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第134話:オケアノス

あけましておめでとうございます。


 こんにちは、アイラです。

 開戦後一年と二ヶ月が経過しようとしています

 当初の思惑とは大分違う結果、今も亜人奴隷を推奨していると思われた帝国は何年も前から真逆の舵取りをしており今や過半がホーリーウッドの預り、スザクとミナカタは指導者を失い今はギリアム様が預かっている。

 北方はペイロードが6、ナハトロード2、ペイルゼン1、シェフィールドとマラカイトで1といった具合に分割統治され徐々に安定化しているところ

 そして東は・・・



 先のエスラフラウ殲滅戦と名づけられた戦闘でヴェル様という大切な方を失った後。

 リントハイム王子はヴェルガ様の遺体をクラウディアに運ぶために離脱したが、ハルベルト王子とユーリを指揮官として東征を続けて王都オケアノス(旧オケアノス侯爵領首都オケアノス)付近まで進出した。

 

 また南方からは対オケアノス防衛部隊が四千ばかりが、北方からは複製アシガル部隊が二百ばかりと兵三千が進出してきた。

 ところでエスラフラウ殲滅戦とほぼ時期を同じくしてドライセンが内戦状態になっていた。


 北方ペイルゼンのエイブラハムとの間に交わされた密約やミナカタで見つかった文書について外交筋でドライラント側に提示したところ、旧ヴェンシン派の中で貧困層の獣人族の子どもを奴隷として輸出している疑いのある地方領主やドライラント側に対して隔意のある大物政治家等が多数名前を連ねていることが分かった。


 長く安定していたサテュロスに未曾有の戦乱をもたらした咎でドライラント側が旧ヴェンシン側を糾弾したが、ヴェンシン側がドライセン各地の反ドライラント派を糾合しドライラントに対して反乱を起こした。

 旧ヴェンシン側はオケアノスと非戦同盟を組みドライラントとの決戦姿勢に入ったが、その事で1つの不運を招き入れる。


 敵の敵は味方というわけではないが、オケアノスの戦犯がヴェンシンを通じて逃亡することを恐れたジークはドライラントと協調することを宣言し王国内の獣人たちの部族の戦士を集めてヴェンシン討伐に力を貸すことにした。

 先立っては対オケアノス防衛線を担っていたスザク東部に配置された兵の内五百ほどがキス族やシャ族の戦士であった為に彼らを送り込んだ。


 驚いたのはヴェンシンだ。

 背後の安全を一旦確保するためにオケアノスと同盟したら両脇から攻められる様になったので、慌てて王国にもすり寄ってきた。

 子どもでも分かりそうなモノだが、そうなることすら読めない連中がサテュロスに戦乱をもたらした一端なのだから無能だからと放置はできなかった。


 結局はさみ撃ちになったヴェンシン派は一週間程で壊滅し、巻き込まれた民衆はドライラントとイシュタルトの兵に保護されたが、家や家族を失ったものや畑を焼かれたものはヴェンシン派を罵り、戦のない世界を渇望したという。


 そしてエスラフラウ殲滅戦から約一ヶ月たち、今日この日を迎えた。

 オケアノス市を守る戦力は残り千人ほど、それに対して王国兵二万ほどと南兵合計五千、北兵四千、ドライラント兵四千がオケアノス市を囲んでいる。


 すでに、陥落は不可避だと判る状態であるのにまだ千人もの兵が残っていることに軽く感動すら覚えた。

(王都なんかでは簒奪侯なんて呼ばれて評判は悪かったけれど、オケアノス領内での連中の言論統制はうまくいっていたということなのだろうか?)


 ともあれ、残りの兵士を皆殺しというわけにも行かないので、再三にわたり降伏勧告をしている。

 賎しくも王を語るセルディオ・セレッティア・オケアノスと先代のセレッティア子爵を含むセレッティア家の男性とキルケル家の男性の身柄の確保、それからリリー・マキュラ・フォン・オケアノスの殺害に関わったものを戦後取り調べて処罰する、それ以外の兵たちの処罰は基本的には行わないことを伝えている。


 この通告でリリーの処刑の際の理不尽を思い起こしたのか、住民たちが兵三百とともに蜂起した。

 働き盛りの男性たちがオケアノス城とオケアノス市外壁を占拠して王軍を招き入れた。

 こうなるとオケアノス兵たちは比較的すぐに降伏した


 城内にはたくさんの兵を入れる必要はないので個人戦力に優れるユーリとボクとエッラ、それからハルベルト配下の三騎士団から3名ずつ、スザク側からジャン・スパロー先輩とオーティス、ペイロードからは初対面だが複製アシガル装備を身につけたコークス少尉とカッパード少尉(どちらも若い男の声であった)と16名がオケアノス城に入ることになった。


 オケアノス城に入ったことがあるものが一人もいなかったが、ユーリが迷いなく進んでいくので皆それに続く。

「ユークリッド様、城の構造をご存知なのですか?オケアノス城はは地図など出回ってませんよね?」

 騎士の一人がユーリに尋ねる。

 簒奪侯にオケアノス家が奪われてから、オケアノス城の内部は一般公開されていない。


「うん、まぁそうなんだけど、事前に調べた30年以上前の資料と代わりないみたいだね。」

 本当はリリーの頃の記憶だろう。

 周りを軽く警戒はしながら、ユーリは城の内部を進む、とくに襲撃もないままとうとう最奥部と思われる区画にたどり着いた。

 そこにはもう80ほどの老人と五十代半ばの男がいて部屋に入った直後からぼくたちを睨んでいた。


「どうも、ボクはこの度オケアノスを終わらせにきたユークリッド・カミオン・フォン・ホーリーウッドです。セルディオ・セレッティア・オケアノスと先代のセレッティア子爵ジェファーソンですね?」

 睨む目を気にしていないのか、滞ることのない澄んだ声でユーリは挨拶した。


「ホーリーウッドの姫若君か、ふん、貴様の様な軟弱がこの伝統あるオケアノスを滅ぼしにくるとは・・・・、歴史に対する敬意はないのか?」

 頭も真っ白な先代子爵はイヤミたっぷりに幼い頃のユーリが呼ばれていた悪い名前を呼ぶ。


「オケアノス家を奪うために幼い姫一人残して皆殺しにした子爵らしからぬお言葉ですね。」

 ほとんどの貴族が、恐らくそうであろうと思っていても確証が無いため言えなかったこと、ユーリだけは確信を持って発言することが出来る。


「小僧!貴様!同じ侯爵家格のものといえどいまは他国の貴族相手に、口が過ぎるぞ!」

 とセルディオではなく先代子爵のほうが声を荒らげる。

 ユーリは冷たい視線で老人を睨む。

「貴方はオケアノス侯爵家の人間ではないでしょう?権力に憑かれ子も孫も道具にしてきた男は、リリーを悪人にすれば自分の罪が消えると思いましたか?セルディオを侯爵にすれば自分が王国の政治に口を挟めると思いましたか?ですがセルディオでは侯爵とは認められなかったでしょう?当然です、権力でも水でも溺れる者はオケアノスの正統とはなれません。」


 ユーリの言葉に目を見開く二人、構わずにユーリは続ける

「四の家には特殊な能力があって、そのひとつが侯爵家を継ぐ条件になっている。それが何の能力かすらまだわかっていないのにオケアノスを貶めた罪は万死に値します。ハルト様は貴方方が嫌いだから侯爵家を継がせなかったのではなく、単にセルディオやジョージ、セルゲイらに資格がなかったから継がせなかったのですよ?」


「小僧!好きにいわせておけば!」

 80の老体が錫杖を構えて攻性魔法を唱えるけれど、この至近距離で初級や下級ならともかく詠唱の必要な中級魔法だなんて。

「無茶はしないほうが良いですよ?おじいさん?」

 ユーリは恐らくセルディオたちには見えないスピードで老人の錫杖とセルディオが隠し持っていた短宝剣とを斬り捨てた。


「ぐぬぅ!?」

 手に走る痺れに顔を歪める老人は。次に叫んだ。

「何をしておる!敵は少数である!囲め!ホーリーウッドの小僧めを人質にして和平交渉をするぞ!」

 今さら和平とか頭に病気でもあるんだろうか?


「ねぇセルディオ、アクアさんはどうしてあなたの隣にいないの?貴方の、妻にしたのでしょう?」

 ユーリはわらわら出てきた雑兵を気にもせずセルディオに語りかける。

 セルディオは目を瞑り少し苦い顔をした。


「アレは今妊娠中故な、ここにはおらぬ」

 この世界においてセルディオの年で相手を妊娠させるのはさぞや苦労しただろう、と少し関心したくらいだったが次の老人の発言には少し引いた。

「折角より強い血ならばとジョージをあてがったが、一人目は流産、二人目が生まれる前にジョージは王国に殺されてしもうた、これでオケアノスの血脈はアクアと、その腹の子とまだ年若いテティスだけになってしもうたわ、セルゲイかジョージが生きておればテティスを宛て行うたものを・・・」

(!?)

「ジョージはアクアさんの子でしょう!?」


 ユーリが激情する。

 あてがうといった、つまり本人たちの意思とはかかわりなく、姦淫させたということだ。

 母と子を、そして兄と妹も候補としていたと事も無げにいう。


 王国では兄妹・姉弟間には近親結婚も可能ではあるが、それはあくまで村に他の未婚の女性がいない等、他の選択肢に乏しく二人の間に愛があれば許される行為であり、親子間は許されない、ただ一つの例を除いては・・・

「それが、なにか問題あるかね?神話の聖母とて自ら産み落とした聖王に体を許しておる。それに、アクアもセルディオより年の近く、若いジョージ相手に悦んでおったわ、のう?セルディオ」


 セルディオは苦々しく俯き歯噛みしている。

 意外とセルディオはアクアに対して愛があったのかもしれない。

 それならこの男を殺してでも守って欲しかったが、よほどこの老人は恐ろしい人間だったのだろう。


 同じ様にこの老人に抗う事が出来ないらしい兵士たちが、この広間に雪崩れ込んできている。

 ざっと30人ばかりか・・・

 しかしながらその質はごくごくただの寄せ集めレベルで、恐らくオーティス一人で何とかなってしまう様に見える。


「武器を棄ててください、あなたたちを皆殺しにしたくはないです。」

 エッラが珍しく主人たちの会話力中に声を出した。

 兵士たちは明らかに怯えていた。

 構えた剣も槍も粗悪な練習用レベル、見たところ皆若い男の子といって差し支えない年齢だ。


「既にこんな兵士を使っているのですか?僕が言えたことではないかもしれませんが、子どもじゃないですか・・・訓練も終わってない様な子どもに死ねと命令するんですか!?」

 ユーリと変わらない年の者が多くいて、彼らは構えもまともにできてはいない。


「やれ、お前たち」

 再度老人が喚く様に叫び、兵士たちは一斉に叫びをあげて、といってもてんでバラバラにが斬りかかってきた。

 そして次の瞬間にはエッラとオーティスがその武器だけを全て叩き折っていた。


「お前ら!武器は命を奪う為の道具なんだぞ!!仕掛けておいてそれを折られた以上、次は死ぬぞ?」

 オーティスが尻尾を逆立て剣を構えながら問いかける

 すると兵士たちは蜘蛛の子を散らす様に逃げ去ってしまった。


 オーティスは身長も高いし迫力があるから脅しの効果が高いね、ボクが同じことをやってもあそこまで命からがらと逃げはしないだろう。

 ともあれこれで残すはセルディオとジェファーソンの二人だけだ。


「ふん!これだから若い者はいかん、命を惜しんで名誉を惜しまぬ!!」

 ジェファーソンは腹立たしげに言うがまだ諦めていないのかな?

 その目は次に自分の隣のセルディオを見る。

「セルディオや、あの犬ころもまぁまぁやるがソナタも軍官学校の次席だったのだ。見せてやれソナタの短剣術を!!」

 さっき短剣折られてるけどね、


「お祖父様、もう止めましょう。我々は罪を償うべきです。」

 セルディオはジェファーソンの要請に対して、降伏の意思を示した。

 それに逆上したのかジェファーソンはセルディオの肩を掴み詰め寄りながらさけぶ。

「何を言うか!?ソナタの力を見せつければまだまだ未来はある!此度は仕方なく頭を下げるが、また30年待とうではないか!!」

 ボクたちの前で、偽りの降伏をする前に力を示すのだと言ってしまうジェファーソン、やはりもう耄碌しているらしい。

 それでも垣間見える人間性は自分勝手でクズクズしいもので・・・


「そもそもセルゲイがいかんのだ。何のために浸透させていたと思っておる!クラウディアにはさみ打ちをかけるはずが・・・、・・・・・・・・?」

 セルディオの肩を掴み、あちら側を向いて喚き続けていたジェファーソンは急に首を傾げて言葉を話さなくなった。

 なんだろう?呆けて言葉がでないのかな?


「もう、止めましょうお祖父様。」

「う、む・・・」

 もう一度セルディオがいうと、ジェファーソンはうなずきながらそのまま倒れて動かなくなった。

 その腹からは血が溢れている。

 セルディオの指からは魔力出来た短い刃が伸びており、どうやらその魔法刃によってジェファーソンの腹を裂いたらしい。


「セルディオ!?」

 ユーリからしてもこの展開は驚いた様で、狼狽えてセルディオの名前を呼んでいる。

「ホーリーウッドのユーリ君だったね、我々の敗北だ。」

 セルディオはユーリに語りかけ始めた。

「罪があるのは私の世代までで、アクアやテティスにはなんの罪もない、助命をお願いしたい。」

 そういってセルディオは頭を下げる。


「そもそもそのつもりです。一桁の子どもが親の罪で殺害されることなどあってはなりません」

 ユーリもはじめからアクアの助命はジークに許可をとっているしテティスという子はユーリにとって姪の様なものだ。

 しかしそれを伝えるとセルディオは深く頭を下げた。

 そして・・・


「最後に少しだけ昔ばなしをさせてもらえないだろうか?」

 といって尋ねたセルディオは、ユーリか小さく首肯くのをみてポソリポソリと語り始めるのだった。


始まってしまいましたね2017年、今年は明るいニュースが多い様に祈っております。


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