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第130話:傭兵

 こんにちは、暁改めアイラです。

 ゼンにてアルバート王が停戦、というよりも降伏勧告を受け入れて国を解体することを了承してから2日経ちました。

 マハのエイブラハムのことはペイルゼン自らの手でケジメをつけたいとのことで、まずはペイルゼンの兵らが囲み、その上でペイロードの兵がその周りを囲むことになった。



 今ボクたちはペイロード兵の最前線でユミナ先輩とエイム氏と共にマハを取り囲むペイルゼンの部隊を見ている。

 ペイルゼンの部隊は人口一万足らずの港町マハを、5000の兵と300の複製アシガル部隊で囲んでいる。


 それを後方からペイロードの兵士が12000程で囲んで様子見をしている。

 ペイロード兵の数が多いのは、もしもペイルゼン兵が寝返った場合に備えてのことだが、寝返る心配は薄いと思われる。

 何せすでにペイルゼン全土に降伏は布告されていて、いまさらそれを翻すことをしてペイロードに勝てたとしても国としては敗北よりも悪い結果だからだ。



 2日前、ペイルゼン王都ゼンにて、ボクたちはペイルゼン王アルバートと対面した。

 ボクたちはエイム氏からとった情報とペイロード侯がとった裏付けとから、第一王子エイブラハムの罪過を告げ、アルバート王も認めたため開戦の責任はエイブラハムに贖罪させるものとした。

 次に国とペイルゼン家の存続について話し合い、ペイルゼン王家は解体し第二王子アイムザットを領主としてペイルゼン伯爵領としてゼンから北西の地域を安堵し、すでに火山活動が沈静化しているヘルワールとわずか一年で緑化が始まったらしいヘルステップとを開発する事業を任せること、これまでペイルゼンが開墾してきたペイロードからの借用地はペイルゼンの開墾により、二等耕作地となっていたので取高の5パーセントをペイルゼンに納めることとした。


 無事にアルバート王は降伏を受け入れて、戦後の取り決めを終えたあとただちにペイロード、ペイルゼン、ホーリーウッドの連署での布告がなされた。

 ただ、アルバートは王位は退いたが、家督を譲る前にやるべきこととして、マハのエイブラハム攻めを自ら行うことを望んだ。


 一年に及ぶ戦争で疲れた表情をしていたアルバートであったが、息子アイムザットの伯爵としての初仕事を兄殺しにはしたくないらしく、弱った体に鞭をうち自ら軍を指揮している

(なんというか、こういう戦は見ていて辛い)


 さて、マハのエイブラハムの方も、昨日からじわりじわりと囲まれているのはわかっていただろう。

 今降伏を勧める使者がアルバートから送られた。

 どういった出方をしてくるか・・・。

 リリはやや後方の本陣となるペイロード侯夫妻やアイビス、ラピスたちのもとにいてアミとトリエラが面倒をみてくれている。


 ユーリとボク、カグラ、エッラ、ナディアはこのペイロード兵の最前線にてエイブラハムの出方を伺っている。

 まずはペイルゼン家の面目を立てるために後方に待機しているが、いざというときには動くつもりだ。


 降伏してくれるのが一番で野心を捨てるならばペイロード侯としても命までとらないつもりでいるらしい。

 ペイロードもこの戦で、決して少ないと言い切れない数の戦死者を出しているが、これまでそれなりに友好的にやってきたアルバートへの遠慮というか、同情の様なものだと思う。

 為政者としてはダメなことだろうけれど気持ちはわからなくもない。


 さて使者がマハに入ってから30分程過ぎただろうか。

 事態は動き始めた。

 使者殿が沢山飾りのついた白色のターバンを付けた、身なりのよい男を伴ってマハから出てきた。

 使者は入るときには持っていなかった華美な剣を両手で大事そうに水平に持ち、頭を垂れたままでアルバートの方へ歩いていき、身なりのよい男はその後ろをついていく。

 エイム氏が大きくない声で囁く。

「兄とマハ方面の軍権を表した宝剣です。」


 ホッと誰かが息を吐く、ようやくペイロードーペイルゼン間の戦いが終わるのだと、ほとんどの人間がそう思い浮かべ、ボクとユーリとエッラだけが走り出していた。

 次の瞬間に兵らの声は嘆きに変わる。



 マハの正門から100m程の地点、使者の男が歩み出たアルバートに剣を奉じ様とした瞬間、エイブラハムは使者の男の右後ろからヌイと腕を差し入れ宝剣を掴み、抜き、使者とアルバート、自分の父親の首を落とした。

 そしてそれを合図にしてマハから大量の黒鎧のアシガル兵と一回り大きい黒鎧が一人飛び出してきた。

「父上ぇぇぇぇ!!」

 後方からエイム氏の叫びが聞こえ、同時に黒鎧の集団によるペイルゼン兵への蹂躙が始まる。


 黒鎧は80か90位だけれど、確実に兵士たちを圧倒している。

「顔を立てるために距離をとったのが裏目に出た!アイラとナディアは左へ!」

 ユーリは悔しげに叫び、それから竜骨剣と盾の剣とを魔力強化した両腕に構えて、正面の多きな黒鎧に狙いを定めた様だ。


「私は右翼側へ参ります。」

 そういってエッラは逃げ惑うペイルゼン兵たちの頭上を一跳びで越えていった。

「良いよ、すぐ片してそっちに行くから!カグラ、ユーリをよろしく!」

 ボクは了承してボクたちが走ったので後ろから追従してきていたナディアと共に左へ、神楽はユーリと共に中央へ向かう。

「はい、アイラさん!」

 黒鎧の一人がエイブラハムを抱えてマハの中へ後退していく。


「ナディア!危ないことはしなくていいからあとからついてきて!」

 そういってボクは加速する。

 加速するして、さらに鎧衣に変身する。

 ここ数日の神楽との相談の結果、対アシガル戦に向いてると判断した鎧衣「巨悪の鋼(リーゼ・フュンフト)

 こちらの体系にはない振動魔法・波動剄(ブレイクインパルス)を自動発動可能な丸みを帯びた鋼の色をした籠手と脚甲、逆に攻撃を受けた時に防御用振動魔法(プロテクションバウンド)を自動発動可能な胸あてで構成された、遊びの少ない近接戦用鎧衣、ボクやリアさんの同級生の十家、七瀬つばささんの主力鎧衣。

 頭をまもる装備がないのは、どうせ頭に食らえば失神なりなんなりして死ぬから当たるな!らしい


 ともかく、今蹂躙されつつある前線のペイルゼン兵らはこれからはペイロードのあるいは王国の臣民だというのに・・・・!

「好き勝手やってくれたね!」

 一先ず一番手近にいた黒鎧の頭部に爪先で跳び回し蹴りを入れる。

 当たる瞬間金属同士の接触音以外の耳障りな音がして、中の頭ごと黒鎧の兜がひしゃげる。


 すでにこの兵士によって味方の複製アシガル兵が数名やられている、性能がやはり違うのと、奇襲でアルバートをやられた動揺が響いた様だ。

 そこかしこで黒鎧は味方のペイルゼン兵を圧倒している、やはり複製アシガルではなくエイム氏のと同じ本物なんだろうね

 同胞であったはずの者達を容赦なく切り捨てていくならば、こちらもその流儀で行くしかない、ボクたちが躊躇している間に何人死ぬかわかったものではない。


「悪く思わないでね!!容赦できる状況じゃないんだから!!」

(命を奪いたい訳じゃない、でも 一人殺さないことで何十人も死ぬというなら、ボクは・・・)

 光弾に震動魔法を付加する、相性が良くないので威力は大分下がるけれど脳しんとう位は起こせるはずだ。


振動弾(インパルスバレット)!」

 左側の敵黒鎧は30ばかり、そのうちの6を狙って光弾を見える状態で放つ、威圧的効果を狙ってのことだが、効くかな?

 まもなく鈍い音が響き狙い撃った6人と同時に追加で殴った一人が倒れる。

「なんだ今のは?魔法じゃないのか!?」

「魔法はほとんど効かないはずじゃなかったのか!?」


 アシガル装備の素材は魔鉄、金属でありながら神々の祝福の残滓を宿しているらしい鉱物で、魔法剣や鎧の素材として珍重される、サテュロスでは純度の高い精製に成功していない夢の鉱石、セントールでは精製に成功しているばかりか、それ自体に魔方陣を刻むことで僅かな魔力を通すだけで鎧や剣に強化や対魔法防御を付与できる様にしたものらしい。

 それがアシガル装備の強さ、しかしながら防げるのはあくまでもこの世の理にあるある程度までの魔法、光弾は魔法ではないし、振動魔法もこの世界の魔法ではない。

 アシガル装備は通常の鎧としても堅牢ではあるけれど、ボク相手ではただの鎧と変わらない。

(そして、ただの鎧は斬れる)


 複製アシガル装備のほうはより扱い易い魔銅に通常の鉄を混ぜたものらしく、純正品とくらべて性能面は劣るが、それでも通常の鎧よりは魔法防御、機動性も高いけれどね


 どうもエイブラハムはこっそりマハで本物を大量に輸入していたらしい。

 が・・・・

「生きているものもいます、動ける人は装備を剥いで捕縛してください」

 ワアッと歓声があがる


 一人目から2分ばかり、左翼の黒鎧はすべて昏倒か死亡した様だ。

「アイラ様、さすがですね、ナディアめは出番がありませんでしたね」

 ナディアはかなり強いけれど、アシガル兵相手ではケガをする可能性もある、それよりは一歩引いた位置からもしもに備えて見守ってほしい。

 なにげなくナディアの足元にも黒鎧が二人倒れているし、少し流してしまった様だ。


「ナディアもお疲れ様、ケガはない?」

 見たところは息も切れていない

「はい、アイラ様がほとんど相手してくださったので楽なものでした。」

 にこりと笑うナディアはキッと視線を鋭くすると、ユーリ様たちの方に参りましょう、とボクに促した。

「そうだね、あっちが敵の最大戦力だものね。」

 ユーリなら勝てるだろうけれどケガしたりするかもしれない。


 中央よりの激しい剣戟の音を頼りにユーリたちの元にたどり着くと、やはりと言うべきか、ユーリとひときわ大きいアシガル兵とが刃を交えていた。

 立ち回りはユーリ優勢だけれど、決め手に欠ける感じ?或いはわざとかもしれない

「ユーリ、左は片づいたよ?」

 邪魔かな?と思ったけれどとりあえず報告

 反応したのはユーリではなかったけれど。


「何!?ばかな!?アシガルが30はいたはずだ!こんな短時間で負けるはずがない!」 

 大きな鎧の男は慌てた様に大片刃の剣を振るう。

 なげやりに振るったものが、ユーリに迫れるはずもなく軽くいなされる。


 この大きな鎧が例のアインスとか言う傭兵なのだろうけれど、鎧が本当に大きい。

 人より一回りか二回り大きい程度のアシガル装備にたいして、3m半ば程もあり、背中に背嚢かなにかなのか大きな丸い容器が設置されている。


 とても同じアシガル装備とは思えないね。

 これじゃ着けるというより乗る様なものだ。

「これもアシガル装備なら殴れば壊れるかな?」

 隣にいるナディアとユーリを見守っている神楽に呟く。

「アイラ様ならば不可能ではないかもしれません」

「アイラさんならきっとできますよ!」

 二人は好意的な意見だけれど、一人反論するものがいる。


「俺のグソクを!アシガル装備と一緒にするんじゃねぇ!コイツァなぁ、一部のものにしか支給されないホロ装備!格が違うんだよぉ!!」

 アインスはそういって叫ぶと、それなりに鋭い斬撃をユーリに放つが・・・

「クソ!さっきから何であたらねえ!もう十回は死んでるはずなのによぉ!!」

 明らかに平静を欠いているね

 ユーリは十倍加速のボクの攻撃にも反応できるほど反応が早い 、アシガルよりは早いといっても大振りな攻撃では当たらない。


 それよりも気になるのは、近くで観察していてわかったが背中に設置されている背嚢から管が伸びていてその手や剣と繋がっている。

(もしかして魔力貯蔵槽の様なものなのだろうか?)

 だとすればこの鎧はもう鎧というよりSFのパワードスーツとか大きさ的にロボットの方が近いのかな?

 とにかくアシガル装備とは確かに別物の様だ。


「そろそろ降伏してくれませんか?」

 両手で巨大な剣を振るうユーリがアインスに提案する。

 彼がセントールでどの様な地位にいるか分からない以上、簡単に殺すことも出来ない。

 左翼を攻めたボクも戻ってきたし、中央にいた黒鎧もユーリがアインスと戦う前に神楽と共に無力化した様だ。

 神楽は人を殺せないのでなんらかの手段でアシガル装備部分のみを崩壊させた様だけれど・・・

(兵士達無茶苦茶神楽のこと怖がってるね。)


「馬鹿にするなよ!降伏なんてのは負ける側が命を惜しんでやること!!貴様は決め手に欠けているのにどうしてこのアインス様が降伏なぞせねばならん?貴様ら未開のサテュロス人はアシガルは倒せてもこのホロには勝てない!」

 どうもアインスはホロという装備に頼り、武人としては二流以下の様だ。

 まずユーリが現在加減をしていることに気付けていない、そしてさらに彼は虎ノ尾を踏むことになる。


「そっちの娘どもも、アシガルを倒していい気になっている様だが、ホロが同じように倒せると思うなよ?今ならオレの奴隷になるなら命はと」

 そこまでだった。

「あ、しまった、ついイラッとして斬っちゃった。まぁ、もういいか、弱かったし小物っぽかったし。」



 馬力、硬さ、機動性には驚いたけれどアシガルもホロとやらもそこまで変わるものではなかった、ペイルゼン兵のいっていた中級程度の魔法はほぼ防ぐというのも、中級魔法をふせぐというのではなく中堅程度の魔法つかいの攻撃を防ぐ程度だった。

 数日間の検証の結果ボクやエッラの強化状態の攻撃はもちろんナディアやアミの攻撃も通ったので物理的強度は通常の鎧に毛が生えた程度で魔法も本気を出せば徹るし、朱鷺見台の魔法なら本気とか関係なく概ね通る。

 まぁ、兎に角だ。


 マハにいた最高戦力も息絶えた。

 右翼ももう鎮圧できた頃だろう。

 市内に逃げたエイブラハムは・・・・


 

「おい貴様ら!王族の余をどうするつもりだ!アインス!アインス!主人の危機じゃ!!早くこんか!!」

 エッラも合流したあと、マハの宮殿に押し入るとエイブラハムはまず狼狽し


「アイムザット・・・やはり貴様は余を殺し王位を狙うつもりでおったな!?父上!やはりアイムザットは逆臣です。!!早く討伐するべきです!」

 なんて言って錯乱


 最後はエイム氏によって討たれた。

 エイム氏は奪われた想い人と再会し

 その日のうちに結婚。

 ここにペイルゼン王国は完全に滅び、ペイルゼン伯爵家が発足した。

ここ数日天気が大荒れな上大変寒いです。

皆様も風邪には気をつけてくださいませ。

差し迫るオケアノス戦、戦闘描写をどうにかしなければ・・・。

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