第112話:生れたての葛藤
おはようございます、暁改めアイラです。
お母さん始めました。
ボクはリリを産んだ直後死にかけたらしいけれど、特にどこか悪くすることもなく、今日もリリが可愛くて仕方ない。
リリはどちらかと言うとボクよりサークラやアニスよりの髪の色合いをしていて、金髪に薄く紅が混ざっている。
目と鼻はユーリ似で食事にさえ気をつけていれば、美少女になるのは間違いない。
ボクに似たのは小柄な所・・・・ではないと良いのだけれど、目が赤と金の虹彩異色で肌の白さと相まって神秘的な雰囲気をかもし出している
魔力量が多いのかボクの乳房を吸っていると、ほっぺを膨らませて光る。
赤ちゃん特有の膨れた頬には何か入ってるのかな~?
なんて指でつつきたくなる、けれど光る赤ん坊か・・・光るっていったらエル族のサーニャを思い浮かべるけれど・・・こんな可愛い娘が乳房を頬張りながらが光っているのだから
「リーリーちゃーん♪」
なーんて猫なで声も出ちゃうってものだ
光ってるのなんてこの可愛さからすれば些細なことだよね
毎日ほとんど寝たままのリリをただただ眺めて一日が終わってしまう・・・
一刻も早くユーリのところに行きたいと思っていたはずなのに、リリの顔を見ると決心が鈍ってしまう。
(一先ず、魔力が万全に運用できる様になるまでは・・・か)
神楽やアイリスに止められて出産翌日の出撃は止められた。
疲弊仕切っていて、魔力も正常に運用できず、あまつさえ一度死にかけたらしいボクには反抗するすべはなく
翌日の朝に見舞いにきたエドワードお爺様にも最低2週間の出撃停止と、出撃する前にはアビーさんとスードリさんの許可を得ること・・・と念押しされてしまった。
一昨昨日にはフローレンスお婆様が、リリを見るためだけにディバインシャフト城までやってきた。
本当ならすぐにでも見せに行きたかったけれど、無理はしてはいけないと外出をリリは許可されていなかったのだけれど、こらえきれずおばあさま自らやってきた。
このときのおばあさまの驚き様といったら・・・直系の曾孫ともなるとやっぱり、子ども好きのフローレンス様にしても別格の可愛さの様で、もうなんていったら良いのか、おばあさまの名誉を思えば忘れて差し上げるのが一番だろう・・・。
そして出産から10日経ち明後日が解禁日、魔力も扱える様になり、体力的にも概ね回復しているボクは出産前の心のままなら、もう出発しようとしているところだろう・・・。
それなのにこのリリの膨らませたほっぺをみていると、一秒だってリリの成長を見逃したくないという気持ちが溢れてくるんだ。
コンコン、部屋の扉がノックされて、向こうから声が聞こえる。
「アイラさん、アイビスのことなんですが、今よろしいでしょうか?」
声の主は神楽・・・、大切な人から大切な妹分の話なのだから、たとえリリが泣いてるのをあやしてるときだったとしても断ることなんて出来ないよね。
「どうぞ」
許可を出すとすぐさま神楽が入ってくる。
勿論トリエラの様に慌てて入ってくる様な事はなく、十家のお嬢さんらしい上品な所作だ。
今の神楽はホーリーウッド家のメイド服を着ている。
身分はメイドではなくボクとクレアの護衛だけれど、目立たずに側に居られるということでメイド服を着用していることもある。
艶のある長い黒髪に白と黒のツートンカラーのヘッドドレスを着けてそのリボンが耳の辺りにゆれているのが、いかにも少女然としていて、彼女の幼い頃を思わせるけれども、同時にボクとは比べるまでもなく大きく膨らんだ胸元が、彼女はもう十分に女性であることを知らしめる。
「アイビスがどうかしたの?」
ボクは胸元を見たのがばれませんように、と思いながら神楽に話の続きを促す。
神楽はボクのベッドの隣のリリをなでながら、ボクの妹分でもある、親友のことを語りだした。
「アイビスなのですが、南部に従軍する意思を固めています。」
アイビスは持ち直してからこっち、出撃したがるのを、ボクと神楽で押しとどめてきたけれど。
(ボクがリリを産んでからはますますその意思が強くなっていた、同時になにか追い詰められてる様でもあるけれど。)
「そっか、留めることは出来なさそう?」
アイビスはボクと同い年だけれど、まだ学校に通った期間も短くて、才能も補助・治癒魔法系に固まっている。
できれば危険な戦地には行かせたくないけれど、一刻も早く家族の元へ行きたいのだろう。
となれば、少しでも早く戦争を終わらせないといけない、でもボクは従軍するにはこの幼い娘をここにおいていかなくては成らない・・・それは・・・あまりにも母親としては薄情なのではないか?
「そうですね、アイビスの意思は固いです、ただ戦争に参加したいわけじゃなくって、家族の亡骸を見送りたいとのことなので・・・」
寂しそうな目で神楽は言う、何かを自分の目で見なければ先に進めないときっていうのはある。
神楽はアイラと出会いその中に暁を感じとることで、区切りをつけたけれど、アイビスにとってのそれは、今の家族の亡骸との対面ということであろう。
だったらボクは妹分のために人肌脱いでやりたい。
「あのアイラさん?一先ず最前線に行かず、ギリアム様やユーリさんにリリちゃんの事を報告にいくというのはいかがでしょうか?私とアイラさんとアイビス、それにあと2人くらいなら盾でひとっとびですよ?」
小さいほうの盾の時速60kmで飛べばそれはあっという間かもしれないけれど・・・うんそれで往復すればいい気がしてきた。
あぁでも、リリに3日は会えないと思うと怖い・・・、手放したくない・・・・。いっそリリを連れて行けば・・・・?いやそれは親としてどうなのってなるよね?前線ではないとはいえ戦地に行くのだから。
同じ王国という意味ではここも戦争中ではあるのだけれど、戦場との距離が900kmを超えているので恐ろしく感覚が薄い。
帝国側はもうこの半年でほぼほぼ安定した、軍部が失脚、ギエン内務卿を始め内政と外交に携わっていた人間が皆クレアの方策に乗って平和を目指す方向に動いたのだからそれはまぁ紛争なんて起こりにくい、民にも重々言い聞かせて国境をなくすための前段階として行商路を開拓、治安維持のために旧帝国兵を自衛団として再編して各地に配置した。
まぁ本音はグリム盆地を通さなくても直接ホーリウッドを通って食料をスザク領に送るため兵站路なのだけれど。
恐ろしいほどの手際で、帝国はルクセンティア侯爵領となった。
現在はクレアが侯爵代理を務めているが、いつかはユーリとクレアの間の子が領主となる。
うん後顧の憂いはないね。
「明後日、ボク、カグラ、アイビス、トリエラ、ナディアで出撃する。」
アイリスはボクの分まで、リリをかわいがってもらおう。
「リリ、ゴメンね、お母さんはちょっと頑張ってくるから、アイリスと一緒に待っててね。」
まだ分からないかもしれないけれど、その日キミが目を覚ましても、ボクは側に居ない・・・。
悪いお母さんでごめんね。
その日のうちに行軍に関する計画をエドワードお爺様や家族、仲間たちに話した。
アイリスがちょっとごねたけれど、説得して、アイビスにも明後日の午前に出発する事を継げた。
アイリスとノラ、エイラにリリの面倒を頼み、サークラやキスカに気にかけてくれる様に頼んだ。
決心は、したのだけれど、リリの顔を見ると、その決心もすぐに揺らいでくる。
だって、起きてるときボクの顔が見えないと泣くんだよ?
夜中にはまるで気を使った様にすすり泣く様な感じに控えめに泣くし、昼間ちょっと汗をかくともうぐずり始めるし、ボクもメイドたちも振り回されてるけれどその苦労も気持ちがいい。
ボク一人だったらノイローゼになってたかもしれないけれど、幸いメイドたちがいつでも部屋の中か外に誰か待機してるし、神楽はまるで自分の子どもでもあやす様に熱心にリリに入れ込んでいる。
その神楽が一緒に行ってくれると決心しているのだから・・・、ささっと戦争を終わらせて、帰ってこよう。
出発する朝になった。
神楽の飛行盾は目立ちすぎるので人の少ない早朝に、ディバインシャフト城の壁から出発することになった。
「それじゃあ、ボクの居ない間、アマリリスのママ代わり頼んだからね?」
見た目はそっくりだし、昔から身体の匂いも良く似ているアイリスならばきっとリリの機嫌を宥めるのに一役買ってくれるはず。
「出来るだけ早く戻ってきてあげてね?リリが泣いたら私たちも悲しいんだから。」
ギュッとお守りを握り締める。
かつて神楽がボクに贈ってくれた安産祈願のお守りに、保存の魔法をかけたリリのへその緒が入っている。
なんというタイミングなのか、昨日の夜ぽろっと取れたのだ。
せっかくなのでお守りとして持っていこうということにしたんだ。
お互いに無事を祈り、それでは出撃しようとしたとき、リリの泣き声が聞こえた気がした。
「リリ!?」
突然我が子の名を呼び振り返るボクに神楽は
「やっぱり、アイラさんは残りますか?お遣いだけなら私たちだけでも。」
なんてボクの決心を、あるいは葛藤を試す様なことをいう。
「カグラ、アイビス、ボクは・・・」
決心をゆるがせたわけじゃない、ただ声が聞こえた気がして・・・
すると部屋で番をしていてくれたはずのアミが恐ろしい勢いで屋上に飛び出してきた。
「アイラちゃん先輩!大変です!アマリリス様が!!」
冷静なアミがココまで狼狽するのなんてよっぽどのことだ。
(あのリリの泣き声はやはり何か重大なことだったんだ・・・!!)
ボクの悩みも葛藤も何も意味がないものだったと、気付かされることとなる。
遅くなりました、短くなりました、ごめんなさい。
ちょっと時間が取れなくて何日かは更新がおろそか(短く遅く)になるかもしれません。
死なない限りは完結までは頑張るつもりなのでちょっと遅いなって思っても赦してください。