクたちの場合魔法剣なんて使うと木剣がいくつあっても足りないので魔法なしでの模擬戦闘を行う、体格的見映えや実力なども加味して一組目はナディア対エイラ、二組目はオーティス対ハスター、三組目がエッラ対ボクとなった。
今回ユーリはなしだ。
ユーリは連邦とはいえ既に他国の王族で、尚且つ唯一の直系男子なのでケガをさせるのは恐ろしいらしい。
そういうわけで教官の合図と共にうちのメイド二人の王国流ホーリーウッド派メイド術と王国流クラウディア派メイド術の凌ぎあいが始まる。
「ナディア様、本日はお願いします。攻撃魔法なしなら私の方が少し有利でしょうか?」
メイド制服ではなく、ホーリーウッドが王国になったあとに新調した揃いのメイド服に胸部アーマー、白と黒を基調としてエプロンのカラーは髪の色と逆の色を配している。
ナディアのメインはメイド拳術で、エイラはメイド短剣術のため、魔法なしなら確かに少しエイラが有利かもしれない。
それでも勝負はわからない、何しろナディアはあのメロウドさんやスードリさんの教えを受け、次期ホーリーウッド侍女長と期待されていたほどの逸材、ただユーリの愛を受ける予定があるためエイラが現在は未来の侍女長候補となっている。
「エイラさん、私はまだユーリ様のメイド、同僚なのですからそれらしくお呼びください。」
ナディアはメイドである自分のことをとても誇りに思っていて、またその誇れる自分であろうとする。
「それに・・・」
それゆえに、彼女はどんな場面でも優秀な、ユーリの一番メイドの座を譲らない。
「メイド術は、護るための技、そのために必要なものは全て修めています。貴方だって格闘も得意でしょう?」
そういってエイラと同じ短木剣を逆手に構え微笑を浮かべるナディアは恐ろしく綺麗で、感情を動かすことの少ないエイラが、少し気圧されている。
「失礼しました。ナディア先輩、胸をお借りします!!」
焦らされたのか、エイラからしかけた。
直後ナディアの姿もかき消えた、様に新入生達には見えたはずだ。
それだけ速い。
(ボクも暁の頃なら加速なしでは追うのがギリギリだったろう。)
「うそ!?速い!」
「メイドさんすごい!」
一年生たちの中から驚きの声があがる。
それだけじゃない。
「やはりあの二人はメイドじゃあ勿体ねぇなぁ」
オーティスが心底呆れた様に呟く
「まぁそれに関しては同感。」
とボクも返さずには居れない。
この二人もそうだし、ボクのまわりの子にはとにかく優秀な子が多い。
今のクラスの仲間だって平時ならばソニア、フィーナ、ノヴォトニー以外は主席次席クラスの人材だし、ノヴォトニー以外は大変に容姿も優れているため、通常引く手数多の人材たちだ。
なんの因果か12人のうちほとんどがホーリーウッドの関係者で、さらに本来北に帰るはずだったノヴォトニーは、ホーリーウッドとの縁を繋ぐため実家の家督を弟に譲り、ホーリーウッドにて分家を立てるらしいしで、南に帰るオーティスと、王領に残るフィーナ、森に帰るサーニャ以外の9人の進路はホーリーウッドだが、騎兵団志望のノヴォトニーやハスターはともかく、メイド以外考えていないナディアやエイラがかなり勿体ないのは確かだ。
「あの二人の、あとはエッラもかな?万能ぶりは、見ていて気持ちいいよね」
とユーリも彼女たちの万能さは認めるところだ。
(そう言うユーリ自身もなんでもできる人だけどね)
ボクは家事や政治が得意ではないし戦闘力以外はそこそこ優秀くらいだ。
(・・・・・と)
そんなことを考えているうちに決着がつきそうだ。
ナディアの爪先がエイラのこめかみを捉えて寸止めされている。
エイラの木短剣はナディアの木短剣にきっちり止められている。
そして数瞬遅れて歓声があがる。
新入生たちは華やかなメイドたちの武技に酔いしれ、口々に褒めそやす。
「やっぱり華があっていいね、俺たちの闘いじゃここまで盛り上げられないよなぁ?オーティス殿?」
ハスターは肩を竦めて、横目でオーティスを見る。
一方オーティスは余裕な表情
「ハスター殿、まだマシだ。彼女らの闘いは実のところあの新入生たちには殆ど見えておらん、俺らは俺らの見せれる闘いを見せればいい」
ハスターはエイラたちより一回り長い木短剣を二本使う。
オーティスは長い木剣を片手で使い、もう片手にはただの丸い棒をもった。
鞘も殴りに使うのに見立てているらしい。
教官の合図と共に二人も動き始めるが先の二人ほどの速度はない。
本来オーティスは魔法で呼び出した精霊と、召喚獣として使役している三種の犬型魔物を使い、多重攻撃を仕掛けるのが本領のため制限があってない様なハスターと比べると圧倒的に不利だ。
なおハスターは二本のショートソードを用いた手数と残像という、相手に気配と、視覚的な位置をずらさせる魔法を使う。
美少女二人の勝負ほどではないがやはり十分に見所はある。
何せ、術を行使せずガチンコバトルをせざるを得なくなったオーティスの剣戟はパワフルで、一振り一振りが必殺の気迫を放っている、にも拘らず手数が武器のハスターに迫る切り返しを幾度も行っている。
先ほどまでより盛り上がりは上だといっていい。
オーティスの言っていた通り、「見える」というのは盛り上がる要素の様だ。
もうしばらくかかりそうだし、今のうちにエッラと教官と打ち合わせをしよう。
「教官、ボクとエッラの模擬戦闘のことですが、飛行とかは使わない方がいいですか?」
一年生の担任をしているマリーベル教官に声をかける。
教官はボクとエッラの方を見ると。
「あぁーそうだなあ、ノアの馬力を魔法控えめにしたウェリントンじゃあ防ぎきれんよなあ、組合せに失敗した気がするなぁ。」
メリーベル教官は昔から態度を変えないで接してくれる教官で、ボクは好ましく思っている。
「教官、今からでも僕とアイラとで代わる?僕とエッラなら十分にやれると思うけれど?」
ユーリが代替案を出す。
教官は首を振りながら
「私は大丈夫だと思うが、他の教官が許さんだろうな、王子にケガをさせると自分の首が飛ぶと考えている者も多い」
するとユーリは笑いながら事も無げに伝える。
「アイラもエッラも僕の奥さんです。彼女らにケガをさせられて教官らを責めることはありません、責めるなら彼女らをベッドの上で責めます。」
ユーリは場を和ませたかったのだろう、精一杯のおふざけをした。
最低クラスの下ネタなのは別にいいし、教官らに気を使ったのも分かるし、提案事態も悪くない。
ただし顔を真っ赤にしてなければだ。
「コホン、テレる位なら無理に場を和ませようとするな、逆に気を遣う。」
教官も貰い照れしながらユーリの肩を撫でる。
「が、その提案には乗ろう、二人の方が武器も大きいし見映えがする。」
教官がユーリの提案を受け入れたことでボクの出番は無くなった。
安心してリリを抱っこできるね。
ソニアが抱っこしていたリリを返してもらう。
「ではもうひとつ、僕とエッラは木剣でなく自分の得物を使いたい、慣れない木剣ではかえって危ないから」
そういってユーリが告げると、マリーベル教官は好きにしてくれと、軽く肩をすくめた。
「ところでユーリ、下ネタ似合わないよ?」
「ぐ・・・い、言わないで・・・リリは今日もかわいいねー」
ボクが言うとユーリは照れ隠しにボクが抱っこしているリリのおでこにキスをして。
「パパやー!」
と人前でキスされることに抵抗が有るらしいリリに思わぬ抵抗をされて落ち込んでいた。
さて、結局ボクはお役御免だけれど、ユーリとエッラは新入生達にどんな戦闘を見せてあげるのか、最上級生の、中でもこの百年でも最上位と言われるユーリとエッラの模擬戦まで残り僅か。
オーティスが勝利の声をあげていた。
アイラとエッラが近接で戦っても加速して一年生達には見えない間にアイラが勝つか、加速なしでエッラにパワー負けするしかないのでユーリに選手交代しました。