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第135話:初めての再会

 こんにちは、アイラです。

 長くユーリの心を支配してきた先代セレッティア子爵ジェファーソンへの復讐は呆気ない終わりを見せた。

 オケアノスの名前を持つものもセルディオを残して罪なきものだけとなった。

 セルディオを見るユーリの視線は冷ややかで、ユーリのセルディオに対する感情が一体どの程度のものなのかは計り知れない。



 セルディオの語った昔話はごくごくありがちな一目惚れの話であった。

「私が12才頃のことだ、当時のオケアノスの姫リリー・マキュラ・フォン・オケアノス様の10才の生誕日の祝宴で初めて間近でリリ様のお姿を見た。その頃まで私の中での姫の印象は意志が強くて凛とした美しい姫であったが、ちょうどそのころアクアと今はなきトリトン様が生れた後で、リリ様は美しいだけではなく慈愛と母性を感じさせる神がかりな美しさをしていてな、私は子爵の孫の立場でありながら、リリ様に懸想したものだ。」

 セルディオは当時2才下のリリーに惚れてしまい、それから学問や修行も手につかない状態で悶々とした日々を過ごしたらしい。


「当時リリ様が西のエドワード様に惚れていたのはそれなりに有名な話でね、それまではオケアノスを継げるものがリリ様しか居なかったのだがちょうどリリ様が12才になられる頃、アクアとトリトン様を陛下に会見させてオケアノス家の継承権を付与して頂く予定の日が近づいていた。私は焦った。トリトン様に継承権が認められれば、長男が継承するのが優性となるので自由になったリリー様はエドワード様に嫁ぐと言い出すかもしれない、国内の貴公子であればともかく、西侯家に嫁ぐとなれば、もうそのお姿を見守ることすらもできなくなると慌てた私は、祖父ジェファーソンに相談した。トリトン様の継承権を認めさせないか、あるいはおそれ多いことだが私がリリー様の夫となる手段はないだろうか?と・・・それを聞いた

祖父はおおいに喜んで、私こそセレッティアの跡継ぎに相応しいと褒めたよ・・・そのあとは私が軍官学校に行っている間に預かり知らぬままにことが進み、気付いた時にはオケアノス侯夫妻の死とリリ様の処刑とオケアノス分家のほとんどの処断が行われて、アクアが私の甥トスパンの妻になると言うことが決定事項として知らされた時だったのだ。」

 セルディオの言葉には多分嘘はないのだろう。

 彼の恋心は野心家のジェファーソンには野心の表現にしかとらえてもらえなかっただけで・・・


「それでは、あなたは簒奪侯の悪事には荷担していないと?」

 ユーリは厳しく尋ねる。

「いや、私の罪は数え上げればきりがない、私は祖父や一族の咎を知った後も自分にその責めが及ぶことをおそれ、病弱なトスパンの死後大好きだったリリ様の面影を残す唯一生き残った妹を、その代わりとしてあてがわれたことによろこび、 まだ幼かったアクアをめとった。私が子を成せなくなると祖父はアクアにジョージの子を産ませると言って監禁したが、オケアノスを空けていた私はそれに逆らえなかった。それらが私の最も重い罪だ。アクアとジョージにとても重たい、業を背負わせてしまった。」

 ユーリの問いかけに対して、セルディオは意外と冷静に答える。


「それではもしもリリーが貴方との結婚を受け入れていれば、この戦争も、トリトンの死も発生しなかったのでしょうか?」

 ユーリは、リリーは彼との婚姻を拒み、狂い姫という不名誉な名前を付けられて惨殺されたと記憶している。

 それを悔いているのだろうか?

 今のユーリはリリーとして答を知りたがっている様に見える。

 あるいは、今の簒奪侯の汚名や犠牲を多く出した戦争事態が、リリーの選択によって発生したものなのかと。


「それはどうだろうか?もしも私がリリ様と結婚出来ていたとしても、リリ様がセレッティア子爵家とキルケル家が侯爵を殺害していたことを知れば、あるいは知っていたのだとしたら、きっと最後に祖父はリリ様殺害に至り、いつかは同じ様な戦争に至っていた様に思う」

 セルディオは自嘲する様に呟く、結局自分は流されるばかりなのだと、無力を嘆いている。


「それではセルディオよ、僕から問うことはあとふたつだ。」

 ユーリは敗軍の王たるセルディオに対して問いかける、それはリリーとしての言葉ではなく王国軍の一軍を預かるものとしての言葉だ。

「ひとつ、リリー・マキュラ・フォン・オケアノスの名誉の回復に努めるか?」

 ユーリにとってのもうひとつの悲願、罪人墓地に葬られているリリーの墓を父母や弟たちの墓と同じオケアノスの墓所に葬ること、それを果たすにはリリーの名誉の回復は不可避だ。


「はい、私の長年の望みでありました。」

 涙は流していないが、涙のつまった声でセルディオはリリーの名誉回復を誓った。

「もうひとつ、貴方はアクアを愛していますか?」

 この場には余りにも不似合いな問いかけ、リリーとしてのユーリは妹に対してセルディオの愛があったのか知りたい様だ。


「始めは亡きリリ様への慕情を慰めているだけだった、だがリリ様の亡くなったのと同じ12才で成長を止めてしまったアクアを私の妻として抱き締め、ジョージやセルゲイを育てていた頃が私の人生で一番幸せな時期だった。信じて貰えなくていいが私は、アクアを愛している。」

 その言葉はどう響いたのかユーリは少し、本当に少しの微笑みを浮かべてセルディオに告げる。

「それではアクアのところに案内してください」



 アクアを閉じ込めている区画は今会話をしていた奥よりもさらに奥まったところにある塔の最上部から渡る建物だった。

 その建物も塔になっているが、奥の奥からたどり着ける渡し廊下以外に出入り口はないらしい。

「アクアは、祖父の命によりジョージの子をつくる様にされた後は、ジョージのことを若い頃の私だと思う様になり、心を壊しました。表向きはテティスも私の娘ということになっていますが、実際にはジョージの娘です。」


 今この渡し廊下にはセルディオとユーリとボクしかいない、他のみんなは入り口ある塔に残された。

 一応侯爵家の女性の部屋ということで鎧姿の者は遠慮したのだ。

 だからなのか表向きには伏せているらしいことをユーリとボクに告げた。


 テティスはたしか8才の女の子だったか?

 そしてジョージは聞いた話ではセルゲイのひとつ上の年齢という話だったから21か2か?

 だとすればテティスはジョージが12の時にもうけた子ということになる。


「ジョージは子どもの頃からお母さん子でな、小さい頃はよくお母さんをお嫁さんにするんだなんて言っていて、それはとても子どもらしい感情のはずだったが、それを祖父が歪めてしまった。愛し合う男女なればすることだといって、まだ幼いジョージをそそのかして睡眠薬で眠らせたアクアを味わわせた。まだ若かったジョージは母であるアクアの体に溺れて快楽を貪る様になり、アクアは心を壊していった。私が、水害のあった地域の視察などから半年ぶりに帰った時、アクアはすでにテティスを身籠っていた。」


 なんというか、ジェファーソンは本当にろくでもないことしかしなかったみたいだね。

 セルディオは続ける。

「祖父はテティスを私の子だと言ったが、私が親ではないことは確信していた。ジョージが親だとわかったのはジョージが軍官学校から帰ってきてからだ。話を聞いて祖父を問い詰めたら白状したよ、ただ祖父は対外的にはテティスは私の娘として扱う様に言い、私もそれに従った。テティスも私を父親だと思っているし、この事は私が死ねば誰も知るものがいなくなるのでいつか困ることがあるかも知れないから二人に話すのだ。」


「わかった。」

 ユーリはそれ以上言わずにセルディオの話を聞く、ただボクの手を握る彼のその指は震えていた。

「ジョージはある文献から魔剣を集めればこの世界をやり直せると信じて魔剣のありかを探す様になった。すべてを我が祖父ジェファーソンがオケアノスを簒奪する前に戻すことが出来れば、アクアにもっと幸せな日々があったはずだと、結局魔剣とおぼしき物ひとつを見つけただけで、ジョージは亡くなったが、その事はアクアとテティスの前では言わないでくれ、ジョージのことはもう何年も若い頃の私だと錯覚していてね・・・」


 思い出させないほうが幸せだと言いたいんだろう。

 ボクならどうだろうか?例えば考えたくもないことだけれど何かの事情でボクがアマリリスのことを若い頃のアイリスだと錯覚して、それから何年も経って何かの都合でアマリリスが・・・・・その、死んでしまったとして、知らないままで笑っていたいだろうか?

(ボクが決めることではない・・・か、このアクアの話についてボクは当事者ではない、これは家族の問題なのだから。)


「さて話し込んでしまったな、ここがアクアのいる部屋だ。」

 暗に用意はいいかとセルディオが尋ね

 ユーリが無言で首肯いたので、ボクも首を縦に振る。

 カンカンとやや高く乾いた音が響いた後、中から女の子の声がする。

「はぁい♪」

 トトトと歩幅の小さな音がしてかちゃりとドアが開くとそこには、ボクと同じくらいの身長の女の子がいた。


 肩甲骨の間の狭まったところくらいの長さで綺麗に切り揃えられていて、綺麗に梳かれたシャギーの入った金髪の前髪は、手をかけて貰っていることが良く分かる。

 8才にしては体格が良いけれど、精神面はむしろ幼い位なのだろうか、自ら開いたドアに体重を預けて首を傾げてこちらを見つめている女の子。


「今日も疲れてるパパだ!」

 セルディオの姿を認めると女の子はドアに半分隠れていた体を曝け出し飛び出してきた。

 複雑な表情でそれを受け止めつつ、すぐに笑顔になって女の子を抱き抱えるセルディオ


「やぁテティスはいつも元気だねぇ、すまない、パパはもう疲れてしまってね、もう元気なパパにはなれそうにないんだ。」

 どうもジョージが元気なセルディオ、セルディオが疲れたセルディオでごり押しているらしい。

 アクアを相手するためにそういう設定になったのだろう。


 セルディオはテティスを抱えたまま部屋のなかに入っていく。

 中にはあとアクアがいるはずなのだけれど。

 部屋の中に入るとそこには12~3才にしか見えないお腹を大きくした女の子がベッドに横たわっていた。

(12才で成長が止まったといっていたか?それにしたって、とてもギリアム様より年上だとは思えない)


「アクア、体の調子はどうだ?」

 セルディオがぼんやりとした様子のアクアに声をかける。

「ルディ、おかえりなさい、アクアは今日も元気よ?ただテティスちゃんがお外で遊びたいって言って大変なの」

 光の乏しい瞳で、それでも幸せそうにお腹を撫でるアクアはすぐにボクとユーリに気付く。


「ルディ、お客さま?珍しいね。」

 と首を傾げてこちらを見る。

「あぁ西侯家のユーリ殿とアイラさんだ。」

 セルディオがボクとユーリをアクアとテティスに紹介するとテティスは目を見開いて言う。

「本当だ。お客さんだ!!」

 身動ぎしてセルディオの腕から逃れたテティスはボクに抱きついてくる。


「こんにちはテティスちゃん、ボクはアイラだよよろしくね。」

 そういって背中に手を回すとテティスもボクの腰に手を回してはしゃぐ。

「わー!お友達が二人もいる!ずっといるの!?」

 明らかにテンションが激しい、来客慣れしていなさそうだ。


 アクアの方はユーリに執心中で何とか触ろうとベッドに横たわったままで手を伸ばしていて、ユーリから近づくと彼の頭をなで始めた。

「お兄さん疲れたお顔してるね、大丈夫?」

 アクアは見た目や話し方は童女のそれだが、精神面は割りと大人びているのかな?

「アクアは元気そうだね。」

 と、ユーリは優しくなで返す。


「うん、アクアは元気よ?ルディは元気がないけれどテティスも元気に育ってるよ。」

 ユーリに撫でられて不思議とアクアは目がキラキラし始める。

 撫でられることは少ないのかも知れない、一応彼女が正式なオケアノス侯爵でなおかつ人妻だからまぁなかなか撫でられることも少ないだろう。


「なでなで気持ちいい・・・」

 大分年上の方のはずだがどちらかと言うとアニスでも相手にしている様な感覚がしてくる。

「なでなで好きなの?」

 ユーリはアクアの頭を実に優しい手つきでなで続ける

 一瞬セルディオがなにか言いたげな表情をしたけれど嬉しそうなアクアを見て口を閉ざした。


 ユーリはどんな気持ちで撫でていたのか全部が分かるわけではないけれど、次の瞬間のことをボクは多分生まれ変わっても忘れない。

「うん、アクアは撫でられるのもテティスちゃんを撫でるのも好きよ?ただお姉ちゃんに撫でてもらうのは何かもっと懐かしいような、甘い匂いがする気がする。あ、ごめんね、かわいいけれどお兄さんだったね。」

 先程は単に寝ぼけていたのか、ハキハキと快活に話すアクアはもしかしたら何か無意識に感じるモノがあったのだろうか。

 偶然でもいい間違いでも、アクアがユーリをお姉ちゃんと読んだのだ。


 そしてユーリは・・・

「うん、別に呼びやすい様に読んでいいんだ。みての通り男か女かわからない顔してるしね、テティスちゃんはアクアの娘なの?」

 と、いつも通り冷静に受け答えしている・・・様にセルディオやテティスには見えているだろう。

 しかしあの目はこっそり泣いている目だ。

 リリーの部分だけでこっそり泣いている目だ。


「そうなの、テティスちゃんはルディとの間に生れた娘でね、もう8才なのに甘えたがりさんで困っちゃうの」

 ニコニコと娘のことを語る時はこんなにもお母さんなのに、その表情は天真爛漫で見てる方が幸せに慣れるものだ、これは確かにジョージのことなど思い出さない方が良いのかもしれない


「もう!マーマ!!お友達の前で恥ずかしいこと言わないで!テティスもうすぐお姉ちゃんなんだからぁ!!」

 ボクにしがみついたままで抗議するテティス、見比べると母娘というより姉妹の様だけれど、仲も良さそうだし元気そうで良かった。


「アクア、テティス、赤ちゃんが生まれてしばらくしたら、ユーリ君たちにお前たちのことを預けることになる。しばらく会えなくなるが許してくれるかい?」

 セルディオは愛しい二人にもしかしたら今生の別れとなるかもしれない言葉を告げている。

 ジークがどんな沙汰を下すかはまだ定かではないけれど、例えジェファーソンの指示であったとしても王を僭称した当事者は無罪とはいかないだろう

 ボクは助命を願い出るつもりでいる、きっとユーリもそうすると思う

 アクアはセルディオのことを信頼しているし、テティスにはまだ父親が必要だ。



 斯くして、ボクが生きているうちでは最期になるであろう、サテュロス大陸での国家間戦争は収束に向かっての道筋に乗った。

 これからしばらくは残党狩りや一部貴族の抵抗もあるかも知れない、けれどもうボクやユーリが駆り出される様な戦争は多分ないだろう。

名前とか家族構成まだ決めてなかったよね!?と自分の記憶力の不確かさとの戦いが始まっています。

年齢なども一度整理が必要そうです。


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