第7話:ナタリィ・デンドロビウム
6話の誤字脱字などを軽く修正しました。あとで5話の方も修正します。
こんにちは、暁改めアイラです
オルセーの不調の原因を探るために
森に足を踏み入れたボクとトーレスは
カメ島の辺りで巨大な竜と遭遇した
一時は死を覚悟したボクたちは突然のアニスの乱入により事なきを得て
ドラグーンを名乗る少女と相対するのだった
ナタリィと名乗ったその女の子の右腕は3cmほどの深さの裂傷を受けていた
痛々しい切断面からはまだ血が流れていてるが 少女は左腕で傷口を押さえもせずにいる
ボクはその傷をみて、大きく動揺した。
「あの・・・ボク・・・いえ、私はっ」
「気にやむことはありません、龍化していれば私は人の言葉を話せませんし」
「でもっ!」
理由はどうであれボクはこの女の子を傷つけてしまった、それもかなりの深手だ
「このくらいの傷なら1ヶ月もあれば治ります、だからあまり気にしないで、あなたの名前を教えてほしいな」
女の子はボクの目線にあわせる様にしゃがみながら微笑んだ
「ボクっ!は・・・」
言いたいことはまだあったが、ひとまず彼女に従うことにした
「アイラ、アイラ・ウェリントンです」
「そうですか、ではアイラと呼ばせていただきます、アイラも私のことはナタリィとよんでほしいです。」
「ナタリィさんはなんで・・・む」
指で口を塞がれる
「ただの、ナタリィです。アイラとは友人になりたいと思っています」
ナタリィはケガをしていることを感じさせない仕草で可愛らしいウィンクをする
「ではナタリィ、痛くは・・・ないのですか?ボクのせいでケガをして、早いうちにボクを弾き飛ばすなりすればナタリィはケガもせずすんだのではないですか?」
責める様な口調になってしまった
ボクは後悔しているのに
責められるべきはボクなのに・・・
「アイラ、私はドラグーンですが、人間の友人が大勢います。今は目的の為に離れていますがいつかはまたみんなのもとに戻りたいのです」
ナタリィはボクの頭に手を置いて言い聞かせる様に続ける
「お兄さんはアイラを逃がす為に囮になろうとした、アイラはお兄さんを一人死なせない為に強大な敵に立ち向かった、私はあの時アイラにとっての敵でしたが、私にとってアイラは守るべき、良い心をもった少女でした。」
それからナタリィはアニスの方へ歩くと左腕で抱き上げた
「アニスも良い心をもった良い子です、私が貴方たちを傷つけたり、悲しませたりすれば、私はみんなの元に帰る資格を失うのです」
いつの間にアニスの名前を尋いたのだろうか?
アレからボクとナタリィ以外意味のある言葉を語っていないのに・・・
「わかりました、それで村近くのエントの駆除もしてくれていたのですね、人間の為に」
「そう・・・ですね、一昨日エントが人間の子どもを苗床にしようとしていたのをみて、取り合えず逃がしましたが、森の奥に行く様に説得しても聴かないばかりか、私のことも餌と思っていた様なので、駆除することにしました」
つまり一昨日のオルセーのケガはやはりエントが原因だったのだ。
しかしながら今オルセーが元気を失っている原因がまた不明になってしまった
ナタリィはエントがオルセーを苗床にしようとしていたと言った
つまり救出は間に合っている
「ナタリィさん、ちょっといいだろうか」
いままでボクたちのやり取りを見守っていたトーレスが口を開いた
「はい、どうぞ、アイラとアニスのお兄さん」
「どうも、トーレスです。一昨日ナタリィさんが助けて下さった女の子、たぶんオルセーという名の子なのですが、戻ってきてから元気がないのです。なにか心当たりはありませんか?」
「んー私はさっきまでエントを説得してましたから、逃がしたあとのことまでは・・・ああ肩の傷からバイキンでも入ったのではないですか?」
あぁなるほど、あるかも知れない、地球でも傷口からそこかしこの細菌が入って熱を出すことはあるし、最悪死ぬ場合もあった
「バイキンというのがなにかはわかりませんが、つまりオルセーは、エントに種を植え付けられたわけでなくただのケガをして熱が出たということですね?」
それなら安心だ、と気の抜けた表情のトーレス
でもこの時ボクは、たぶんナタリィも安心なんてしていなかった
先日のナタリィとの邂逅から3日が経った
あの後傷がある程度癒えるまで村に滞在することにしたナタリィを
父も母も迎え入れてくれた
オルセーと(見た目の)年齢が近いこともあり、ナタリィはオルセーとも仲良くなるだろうと村人も可愛らしい客人に心を許した様だが日に日に弱っていくオルセーの症状に村人もナタリィも心を痛めている
ナタリィは薬師の弟子として数人の仲間と各国を旅している13才の魔術拳士ということになった。(今はホーリーウッド地方でバラバラに情報を集めている設定)
実際薬草について書かれた本をいくつか持っていたことと
竜化せずともリーチの短い相手には十分に戦える手練れでもあり
さらには火水風の3つの属性を操ることもできたので魔術拳士という設定にした。
村にきた初日薬師のたまごということでオルセーに効く薬草に心当たりがないか尋ねられたナタリィはオルセーと面会し簡単なカルテを作った、3日間毎日オルセーと会話して今日診断を下した。
村人たちの期待とは逆の結果となってしまったが・・・・
「ハシウトキシック・・・ですか?」
「はい恐らくは。私の実家でそう呼んでいる病です」
聞き慣れない病名にオルセーの父テオロさんが聞き返すとナタリィは少し辛そうな顔で答えた
「耳に覚えのない病ですが疫病ですか?」
「いいえ、足の裏などの自分でもわからない様な小さな傷口からも感染することがある病気です、人から人へはあまり感染することはないです」
「病名がわかったということは薬もわかるのですよね・・・?」
縋る様なオルセーの父の言葉にナタリィはゆっくりと語り出す
「この病には薬による治療法は現在のところはありません」
音が消えた様だった、治療法がないということは、オルセーのたどる道がある程度定まっているということだからだ
「オルセーはこの後どうなるのでしょうか?ハシウトキシックとはどんな病なのですか?」
オルセーの母オリオールさんがある程度覚悟した表情で尋ねる
ナタリィは少し考え込んだあとこの場にいる唯一の子どもであるボクの方を見た
子どもの前で話すことではないと考えたのかも知れないがボクは聴いておきたかった
ナタリィの眼を見つめ返すと何秒か考えた様であったがなにか納得した様子で大人たちの方を向いて語り出した
「この病は、どこの土の中にでもすむ、ハシウという微細な植物の種が傷口から入り人の肉の中で毒物を生成するために発症するとされています、条件がいくつかあるらしいので発症自体多くはないですし、人から人にも基本的に移りません、例外的に感染者の血が傷口に触れたりだとか生殖行為などで毒素が感染るかもしれません」
空気感染しないということは、隔離したりする必要はないらしい
「次に病状ですが、進行の度合いは人によって大分違いますが、初めに手足が上手く動かなくなったり、喋りにくくなったりします、次第に息がしにくくなったり、全身に痙攣が出たりして激痛に悩まされる様になります、重篤な場合は痛みに耐え兼ねてショック死したり、呼吸困難により死に至ります、死亡率は子どもだと9割を超えます・・・、まだこれと決まった訳ではありません暫くは様子をみて不安がらせない様にしましょう」
オルセーの両親は信じられない、という表情で話を聴いていたが最後まで聴くと納得したのか、努めて明るい顔をした
「私たちはいつもの通り、楽しい家族でいる、今はそれしかできないということですね?かわいいオルセーのためです、それくらいはしますよ」
「アイラ様、くれぐれもここでの話は他言無用にお願いします」
テオロとオルリールが懇願してきた、幼児であるアイラに頭を下げてまで
「ボクは子どもなので難しい病気の話は分かりません、ただ病気にかかった時はさみしんぼなので、疲れない程度にはかまってあげたらいいんですよね?」
そういうことですよね?と少しわざとらしいくらいに可愛いく振る舞うけれど、本当は泣きたいのを我慢していた。
「アイラに話したいことがあるの」
病気についての所見をオルセーの両親に伝えたあとオルセーと少しだけ面会してから帰る途中、それまで黙り込んでいたナタリィが口を開いた、心なしか子どもっぽい見た目相応の話し方な気がする
「どうしたんです?改まって」
少しだけ思案顔をしたナタリィはカメ島の方で話そうとだけいって歩き出してしまった
カメ島につくとナタリィは湖岸に座った
長い髪が地面についてしまうが、あまり気にはしない様だ
「ちょっと落ち着かないからこうさせてね」
ボクも隣に座るとナタリィはボクの頭を抱えてぽつぽつと語り始めた
「たぶん、賢いアイラは気づいているのだと思うけれど、オルセーは非常に悪い状態、ケガをした時に浄血魔法をかけていればなんとか予防できたかも知れない、早いうちなら解毒魔法でもなんとかなったと思うでも今の状態では治療魔法上級と解毒魔法上級を数日置きにかけないと何ヵ月も持たないよ・・・」
「やはり、ハシウトキシックというのは死病の類なのですね・・・?」
死病というのは致死率が極めて高い病気を総称するものだ、致死率が3割を越えると死病と表現する
「この病は大人でも発症までいけば8割なくなる病気、というか、貴方はきっとそうだと思ってたけれど、あまり驚かないのね、まだ6才なのに」
「んーそうなんですけどね」
本当は6+15才なんだ
「アイラはいくつかの資質もあるし、意思の力も強いから将来が楽しみだね」
「ありがとうございます」
謙遜はしない、ボクもアイラの将来は楽しみだから
「でも私はオルセーの将来もアニスの将来もみたい」
静かに、決意をした様な瞳がボクを捉えた
いったい何を覚悟したのか・・・彼女の眼は罪悪感に揺れるものだった。
ナタリィはその日のうちに一緒にこちらに来ている仲間を集めてくると言って、村を出て行った。
アニスの名前は龍ナタリィの前でも呼ばれていますが、アイラは緊張状態にあったので気づいていません。
ドラグーンは一般的な種族ではなく伝説的な存在のため村人たちには隠しています。アイラたちには龍の姿を見られているため名乗りましたが隠してもらっています。