幕間6:東へ
おはようございます、暁改めアイラです。
北部戦線の終結とその顛末、今後の領土運営について相談するため、ボクたちはラピスとヒースを連れてクラウディアに向かって移動していたけれど、道中通りかかったヘスクロの町にて一夜を越すことにした。
町人たちは一年ぶりに訪れたボクやユーリのことを覚えていてもう夜9時を回っていたのに大変な歓待を受けて、リリのために沢山の可愛い服や手袋と靴下を貰ってしまった。
さらになるべくロマンチックな部屋をと依頼したところ、町の広場と美しい朝日と山の稜線が見えるという中々に豪華なお部屋四部屋を一部屋分の値段で泊まることができた。
タダでいいと言われたが、流石に申し訳なかった。
昨夜はそのつもりはなくて、ラピスとヒースの為に良い部屋を用意してもらったのだけれど、雰囲気に当てられたのか・・・途中で部屋にいた神楽たちにリリを連れて退出してもらった。
たった今ボクは久方振りに、まだ過去一度しか経験していない気だるさと馴れない部位の筋肉痛に苛まれながら目を覚ました。
前回もそうだったけれど、いつもよりもユーリの寝顔がいとおしく見える。
最近はずいぶん逞しくなってきたユーリだけれど、安らかな寝顔は相変わらず少女の様に可愛い、ユーリの身体が逞しくなったぶん昨夜は大変な思いもさせられたけれどその分、密着感というか包み込み包みこまれる感覚が心地良かった。
軽く身支度して一人で浴場に向かおうとすると。
「アイラさん、おはようございます」
神楽に声をかけられた。
「おはようカグラ」
ボクはなんとなく後ろめたくて、手を前側で組んだまま神楽に挨拶を返した。
神楽は今はゆったりとした部屋着姿だ。
「アイラさん今からお風呂ですよね?お背中流させてください」
神楽の少し寂しそうな声、断れるハズもなく浴場に一緒に向かう。
脱衣場に着くとすぐに神楽は服を脱ぎ去って、惜しげもなく豊かに実った裸体を晒した。
「カグラ、その前を・・・」
神楽はボクが言葉を言い切る前に
「今は女の子同士ですから」
そういって神楽は先に浴室に入っていく。
ここは宿屋なので女性のみ利用の大浴場、お洒落な内装と可愛い小物がセットされていて以前なら居心地が悪かっただろうけれど、今のボクはもう慣れきっている。
遅れて入ると浴室内は神楽しかいなかった。
「カグラ、ボクは・・・」
「アイラさん、ここへどうぞおすわり下さい。」
ボクの言葉を遮る様に神楽は先回りをする。
仕方なく言われた通りに座ると神楽はよく泡立てたタオルでボクの背中を撫で始めた。
暁と神楽の時よりもはるかに弱い力、それが今のボクにはちょうど良い。
「リリちゃん昨夜はお利口さんでしたよ・・・」
「うん」
「エッラさんのおっぱいが大好きみたいです。」
「うん」
気持ちいいけれど気まずい時間。
「不思議ですね、この小さな背中があのアキラさんだなんて・・・前失礼しますね」
「そっちは自分でできるから!」
そういって神楽を手で止めようとするけれど、体の大きさで前に割り入られ、座った膝の間に座り込まれた。
「やらせて下さい!やらせて、ください・・・・」
神楽は少しうつむいてボクの膝を掴む。
「カグラ・・・?」
その手は温かいお風呂場だというのに震えていて、ボクを不安にさせる。
「アイラさんはユーリさんのお嫁さんだから、家を繋ぐ役割りを持つ女として務めがあることはわかります。ユーリさんもアイラさんの事がわかっていて、お二人が好き合っていることも知ってます、でもどうして逆じゃないんですか!?」
神楽は跪いてボクを見上げた。
その目は泣いていた。
ボクはなにも言えないままで神楽の手にボクの手を重ねる。
「リリーがアイラさんで、アキラさんがユーリさんで良かったじゃないですか!?何で逆なんですか!!」
重ねたボクの手に逆の手を重ねながら神楽は叫ぶ。
確かにボクがユーリだったならば、神楽を受け入れることも出来ただろうし、きっとそうした。
「アイラさんには幸せになってほしいけれど、ユーリさんにも幸せになってほしいけれど、私はアイラさんと一緒にいたい!アキラさんに抱いてほしい!!」
神楽の中でボクはアイラで暁で、今でもボクのことを想ってくれているし、アイラがユーリに抱かれることを許してくれている。
ボクは神楽と再会するまで、彼女が他の誰かのモノになっていても幸せにいてくれればと考えたけれど、神楽と再会してからは神楽を自分の大事な女の子だと思っている、独占したいと感じている。
「ワガママでごめんね。ボクはカグラのことを大好きだけど、ユーリのことも大好きなんだ・・・キミの想いに応えたい、ユーリのことも愛したい。」
こんなワガママなボクのことをキミはまだ愛してくれている。
「アイラさん、会話が噛み合ってないです。私は今も貴方が好きです。アキラさんのアイラさんが好きなんです。アイラさんは私のことを好きにしていいんです」
そういって神楽は重ねた手を抜き、ボクの脚の間で腕を組み胸を強調する様なポーズをする。
ボクの鼓動がドクンと跳ねる。
「カグラ・・・?」
「どうですか?こんなに大きくなりました。もう子どものカグラじゃないんです。赤ちゃんだって作れます。でもアキラさんの赤ちゃんはもう絶対に作れません・・・」
何をすればいいのだろう、ボクは神楽に何をするのが正解なのだろうか・・・?
「だから・・・アキラさんが産んだリリちゃんの弟か妹を、私に生ませてください、私をアイラさんの家族にしてください。」
それはつまり、ユーリの側室になりたいということ。
「ボクは、アイラに生まれてしまったから。キミがボクと一緒にユーリを支えてくれるというなら。断る理由も資格もない、ボクも出来ることならキミと離れたくないから・・・だから、これからもよろしくねカグラ」
神楽がユーリに嫁ぐということ、それを聞いても不思議とボクの独占欲は傷付かなかった。
「ありがとうございます、アイラさん、それとまだお願いがあるんですが・・・」
言い辛そうにする神楽、一番大事な宣言は終わったのだから後は何だってボクは受け入れられると思う。
「何でもいって、ボクの大切なカグラ」
少し長い息を吐く神楽・・・
意を決した様で真っ赤な顔を上げて言った。
「私はユーリさんのモノになるわけではなくて、アイラさんの家族になりたいので、その時は一緒にいてくださいね?」
結婚式のことかな?
「 勿論良いよ?」
そう答えると安心した表情で微笑む。
「あとあと!今からたくさん甘えてもいいですか?」
上目遣いで見つめる神楽に逆らえるハズもなくボクたちは体をを洗いあったあと浴槽へ
「昨夜は結ばれるというラピスさんたちが羨ましくて、アイラさんとユーリさんもそういう雰囲気になってましたし、ちょっと我を忘れてしまいました。」
二人湯槽の中体を寄せ合っている。
少し落ち着いた様子の神楽はかつてよくそうしていた様に甘えてくる
神楽はボクに頬擦りしたり抱っこしてきて、ボクは導かれるままに神楽の身体のいろいろな場所の感触を楽しんだ。
神楽は終始幸せそうで、ボクも身も心も癒されて、ボクたちは三十分近くも長湯してしまった。
その後火照った身体で浴室をでるとそこには、ちょうど服を脱ごうとしているラピスがいた。
「あ、ラピスも今からお風呂?」
「気持ちいいお風呂でしたよ、って昨夜も入ったから知ってますよね」
そういって何事もなかった様に声をかける。
(あれ?ラピスなんか暗いね?)
ラピスは少し俯いて、落ち込んでいる様に見える。
「アイラちゃん先輩、カグラさん・・・私・・・オレ・・・ヒースのこと傷付けたかもしれない・・・」
珍しくこちらの言葉のままでオレと言ったラピス、その表情はやはり落ち込んでいる様だ。
「ラピス?どうしたの?」
ボクが撫でてやるとラピスはまだ濡れているボクに抱きついて、グスグスと泣き始めた。
「先輩、オレね・・・ヒースの、タマキのこと受け入れてあげられなくて、痛くってさ、ヒースのこと押しのけて泣いちゃったんだ。先輩私より身体小さいし、今よりさらに前なのに、どうやってリリまで産んだの?」
昌人とラピスの間で揺れている様で言葉が落ち着かない。
どうも上手く出来なかったらしい・・・
とりあえずもう一度浴室に戻り、二人がかりでラピスを洗ってやり、身体の準備の仕方や慌てないように助言をいくつか告げると徐々に元気が出てきて、 もう一度浴室から出る頃には・・・
「先輩、カグラさん、私、今夜もう一回頑張ってみます!」
と、意気込んでいたけれど
お陰で朝から一時間近くもお風呂で過ごしてしまった。
あらためて脱衣場を出ると男湯側からユーリとヒースが一緒に出てきた。
二人とも湯上がりの髪が妙に艶っぽい。
そういえば二人とも元女の子で見た目も女の子っぽいしね
それでも大分体は大きくなったけれど・・・
ヒースも何かユーリに相談したのかな?
すっきりした感じの表情をしている。
「おはよう、ユーリ、ヒース。」
「おはようアイラ、二人も」
「おはようございますユーリさん、ヒースさん」
ボクたちはいつも通り。
そして・・・
「ヒース、私、今夜も頑張るから。」
「はい、ラピス様、私も粉骨砕身の覚悟でがんばります!」
ラピスもヒースも笑顔で意気込みを表した。
早めに発つことにしていたので朝食後すぐに部屋を引き払う
町の人たちの歓声を受けたり、御使い様ご一行の石像を見せられたりしながら、大勢に見送られてヘスクロの町を出た。
それから朝10時前には、クラウディアに到着。
ジークとの謁見も昼食を挟みながら行い。
全て許可を得て、アシガル黒鎧のサンプルをひとつ研究用においていく
さらにジークから対オケアノス戦の前線の状態が先日と余り変わりがないが、とうとうナガトさんから連絡があったという。
「父からですか?」
アミの父ナガトさんは約一年間に渡りオケアノスとドライセンに浸透して諜報活動している。
ミナカタとペイルゼンの戦が終わったため、タンバさんとハンゾウ氏もオケアノス、ドライセンに向かったところナガトさんから急ぎの伝令を頼まれてタンバさんが戻ってきたそうだ。
「うむ、そなたの父ナガトの調べによればオケアノスの第一子ジョージの軍勢が西・・・こちらに移動し始めたらしい」
今更2000人規模の軍が動いたからどうということもないと思うが・・ ・
「それでハルト様、僕たちはどう動けばよいですか?」
ユーリはジークに指示を求める。
ジークはユーリの正体も復讐心も知っているからか、鷹揚な指示を出した。
「本日はクラウディアで物資の補給と体力の回復に務め、明朝東方ウィール砦へ向かってくれ、そこにヴェルガとリアンが詰めておる。」
ジークの指示に従い休むために、ボクたちは王城を後にした。
「あ~あ、私たちはお留守番ですか・・・」
ラピスは少し残念そうだ。
「仕方ないですよラピス様、私たち足手まといですし。」
そういってラピスを慰めているヒースも残念そうな顔をしている。
ジークの指示でラピスとアイビスは留守番を命じられた。
オケアノス戦線は安定していたペイルゼンと異なり散発的な攻撃が行われているため、何かあってはまずいとのことだ。
本当はボクやユーリにも留守番をさせたいところだが、実積が有るため、戦争の早期終結を願って送り出すそうだ。
確かにミナカタは少しかかったけれど、ルクス、ペイルゼンは関わって数日で終わっている。
「是非とも期待に答えてオケアノス戦を早期に終わらせたいけれど・・・」
オケアノス戦の終結とはすなわちユーリの復讐の終わり、それが終わって初めてユーリはユーリとして生きていける様になる。
今まで我慢してきたのに、いよいよオケアノスに攻める段となり明らかに逸っているユーリのことが不安になる。
慣れ親しんだ王都屋敷で、明日の出撃に備えてボクたちは床に入ったけれど、何となく不安で落ち着かなくて、この日もユーリと同じベッドで心地よい気だるさの中で意識を手放した。
いよいよ東方へ向かう、ペイロード側、スザク側からも部隊が出てオケアノスを包囲殲滅する。
それが終わればまたこの屋敷から学校に通うのかな?それとも卒業したことになってしまうのかな?
まだ終わらない戦争、でも確実に終わりが見えてきたことに、ボクたちは多分、油断していた。
ナニがとは言いませんが多分大丈夫だと信じています。次回から章を分けます、ここまでの章も名前を替える予定です。
※大丈夫ではなかったので活動報告に言い訳を記載しています。