第108話:この花の咲く巷で
ねぼけてしまい間違えて外伝のほうに投稿しておりました、大変申し訳ありませんでした。
こんにちは、暁改めアイラです。
伝令の任務を帯びてホーリーウッドに帰ってから3週間が経ちました。
ボクたちの本拠ホーリーウッドは、既に帝国との戦争を停戦させ、今は婚姻同盟を結んだ形になっているため、国境を面している部分がない。
そのため各地方の貴族の子女が少しずつこちらに向かってきているらしい。
一先ずの伝令を終えたボクたちは次の出撃のために、できる事を増やそうと、鍛錬に励んでいた。
「カグラ!ラスト1本行くよ!」
ボクは木剣を構えて神楽の懐まで一気に踏み込む。
「きゃ!」
神楽は慌てて木剣で受けようとするけれど、低い踏み込みに対応しきれず簡単に腰を斬られてしりもちをついた。
実戦ならば死んでるね。
「いたた・・・アイラさん、ちょっと速すぎますよ・・・こんな速度の踏み込みしてくる人、帝国には居ませんでした。」
お尻をさすりながら、カグラが涙目で抗議する。
でもユーリやエッラなら対応してくる速度だよ。
「やっぱりカグラは性能に頼ってる感じがあるかなぁ」
目は追いついているけれど、身体の反応が少し遅い。
「一応それなりに修練は続けていたのですけれど・・・。」
宣戦布告から3週間、ホーリーウッドは帝国戦後の軍団の再調整が終わっておらず。
まだ出撃は出来ない、そうでなくても被害の出た村落の修復や、新しく傘下となった旧帝国領の治安維持に忙しいのだ。
「おねーちゃーん!カグラちゃーん!訓練おわったー?」
かわいいかわいいボクの妹天使その2アニスが、手を振りならがトテトテ駆け寄ってくる。
まぁ5時間くらいやったし、いいかなぁ
「じゃまぁ終わろうか。」
「はいアイラさん」
神楽はうれしそうに微笑む
今日はアイビスがホーリーウッドに到着する予定の日なのだ。
ホーリーウッド市に戻り、伝令など終えた後、ボクはエドワード様からアイビスがこっちに来るらしいと聞いたボクは円城寺此花ちゃんの事を思い出し、神楽に教えた。
その時の神楽の反応は、此花ちゃんが死んでいたことが辛い、十家のものとして申し訳ないということと、早く会って話しをしてみたい。
というものだった。
それから15日間以上、ほうっておくと勝手に迎えに行ってしまいそうだったので毎日剣の練習を一緒にした。
今日は二人だけだけど、毎日入れ替わり皆で剣の稽古をして今日に至る。
「今日はカグラちゃんのお友達が来る日なんだよね?」
人懐っこい笑顔で、神楽の正面に立つ8歳のアニスは、サークラ似の少しピンクの色みのあるふわふわの金髪の少女で、猫っ毛で頭をなでると指の間をなぞる髪の毛の感触がくすぐったくて気持ちいい。
既に神楽もその虜でありアニスを抱き上げてなでなでしている、まだ8歳とはいえ神楽の細腕でよく抱き上げれるなとも思うけれど、神楽は普段から魔導鎧装による強化をしているらしくって意外と力持ちなのだ。
屈託なく笑うアニスと、ソレを抱きかかえて微笑む慈母然とした神楽をみていると、今が戦時下ということを忘れてしまいそうだけれど、アイビスがホーリーウッドに遊びにくるのも、疎開なのだから、本当は楽しみなんて思ってはいけないのかもしれないけれど・・・。
午後3時頃になって、ボクたちが城の庭でお茶をしているとスザク家の馬車がディバインシャフト城に入ってきた。
中には当然アイビスが・・・・
「おねえちゃん!」
はしたない!
アイビスは馬車が止まるなり、メイドがドアを開けるのも待たずに飛び降りてこちらに飛びついてきた。
なお馬車が入ってきた南門からは40mほどの距離がある。
「こら・・アイビス!はしたないですよ?貴方の従者たちの前だというのに・・・」
あぁほら、メイドのフランがどうしたものかと固まってるじゃないか・・・。
今までなんとかごまかしてきたアイビスの甘えん坊な面が、従者たちの前で明るみになってしまった。
しかもどうみても、アイビスよりも小柄なボクにアイビスがおねえちゃん呼びでだだ甘えだ・・・。
あぁでもさすがはスザク家の従者たちだ。
全員上手に目を反らしてお迎えしている衛兵たちと会話しているね。
訓練度が高い証拠だ。
馬車は所定の位置に案内され。
ボクたちはアイビスとフランを泊める予定の客室に連れて行った。
「アイビス、良く来ましたね。遠路はるばるお疲れ様です。」
部屋につくとボクはアイビスを膝の上に乗せてなでて労う
膝に乗せるといってもベッドに腰掛けてアイビスもベッドに横になってボクの膝枕だ。
アニスと違ってさらさらの髪質がこれはこれでクセになる。
アイビスが甘えているのをみて、妹心に火がついたのかアニスが逆の膝に飛びついてきた
「ねぇ、おねえちゃんはアニスのおねえちゃんなんだよ!?」
「で、でもでもわたしにも甘えていいよっていってくれたんだよ!?お姉ちゃんになってくれるって!」
アイビスは身体を起こして、アニスと視線を交わして、唐突におねえちゃん争奪戦が始まってしまった。
「ねぇ、おねえちゃん、わたしも甘えていいんだよね?」
「でもでも、アニスのほうが優先だよね!?ホンモノの妹だもんね!?」
二人の妹がボクをめぐって争っている。
でももう二人を宥める言葉はあるんだよね。
「アニスはおねえちゃんのこと独り占めしたいの?」
もしもそうなら、アイリスやユーリとも対決することになってしまうよ?
「んー、うーん、ノラちゃんは独り占めしたいけど、アイラおねえちゃんはアーちゃんにとってもおねえちゃんだし、ユーリおにいちゃんからおよめさん盗ったら怒られるから独り占めはいいかなー。でもこの知らないお姉ちゃんよりは優先してほしい。」
ごもっともだよね、アニスからしたらいきなり知らないお姉ちゃんが自分のおねえちゃんに甘え始めたんだから、それは嫌だよね。
ならば君たちも仲良くなっちゃえばいいんだ、幸い精神年齢は近そうだしね。
「アイビスもボクのこと独り占めしたいわけじゃないよね?アイリスやユーリとも良く遊ぶわけだし。」
それこそコロネとは同じベッドで寝る仲だしね。
「わたしは、その、こうやってたまに撫でてくれるなら・・・」
うん、そうだよね、君は甘えたがりだけれど、欲張りではないものね
「アイビス、このアニスはボクの下の妹です、貴方よりも幼いボクたちとは4年度離れた子です。」
「うん。」
「つまりアイビスもこの子のおねえちゃんになれるんですよ?」
さっきはしらないおねえちゃんって呼んでたしね
「!?」
アイビスは驚いた顔でアニスを見る。
妹になるかもしれないと聞いたからか、アイビスは途端にアニスが可愛く見えてきた様で?
「あの・・・アニスちゃん・・・、わたしのことおねえちゃんって呼んでくれるんですか?」
おっかなびっくりとアニスに問いかけるアイビスはまるで、もっと幼い子どもの様だ。
「別にいいよ?でも名前をちゃんと教えてくれないと、アニスにはおねえちゃんいっぱい居るんだから。」
お姉ちゃんと呼んでいる相手を指折数えるアニス、ちょっと待って?今マーサさんの名前も挙ったね?
マーサさんはホーリーウッド市のディバインシャフト側市街の2番通りで子ども服専門店真夏の堕天使サマーズ・エンジェルスを営む筋肉質なおねえだ。
もと軍人で、フローレンス様とも旧知で、ボクの婚約披露の際のドレスを手がけてくれた気さくな方だけれど・・・おねえちゃん・・・?
マーサさんは一応結婚していて、奥さんと娘さんと3人でもう一軒別の洋服店を営んでも居るのだけれどその二人の名前もおねえちゃん枠で挙げた・・・。
市内の大人たちと仲良くやってるってことだからいいけれど、その辺全部おねえちゃん枠だと大変な人数になっちゃいそうだね。
いつまで続くか分からないので、声をかけよう。
「アニス、じゃあボクから紹介するねこちらおねえちゃんの軍官学校での後輩で、南候スザク家の」
「アイビス・ウォーブラー・フォン・スザクです、よろしくね、アニスちゃん。」
そういってアイビスが挨拶すると、アニスも警戒姿勢を解いた。
「ん、アニス・ウェリントンです基礎学校の中級クラスです。初めからちゃんと挨拶したら、アニスに怒られなかったんだよ?」
なんてちょっとお説教モードに入っている妹可愛い。
「それからねアイビス、あぁそうだアニス、ボクココでアイビスにイロイロ教えてるから、メイドのフランさんを他のメイドさんたちに紹介してきて?」
そういってフランさんをアニスに引き合わせてから部屋から送り出した。
「【此花ちゃん、この人分かる・・・?】」
日ノ本語でアイビスに呼びかける。
「・・・?」
アイビスはボクの隣にいた神楽をじっと見つめ頭の中の違和感を探ろうとしている。
しかし涙を溜めた神楽が先にネタバレをしてしまった。
「はじめましてアイビスさん、【桐生神楽です。】」
驚愕に目を見開くアイビス。
その目がボクのほうに向いたので、無言で首肯する。
「【う・・・そ?ほんとに?本当に神楽ちゃんなの?】」
そういって神楽の手を握り顔を近づけるアイビスは既に目に涙を溜めている、あれでは神楽の顔もよくは見えていないだろう。
「【そっちこそ本当にのんちゃんなの?お顔がぜんぜん違うからわかんないや・・・。】」
そういって笑う神楽の顔は幼い頃の神楽をそのまま大人にした様な顔だ。
それはまぁそのまま大人にしたのだから当たり前なのだけど・・・。
「【その笑い方、本当に神楽ちゃんなんだ。素敵なお姉さんになっちゃったんだね。暁さんと会えたんだね・・・よかったね。】」
「まぁそういうわけだから、こちらカグラ・キリウ、元帝国の姫のクレアリグルの付き人で、今はボクのメイドにもなってくれた、ボクの大切な家族」
大切な人、それだけでは納まりきらないけれど。
それから旧交を温めあう二人を残してボクは部屋を去った。
さてと、ボクはどうしようかな、もう少し一人で特訓しようかな・・・?
前回ヘスクロの町で戦ってから3週間すぎているというのに、魔力がまだ戻らない。
いや魔力は戻ってるのだけれどなぜか魔法を上手く引き出せない。
サリィに確認してもらったら既にボクの魔力は回復しているし、減衰もしていない、
それに生活魔法道具なんかは普通に使えるのに、初級攻性魔法すら使えないし、身体強化も使えない様だった、でも加速や光弾といった意志力消費系は使える。
戦えるのに、お爺様やギリアム様から、魔法が使えるようになるまで出撃禁止を言い渡されてしまって、ボクはホーリーウッドでくすぶっている。
マガレ先輩やデメテル先輩は出撃して南部の防衛に当たっていて、今はホーリーウッドに居ない。
シリル先輩は今日アイビスが着たので、明日から再生魔法に寄る治療が始まる。
治ればまた、絶対的な花剣を見せてくれるはずだ。
(どれくらいかかるものか分からないけれど)
焦れる・・・、
前線の情報があまり入ってこないのも、その後ドライセンはどう動いているのかとかの情報も足りない。
分からない事が多い上に自分はいつまでも復調しない、そのために仲間もここにとどまっているのが申し訳ない。
貴重な勇者であるユーリやエッラが前線に出ていない事がどれだけ戦線に影響を与えているだろうか?
分からないといえばもう一つ、ホーリーウッド南西部の森と湿地帯に出兵していた帝国兵たち
ゲイズシィ将軍に率いられた彼らは精鋭揃いだったそうで、グリム周辺に集中しているホーリーウッドの守りを背面から突く予定だったらしいけれど。
ギエンたちが追いついたとき4000以上居たはずのキャンプはもぬけのからで、森林から大量の帝国兵の遺体が発見されたという。
彼らはみな何者かに斬られて死んでから、遺体が動物や魔物に食い荒らされたと見られていて。
でもホーリーウッド兵の報告では小規模な戦闘はあったもののせいぜい200しか死亡を確認していないとのことだった。
(なにが起こったのか・・・その内調査が必要そうだね)
そういえば仇であったらしいゲイズシィ将軍も死んでいたらしいし、そろそろ節目かもしれない・・・・、この戦争が終わったらウェリントンの墓参りでも行こうかな。
「あ、いったぁ・・・・うぅ」
訓練中だというのに考え事をしていたためか、注意力が散漫に成ってしまっていた。
納刀しようとしたとき鞘を持っていた左手の人差し指の付け根を軽く斬ってしまった。
こういうとき普段ならすぐに魔法で傷を治すんだけど・・・。
(嫌だなぁすぐ治さないと痕残っちゃうかなぁ・・・)
目立ち難いとはいえ女の子だもの、傷跡は少ないほうがいい。
滴った血が地面に小さな染みを作るのをみて、一応試してみようかなと初級治癒術を唱える。
「トリート」
指を治すイメージで初級治癒術を唱えてみるけれどうんともすんともならない。
(うーん、やっぱりだめだね、ちょっとズキズキしてきた。)
「エグゼヒール!」
逆に自分で使える治癒術で最上位の中級治癒魔法を使ってみる。
(中級治癒魔法コレともう1種類しか使えないんだよね)
あれ?
傷が、治ってる?
「魔法が、戻った?いやでも、トリートは出なかったし・・・。」
あれかな?
天衣無縫の反動でちょっと強い魔法使わないと効果ででないとか・・・?
やっぱり暫く魔法を使わない様に抑えておくのがいいのかな?
攻性魔法は・・・
「ファイアアロー、フィンフレア、スプレッドカノン、ストリームアロー、スタンウェーブ、ソリッドカノン、シャドウチェイン、フォトンバレット・・・・」
だめだ、適当に唱えたけれど初級~下級魔法はなんも出ないや
次は、ボクが扱える各属性最上級で試してみよう。
「~原始の炎よ、廻りて波濤の一撃を成せ、我が軍勢に勝利を~イグナイテッド・コラプション」
「~全知万能たる神王よ、その権により全ての無法者を塵と成せ、其れこそが~ジャジメント・レイン!」
「~風は吹き荒れて、彼の軍勢をひれ伏せさせよ、天より来るは~タービュランス!」
「~水槍、城を穿て~トリアイナ!」
「~光翼よ~バスターウィング!」
「~地に走るは我が怒り、天を裂くは岩の剣~ウォールブレイド」
何個か試してみるけれどだめだね・・・何もでない・・・必要がないからでないとかなのかな・・・?
魔力が身体にかよう感覚はあったんだよね・・・。
とりあえずなんか疲れたし帰ろう・・・。
家族と今城で世話をしている人たち皆とで囲む食卓は大変にぎやかである。
王族だけでも4人、クレアを足していいなら5人居るし。
ボクは今日の出来事を聞かれ、今日も魔法だめだったーという内容を話す。
「あぁでもちょっと剣で指きっちゃったんだけどさ、その時だけ魔法がでて治癒できたんだ。」
というと、えぇー?本当?早く前線に出たいからってうそはだめですよー
なんて食卓には笑顔が溢れている。
ボクだってこのままこの時間が続くなら戦争になんて行きたくない、でもこのままで居て本当に大丈夫かわからないから、ボクは早く戦争を終わらせたいんだ。
そんなボクの報告に一人だけ、ボクの魔法が戻らないことの答えに行き着いたものが居た。
その人はいつもならもう少し食べるのだけれど、「御馳走様」といってスッと立ち上がると、自らの出した答えを確かめるために、部屋に戻っていった。
ホーリーウッド市は冬の、其れも戦争中だというのに平和です。
此花たちの話を書いて、神楽が再登場してから、アイラにそのうち此花のことを神楽に教えさせないとって思い続けていたのですが、忘れてました。