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第111話:神話の産声

遅くなってしまいました

 おはようございます、暁改めアイラです。

 ユーリとエッラが出撃してから3週間が経ちました。

 二人と離ればなれになるのは軍官学校1年時のクラスが違って半日会えなかった頃を除けば初めてのことです。

 二人は今頃スザクの前線基地で侵略戦の準備をしている頃でしょうか?

 最近はアイビスも、神楽に元気付けられながら散歩してきてくれる様になったし、昨日もボクの部屋で神楽と3人だけで集まって日ノ本語の会話をしたりした。


「あっ!また蹴った!」

 アニスとヘレンが興奮気味にボクの大きくなった小さなお腹に手と耳をあてている。

「もー二人とも、あまりアイラに無理させちゃダメなんだからね!?」

 アイリスがお姉ちゃん風をふかせて二人に注意している。

「いいよ、ボクとアイリスも、アニスが生まれる前はこうやってハンナ母さんにお腹を触らせてと、ねだったものだよ?」


「そんなの、覚えてないよ・・・アイラ良く覚えてるね?アニスが産まれたのなんて私達3才になった頃じゃない?」

 ボクは胎児の頃の記憶も多少あるからね、ついでに前世も・・・

「アイラおねえちゃんはすごいね、まだこどもなのに、このなかにこどもがいるんだね?」

 ヘレンはふしぎそうにボクのお腹を触る。

「そうだよ、ヘレンの、いとこなのか甥っこ姪っこなのかよくわからないけどね。」

 本当は検診系の魔法でわかるらしいけれど、基本的に親には通知されない、第一子が女の子だと嫁をいじめる家もあるからだとか?

 (うちはそんなことないけどね、むしろ女の子が欲しいな!ユーリ秘蔵のかわいいおべべでうんっと可愛くしてあげるんだ!)


 おや?不思議な顔してるね?

「どうしたの?ヘレン」

「うまれるのはヘレンのおとーとかいもーとじゃないの?」

(!?)

「んー、どうしてそう思ったの?」

 頭ごなしには否定せずに尋ねてみる


「ヘレンのサークラマーマがうんだ、リコちゃんはヘレンのいもーとで、サルちゃんのキスカマーマのうんだサルートはおとーとだよ?」

 なるほど、それで自分のママ以外でもヘレンはおねえちゃんなんだね。


「でもみんなのパパはギリアム義父様だよね?」

 そういうとヘレンは目を大きく見開いて

「そっかーパパいっしょだね、ユーリおにいちゃんがパパだから、ヘレンのおとーといもーとじゃないんだね!?」

「そーだね。」

 納得したのか大きく頷いたヘレンはしかし次の疑問にたどり着いた


「ねー?ユーリおにいちゃんなの?ユーリパパなの?」

 おおぅ、混ざっちゃったか

「ヘレンから見たら、ユーリおにいちゃんとギリアムパパとサークラママ、この子からみたらユーリパパとギリアムじーじ、それにボクがママだね。わかるかな?」

 お腹を擦りながら言うとお腹の中の愛し子が動いているのを感じた。


「ヘレンおりこーさんだからわかるかな!あぁでも、ヘレンはそのこのなにになるのかな?」

 んーなんという難題。

 うちの家は複雑だ、何せボクの姉がボクの義父の継室になってしまったのだから・・・なんて言うかな?


「ヘレン、ヘレンから見た私はなにかな?」

 アニスがヘレンに問いかける。

 ヘレンから見たアニスは兄の義妹若しくは兄嫁の妹、で、母親の妹か・・・叔母か義姉妹か、でもおねえちゃんて呼んでるね。

「アニスおねえちゃんはアニスおねえちゃんだよ?」

「じゃきっとヘレンおねえちゃんだね?」

 上手いのか無理矢理なのかわからない説明だけどヘレンおばちゃんじゃ可哀相だしね、それで良さそうだ。


「そっか!」

 何となく得心がいったのか、ヘレンはお腹をなぜながら

「あかちゃーん!ヘレンおねーちゃんだよー!!」

 なんて、赤ちゃんを驚かさない様に小さな声で叫んでいた。



 そのうち眠たくなってきたヘレンをアニスが二人羽織みたいにしながら連れ出そうとしたところで都合よくナディアがやってきて、抱き抱えてトイレ経由でお部屋に連れていった。

 やっぱり、ちっちゃい子と戯れるのは胎教に良い(多分)

「早く君にも会いたいな・・・」

 君を放って戦いに行く悪いママだけど、許してくれるかな?

 ボクの声に赤ちゃんが呼応したかの様にこの日の夕方、4週間ばかり早くボクは産気付いた。


 最近はたまにお腹が張って痛むことがあったが、その間隔が短くなってきた。

 ナディアとエイラがついている時間で、クレアとアイリスがすぐに駆けつけた。

 城内に滞在しているベス先生が担当してくれることとなりすぐに分娩用の台が運び込まれた。


 サークラやキスカの使ったものはボクには大きくて使えなかったため特注品の分娩台になった。

 ボクの身体の大きさから154cmほどの人までの適正サイズの一回り小さい分娩台は前世のものとくらべるといささか平たい作りだ。


 この世界には前世の一般的な病院と比べても、痛み止めの魔法があるためアイラの矮躯でも十分耐えられる痛みになるらしいし、貴族では11~12才の出産も稀にあるそうだけれど、ボクの身体の大きさの妊婦の分娩を扱うのは初めてだ、とベス先生は少し緊張していた。

 それでも赤ちゃんは待ってくれないままで、陣痛の間隔が狭まっていき、かすかな不安を残したままお産が始まった。


 分娩台にあがる頃には最初に産気付いてから7時間ばかり経過して夜11時を回った辺りだった。

「アイラ様、もう少しの辛抱ですからね」

 ベス先生曰く、分娩台まで上がれば後は1時間程度の辛抱だと言う。

 ここまでの7時間や、ここに至るまでの悪阻の時期や強化魔法が使える様になるまでの労苦を、あるいはその世話を焼かせてきたメイドや家族の助けを、一緒にいたかっただろうに出兵せねばならなかったユーリの心情を思えば!

(あと1時間くらい・・・頑張る!!)


「ん、ぎぃぃぃぃ!?」

 頑張ると心を決めたものの、痛みは激しく、本当に魔法は効いているのかと思うほどだった。

 アイリスが超級複合魔法レデュースダメージと中級治癒魔法アンチペインをかけてくれる、出血する度にトリエラがヒールを、エイラとナディアがサプライをかけてくれる、キスカとサークラ、ノラが応援してくれる。

 クレアとサリィが浄化の魔法をかけてくれている。

 神楽とアニスが手を握ってくれる。

 アニスは痛いかもしれない・・・、思えばボクもアニスが生まれたとき、ハンナ母さんの手を握って、握られて痛かった。

(ごめんねアニス、ありがとうね。)


 この小さな手が、こんなにも心強いなんて・・・、あの小さな手がこんなに大きくなるなんて・・・。

「ぐっうっ・・・・あぁぁぁぁぁぁあああ!!」

「アイラ様!息を短く吸ってください!!まだ力は入れないで!」

 ベス先生が何か言ってるけれど・・・正直聞き入れる余裕はない。

 痛み、手に触れる手の感覚、自分の中に居る彼女の感覚。

 他はみんなが近くに居てくれること。

 それで全部・・・。


(あれ・・・なんで、ユーリはこんなときに近くにいてくれないの?)

 心細いよ・・・ユーリ、お母さん・・・どうして側に居てくれないの?

 苦しい、痛い・・・。

 それしか考えられなくなってきていた。

 それでも本能の成せるわざなのか、痛みの感覚が短くなってくるにつれて徐々に視界がクリアになってきた気がする。


「はっはっはっはっふぅー、あぐっ、あぁぁぁ、はっはっはっは、ふぅー」

 身体の下側に熱が移動して、身体から排出されたのがわかる、お腹の上に熱いものが・・・。

 でもそれだけで、もうボクの耳には音は聞こえず、視界も暗転して、真っ白なままだった。

 なんで暗転したのに真っ白なんだろう・・・なんて想いながらボクは穏やかな眠りに就く様に意識を手放した。




 ざわめき、すすり泣き、慟哭する声。

 それが先ず聞こえた。

 次には驚きと混乱、その騒がしさに、その懐かしさにボクの意識は浮上し、下腹部がスースーして寒い・・・。

 そして・・・胸元が熱い・・・?


「ねぇ今赤ちゃん!光ったよね!?」

「みてました!でもだからと言ってなんだっていうんですか!?」

 喧々囂々

 赤ちゃんも大事だけどさ?ボクなんでまだ下半身丸出しなのさ?

 どれくらい眠ってたか分からないけれど、かなり冷えてるよ?

 それにさ・・・・せっかく赤ちゃんが生まれたというのに・・・。


「なんで、みんな泣いているの?」

 まるでお葬式だよ?

「何でって、アイリスちゃんそれは・・・あんまりでしょう!貴方のおねえさんが、アイラさんが・・・。ぐ・・・っ」

 神楽が膝をついて崩れ込む。


「ちょっとまって!?私じゃないよ!?」

 アイリスが錯乱した声を出してボクのほうをみる。

「アイラ(さん)!?」

「アイラ様!?」

 全員が、本当に全員がこちらを向いて驚いた声を上げる。

 なにさ?まだ寝てると想ったの?

 なんだろう、いきみすぎて口の中切ったのかな?血の味がする。

 で、胸元に置かれた赤ちゃんがボクの乳首を噛み切ってしまいそうな勢いで口に含もうとしている。


「アイラ!体はなんともない?今10分以上心臓も息も止まってたんだよ!?」

 え・・・?

「ちょ、っと悪い冗談、ちょっと疲れて寝ちゃっただけだよ?」

 じゃなきゃあこんなぴんぴんしてるわけないじゃない?


「正直、ボクが息をしてなかったとか言われても信じられないですが、この子のおかげで今穏やかな時間を過ごせている気がします。」

 ボクは胸が張って着てはいるものの、まだ母乳は出ない・・・・、でも今この子がボクのおっぱいを口に含んで・・・含めるほど膨らんでないので、口に挟んでる程度だけれど、一生懸命吸ってくれるのが、言葉に言い表せないほど幸せなのだ。


 ところで

「ボクおっぱいまだ出てないのだけれど、この子はいつまで吸わせてればいいのかな?」

 なんかかわいそうなんだけれど・・・。

「毎日そうやって吸わせていれば後々アイラ様の母乳が出やすくなってきますので1度に10分は吸わせてください」

 とベス先生

「それとそろそろベッドの上にうつってもいいかな?股がスースーするの。ちょっと寒いよ」 

 そこまでいうと止まっていた時間が動きだしたかの様に慌しくみんなが動き出す。


「すみませんアイラ様!すぐに身体をお拭きしますね。」

 ナディアが盥に結露のひしゃくとアイロンバーでお湯を用意してくれる。

「マスター脚のわっか外したので動けますよ、肩をお貸ししますね。」

 トリエラが赤ちゃんを抱いたボクをベッドの縁に座りなおさせてくれる。


「うっわ・・・歩き難い・・・。」

 全身の力がぜんぜん入らないし、股関節がすごく痛い、だというのに不思議なことに赤ちゃんを抱いた腕だけはすごく力が溢れてくる・・・。


 疲れているのでエイラに手短に説明させたところ、赤ちゃんが生まれた直後にボクの意識が朦朧としていて、全員で分担して治癒をしたけれど、なぜか意識がはっきりしないまま鼻血を流し始めて、むせて、そのまま動かなくなったそうだ。

 それで脈を測っても心臓が動いておらず、息もしていない。

 治癒魔法も、浄化魔法も、浄血魔法も、アイビスの再生魔法もなぜかボクを治すことは出来ないままで皆泣きながらに、キレイにした赤ちゃんにせめて母親の温もりが残っているうちに触れさせてあげようと、赤ちゃんをボクの亡骸の上に置いたところ赤ちゃんが乳を吸い始めて、光を放ち始めたそうだ・・・。


「えぇー、なにそれ・・・ボク寝てたからって、担いでるわけじゃあないよね・・・?」

 もしそうなら相当たちが悪い・・・・。

 無論みんなはそんなことしないけれど

 その時神話好きのナディアがポツポツと語りはじめた。


「アイラ様が息をしてなくて死んだ様に思えたのはここに居た皆様がそれを見ています、そして赤ちゃんが光って、アイラさまが今こうやってまた元気にお話をされている・・・、神話みたいですね」

 あぁ10/36の?

「そういえば丁度日付が変わるくらいの間の出来事でしたね」

 と本好きなノラが補足の言葉を添える、10/36に聖母が死んで世界は暗闇に沈み、1/1に蘇って新たに日が昇った。

 あるいはその日だから年末年始だとか・・・

 でも今はそれは重要なことではないのだ。


「ボクが無事なのが、キミのおかげなら、ありがとうボクの赤ちゃん、それから、生まれてきてくれてありがとう・・・。」

 赤ちゃんはまだボクの胸を無心ですっている。


「そういえば、アイラ、赤ちゃんの名前は?」

 アイリスが持ち前のマイペースさを取り戻して聞いてくる、目にはまだ涙が浮かんでいるし、声も掠れてるけれど


「ユーリはボクが決めていいって言ってたの、出陣前に産まれてない赤ちゃんの名前を付けるのは不吉だから、どんな名前に決まったか楽しみにしてる!って言ってね」

 赤ちゃん、女の子か・・・いっぱい可愛いお洋服着せて、いっぱいユーリを誘惑しようね?

 リリーの出来なかったこと全部、君がしてあげてね。


「うん、決めたよ、アマリリス!君の名前はアマリリス・ウェリントン・フォン・ホーリーウッドだよ」

 今日は5月20日だから5月19日が君の誕生日だね。

「よろしくね、リリちゃん」

 いつの間にかリリは乳首をくわえたままで寝息をたてていたけれど、名前をつけて呼ぶと、ボクの赤ちゃんと呼んでいた時と比べて何か込み上げるものがある、


「私たち、ホーリーウッド城に知らせて来ますね!」

 ナディアとトリエラが部屋を出る。

 前世みたいな赤ちゃんを集める部屋なんてないから、赤ちゃんはボクの隣りに寝かされた。

 夜泣きする様なら部屋を分けるけれど一先ずはこのまま今日は寝ることになった。



 

出産したことないので近所の3児の母さんからの伝聞した範囲から想像して書きました

子どもは未熟児手前の体重で産まれましたが、小柄なだけの健康児です。

雑な分娩展開で申し訳ありませんがこれで大体の本編の準備が出来ました。

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