第131話:悪路
※17/3/28 シトリンが誕生日を越えていたため5歳>6歳に変更しました。
おはようございます、暁改めアイラです。
長かったペイルゼンとの戦争もようやく終了し2日経ちました。
結果こそ予定通りではあるけれど、その過程は胸くそ悪いもので、父殺しを兄殺しして終了となってしまったが、現在は旧王都ゼンにてペイルゼンの統治を一先ず引き継ぐため、ペイルゼン伯爵となったエイム氏とペイロード侯爵アレキサンド・ライト・フォン・ペイロードとその二人の奥方と政務官達がゼンの宮殿で忙しなく働いている。
「おはようございます、アイラ殿、相変わらず麗しいお姿で朝から心洗われる様です。」
朝起きてとりあえず生理現象の解決とリリのおしりを洗うため、リリを抱いたトリエラを引き連れてトイレに行こうとしていたところ
ナイスガイな感じのアラフォー男子に話しかけられてしまった。
「おはようアイラちゃん」
「おはようございますアイラちゃん」
続けて後ろにいる女性ふたりが気さくにボクに声をかける。
「おはようございます侯爵閣下、殿はやめてください、ボクは
まだ学生の身分ですので、ルビー様、サフィ様もおはようございます。」
現ペイロード侯爵アレキサンド・ライト・フォン・ペイロード様は現在39歳で、ボクやユーリをよくからかってくる。
「いやいや、長引いていたペイルゼン戦に終止符を打って下さった英雄の一人だ。学生でも敬意を払わねば、ましてアイラ殿はうちの末娘の姉の様な者なのですから」
マハ攻略前に伝えられたことだが、アレク様はペイロード侯家の末娘シトリン・マラカイト・フォン・ペイロードをユーリに側室にとらせることにしたそうだ。
カナイマで留守番している間にアイビスからジークとの企みを聞き出して、自分達もそれに同調することにしたらしい。
「でしたらボクは義理の娘の様なものですね、アレクおじさま?」
恐らくは彼なりに気を使って頂いているのだと思うけれど、顔をあわせる度にこのやり取りをしている。
「フハハ、アイラよ!私はお前の事を気に入っているぞ!ギリアムは羨ましいな、こんなにかわいい嫁を家に迎えられて!ジャスが生きていたなら是非うちに来てほしかった!」
「残念ながらボクはユーリ以外とは結婚しなかったと思います」
ペイロード家は現在娘が三人しかいない、出ていくことはあっても新しい嫁を迎え入れることは出来ない。
現在のペイロード家の状況はアレキサンド様、継室のルビオラ・ラズリ・フォン・ペイロード様36歳、側室のサファイア・マラカイト・フォン・ペイロード様21歳、ユミナ先輩19歳、ラピス13歳、シトリン6歳ですべてだ。
アレク様の幼馴染で正室であり、サファイア様の年の離れた姉だったエメラルダ様が、嫡男であったジャスパーをお産みになったあと亡くなり、そのジャスパーも病気がちで、9年前11才のとき虫刺されから体調をくずして治癒術士の治療も間に合わず一晩で死亡
その後慌ててサフィ様をむかえたが生まれたのは現状シトリンだけ、ご自身の年齢もあるので嫡男が生まれない時に備えて、ユミナ先輩かシトリンのどちらかにペイロード家を継がせる支度をしていたのだが、ユミナ先輩は結婚したくないらしくこのまま男児が生まれなければユミナ先輩を次期ペイロード侯爵にして、その次をシトリンとユーリの子で能力継承できたものを据えたいとのことだ。
なぜラピスとヒースの子ではないのか理由を訪ねたところ、元々マラカイトの家が伯爵家で家格が高くラズリの家はその家臣の家で、元々ルビー様もエメラルダ様の御付きだった。
それまではジャスパーがいたのでルビーを継室として、ジャスパーの養育も任されていたが夭折したため、慌ててマラカイト家がサフィ様を継室にしようとしたところサフィ様が長幼の序は乱さないと言って譲らなかったため、室は今の序列になった。
この度のペイルゼン領の分割を受けてペイロードの本家の力を落とさなくとも分家を立ち上げることが可能になったため、ラピスとヒースが卒業後結婚した暁にはナハトロード家としてペイロードの分家の伯爵家として立ち上げ、年齢を理由にユミナ先輩をペイロードの次期当主としたが、将来もしユミナ先輩に子どもができてもシトリンの子をペイロード当主として養子にすることを約束してマラカイト家の面目を立てた。
ナハトロード家を作ったことでナハト家もペイロード配下のナハト家とナハトロード配下のナハト家に別れることとなっている。
王国には各爵位の数に制限があるが、昨年オケアノス家とその配下の家が抜け一気に数が減り、帝国貴族とペイルゼン貴族の一部が王国に組み込まれたものの、土地としてはミナカタ領が丸々割り当て可能となっているため、現在ジークの裁量である程度なんとでもなる。
(戦争後落ち着いたらホーリーウッドとルクセンティアを独立させた上で連合国となるからまた貴族の割り当ても変わるだろうけれどね。)
少し意識がそれたが、斯くして幼いシトリンとユーリの政略結婚が決められてしまった。
同格のはずの侯爵家への側室での輿入れに当初マラカイト家は難色をしめしたが、すでにアイビスやシシィの側室での輿入れが決まっていることを広めたら処刑すると脅しつつ伝えると、是非側室にいれてほしいと伝えてきたという。
現状悪い子ではないこととボクたちの目標的にはプラスになりうるのでシトリンが嫌がらなければ、と条件をつけて了承した。
シトリンはシシィとも仲良しだしね。
あと数日すれば北部もある程度落ち着くので、それが終わればまたボクたちホーリーウッド組とアイビスはクラウディアに向かう予定だ。
「それではボクは、リリを着替えさせるので失礼しますね。」
少し雑談してからリリがお尻の不快感に気付いて泣き出してしまったので別れた。
つもりだったのだけれど、一旦トリエラにリリを任せて、用を足してから洗い場にゆくと、サフィ様がリリのおむつを換えていた。
「サフィ様!?」
なんで側室とはいえ伯爵家の娘の侯爵夫人が他所の子のおむつかえてるのかな!?
「あ、ごめんなさいアイラちゃん、シトリンとも会えてないから寂しくなってしまって。」
そう言いつつ手は止めないサフィ様、手を止めるとリリが寒い思いをするからそれはいいことなのだけれど。
「抱っこや寝かしつけとかならいくらでも可愛がってくださって構いませんので、おむつの世話くらいはメイドにやらせてください、トリエラが仕事が無くなって困ってます。」
仕事を奪われたトリエラはなにもできず直立不動、侯爵夫人にこんなことさせて大丈夫かな?つて不安顔。
「あ、ごめんねトリエラちゃん、そうよね、私に言われたら断れないよね?」
そういっておむつを替え終わったリリをトリエラに抱かせて、汚物の付いたおむつを洗い始めようとしている。
「だーかーらー!!」
その後なんとかおむつを取り戻し、サフィ様にリリをだいてもらい。
トリエラがささっと片付けをする。
終わったら一旦収納へ、あとでエッラに預けて干しといてもらおう。
その後部屋に戻り着替える、戦中なので動き易い学生兵士服、もう着なれたモノだね。
食堂で皆と合流して最後の朝食をとる。
「それでは、僕たちはお預かりした書類を陛下へ渡しますから、事前報告は結晶通信でお願いします。それと本当にいいのですか?ホロの現物ってひとつなのでしょう?」
アインスが使っていたホロ装備を研究用にホーリーウッドに持ち帰ることになった。
「うむ、こちらはしばらく農地の開発が必要だからな、任せてすまないな。」
もしもセントールとの関係が悪化したなら、攻めて来るかもしれない、強力なアシガル装備を持つセントールは他に何を開発しているか分からない、ホロを研究することで少しでも差を埋めなくてはならない。
ホロ装備でもユーリの剣撃を防げなかったけれどユーリは強化魔法についてはボクたちの中でも一番なので一般兵ならどうなるのかは分からない。
対抗するには同程度の武装を開発できる様になる必要がある。
現在まだオケアノスと戦争中で、恐らくドライセンも敵に回る目算が高くなったので西側地域で研究することになった。
エッラが言うには複製アシガルはウルフタイプと同程度、黒鎧はタイガータイプと同じ程度の硬さがあり、攻性魔法が効きにくいのは厄介だが動きが遅いぶん与しやすいとのこと
(多分エッラだから言えることで、普通の兵士では一打防ぐと防御ごとへし折られるのでやはり装備の開発が必要になるだろう。)
これからボクたちはオケアノスを倒し、牙を剥くならドライセンも倒し、サテュロス大陸をひとつの国として協調していかねばならない。
かわいいリリのためにも、まだ休む時ではない。
早めの朝食後ボクたちは来たときのメンバーにラピスとヒースを連れてクラウディアに向けて飛び立った。
ラピスとヒースをつれていくのは新しい伯爵家を2つも興すのにジークに許可を得ないわけには行かず、まだペイルゼンとナハトロードは足下を固める中家臣もたりず領地を開けられないためエイム氏が残った。
エイム氏は元は敵国の人間ではあるがすでに信用に値するとして、ナハトロードの領地の検地も任せることにしたが、一応はこっそり監視していて、不正を働けば取り潰すつもりでもある。
(まあエイム氏なら大丈夫だろう。)
盾もまた大きい方の飛行盾になっているため、少しゆっくりな空の旅、道中はじめての飛行盾に大興奮のラピスとヒースに、自分も前回は大騒ぎだったのに先輩風ビュービュー吹かすアイビスがかわいかった。
「それにしても、アイラちゃん先輩にはびっくりしました。」
ひとしきり風景を眺めて満足したらしいラピスが振り向き笑いながら言う。
「そうですね、まさか一年会わない間にママになるなんて思ってませんでした。」
ヒースも今までラピスが落ちない様に腰をつかんでいた手を放しながら振り向いて言葉を繋げる。
ヒースは、今でこそ女装男子だけれど、前世は女の子だった。
思うところがあるのだろう、今はナディアの腕の中で寝息をたてているリリに優しい目差しを向ける。
「ヒース?」
今でこそ愛らしい少女だが 前世では少年だったラピスがやはり可愛らしいキョトンとした表情で見上げる。
「あぁ、ごめんなさい?なにか懐かしい感じがしまして。」
ナディアは顔立ちは少し違うけれど日ノ本人の大名家の姫の様な美しく長い黒髪をしている。
聞いた話では環ちゃんも髪は伸ばしていたというし。
もしかしたら少し自分を重ねたのかもしれない。
ラピスはそんなヒースをしばらく見つめて・・・・
「ヒース!」
決意を秘めた目差しと
「今日から私たちも子ども作りましょう!」
「ちょっ!ラピス様!?」
直接的な言葉とでヒースを驚かせた。
「恐いから卒業まではなし!って言ったのラピス様じゃないですか!?」
赤裸々に語られるラピスとヒースの約束。
「ちょっとヒース!変なことばらさないで!?」
直接的なことをいっておいて、照れないでほしい、こちらはいたたまれない
そのまましばらく真っ赤になるアイビスや、居心地が悪そうなボクたちの視線を憚ることなく犬も食わない様な残飯を量産するヒースとラピスがようやく冷静になる頃にはヘスクロの町にたどり着いていた。
あの虐殺の日以来約一年に見下ろしたヘスクロの町は、所々建物のない所が有るものの、概ね元通りにみえる。
「いい時間だし、軽くヘスクロで食べてから行くのも良いかもね?」
ユーリがそう呟いてボクやラピス達の方に尋ねる。
「そうですね、そろそろ椅子にでも座りたいです。」
ラピスは笑顔、隣のヒースは苦笑してるけれど。
「あと二時間位だっけ?」
ユーリの質問には答えないままでボクは神楽に尋ねる
「そうですねそれくらいだったと思います。」
それなら時間的にも一時間ばかり休憩しても日付けが変わる前にはクラウディアに入れるね、ジークには迷惑な時間になるかもしれないけれど。
「ならボクも寄り道でいいと思う、最悪泊まってもいいと思うよ?」
皆度重なる強行軍で疲れてるだろうし、たまにはゆっくりしてもいいとこの時ボクは思ってしまった。
この時寄り道せずに真っ直ぐにクラウディアに向かっていればこのあとボクたちが辿る道程も少しは違ったかもしれないのにと遠くない未来ボクは後悔することになるけれど、この時のボクはそれを思いもせずに町人たちの歓待を受けて、楽しい時間を過ごした。
師走は本当に師走ですね。書く時間が中々取れず、更新頻度が下がっていて申し訳ないです。
お話の今後について少し迷っておりまして
戦争終結が区切りとなる予定なのですがその後の本編構成について
1.今まで通りにアイラ一人視点
2.次の章から多人数視点
3.こちらを完結にして新規小説をひとつ作って続編扱いで多人数視点
のいずれかで迷っております。
まだ少し先になりますが本当に決めあぐねたらアンケートみたいなのをしてもよいものなのでしょうかね?取り方がわかりませんが・・・
あと事後報告になりますがこっそり神楽の話二つ目を投稿しています。