第133話:蹂躙戦2
こんにちは、アイラです。
時刻は昼前11時頃、先程威嚇射撃の赤色巨星を打ち上げて、今は降伏勧告をしている。
威嚇射撃後、降伏勧告の使者を送った際合議の上で開戦時間を11時とした。
せっかくこそこそと朝から出撃したのによいのかとユーリに尋ねると
砲撃の強力さを見せつけ、砲塔を突きつけ、次はお前たちに撃つぞ?と脅しているのだから待つべきだと言われた。
眼前のオケアノス兵は勿論、味方であるはずの王国兵たちも赤色巨星の威力に怯えている。
昨日ボクが、砲兵支援を断ったときにはムッとしていた隊長格の男も今はただ敵の出方を待っている。
オケアノス兵といっても元は王国の民で、現在オケアノス王を名乗っているセルディオ・セレッティア・オケアノスとその一族を誅戮せしめれば、彼らは王国の臣民に戻れるはず、できれば生きて投降してもらいたい。
時間を確認すると約束の11時まで数分だけれど、余り敵の兵士は減っていない。
「ユーリ、そろそろ時間だね」
傍らにいるユーリに許可を求める。
ユーリにとっては辛い命令だと思う、彼らはかつてリリーたちオケアノス家の民だった。
(それを焼き払う許可をくれとボクは言っている)
しかしユーリは指揮官の責任を果たす。
「アイラ、また君に嫌な役目を任せる。砲撃用意!」
だからボクも役割を果たそう。
「了解!207秒後に時間通り砲撃します。」
宣言し、すぐに用意を始める。
まずは光弾を出して・・・・
「~万能者たる神の王よ、その権の証を顕せ~サンダークラウン!」
ボクが先程の威嚇と同じ様に準備をしている間に、ユーリは
兵士たちに告げる。
「アイラが砲撃をする。各員は敵の砲撃への警戒厳に、初撃が終わったら切り込むよ」
「~炎輪よ、母たる地を焼き廻れ廻れ廻れ~ブレイジングホイール!」
兵士たちの士気は高い、威嚇の赤色巨星の花火を見て、目の前の子どもがただの大言壮語のガキではないと認識したからだ。
ピシピシと皹の入る音がする。
残り15秒ほどのところで熾天の光冠の完成した辺りでオケアノス側の砲撃が始まる。
相変わらずフライングするのが好きな指揮官が多いらしい
味方ももう対応しなれたもので砲撃に対して相殺の砲撃を放つ、そうしているうちにボクの砲撃も完成する。
「赤色巨星いけぇ!!」
狙いは敵の南側中列。
威力は少し弱めに直径500メートルほど、敵は砲撃を警戒して散開していたが、これだけの範囲を焼き払えば被害は出る。
破壊を生む光の弾はあっという間に狙いの場所に届いて・・・
次の瞬間には白い光と赤い焔が走り、その次に轟音と爆風が吹き荒れた。
散開していたとはいえ、範囲を少しは絞っていたとはいえ、高熱は範囲内の人間を灼き溶かし、爆風で飛散した岩や装備の破片が周囲の人間をただの肉に変える。
ズキリ
胸の中が痛む、今ボクが無造作に焼き払った人たちは、ボクがリリを産んだ様に、誰かお母さんが腹を痛めて産んだ子ども達だ。
これまでだってたくさん命を奪ってきたし、奪わなければこちらが命を落としかねない状況がたくさんあった。
リリを授かり命を奪うだけの人間ではなくなったと、一度は立ち直ったボクだけれども、暁であることを止めようとしたからか、今度は母の気持ちに依りすぎている様だ。
頭の中にウェリントンの村人たちや、リウィ、セーラ、マグナス先輩、ヘスクロの町人たち、ミナカタの子どもたち・・・親しい者を失った人々や亡くなった人たちの表情が次々に脳裏をよぎる。
そんなボクの想いを知ってかユーリがボクの肩を支えてくれた。
「ゴメンね・・・」
ユーリはただそれだけ呟いて、静まりつつある爆心地の向こうに目をやった。
ボクの砲撃を合図にした様にヴェル様たち中央部隊も進撃を開始する。
対してオケアノス側は多数の兵士たちが逃げ出し始めた。
ただの脅しか幻とでも思っていたのだろうか?
赤色巨星の暴威を受けてようやく過半の兵が逃げ始めた。
そして・・・
「敵が崩れた!前衛ワイバーン陣形のままで突撃!」
ユーリの指揮で南部隊も前進を開始する
ワイバーン陣形は漢字の木の字から横棒を除いた様な形の陣形で、本陣を厚くして突撃を敢行する為の陣形だ。
密集したところに砲撃を食らえば危険だが、すでに敵の前衛は散り散りに逃げ始めていて、中衛は半ば潰滅状態、後衛は逃げる兵を押し戻そうとして、軍の体をなしていない。
一方的な蹂躙が始まり、王国兵は多くのオケアノス兵を殺すか捕虜にしていく。
戦場はオケアノス側の砦の方へ徐々に移り敵の本陣も見えてきた。
「オケアノス家の旗だ!」
ユーリが竜骨剣で示す。
その先をみれば青地に剣をくわえた黒い竜と、右上に水滴を象った白い紋様、王を僭称するオケアノスの旗印だ。
元々はイシュタルト王家を鎮護する証として盾も描かれていたが、それが取り除かれている。
あの旗を掲げているということはあそこが本陣で、オケアノス家の人間か影武者がいるということだ。
そこに向かって王国の兵が飛び込んでいく。
敵の総兵数を考えればこの戦場での勝利でオケアノスの潰滅はほぼほぼ決まり、後は各地の開放とオケアノス市の占領、リリーの妹アクアの救出を残すだけとなる。
(しかしどうにもおかしな胸騒ぎがする?)
その時、戦場の北側からワッと喚声が上がった。
それは回り込んでいたはずの二王子の軍勢ではなかった。
掲げた旗は、今見ていたのと同じ青地に黒い竜・・・・わずかに50騎ばかりの騎兵が山の麓の林から飛び出してきていたのだ。
(気づくのが遅れてしまった!!)
本陣脇からの奇襲、敵の狙いはヴェル様の様だが、しかしヴェル様のそばには勇者が二人いる。
『剣天』ジェリドはメロウドさんと同じ世代の勇者で卓越した剣技と飛剣術、そしてボクの光輝剣やソニアの斬鉄剣の様な強化の魔法「報復絶剣」を使う近接系勇者で、ヴェル様が学生の頃から仕えている宿将だ。
『魔砲将』ボレアスは子爵位をもつ貴族で、ヴェル様やギリアム様と近い世代の砲戦メインの勇者、近接砲撃術という戦闘スタイルを確立したのもこの方だ。
そんな二人が奇襲からヴェル様をカバーするために前に出た以上わずかな騎馬隊などものの数ではなかったはずなのに・・・ユーリは走り出した。
ボクもすぐに続いて走り出す。
一人二人と、切り崩されていく。
切り結ぶこと自体が難しいとされる強化魔法剣が一度も切り結ぶことなく切断され、そのままジェリドさんも真っ二つにされた。
接近戦に特化したジェリドさんが無理ならば、ボレアスさんも勿論無理で、あっという間に切り捨てられた。
二人の勇者がまるで雑兵の様に切り捨てられた。
ボクたちヴェル様のところまであと300メートルはあり、騎兵の先導者の男とヴェル様との距離は10メートルを切っていた。
(加速だけじゃあまにあわない!!)
ボクは加速をとかないままで跳躍し、わずかな時間でヴェル様の近くまでたどり着いたけれど・・・
男の握った美しい剣はすでにヴェル様の剣ごと頭蓋を切り割っていた。
「ヴェルさまぁぁぁぁぁぁ!!」
ボクの出現に男は目を見開き、ヴェル様から離れるが、頭の割れた人間がそうそう生きているはずもなく、ヴェル様はもう亡くなっていた。
勇者二人もそうだけれどヴェル様も、近接戦については王族最強だと名高い手練れであったと聞いている。
(それがこうも易々と・・・)
気を抜けばボクも殺られる、ボクは加速して光輝剣を構える。
男は鎧にオケアノスの旗と同じ黒い竜の紋章。
ボクを見て構えを解いた?
男は今しがた大逆を成したというのに余裕の微笑みでボクに語りかけてきた。
「我は無抵抗でいるなら女子どもは斬らぬ、娘、ヴェルガ殿の亡骸をフローリアン夫人に届けてやってくれ」
そういって踵を返そうとする。
「今、何をしたかわかっているの!?」
そういってボクは構える。
抵抗するぞと、伝えている。
男は振り向きながらにして応える、軽い殺気を放ちながら。
「我は今しがたヴェルガ殿を殺害した。尊敬する方だったが・・・・今のジョージ・オケアノスに敵はない!」
堂々としたものだ。
彼がセルゲイの兄とはとても思えないね。
それにしてもだ。
彼が握っている剣はとても大きく、水晶でできているかの様な透き通る美しさがある。
なんというか・・・この世のモノではない様な?
ユーリも追い付いてきた。
「ヴェルガ様!そんなまさか!?」
「すまないが、将は討ち取らせてもらった。見たまえ君たちの軍は総崩れだ。抵抗しなければ命の保証はする。」
命の保証?将を討ち取ったといえどもヴェル様は王そのものではない、まだ王国が敗北したわけではないというのに・・・
「勘違いしないでほしい、ジョージ・オケアノス、ヴェル様を殺してもまだ王国にはジークハルト陛下も、サーリア姫様もいらっしゃる。それに命の保証?生きてる間は辱しめ続けるの間違いじゃないのか簒奪侯?」
親しいものの死に心が冷えていくのがわかる。
アイラにとってヴェル様は伯父上だ。
打ち割られたその額は何か結晶の様なものが付着している。
昨夜リリを泣かせて狼狽えていたあの優しい人が・・・
「我をその名前で愚弄するな!女子と言えど容赦はせぬぞ!?」
簒奪侯と綽名されるのは彼にとっては屈辱らしい
「そうなのかい?君たちの生き様に似合いの良い呼び方だと思うけどね、剣を構えろジョージ・オケアノス!!」
ボクは頭に血が登っていて少しだけ反応が遅れた。
ユーリが盾の剣を構え、その刃に魔力を通している。
「その異常な迄に巨大な剣、貴様ユークリッドか。顔を合わせるのははじめてだな。」
余裕しゃくしゃくと剣を構えるジョージ、今まで地面に下ろしていた剣の切っ先からポロポロと結晶が落ちていく
(剣が崩れてる・・・訳ではなさそうだね。)
「そうだね、何だかんだタイミングが悪かった様だ。」
ヴェル様のことは悲しくとも、ユーリは顔を上げジョージをにらんだ。
地面に目をやると剣の触れていたところにも何か結晶がある。
これはつまり、剣に触れたものが結晶化してる?
「貴様が、セルゲイを殺してくれたらしいな?」
冷製に、ジョークはユーリを見つめている。
「そうだよ?君たちでも兄弟の死は悼むのかな?」
そういって軽く挑発するユーリはやはり普段より高揚している。
「いや、妹ならばともかく、やつのことは殺してくれて正直助かった。我が殺せば悪評が立つのに、やたらと問題ばかり起こすやつでな・・・がそれでも小さい頃は兄上兄上と後ろをついてきた弟、事実として助かってはいるが、蟠りも無論ある!」
ジョージはクリスタルソード(仮称)を振りかざしユーリに斬りかかる。
すると盾の剣という名前の通り頑丈なはずのユーリの獲物が一瞬で寸断された。
ユーリ自身はギリギリでよけたけれど特注の盾の剣を失った。
「何!?」
しかし驚きの声をあげたのはジョージだった。
「まさか今のをかわすとは、剣天殿すら武器が破壊されたことにも気付かずに死んでいったのだがな、同じ勇者でも若さ故か?だがどうする?武器が無くなったぞ?」
そういいながら悠々とユーリの方に歩み寄っていく。
ボクが割って入ろうかとも思ったけれど
「さて、どうしようかな?」
ユーリはまだなにも諦めていない様で、両手に竜骨剣を構えた。
竜骨剣は特注品ではあるけれど試作品がいくつも残っている、けれどあれが盾の剣より頑丈ということはない。
何本あっても盾の剣の代わりにはならない。
ジョージが次の一撃を放つと、今度は鍔迫り合いが発生した。
「なんだとっ!?」
明らかに焦りの色を浮かべるジョージ、盾の剣やジェリドの魔法剣でも受けられなかったのに、なぜ二度目のユーリは受けられたのだろうか?
「貴様、まさか我と同じ魔法が使えるのか?」
あの剣を受ける為の魔法をユーリが使えるということか、ジョージはユーリに問いかける。
「確証はなかったけれど、ね。」
ユーリは苦笑しながら応える。
「ふむ、ということは、我だけでなく貴様もこの剣を扱えるということか、生かしてはおけんな!!」
ジョージは勢いよく剣を振るう、さらに後方からジョージの率いていた騎兵たちが追い付いてきた。
「閣下!助太刀致しますぞ!!」
「閣下をお助けしろ!!」
「閣下が敵指揮官を倒して居られる、閣下を守れば我らの勝ちぞぉ!!」
騎兵が20ばかり抜けてきたらしい。
(ユーリの邪魔はさせない!!)
加速状態のままで暁光を抜いたボクはたちどころにそのことごとくを討ち果たした。
暁光にもボクの服に返り血すら着かず。
馬だけがユーリたちの横を通りすぎていく。
「な!?アンリ!パブロ!!ただの娘ではないと思っていたが、何者だ!?」
そういってユーリとの果し合い中だというのにボクをみるジョージ
「ボクはアイラ・ウェリントン・フォン・ホーリーウッド、ユークリッドの妻で、今しがた貴方が殺したヴェル様の姪だよ」
するとジョージは申し訳無さそうな表情をする。
「それはすまないことをしたな、せめて見ていないところで殺したかったが、そなたの伯父も良人も目の前で殺すことになる、すまないな」
「やめて!いきなり善人ぶらないで、何を言っても貴方たちが不要な戦乱を起こし、これからオケアノスが亡びることは変えられない!」
ユーリとジョージの剣の実力はユーリが優性、剣で受けることができないという優位性も崩れた。
そんな中でボクとおしゃべりなんてするから・・・
「ぐわあぁぁぁー!?」
ジョージの腕はユーリに切断されて、握ったままの状態で剣は地面に突き刺さった。
刺さったとたん、地面が半径20センチほど剣を中心に結晶化する。
握ったままになっていた腕も結晶化したあと落下し、パリンと砕けた。
「人の奥さんを口説かないでくれる?」
不愉快そうに吐き捨てるユーリと痛みに顔をしかめて、ユーリを見上げるジョージ。
「まさかな、魔剣なしでも負けるつもりはなかったのだかな。」
魔剣!?このクリスタルソード(仮称)は魔剣!?
「もしかして、クリスタルバレーの?」
ボクが呟くと分かりやすく目を見開いてジョージはボクに詰め寄ろうとする。
「娘、知っているのか!?教えろ!他の魔剣はどこにある!我は母アクアの為、魔剣を全て手に入れてこのサテュ・・・」
言葉は最後まで紡がれなかった。
「よっしやーヴェルガ殿下の敵はこのドービー軍曹が討ち取ったぁ!!」
(・・・な!?)
ジョージの頭部に横合いから矢が射られて、ボクたちが反応する間もなくジョージの命は絶たれた。
いざ今から、何かアクアに関する話が聞けるはずだったのに、ボクでもユーリでもなく、意味のわからない雑兵が!?
「おい、軍曹!すでにジョージは無力化して捕虜にするところであった!何故殺したか!!」
ユーリが兵士を睨み付けながら言うが、兵士はどこ吹く風で近寄ってくる。
「貴族のガキどもがなんと言おうが、勲一等は俺様だなぁ、ジェリド閣下やボレアス閣下が破れたヴェルガ殿下の敵を討ち取ったんだからぁ~、俺が次の将軍かなぁ~」
夢物語でも見ているのか人の話をちゃんと聞かない。
「さて、ぶんどりぶんどりと・・・いやー、高そうな剣だなぁ。」
ドービー軍曹とやらは討ち取った相手の持ち物をぶんどるためにクリスタルソード(仮称)に近寄っていく。
「止めろ!それにさわるな!」
ユーリが慌てて止めるけれど、兵士は聞く耳をもたず
「おいおいいくら貴族様でもよ、横取りはよくないですぜ。」
どの口が言うのかへらへらとそういってクリスタルソード(仮称)を握った瞬間、ドービー軍曹は手先から結晶化し始めた。
「な、なんだこれ!ヒ!た、助けてぇ!!」
哀れ、ドービー軍曹はわずか10秒ほどで足先まで結晶化してその後いくつかのパーツに崩れた。
ユーリはジョージの遺体とヴェル様の遺体とを回収するとクリスタルソード(仮称)に近付くと一回深呼吸。
それから引き抜いた。
ドービー軍曹と違いユーリには結晶化する様子がない
美しい剣を掲げる彼は、まるで神話の勇者の様だ。
「ふぅ、良かった。結晶化しなくて」
「ユーリ!確証があった訳じゃないの!?」
彼の発言に肝を冷やす。
「ジョージが握れてるからもしかしたらと思った位でね」
悲しそうに呟くユーリ、ジョージは話のわかりそうな男であった。
可能なら殺したくはなかったのだろう。
たとえヴェル様を殺害した咎で処刑をされるだろうと予想されていても、ボクも少しでも話をしておきたかった
「触ってみてわかったけれど、どうも魔力を吸収する魔法と、その魔力で対象を結晶化して脆くする魔法が込められているみたいだね。」
恐ろしい剣だね、ユーリとジョージが握れるということは。
「奪魔法の力で掴んでいるってこと?」
ユーリは無言で首肯く、ボクは亡くなった勇者二人の遺体を回収した。
ジョージの突撃により被害が出すぎた。
両軍ともに指導者を失ったが、それでも南軍が頑張っているのでオケアノスのほうがが崩れている。
南軍の先導をしているのはエッラで、その突破力は折り紙つきだ。
恐らく任せて大丈夫だろう。
ボクはユーリに先に城にもどる様に伝えて、跳躍してエッラと南軍に深追いせず、ジョージを討ち取った旨を喧伝する様に伝え、本軍と北軍の生残りを捜索回収する様に指示を出してから、砦でフローリアン様と待っているはずのリリの元に跳躍した。
暗転から視界が開けると、司令室にはフローリアン様に、トリエラ、ナディア、アミと抱っこされているリリと数人の参謀らいて、みんなこちらに振り向くところだった。
「アイラ様(ちゃん<先輩>)!?」
予定よりも早いボクの帰還に皆が驚いている。
なにか動きがあったとわかってるから。
「フローリアン、様・・・」
ボクは良いよどむ、まだ決着もついていないのに戻ってきたボクが良いよどむのを見て、フローリアン様は悪いニュースを悟ってくれたらしい。
「あの人かしら?それとも息子たち?」
優しい眼差しで微笑み尋ねる。
「ヴェル様が戦死なさいました。二王子は不明です。」
あちら側からジョージらが抜けてきた以上、戦死している可能性が高い。
それを伝えるとフローリアン様は五秒ほどうつ向くボクの頭を撫でてから
「十分ほど一人にして頂戴・・・」
そう呟いて窓際に移動した。
ボクたちは皆で部屋の外に出て参謀らも、メイドたちも皆一緒になって涙した。
幸いにしてというべきか、二王子の隊はジョージらとは接敵せず無事の帰還を果たした。
後にエスラフラウ殲滅戦と呼ばれるこの戦で、オケアノスは四千余の死者と二千以上の負傷者を出し、無傷でいた残りのほとんどの兵は逐電した。
さらに死者の中に認定勇者二名と準勇者六名とジョージが含まれており、その戦力は壊滅的打撃を受けた。
王国も勇者二名を含み500名ばかりの死者を出したが、数だけで言えば、圧倒的大勝を飾った。
なんとか年越し前に投稿できました。
次は多分年越し後になります。