第125話:魔剣使いと呼ばれて
こんにちは、暁改めアイラです。
一度は激情に駆られ冷静さを失っていた神楽だけれど今はまたおねむなリリをボクが隣に置いた揺り籠で揺らしながら、冷静さを取り戻して穏やかに話を続けている。
「殺されたゴルフを抱きかかえてカナリアが、私が声を上げた直後、お店の中に皇帝陛下直属の兵士が突入してきました。その時の私はまだ知らないことでしたが、その頃皇帝陛下は不当な奴隷売買を行っている商人を調査中でした。」
皇帝は長く帝国に根付いた、亜人への奴隷制もだけれど、ヒト族に対する人攫いなど犯罪経由の奴隷化に心を痛めていたそうで、取締りを強化していたそうだ。
そんな折、明らかに地方から登ってきたばかりの兄妹にもみえない二人連れ、別に仲は悪くなさそうだけれど、悪い商人にカモだと思われれば美少女のほうをサラって奴隷にしようと考えるかもしれない。
恐らく最初からその商人は見張られていて、本当は兵士たちもゴルフが死ぬ前に突入したかったんだと思う、まさか商人がいきなり後ろから斬り捨てるなんてするとは思って居なかったんだろう。
だがそこでまた不測の事態が起こる、女の子が強力な魔法を行使したことだ。
人前で使わない様にしていたということは、恐らくはボクもまだ見たことのない様な、強大な魔法の力なのだろう。
おそらくは魔導鎧装の機能の何かを起動したのだろうけれど
「私は、捕まっていた奴隷にされかけていた子ども達と共に兵士達に保護されました。その時に私の異質性から、皇帝陛下や姫様に引き合わせてくださったのが、帝国一の槍使いセメトリィさんです。」
名前に聞き覚えがある、四騎士とか言うのの一人だったか?
「何故、セメトリィ氏はカグラさんを王族にあわせようと思ったのですか?」
エッラがもっともなことを言う、確かに得体のしれないものを王族に会わせてなにかあったらどうするつもりなのか?
そもそもなんの目論見があって引き合わせたのか?
その質問に神楽はゆっくりと答える。
「もう帝国法もないのでお話できることですが、姫様のお母様はフィオナ族でした。」
どうして皇帝がフィオナ族との間に娘をもうけることになったのかはわからないけれど、あるいはそのフィオナ族の女性との愛故に平和と奴隷制度の廃止を目指したのかもしれない。
そうだとして・・・神楽とクレアの出会いも、皇帝による奴隷市場の取り締まりから発生したものだったことを考えれば、かの皇帝には感謝してもしきれない。
馴初めなんてわからなくていい、きっと好きになったのがフィオナ族の女性だっただけ。
「姫様はフィオナ族の特性を受け継いでいて言葉の通じない生き物と心を通わせることができました。私と、一緒に保護された奴隷にされていたモノの中で身寄りを殺害されていた。キス族のリスタと、ヒト族のカーラが姫様付きとして近侍することになりました。そしてまだ幼い姫様から私は、サテュロス語を教えていただいて徐々にこちらの世界になれていくことになりました。」
やはりクレアとの出会いがあってようやく神楽はこの世界で生きる基盤を得て、ボクたちと出会うまでの支えとしてきた様だ。
(カーラさんて、帝国でクレアに仕えてたメイドさんだよね?)
「それからもたくさん、たくさん、の出会いと別れがありましたが、私を魔剣使いと呼び始めたのはセメトリィさん達、最初に私を保護した兵士たちです。私が突然姫様付きになったことに難色を示す一部の人を黙らせるのにインパクトのある名前が必要だったそうで、最初に使ってみせたのが剣だったので魔剣使いと呼ぶようにしたそうです。」
突然女の子が、しかも言葉も通じない女の子が姫様のお付きについたとなればそれは反対するものもいるだろう、嫌がらせや攻撃もあっただろう、それを軽減する目的での異名付けが魔剣使いの由来ということらしい。
「古代樹の森の槍を回収したときからは、面と向かって攻撃してくる人は減りましたね。でも舌の剣を手に入れたからもう魔剣使いって呼ばれても違和感はないですよね?」
笑って言うけれど、きっと笑ってばかりではいられないたくさんの物語があっただろう。
(神楽は出会いと別れといった。その別れの中にはきっとゴルフさんの様に悲劇的な別れもあったろう)
ボクは立ちあがり、揺り篭と逆側の横からソファに膝立ちで登り、神楽の頭を抱き締めた。
「アイラさん?」
神楽はキョトンとしている。
「これからはボクたちと一緒だからね。」
「はい!」
神楽は嬉しそうに笑うけれど、ジークはこれでめでたしとはいかない様であった。
「いやちょっと待て、いい話で終わったところ申し訳ないが、カグラは婚約者や住んでいた町はいいのか?帰りたいと思わないのか?」
最初の部分を覚えていたらしい、婚約者はともかく町のことはなんと説明したものか
「婚約者は、亡くなっているのが確認されています。アイラさんの住まれていた地方で・・・アイラさんの使っている剣が私の婚約者の遺品なんですよ。それに私はもう傍にいたい人たちがいますから。」
ボクとユーリはすでに暁=アイラを知っているし、エッラはボクの刀の来歴は知っているので特に驚いた様子はないけれど
ジークは少し驚いた様だ。
「アイラの剣ということは、もしや、ガルムの討伐を成したという異国の少年剣士か・・・彼の者には国王として、礼を尽くさねばならぬ、ガルムは数百年に一度サテュロスを荒らし回ると言われている魔物でこれまで討伐は確認されたことがなかったが、ウェリントンで討伐が確認された魔物はそれに相応しい姿をしていた。」
ボクは夜の闇の中で奴と遭遇して、奴は常に動いていたので正確な大きさは把握していなかった。
神楽との対比で4mはあるな、と思ったくらいか。
「頭から尻尾のつけ根までで4.7m高さが1.7mほどだったか・・・魔物ではなく起源獣ではないかと言われるだけあって死してなお巨大な力を感じさせる恐ろしい生き物じゃった。」
起源獣というのはドラグーンと同じく神々の祝福以前の生き物であるとされ、彼らと聖母との間に生れたのが魔物で、聖母の持つ神性をもってもその獣性を消すことが出来なかった邪悪な存在だという。
悪夢の残滓ではなく神々の悪夢そのものを持っているので、魔法が効かないとされている。
「ハルト様自らご覧になったのですか?」
ユーリが驚いた様に尋ねる。
「うむメロウドが運んできてくれた。最初に保存がかけられてなかったため痛んでいたので、骨格と毛皮だけ保存されて届いたな。」
懐かしむ様に語るジークは突然にパンと膝を打った。
「よし、決めた!」
なんだろう、なにか悩むことでも合っただろうか?
「カグラ殿、ソナタの婚約者の功績は他に類をみないものである。王国では戦や王命の実行中に亡くなった者には、その遺族には年金を与える様にしておる。よって魔剣使いと呼ばれたそなたの武名や帝国との速やかな停戦やヘスクロ解放、ミナカタ戦での活躍、ガルム討伐の功労者たる彼の遺族であるソナタに子爵位を叙爵することとする。」
おぉ爵位、しかも男爵でなく子爵とは太っ腹だ!
「お待ちください、私は爵位なんか要りませんから、ただアイラさんや姫様のお側でお仕えしたいだけです。」
神楽はあわてて爵位を断るがジークは続ける。
「まぁ聞け、なにもソナタらを引き離すつもりはない、領地なしで年金のみ給付する。ソナタの愛したものの名はなんだ?」
ジークが尋ねたので神楽は一旦質問には答える様だ。
「アキラ・コノエです。」
噛み締める様に述べる神楽と黙って聴いていたユーリが一瞬ちらりとボクを見る
まぁボクたけどさ?
「では、新たな子爵家の当主はカグラ・キリウ・フォン・コノエと名乗りたまえ。少し音が短くてゴロが悪いかの?」
そういっておどけるジーク。
どうも暁の家名を遺してくれるつもりらしい。
「あの?陛下?」
驚いた様子の神楽は二の句を継げずにいる
「なんじゃ?夫の家名、残したくはないのか?」
じろりと睨むジーク
「いいえ、いいえ・・・お心遣いいただきありがとうございます。私は名乗りこそはしていませんが母の家名がアインベルクでございました。ですのでゴロが悪いと仰るならカグラ・アインベルク・フォン・コノエと名乗らせていただければと思います。」
そういって少しの涙を溜めた神楽をジークは微笑んでから頭をなでた。
「明日叙勲と叙爵を行う、明日はそんな子どもの様な泣き顔は見せてくれるなよ?孫の様な年の娘に泣かれてはたまらんわ。」
こうして領地なしの世襲貴族、コノエ子爵家が発足し、神楽がホーリーウッド家から養子をとるか神楽が誰かと結婚するか、子どもを設けるかすることでの家名の世襲を赦された。
帝国の魔剣使いとして勇名を馳せた神楽は王国貴族となった。
思ったよりも他者の方に難産しているので、先にこっちを投稿します。
神楽の冒険の詳しい中身は他者の方で更新する予定です。