第139話:軍官学校の新生
こんにちは、暁改めアイラです。
14才で迎えた軍官学校四年生の春です。
すごく幸せな日々が続いています。昨年7月12日ボクは人生二度めの出産を経験しました。
何と双子で。
なぜか黒に近い茶髪の女の子と金髪の女の子が生まれて、名前はサクヤとプリムローズと名付けられた。
双子で生まれたのはこれ幸いとサクヤは生まれてすぐに神楽の養子にされて対外的には神楽が生んだ子である様に偽装された。
双子で家を分けることに抵抗がなかったわけではないが、父親が同じなので姉妹は名乗れるし、すべての母たちから等しく愛を注がれて、アマリリス共々これから元気に育っていくだろう。
本当ならもっとゆっくり体力を回復させてから、もっというならば赤ちゃんについているべきなのだろうけれど、産後2週間で学校が再開されたため復学した。
ボクのクラスは誰一人かけることなく集まったが、そうでないクラスも多かった。
とくにボクらのひとつ上は戦争に参加していたものもそれなりにいて28人が死亡していた。
ユーリと一年の時同じ剣士課だった生徒にも死者は出ていたそうで、優しいユーリは少し落ち込んでいた。
変わったことも多い、東西南北のシュバリエールは廃止されることになった。
四侯爵家という制度がなくなることとこれからは競うのではなく、協調する時代だからということで、ちょうど作られたばかりの中央シュバリエールに集約して、生徒会としての役割の存在とした。
サロンは情報交換の場として残されている。
また、教官の死亡と補充がうまくいかなかったため統合された組なんかもあったが、再召集をかけられた学生たちは無事に卒業か進級を迎えて。
今は今年度の新入生を受け入れるための準備が着々と進められている。
「アイラちゃん先輩!適正試験の日に学生が担当する業務確認なんですが・・・」
アミが書類の束を持って生徒会長室に飛び込んでくる。
戦後もアミは学校でのボクの秘書代りをかって出てくれていて、メイドのエイラと共に放課後は常に近侍してくれている。
「例年のシュバリエールが手伝っていた通りの身体測定の手伝いに、受付や資料配布、ボクは監督生としての挨拶か・・・、みんなは承諾してくれた?」
すでに手伝いを依頼する予定の学生には打診してある。
その返答の回収は、エイラに頼んでいた。
「はい、アイラ様、みな様快く引き受けてくださいました。」
エイラはホーリーウッドで留守番している間に散々フローレンス様や姉サークラに可愛がられたらしく、かつては機能性重視で飾り気の少なかった服飾に、リボンをワンポイントでいれてみたり、以前にプレゼントした、ハートと星のチャームを制服につけてくれる様になっている。
髪も伸ばす様になっていて、実に女の子らしい。
「良かった。今度の新入生には、アニスたちがいるから、ケンカが強いだけでなくて仕事の出来るお姉ちゃんとして格好いいところを見せたいな。」
もうすぐ二人がクラウディアにやってくる、一年前の結婚式の時、アニスは来たけれど、リウィははじめてのクラウディアだ。
「アニス様はどうして軍官学校へ進学されるのですか?」
アニスは貴族家を相続するわけでも、治癒魔法使いでもなく、無理に軍官学校に通う必要はないが、本人の強い希望で進学を決めた。
「ボクにも詳しい理由は教えてくれてないんだ。ただ強くなって会いたい人がいるって言ってたけどね」
戦争中はサリィにシシィ、ソフィに一時はボクやアイリスやリリまでいたホーリーウッドからアニスまでクラウディアに来てしまうと、フローレンスおばあ様はさぞお寂しい思いをされることだろう。
それでも、神楽のお陰でちょくちょく里帰りが出来るので以前よりましだけれども、今はサクヤとプリムラが生れたばかりなこともあるのでしばらく里帰りをしていない。
サクヤとプリムラの世話は学校にいる間は乳母とメイドに任せている。
なお乳母はエリナでメイドはアリーシャとアリエスだ。
エリナはきっちり戻ってきてくれた。
ホーリーウッド家クラウディア別邸は現在ユーリ、ボク、アイリス、リリ、サクヤ、プリムラ、クレア、アイビス、シャオ、エッラ、神楽、シシィ、シトリン、ソニア、アクア、テティス、マリアナ、アミにメイドとしてナディア、トリエラ、エイラ、フラン、アリーシャ、アリエス、エリナで総勢25名住んでいるが、エリナは部屋は持っているが毎日通いで来ていて、コロネとフィレナが使っていた部屋がそのままアニスとリウィとノラが使うことになる。
ここまで人数が増えることを予測していなかったため部屋数は結構厳しいことになっている。
今年の新入生として入学するアニスにメイドとしてリウィを付け、シャオにテティスをつけることにした。
どちらかというとシャオがテティスの面倒を見ている気もするが二人一組の方が安心出来るからね。
初めは緊張していることが多かったテティスも最近は馴れて、本当に妹みたいに甘えてくれるし、アクアも心を開いてくれて、マリアナのためのおっぱいをボクが学校にいる時間で、エリナもサクヤとプリムラに授乳出来ない時には分けてくれていたりする。
マリアナはジョージとアクアの二人めの娘、結局男の子は生まれなかった。
シシィとシトリンは日中はお城の方でお勉強をしていて、夕方前に屋敷に帰ってくる。
とくにシシィは最近はユーリの事を旦那様と呼ぶ様になっていてすごく甘えた声を出すのでユーリのお嫁さんになる心の準備はばっちりの様だ。
リリは1才半となった。
一時期毎日ボクが学校に行くのを見送ろうとすればギャン泣きし、何度か跳躍で学校に出現したため、学校側にお願いし特例で、戦争中にできた赤ちゃんは学校につれてこれる様にして頂いた。
今は旧西のサロンが学生ママたちの交流場となっていて放課後にフィーナやエッテなんかがよく他の生徒の相談にのっている。
戦争中に後継ぎをつくるため励んだ者が多いとはいえ学校のサロンが産婦人科の待合室みたいに大量の赤ちゃん連れの若いママで賑わっているのはなんとも異様な光景である。
「とりあえず、週末の入学式までの準備は大体完了かな?後は問題が出たら都度解決していこう。」
中央シュバリエール(生徒会)の監督生室の手前にある役員室に集まった生徒たちに作業が一段落したことを告げる。
現在使っている監督生室はかつては南シュバリエールの監督生室だったところで、一年校舎に近いことからここを中央シュバリエールの部屋に変更して、環境も整えた。
四方のシュバリエールの歴代の資料などは各監督生室に保管され、南の物は中央シュバリエールが以前使っていた部屋に移している。
「マ、マー!!」
中央シュバリエールの仕事が終わり、エイラ、アミと共に南側サロンに入ると直後に飛びこんでくるものがあった。
「うわっと、あぶないじゃないリリ、ママがいつでもリリのことキャッチできるとは限らないんだからね!?」
言葉が少し出る様になってきたリリが、跳躍を使って飛び込んでくる。
体重10キロに迫る幼子がジャンプで飛び込んでくるのだ。
とっさに魔力強化して受け止めるが、かなりの衝撃だ。
そっと床に降ろすと・・・訂正今日はしがみつく日の様だ。
ぎゅっとしがみついてくる愛娘はようやく赤ちゃんから幼子になったくらいであるけれど、すでに簡単な魔法やいくつかのスキルを使いこなしていて、お転婆が過ぎる。
それでもお仕事があるからと伝えると離れてくれる辺り聞き分けの良い子だと言って差し支えないと思うのは親バカが過ぎるだろうか?
「みんなありがとう、リリが言うこと聞かなくて大変だったりしなかった?」
サロンで面倒をみてくれていた生徒やエッラに訪ねる
「全然そんなことは、アマリリス姫様すっごくお利口さんで、エレノア様に抱っこされてすごくご機嫌でしたよ!何よりお可愛いです、さすがはアイラちゃん先輩の娘ですね。」
そういって後輩の一人が興奮ぎみに応えると、他の後輩たちも口々に、リリの可愛さを伝えてくれる。
「ありがとう、ほらリリも一杯遊んでもらったんだから、お姉さんたちにお礼を言って、ありがとー」
「あーやとー」
抱っこしたまま体ごとリリを斜めにするとありがとうを言うリリ、舌足らずでボクの言葉をまねしただけかもしれないけれど、この年頃の幼児特有の可愛らしさにみなメロメロになるのだった。
(やっぱりうちの子かわいい!)
それから北側の校舎に向かう、かつてはジル先輩が使っていた研究室と隣あわせの研究室を3つぶち抜いて作った、歴史的な壁を二枚取り壊してまで作った合同研究室。
ボクの代わりにエイラが少し大きめに音を立ててノックして
「アイラ様のお成りです。」
と述べると中から「どうぞ」と声がかかる。
ドア開けて入ると中にはラピス、ヒース、神楽がアシガル装備によくにた重鎧を囲んであーでもないこーでもないと話し合っている。
「アレ?アイビスは?」
普段ならば、中央シュバリエールのサロンにいなければ大体こちらにいるはずのアイビスがいない。
「アイラおねーちゃん、ここにいるよー!!」
三人の真ん中で重鎧がドタドタと足踏みして自己主張する。
「ひゃ!?もうアイビスがつけて動けるの!?すごいね!!」
ラピスは誇らしげな顔で重鎧をペシペシ叩く。
「重さは180㎏ありますが、アイビスでも動かせますし、対魔法防御もバッチリ、なにせこのラピス様みずから鉱物生成したんですから!」
この研究室はセントールのアシガル技術に焦った連邦がザクセンフィールドとペイルゼンに設けた研究所に負けじと軍官学校内で立ち上げた研究室で、ラピスが装甲材、ヒースが補助動力、神楽が構造を担当している。
他にも何人か研究員はいるが、この三人がアシガル技術研究にはチート的な適性があるため、装甲材を重ねて、その一枚一枚裏表に術式を刻印することでとうとう性能の高い鎧の作成に成功した。
量産性は度外視した特別製だが、そのスペックはかなり高く多少訓練しただけの学生が一般的な勇者手前の戦力といい勝負ができるほどだ。
いまはまだ稼働時間も短いし、課題も多いが、とうとうある程度体の大きさを無視して装着させることに成功したらしいので、これからの量産化への課題がひとつ解決したことになるだろう。
研究室から神楽と鎧を外したアイビスを連れて出ると円形闘技場に入る。
戦争中に勇者として目覚めたらしい二年生のシグルド・カーラントという新米勇者の育成をユーリが担当しているのだ。
現在ユーリと同い年で15才のシグルドは東部戦線にて緒戦から志願して防衛任務についていて、殲滅戦の数日前に疲労からくるミスで負傷、ケガはすぐ治ったものの後方に戻されていた。
昨年一年生として学校に復帰する際の検査で勇者化が確認された。
戦争により多くの勇者を失っていたので、教官方もジークも喜んだが、シグルドはどういうわけか戦う能力が低く、勇者にはなったものの並の軍官学校生よりも弱かったため、現在特訓中というわけだ。
「ユーリ!シグルド!調子はどうかな!?」
闘技場の真ん中でダメージ軽減の魔法をかけた木の棒で殴り合う二人の少年、ガタイの良いシグルドの方が、逞しくなったとはいえ比べれば小柄なユーリに良いように打ち込まれているのは正直情けない、それとボクの旦那様格好いい
終戦後の一年少しで彼はリリーとしての意識は薄くなりよりユーリとしての人格が強くなっている。
(それでもリリーがゼロという訳ではないけれど)
ボクの声に気づいて二人は動きを止める、ユーリの振っていた棒はシグルドの喉に突きつけられるところだった。
「アイラ!みんなもお仕事は終わったの?」
そういって上半身裸のユーリが手を振ると周りでみていた女生徒の中から黄色い声が上がる。
既婚者で側室が何人もいるとわかっていても、あの美しい姿に惹かれる女の子は多い。
「アイラ様、ユーリ様をお借りしててすみません!」
がたいはよいのに弱い印象が強いシグルドは勇者になったことをまだ公にしていない事もあってもてない、同じように上半身裸だし、それなりに容姿も良いのに歓声は上がらない。
「いいよいいよー、少しでも早く強くなってね。」
そういって返したあとユーリを見ると
残念そうに首を振る。
ものになるのはまだまだ先らしい。
勇者に目覚めた以上彼は強い意思とカリスマ性、美徳を兼ね備えているはずなのだが、どういうわけか思いきりが悪かったり、判断が鈍かったりで、どうもうまくない・・・今もユーリは涼しい顔で汗もかいていないが、シグルドは滝の様な汗をかいている。
いい子なのは少し付き合っていてわかるので、是非とも勇者としての力をつけて今後の国境なきサテュロスのためにダンジョン攻略や地形神器の回収に役立って欲しい存在なのだ。
現在のところ魔剣、または地形神器の安置されていると思われる場所のうち、古代樹の森、ヘルワール、クリスタルバレーの物は回収済みで残りのベナムスワンプ、悪魔の角笛、アスタリ湖、紅砂の砂漠に残りの四つが存在すると考えられている。
戦後の調査で、これらの地域のうち回収済みの三ヶ所とベナムスワンプについては、特殊地形の大幅な縮小が確認されている。
古代樹の森はほぼ消失して周囲の森と同じ様な魔物分布の森になりつつあり、ベナムスワンプも同様にほとんど失われているそうだ。
ヘルワールは火山活動が止まり、クリスタルバレーは少しずつ緑化が始まっているらしい。
つまり、何者かがベナムスワンプの神器を回収している可能性がある。
(もしくは最初からベナムスワンプは安置場所ではなかったか?)
なお他の三ヶ所のうち湖と砂漠についてはダンジョンの存在が確認されていて、恐らくそこが安置場所ではないかという神楽の意見だ。
調査隊の報告ではその他のダンジョンとは明らかに難易度が違うらしいが、ヘルワールと古代樹の森を攻略した神楽に寄ればその二ヶ所も明らかに特殊な魔物の巣窟であったそうなので恐らく間違いないだろう。
一度勇者四名を投入してアスタリ湖ダンジョンの攻略を試みたもののあまりの過酷さに攻略を断念しジークの方針で、ボクたちの卒業後までは一度攻略を中止することになった。
次回の攻略の際にはボクたちを含む勇者の大量の投入をして、大規模な派兵により安全な攻略を目指すらしい。
なおこの際に十年以上行方知れずになっていた冒険者をしていた勇者の遺品が発見されている。
まぁそういうわけで未来のダンジョン攻略のためにもシグルドの育成は重要度の高い案件、ボクたちが学校にいる間に少しでも教育しておきたいのだ。
ユーリやナディアと合流して帰路につく
屋敷に帰りつくと、ボクにしがみついていたリリが途端に身じろぎしてボクの腕から逃れようとした。
「あ、こら、いえば下ろすから暴れないの、あぶないでしょ?ちゃんとやりたいことは言いなさい。」
リリは咄嗟に魔法を発動するので多分ケガはしないのだろうけれど、躾の話だ。
とりあえず床に降ろすと
「マ、マー、ウアウア、ちゃん」
といって自分の膝を触るリリ、どうもサクヤやプリムラのところには自分のあんよで行きたい様だ。
「よろしい、でも先にお手手洗ってからね、サクヤやプリムラ、マリアナが風邪引いたらかわいそうだからね。」
そう伝えるとリリは近くにいたアミをスルーして、その隣のエイラの手を取り、手の届く洗面台のあるトイレの方に駆け出していく。
リリの事を特に可愛がっているアミがすごく寂しそうな顔をしている。
「アミ、一緒にいっていいよ」
と許可をするとアミは明るい顔をして追いかけていった。
「リリ賢いよね、ちゃんと手を洗う場所もわかってるし、危ないからメイドを連れていきなさいと言うのも理解してるみたいだ。」
ユーリがうちの子の天才具合に戦慄いているかと思いきやどうも違う表情を浮かべている。
確かにアミはメイドの様でメイドではない、貴族のお嬢さんだが、それをリリが理解しているのはちょっと恐ろしい。
(不安なのかな?)
ユーリの首に腕を回し今までリリを抱えて居たからできなかったキスを頬にする。
しながらにナディアや神楽やエッラに聞こえない声で訪ねる。
「もしリリが誰かの生まれかわりだったとしても、リリはリリだよ、危ない事をしたら叱る、良いことをしたら誉める、それでいいよ。」
そういって囁くとユーリは「うん」と呟いて頬にキスを返してくれた。
それからボクたちも赤ちゃん部屋に向かうとすでにアイリスたちが帰ってきていて、アクアと一緒に赤ちゃんをあやしていた。
「アイリス帰ってたんだ?明日の準備はどう?」
明日はアニスとリウィ、ノラがこちらに到着する。
三人にプレゼントや美味しい食べ物をと、アニスとトリエラは今日は買い物にいっていたのだ。
「一杯用意したよ、アニスはまた可愛くなってるかなぁ?リウィとノラも久しぶりにしばらく一緒に居られるから嬉しいなぁ」
10歳になっているはずのアニスは昨年会った時もずいぶん綺麗な女の子になっていた。
ボクはプリムラを抱きながら、ボクに生まれるという事を教えてくれた可愛い妹の事を思う
「早く明日にならないかな・・・」
プリムラとサクヤをアニスにも早く抱かせてあげたい。
やっと忙しさが一段落してきましたが2月になればまた忙しい様です。
更新ペースを戻せる様にと、読みやすい話を書ける様に頑張りたいですが果たしてどうなるやら。
追伸、表はまだ作成中です。