第129話:排除
こんにちは、暁改めアイラです。
ペイルゼン兵と第二王子だというエイム氏が降伏し、ユミナ先輩たちペイロードの指揮権を持つものとも合流、ボクたちはここまでの成り行きを話し、今はユミナ先輩が用意した部屋で対談しているところだ。
「成る程・・・それではアイラちゃんの力を目の当たりにしてペイルゼンは勝てないと悟り、兵たちの助命のために降伏するというのですね?」
ユミナ先輩はお茶を飲みながらおっとりと聞き返す。
それに対して武装解除されたエイム氏は苦笑いで答える。
「自分の命惜しさと思われても構いませんよ、ただアイラ様のことがなかったとしても、長く軍縮していた我々ではいくら武装を整えたところで・・・だからこそ早めにユミナ様を人質にして講和したかったのですがね」
アシガル装備は確かに強力で一般兵では敵い様もないが、王国には軍官学校出身の戦力がいる。
玉石混淆だが最低でも小隊以上の指揮が取れるだけの指導は受けていて、かつ個の戦力としての訓練を積んだ者たちが毎年輩出されている、中でもここ数年の上位のものたちは特に優れているとされ稀に見る豊作が続いている。
強化魔法だけ使っていたとはいえあのエッラにさえ拮抗して見せたアシガル装備だが、動きの遅さと視界の悪さという明確な弱点がある。
卒業生達ならばきっとある程度対応方法を考えれば問題なく倒してしまうだろう。
「幸い、アイラちゃんたちのお陰で今日の襲撃ではケガ人こそ出ましたが、死亡者は出ませんでした。ですのであなた方の降伏は受けいれますし、無力化ではなく自ら降伏したので捕虜の扱いもしません、武装だけ解除されたら市民扱いにします」
ユミナ先輩は予想外に優しい沙汰をくだした。
「ありがとうございます。」
エイム氏はただ頭を下げるばかり、そして
「それと、アイムザット王子はこれから我々と共にペイルゼンの降伏に向けて動くつもりということでよろしいのですね?」
少し厳しい質問をユミナ先輩が問う、しかしエイム氏の表情は清清しいものだった。
「はい、ユーリ様、アイラ様の目的を知ることができ、今の状況からならば降伏し国をひとつにすることが民に平穏をもたらす最高の手段足り得ると、信じることができます。父はすでに抵抗する手段がないとなれば、国を明け渡すことには反抗しないはずです。」
父は、ということは、反抗する人はいるわけだ。
「恐らく兄は抵抗するでしょう。私のことをなじりもするでしょう、恐らくアイラ様の戦闘能力をみてもただ強い、くらいしか思わない方ですので、今回の私への権力委譲の筋書きでは、最悪兄の殺害も含まれていましたので、そのくらい国をまとめるには障害になる方なのです。」
嫉妬深く、疑り深く、能力はなくて、身分と権力欲がある・・・確かに邪魔だね。
「まあ、国の降伏の段取りとなると私の権限を越えてますから、うちの父がカナイマに到着するまではしばし待ちましょう。それからゆっくり内容を詰めていきましょう。」
そういってユミナ先輩は立ち上がると軍服の上着を脱いだ。
「?」
エイム氏も、ボクたちもその意味がわかりかねて困惑する。
「もう貴方は敵ではないのでしょう?ならばこれからは平和を求める同胞です、酒か茶でも交えて話し合いましょう?」
そういってユミナ先輩は優雅に微笑んだ。
その後の雑談では、エイム氏がイケメンなのに妻がいないこと、幼なじみで思い合った女性がいたが兄のエイブラハムが欲しがり無理矢理奪われたこと。 その理由が別に好みとかではなく、エイム氏のものを奪いたいだけらしいことを聞き、エイム氏が今までよくエイブラハムに対して害意を持たなかったものだと感心したりした。
また現在のペイルゼン王アルバートは王都ゼン、兄のエイブラハムは海上貿易の拠点都市マハに滞在中とのことなので、まずはゼンにいきアルバートと渡りをつけるべきだと、ほろ酔いのユミナ先輩とエイム氏の間で方針が決定された。
それから・・・・
「これがアイラちゃんのお腹から出たのね?アイラちゃん小さいのに頑張ったね。」
ユミナ先輩がリリをあやしながらボクのお腹を見る。
「生んだときはもっと小さかったですから、それよりリリどうですか?」
ただでさえ赤ちゃんはかわいいのに、ものすごい美赤ちゃん、金髪は汗ばんでいてもなおきめ細やかさが判るし、顔立ちはボクとユーリの子なので言わずもがな、肉の付き方も絶妙で太りすぎない程度にふっくらとしていて赤ちゃんらしい可愛らしさを演出している。
さらに愛想も良いほうで、世の女性の母性をくすぐることにかけてはかなりのものだ。
「うん、さすがはユーリ君とアイラちゃんの子だね!綺麗な赤ちゃんだよね。」
そういってユミナ先輩はボクにリリを返した。
リリを抱き抱えるとリリは先程までよりも嬉しそうな表情になった。
「うわぁ、すごく嬉しそう、やっぱりおっぱいよりもママかあ」
さっきまでユミナ先輩の大きなおっぱいを掴もうとしていた小さな手は、今はボクの小さな胸に伸ばされている。
ご機嫌そうな声をあげているリリだけど少しだけ、お腹がへっている様だ。
「リリ、お腹減ったの?」
わかっているのかどうかわからないけれどリリはウウウと声をあげる。
「あ、授乳する?私が見てみたいから、できればここでしてほしいな・・・ユーリ君以外の男の子は一旦隣に行っててもらえるかな?」
追い出される悲しき四人の男たち。
部屋の中にいるのが女の子とユーリだけになったところでボクはいつもの様に準備して授乳を開始した。
それを興味深そうに見つめるユミナ先輩
「うん、さすがに幼く見えてもしっかりママだね、シトリンのときのうちの母や乳母と何ら変わらないわ、神々しいし、見ていて心がザワツク。私も母性を持ち合わせてるのが判る」
可愛い子ども好きで、おっとり母性を漂わせているユミナ先輩だけれど、実は結婚願望がないらしく子どもを作る予定もないらしい。
「結婚せず、男性と関係をもたず、子どもだけほしいわ・・・」
養子をとるしかないんじゃないかな?
その後ペイロード侯が到着するまで四日間かかった。
その間にボクたちはエイム氏の黒鎧の性能を模擬戦闘で確かめたり、神楽の鎧装「銀腕」の剣の威力を見せてもらったりとなかなか有意義に過ごしていた。
銀腕の剣は見た目こそただの剣であったが、その威力はソニアの斬鉄剣やボクの光輝剣に匹敵するものだった。
そしてまたこの間にさらに懐かしい顔にも再会した。
「アイラ!?」
「あイラ、ナディあ」
サーニャとリスティ、懐かしき学友である。
「サーニャ、リスティ!相変わらず一緒にいるんだね!」
六本の脚部をもつ高足蟹の様な形態の多分リスティ?と下半身がそれに埋もれた状態で上に乗っているサーニャ全高4.5m程の移動式櫓みたいなものらしい。
物見から、巨大な歩行物体が現れたと報告をうけ単騎ボクが向かったところそれが現れた。
「ここらへんで昨日火の手が上がってるって精霊が教えてくれたから、とりあえず援軍に来てみたんだけれど、アイラが居るってことはもう終わってるわね」
「ムだアし、サーニャ、合体といていイ?」
リスティが不満げにサーニャに許可をとるがサーニャは冷静
「いいけども、約束事は覚えてるでしょうね!?」
ジト目で自分の足下を見ているサーニャ、なんだろうね約束事って。
「だイジョーぶ、覚えテる」
どこか自慢げに答えるリスティにサーニャは少しだけ不満の色を浮かべたあと
「ならいいわ、ゆっくりよ?」
そういって許可を出した。
すると表皮で形作られていた脚が折り畳まれていき平原に存在した巨大な歩行体はあっという間に丸太の様になり、少しの間ごそごそと衣擦れの音がしてから、今度は丸太が下に下がっていく
すると中からはサーニャとリスティが出てきた。
「サーニャ相変わらずの美人さんだね!元気そうで何より!」
サーニャは相変わらず、金髪と茶髪の混ざった様な不思議な美しく細い髪に種族特性の光を纏わせていて、何とも神秘的な美少女・・・今17歳になってるはずだけれど相変わらずの細身で触れると折れてしまいそう。
「アイラこそ相変わらずお人形さんみたいに可愛いわ、女の子が憧れる理想の少女そのものよ。髪お下げにしてるのね、似合ってるわ。」
久方ぶりの友人との再会に興奮してるのかサーニャは頬を上気させていて、少し色っぽい。
そして、後ろのリスティは、なにかなめている、足下の表皮から伸びた蔦の様な、でも太さが2cmくらいある緑色の触手?
「リスティは、何を舐めているの?」
「は!?」
サーニャが慌てて振り向く。
それに対して対照的にリスティは特に事も無げに答えた。
「サーニャの、お汁」
!?
「リスティ!!」
怒りに染まったサーニャの声とリスティが殴られる音が空に吸い込まれていく。
・・・・・・・・
えっとつまりだ、通常ならあの高速多脚歩行形態の上にはリスティの体が来るけれど、サーニャを乗せるには文字通り合体せねばならず、その合体の方法が・・・
「リスティの触手を私の粘膜にふれないと、リスティが外の景色 がわからないらしいのよ」
ボクの頬が上気したのがわかる。
(サーニャみたいな美少女が急に粘膜がとか言うと、そうじゃないのに卑猥な単語見たいにきこえちゃう)
「あら?アイラ、想像しちゃったの?ごめんね、12歳には刺激が強いよね、異物が入る話だし・・・皆には内緒にしててね。さすがに私も恥ずかしいし。」
むろん墓場まで持っていくつもり、こんなこと人に言うことではないしね。
それにしてもなんでそれをリスティはわざわざなめるかな?
「リスティは・・・前にほらアイラが幼木トレントの食べ物聞いてきたことあったじゃない?」
あったっけ?覚えてないなぁ
「この際だから教えるけれど。エル族と共生環境の幼木トレントは普通の食べ物が食べられる体になるまでは、ペアのエルの老廃物を吸収するの、通常環境だと野生の魔物の糞尿や腐った葉っぱなんかを吸収するらしいわ。だから、リスティにとっては私の体液や髪の毛も美味しそうに見えるらしいの」
えぇ~・・・・
「勘違いしないでね!?食物と言っても幼木トレントの時は表皮に取り込み口みたいなのがあってそこにいれるだけよ?」
ボクが少し嫌な顔をしているのがばれた、必死に経口摂取ではないことを説明するサーニャ。
「んーと、別にそれが精霊の森では普通のことで、人の町で暮らしたから、サーニャは恥ずかしいのですよね?」
とっさに尋ねる、あまり他種族の文化にまで口を出すつもりもないし
「そうね、周りの人たちにとっては普通のことで、恥ずかしがる私の方が変、でもヒト族からすればおかしな文化なのだから、あまり知られたくはないわ。」
サーニャはそういうと、この話はおしまい、とでもいうように膝を叩いて立ちあがり、落ち込んでいるリスティを宥めてから、ボクと共にカナイマ市に入った。
さらにペイロード侯の前日にはラピスとヒースもカナイマ市に入った。
ユミナ先輩が急いで集めてくれている様だ。
アイビスとの再会に、新たな同胞神楽を迎え、5人でこっそり盛り上がったりした。
いももちにジャーキー、神楽作のお味噌汁と、納豆に少しパサつくお米のご飯と、かなり日ノ本食に近付いたメニューをおやつにして昔話に花を咲かせる三人をボクと神楽とで微笑ましく見つめるだけ。
アイビスが楽しそうで良かった。
ペイロード侯爵夫妻がカナイマ入りしたあと、二時間程の会議をして今後の方策が決まった。
ボク、ユーリ、神楽、ナディア、トリエラ、アミ、エイム氏、ユミナ先輩そしてリリ。
少数にてゼンに侵入しその間カナイマに残るアイビスやペイロード侯らはエッラや先輩方、サーニャたちやペイロード侯の護衛達が守り、ゼンのペイルゼン王アルバートを説得、それが受けいれられればペイルゼン全土に停戦を宣言するが、そのときはマハをわざと外し、包囲したのちにマハにも停戦を告げエイブラハムが抵抗する様なら排除する。
これまでの我慢してきたエイム氏には申し訳ないが、エイブラハムの様な者の存在はボクたちの目標には間違いなく邪魔になる
ネックになるのは、エイブラハムの護衛についているらしいセントールからの傭兵アインス・リーンベル、エイム氏が言っていたペイルゼンの最強戦力、エイム氏の黒鎧よりも上位のアシガル装備を個人的に所持した傭兵。
それをエイブラハムが個人的に雇っているらしい。
最悪の場合は排除も辞さないが、それがセントールとの間の火種になったりしないかという少しの不安もある。
説得できるならそれにこしたことはないが・・・
傭兵だというなら金でいうことを聞いてくれればいいのだけれど。
翌朝、ボクたち侵入部隊は早朝に出発、アイビスやラピスたちをカナイマに残したことが後々予想外の展開を生み出すことになるけれど、それはまた先の話。
展開的に逃げ続けるのもそろそろ限界、苦手な戦闘を書かないといけないときが近づいている様です。
※17/6/9 誤字修正しました感想頂いた方ありがとうございます。