第110話:侵掠
おはようございます、暁改めアイラです。
魔法の力がなかなか戻らないと思ったら妊娠していました。
ベス先生の話では妊娠初期に、魔力の枯渇を起こしたために、身体が危険を感じてリミッターがかかっているそうで、安定期になるか出産を終えると魔法もちょっとずつ使える様になるということだったけれど・・・。
たしかに最近少し楽になって来た気がする。
開戦ちょっとまえ身長135cm体重28kgほどだったのが、136cm、34kgほどまで増えてしまって、体を少し重く感じるけれど、必要だと判断されたのか筋力強化の魔法が使えるようになっていたため、散歩も辛くないままだ。
季節は夏に入り、出産まであと1ヶ月半ばかりあるのだけれど、すでに臨月並にお腹が膨れきっていて、ボクの身体が未発達だったことがよくわかる。
それとホルモン大量分泌の結果か乳房が張り始めた。
かつてない自分の胸の大きさに少し心踊っているのが悔しい。
まあギリギリ強度Aになった程度だけれど
「アイラ、身体はどうかな?」
ユーリは毎日、朝と昼過ぎと夜寝る前と部屋に来てくれる。
「いいよ、ごめんねユーリ、ボクが身重でなければオケアノスを・・・」
オケアノスの解放はユーリの悲願だ。
それをボクのそばを離れたくないからとユーリは留守居役となっている。
「毎日それだね、でも君がボクたちの子を育んでくれているのを喜びこそしても恨んだりしないって何度も言っているよね?アイラ・ウェリントン・フォン・ホーリーウッド」
ユーリに名前を呼ばれた!
ただそれだけの事なのに顔がひどく熱くなる。
(うわ・・・これ今多分ボク顔が真っ赤だね)
悔しい、けど嬉しい名前を呼ばれただけなのに
名前が変わってからもうまる4カ月が経過しているのに、未だにボクはユーリに名前を呼ばれるだけで茹でダコの様になってしまう。
アイラだけなら大丈夫なのだけどホーリーウッドまで言われると途端に照れてしまうのだ。
ユーリも面白がってるよねこれ。
悔しい・・・
ユーリが部屋に来ているとき、他のみんなは気を使って退出していることが多い。
(つまり今部屋の中には二人きりなわけで・・・)
ドン!
「ん、ふっ!?」
「アイラ!?」
突然変な声をあげたボクをユーリが心配そうに見つめている。
「ごめんユーリ、赤ちゃんがお腹をドンしてきて・・・ごめんね、狭いよね・・・」
お腹を擦りながら赤ちゃんに語りかける。
いちゃつこうとしたからじゃないよね?さすがに・・・
「アイラが、謝ることじゃないよ・・・僕がもっとちゃんと考えていれば君を今こんなに苦しめる事もなかったのに。」
ユーリが目を伏せて謝る。
「世の中のおかあさんはみんな通った道のりだもん、少し早いだけだよ。」
どちらにせよボクが人一倍小柄なことは変わらないだろうしね
グイグイっとした感触がお腹の中からする。
「あ、ユーリ、見てみて・・・ほら!」
ボクがワンピースドレスの裾を持ち上げてお腹を露出すると
「わっ!すごいね?ちゃんと足の形してる!」
ユーリは見ている方も幸せになれる、花を咲かせた様な笑顔を浮かべた。
もう14才で、もうすぐパパになるというのにまだまだ可愛らしい顔立ちをしたボクの良人は、なんていうべきか、相変わらずの美少女ぶりで・・・。
「ユーリ、かわいい。」
ボクはお腹のところにに身を乗り出した彼のその頬を撫でてこちらに引き寄せた。
「アイラ・・・ん・・・」
珍しいボクからのキスにユーリは少し身を硬くしたけれど、すぐに持ち前の積極さでボクの口腔内に舌を差し込んだ。
ボクの興奮が伝わったのかな?お腹の中の人が少し暴れる。
「アハハ、お腹をドン!かぁ、確かにすごくズシッとくるね!」
本当に楽しそうに笑うんだけれどなにか不安を覚える。
「ユーリ?なにかあった?無理してない?」
思いつくのは戦争の進行具合だけれど。
メロウドさんたち黒騎兵らホーリーウッドの近衛隊も最近半数ほどが戦線に駆り出されてるし・・・思わしくないのだろうか?
「君が不安になる様なことはなにもないよ、元気な子を産んでね?」
そういってユーリはもう一度キスをしてから。
「今日は南部派兵第5陣の兵たちの前でエッラと模擬戦するんだけど、散歩がてら見に来る?」
未来の侯爵様自らの模擬戦闘とはいかにも士気が上がりそうではあるけれど、大丈夫かい?君とエッラの模擬戦闘なんて参考にならない人外バトルになりそうだけれども。
かえって兵士たちの士気を下げちゃうんじゃないかな?
正直自分が身体を動かせなくてウズウズしているし、興奮して赤ちゃんになにかあったら嫌だし・・・
「おとなしく寝ておくよ、赤ちゃんが興奮しちゃうかもだし。ごめんね、正室なのに務めに手を貸さなくて」
「何を言うの?一番大事なお仕事をしてくれてるよ、すっかりお母さんだね。」
何せあと45日ばかりで産まれちゃうからね!
お腹の中で動く度に胸が張って堪らないんだよ。
「知らなかった?ボクお母さんなんだよ?」
ユーリを見送ると入れ替りにトリエラとエイラとアミが部屋に入ってきた。
「アイラ様、シーツを替えに参りました。」
「マスター、今朝はお加減いかがですか?」
「アイラちゃん先輩、お風呂はどうします?」
エイラとアミもすっかりホーリーウッドのメイドになってしまったね、アミもエイラもホーリーウッドの王国式メイド服を着てボクの世話をしてくれている。
身重だから常に誰か一人は着いていてくれて、この朝のシーツ替えが終わったら夜番していた者は休む。
「ありがとう、今日は朝もお風呂にしようかな」
「はい、それでは先に用意しておきますね。」
そういってアミは部屋を出て行った。
お腹が大きくなってから、いつもより汗をかく上に肌が敏感になっているのかあせもがちょこちょこ出来たりしていた、別に治癒魔法でも治るのだけれど、すっきりしたいということもあって、朝汗を拭いてもらったり入浴したりする。
夜もお風呂には入るけれど、お風呂に入るのにもメイド達が気を回してくれて、脱衣所の温度をお風呂場に近い温度にしてくれたり、風呂の温度も39度くらいに調整してくれる。
「皆に手間かけてるね、ありがとうね。」
城のみんながボクたちを気にかけてくれていて、仲間たちはほぼ毎日ボクを見舞ってくれるのだけれど、昨日と一昨日とアイビスが来てくれていない、同じディバインシャフト城内に居るというのに寂しい。
(連日アイリスやアニスと一緒にボクに甘えてくれていたのに・・・)
可愛い妹分は、自分に赤ちゃんが出来ても可愛いものだ。
アミとエイラにお風呂に入れてもらう
「はぁ・・・きもちぃ、働いてもないのに朝からお風呂とか・・・。」
あれだね、ぬるま湯は人をダメにするねぇ・・・。
あっついお風呂のほうが好きなのだけれど、妊婦さんになってからは専らぬるいお湯に入る様にしている、なんかのぼせやすくって危ないんだとか。
「アイラ様、お水をどうぞ。」
「先輩、マッサージしますね。」
至れりつくせりの入浴タイム、アミは治癒魔法を取得していなかったけれど、ボクのために中級治癒魔法リペアライトを習得してくれた。
コレは火傷痕とか皮膚に残る古傷の痕とかを消す魔法で、ケガ自体を治すほどの力はないけれど妊娠線を消せるらしいということでアミが覚えてきてくれた。
中級と言っても消費魔力が中級並で習得は簡単だそうで、その後ナディアたちメイドが大体皆覚え、なんと軍官学校生ではないノラまで覚えることが出来た。
コレを身体を拭くときやマッサージするときにかけてくれるので、ボクのおなかはいまもきれいなままだ。
「そういえばさ、アイビスが一昨日から顔を見せないんだけど?」
お風呂上り、朝の軽い食事を取りながらボクが尋ねると、なんといつも冷静沈着なあのエイラがしどろもどろになりながら
「ア、アイビス様はその、えっと・・・少しお風邪を召してまして」
なんていうのだ。
「それこそ風邪なんて、サプライとリカバリで一晩寝たら治るでしょ?」
それなら今日は顔を出すはずだ。
「えっと、風邪が治っても、少しの間は人にうつすこともありますから、念のために数日置くそうです。」
アミが慌ててフォローに入るけれど、一度気になってしまうとやはり疑ってかかってしまう。
「本当に風邪?なにか隠し事してない?」
そういえばユーリも何か変な感じだったし・・・。
「あぁ、それよりもアイラ様、今日はサークラ様とキスカ様が、リコ様とサルート様を連れてお部屋に行かれるそうですよ。」
むぅ、無理やり話題をそらそうとしているね・・・まぁボクに聞かせたくないこともあるのだろう。
いいよ、今日のところは見逃してあげる。
「そっか、じゃあお部屋で待ってないとね。アイビスにはお大事にって伝えておいて。」
この日はそれから、部屋にやってきリコやサルートとからかって遊び。
サークラやキスカにからかわれてからゆったりと過ごした。
翌日・・・
この日は朝から、外が騒がしい気がした。
そしていつもの時間、朝ユーリがやってきて言った。
「第5陣の出撃準備が出来たんだ。」
重々しく告げるユーリにボクは少し不安を覚える。
「うん、今度は5000人だっけ?」
今までも小分けして、2000人ずつくらい派兵して、3ヶ月交代で2ヶ月置きに派兵していた。前線まで丁度往復がゆっくりめで30日かかるので穴は作らない様になっている。
「そうだね、今回は南方に攻め入ることになる。」
!?
「あれ?ジークとクレアの目的もあるから、怨嗟を遺さないように交渉で進めるんじゃなかったの?」
そのために3ヶ月以上かけて21の領主の連合である協商のうち4つと、スザクが交渉しているのではなかったか?
ユーリは目を伏せて、言うか言うまいか迷っている様だった。
しかし一度決心すればその言葉は明朗だ。
「4日前の夜、結晶通信が入った・・・、南進候が殺害された。」
え・・・・?
「何進候って、アイビスのお父さんの・・・?」
「そうだよ、3ヶ月かけた交渉の末双方の中間地点に当たるスザク領コグレーの町で協商の西側4国との調印に出かけたのだけれど、相手側の領主が遅れて、そこに3方向から遠距離砲撃、さらに間髪入れず協商の誇る17将軍と呼ばれる者のうち実に13人が突入してきて、メロウドさんが2人、マガレ先輩とデメテル先輩で協力して2人、シリル先輩が3人倒して、他の17将軍も軒並み討ったらしいけれど2人逃げられ、追撃で敵の4領主も討ち取ったけれど、こちらは南方所属の認定勇者1名を含む4名の絶対たる個とスザク候と奥方、嫡子・・・アイビスの弟が死亡してる。直系スザク家はアイビスを残して全滅・・・。」
ユーリは淡々と状況を説明してくれる。
「そんな・・・だからアイビスが・・・」
ココに顔も出せない状態ってことだよね?
「コレに対して、南と共同して報復することになった。幸いというべきか向こうの最高戦力の17将が壊滅状態で、向こうにいる絶対たる個は残った4将軍と、協商の3大領主の一人、イグノー・スコット・ロンデニウム、コレに対してこちらは南方所属の認定勇者を含む5名とメロウドさん、ウェルズさん、シリル先輩、マガレ先輩、デメテル先輩、ロディマス男爵とアンディ先輩が参加、それに、ボクとエッラも行くことになった。」
(え・・・・?)
「まってよ!?ボクの出産までまってくれるんじゃなかったの?一緒に出撃しようよ?」
いや、スザク候がだまし討ちされたとなれば、赦せないのも分かるけれど・・・でも君は悲願オケアノスへの復讐よりも、こちらを優先してくれたのに・・・。
「ごめんね、アイラ・・・、ボクも初めての子どもの誕生に立会いたかったけれど・・・」
そういってユーリは、いつの間にか泣いていたボクを宥めて・・・・
その日の昼にはホーリーウッドを発った。
たぶん昨日の時点ではもう決まっていたんだろうね・・・
だから実力を兵士たちに見せるために、模擬戦なんてしたんだ。
ユーリもエッラも見た目で侮られて兵士が言うこと聞かないとこまるから・・・。
「怖いよ・・・カグラ、不安だよ・・・、いきなり、ユーリとエッラが従軍するなんて・・・。」
夜になって、寂しくなって、トリエラに神楽を呼んでこさせた・・・。
信じられない様な再会もできることを体現した神楽を抱きしめることで、不安を少しでも紛らわせようと思って抱きついたけれど、やっぱり不安・・・・。
「アイラさん、大丈夫ですよ、お二人とも疑いようもなく強いです、それに人数が多いので片道15日はかかるそうですから、そこから、ミナカタの最終防衛ラインまで攻め入るのにさらに50日くらいはかかります、そこまでは相手も最後の戦力を出し切りはしないでしょう・・・。そこからアイラさんが間に合えばいいんです。」
産んで、自分の子どもをほとんど抱きもしないで戦地にいけということかい?
治癒魔法があるから、それも出来ないことはないけれど・・・赤ちゃんがかわいそうではないだろうか・・・?
すると、トン、トンとお腹を蹴られた。
「君も、それでいいの?ボク君のお母さんなのに・・・いいの?」
するとまたトン、トンという衝撃。
都合のいい解釈だと分かってる、ただの偶然だって分かってる、それでもボクはユーリと一緒に歩きたい。
「カグラその時は一緒に、行ってくれる?」
神楽はやさしい笑顔でボクに頷いてくれた。
最近書きあがりが遅くなってますね、こんな時間に更新したら迷惑かもしれないので、次回から遅くなったら朝投稿を心がけたほうがいいのかも・・・?と最近考えています。