第124話:ブレイクタイム
他者123.5話を投稿しました。ほぼそれをお伝えするためだけの124話です短いです。先に他者を見ていただいたほうがいいかと思います。
こんにちは暁改めアイラです。
神楽から今まで雑にしか聴けていなかった「カナリア」の由来や、ボクと、暁とはぐれた後の神楽の足取りをざっと聞かされた。
それは神楽にとっては悲しい思い出らしく、笑えば美しい彼女の横顔はあまりに寂しそうでボクには彼女もお気に入りのリリを抱かせてやるくらいしか出来なかった。
リリに限らず、赤ちゃんというのは人の表情に敏感だ。
自分を抱いている神楽が寂しそうなとも、悲しそうなとも形容できるネガティブな表情をしていることを理解したのか抱かれたとたんにリリは今にも泣き出しそうな表情になった。
それに気付いた神楽は努めて優しい表情で女の子の物語の続きを語りだしたのだった。
「カナリアとゴルフが街に・・・帝都ルクセンティアに着いたとき、カナリアが逸れてから既に30日以上の時が経っていました。彼女の手元には愛しい婚約者の思い出の品が残っていましたから、それだけが、慰めでした。」
神楽はリリを膝の上で仰向けに寝かせると、お腹の辺りをまさぐる。
神楽の表情は朗らかとは言い難いけれど、神楽が手を動かすたびにリリがよだれと舌を出して喜びの声を上げるのが、部屋の中に響く。
「カナリアの目的は、働き口を探すことでした。何はなくとも先ずは食い扶持を確保しなくては、生きることすらままなりません。いつまでもゴルフの優しさにつけ込んでいるわけにもいきませんでした。」
そういってゴルフという名前を呼ぶたびに、神楽は遠い目をする。
それでボクは、今まで中々神楽がこの話をしなかった理由を察してしまった。
恐らくはもうゴルフさんは、居ないのだ。
「多少の認識の相違はありましたが、宿を取ったあとゴルフとカナリアは適当な商人の店を巡り3件目のお店を選び間違えました。そのお店は奴隷も扱うお店で、そうと知らない二人はそのお店に入っていきました。」
奴隷制度は王国には正式に存在しないけれど、ミナカタとペイルゼンと帝国には存在するシステムだった。
ミナカタは南部に税金を払えない民を奴隷に落とす制度があった。
ペイルゼンは外の大陸から奴隷を買っているらしい。
そして帝国は、ヒト族以外を中心にした幅広い奴隷制度があった。
(奴隷という言葉自体ボクは好きになれないけれど・・・王国に奴隷制度がなくって幸いだね・・・。)
実際にはオケアノスで行われていた様な脅迫に寄る奴隷化や、一部貴族による横暴が奴隷制といえなくもないけれど・・・正式に運用されているものではない
「後から分かったことでしたが、その店の店主はカナリアを見た途端、将来売り物になるからと、ゴルフに大金を示しました。無論既にカナリアを家族の様に扱っていたゴルフは断り続けましたが、商人はドンドン大金の額を上げていきます。」
胸糞悪くなる、きっとその男の全財産だって、神楽とつりあうものではない。
人の命はお金に変えられないというのは、きれいごとなのかもしれないけれど、お金を出してもある一個人を生産できない以上それは真実であるのだ。
「話にならない、とゴルフがカナリアを連れてお店を出ようとした時、商人の取り巻きが後ろからゴルフさんを斬りました。その時カナリアには商人たちが何を言ったかは分かりませんでしたが、欲張るから命を落とすことになるんだ・・・そう言ったそうです。」
神楽はリリのために今も穏やかな表情でさっきよりも優しくお腹を触ってやっている。
気持ちよくなってきたのかリリはちょっと眠たそうで声は上げなくなっていた。
「カナリアはすぐ隣で崩れ落ちるゴルフさんの呻き声に我を忘れました。生存本能に任せて魔法の力を発動させ、人前では使わない様にしていた術の全てを開放しました。人を殺めこそしませんでしたが、その剣と力の威力は人々に恐怖を植え付けるのに十分な異能でした。」
静かな怒り、当時を思い出して怒っているのか、神楽の目は恐ろしく冷たい、神楽はこんな目をしてはいけない、優しい女の子なのに。
「自分に立ち向かうものが居なくなったのを確認したあと、わたしはゴルフさんの身体を抱きました。その熱はまだ残っていましたが、ゴルフさんは既に事切れていて・・・わたしは!!」
神楽の目からは涙がこぼれていた。
言葉を紡ぐ口は歪み怒りとか悲しみとか、そういったものが溢れてしまったかの様に語気を荒げた。
「ふやぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
神楽の声に驚いたのか、涙にあてられたのか、リリも泣き始めてしまった。
慌てて神楽があやそうとするけれど泣き止まない。
ためしにボクがジークの前なのも厭わず胸を見せてみると途端に泣き方が緩くなった。
どうもおっぱいタイムらしい、家で授乳してきてから既に2時間半ばかり経っているし、お腹が丁度好いていたのかもしれない。
リリを受け取るとボクはおっぱいをやり始めた。
神楽は所在なさげにおろおろしているけれど、ちょっとクールタイムも必要かもしれない。
「リリもお腹空いたみたいだし。ボクたちもちょっとおやつにでもしようか?」
そういって収納から少し前に試しに作ってみた『いももち』を取り出した。
材料はイルタマで味付けはかち割ったクルミと砂糖をまぶしたものと、さとうしょうゆ味、味噌味、バター醤油味を用意してあるので少量ずつ用意する。
ボクはいももちを出し始めると分かっていた様にエッラが収納から人数分の小皿を出す。
出来たメイドだ。
「そう・・・しましょうか」
神楽は味噌醤油系の食べ物が好きだ。
ボクもだけれど、やはり日ノ本人としての魂がそれを求めさせて止まない。
お出汁の有無や米麦や豆の品質のせいか、やはり日ノ本のそれには劣るが、それでも懐かしい味に違いないのだ。
「むぅ・・・匂いといい色といい変な食べ物じゃのう」
ジークはおっかなびっくり、しっかりと焦げ目のついたいももちを口に運ぶと目を見開いた。
「ふむぅ!中々旨いではないか!!なに?材料はイルタマとソペやソルとな?ふむぅこの焦げかけたところの香ばしさがくせになるかも知れんの・・・もう少しないか?」
おかわりを所望されたので、渡しておく。
「アイラさんお料理もなかなか上手ですよね。」
なんていう神楽だが、幼い頃からお手伝いしてただけあって、ボクよりよっぽど料理上手である。
こっちのお出汁を取れない食材たちからどうやってかお出汁をとって美味しい味噌汁を作ってくれたこともある。
ボクの作ったなにか違う味噌汁ではなくちゃんとお味噌汁だった。
こうして神楽の怒りと後悔染まった感情もいくらかはほぐれて、ボクたちは少しの穏やかな時間を過ごしたのだ。
投稿のタイミングを同じ時期で他者語とかぶせて補完してもらうのはたぶん始めてだったかな?とおもいます。
この回想中はこの方式で行こうと思っています。