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第4話:暁

爪が割れました、泣きそうです。


 こんにちは暁改めアイラです。

 かつて暁であったことをなるべく考えない様にしようと決めてから、もう3年経とうとしています。

 それでもたまに神楽のことを夢に見たり、両親の死に姿を思い出したりして泣きたくなったときは、一人で布団を被ってこっそり泣いた。

 横にアイリスが寝ているときは、地下室に隠れて泣いた。

 

 最近は恒例となった父と兄との剣の稽古の前に父がボクに改まって声をかけた。

「アイラ、今日は君に渡すものがあるんだ。」

 父は緊張した面持ちで何か包みを持ってきた、中に刀剣が入っていると判る包み。

「アイラ、君はすでにこの村では一番の剣の技量を持っていると思う、無論戦えば父さんやトーティス、テオロさんには勝てない、これは体の未熟さがあるから仕方ない」

 と前置きした父は次の言葉を本当に言ってもいいのか少し迷ってる風でもあった。


「一人前の剣士と認めたからには、その腕に相応しい武器を持たせねばならない、そして武器を持つからには覚悟が必要でもある。わかるかな?」

(やっぱりその包みは武器で、しかもボクに渡すつもりなのか)

「お父さんボクはまだ5歳です、剣を持つのは早すぎませんか?」

 

「ハンナにもそういわれたよ、でもねアイラ、お父さんは君に覚悟を持ってほしいんだ」

 そういってボクの手を包む様に持つ父エドガー

「ウェリントンは辺境だ、いざというときがいつ来るかわからない。アイラの様な子どもでも戦うことができる力を持つ、護ることができる力を持つものが、そのための武器と覚悟を持っていないのは、好ましくないんだよ、わかってほしい。」

 そうとまでいわれてNOとはいえないな、ボクは元日ノ本人な訳だし。

 

 ボクは無言で首を縦に振る

 続けて父はボクに対して前置きした。

「アイラ自身がさっき言ったとおり、体がまだ出来上がっていない、そんな君が扱える様な武器は一般に出回っていない。」

「はいわかります」

 それはそうだ5歳児用の剣など普通需要がない


「ところがなんの因果かこの村には一つだけ、アイラでもぎりぎりもてないこともない武器がある」

(それがその包みなんだ?)

「これはかつてこの村を救ってくれた若い剣士が使っていたモノで彼の遺品なんだけど、これを使う覚悟はあるかい?」 


 遺品を使ってもいいものだろうか?少し重いな、5歳に遺品を使う覚悟を問うのか

「実物を見ないと使えるかもわからないです。」

「それもそうだな、これだ、確かめてみてくれ」


 エドガー父さんは先ほどから持っていた包みをボクに渡した。

 手にとってみると、やはりアイラの手にはまだ少し重いものの、一般のロングソードと異なり、もてないこともなさそうだった。

(トーレスに持たせたものの、4割くらいの重さかな?)

「では、改めさせて頂きますね。」

 包みを解く、そしてボクは不意打ちを受けた。

(うそ・・・・でしょ?)

 思いもよらない再会に、全身の毛が粟立つ。


「アイラ!大丈夫か!?遺品はやっぱり怖かったか?」

 エドガーさんがアイラの肩を掴んでいる。

 アイラはその目から大粒の涙を流していた。

 あまりにも信じられなかった。


(払暁が何でここに・・・?)

 払暁は僕、近衛暁が生前愛用してた小太刀暁光と対になる小太刀で刀身は35cmほどのものだ、こちらの世界のショートソードの一般的なものが55cmほどなのもを考えると確かにだいぶ軽いわけだ・・・

 払暁がここにあるということは、僕が死んだのはこちらの世界だったということか?

 わからない、あの時の周囲の景色はもうはっきりとは思い出せないけれど、暗い森の中にいたことは覚えている。

 

「・・・ラ!アイラ!!」

 ハっとする。

「アイラ、しっかりしなさい。すまなかった、父さんが悪かった、遺品はやはりやめておこう。アイラが泣くなんてただ事じゃない。」

 え?何でそんな話になってるの?

「待ってください、僕この刀を使いたいです。」


 僕の声に怪訝そうな顔をするエドガーさん。

「アイラ・・・?今カタナと呼んだのか?この武器を知っているのか?」

 (迂闊だったか・・・?)

 僕はこの人たちに嘘をつきたくないけれど、僕が本当はアイラじゃないことを伝えることなんてできない・・・よね

 僕は、ボクはアイラだ。


「父さん、ボクはこの剣と持ち主を、何度も夢にみたことがあります」

「夢?」

 怪訝そうな顔をする父さん

「はい、黒い髪の、今のサルボウさんよりちょっと若いくらいの男の子が、恋人を庇って黒い大きな犬型の魔物の牙に掛かりました。その男の子が3本持っていた武器にそっくりです。男の子は恋人の無事を祈りながら、獣に噛み付かれたまま何度もその獣に剣を突き立てて息絶えました。」

「うん、お父さんたちが現場で確認してきた光景とたぶん合致する。剣は2本だったし、その恋人というのは不明だが、確かに男の子はガルムに咥えられて息絶えていた。」


「ガルム・・・・」

 それが暁を殺した異形の名前・・・

「ガルムは数百年に一度観測され、いつどこから現れるかもわからない類の化け物で、一説には空間を跳躍して現れるといわれている。そんな魔物と思われるモノが近隣で観測され村長として、村を棄てる選択も視野に入れていた。」

 父はかつてのことを思い出す様に、ゆっくりゆっくりと語る。

「われわれは4名で森に入り、その存在を確かめようとしたのだが、われわれが森に入ったときすでにガルムは虫の息だった。」


「ガルムの口の中には少年がいて、すでに息絶えていたが、その手にはこれより長い剣がしっかりと握られていて、ガルムの胸に突き立てられていた」

 淡々と父エドガーが語る、その口ぶりは決して見知らぬ冒険者を語るものではなく、申し訳なさというか、敬意の様なものがにじんでいた。


「ガルムは普通なら、倒すことなんてまずできない化け物だ、少年はそれとほとんど相打ちに近い形で息絶えていた。あるいは『英雄の器』だったのかもしれない。」

 初めて聞く言葉が出てきた、英雄の器というのは何なのだろうか?

 でもそんなことよりもボクは払暁を使いたい。


「ボクはその夢の彼の恋人に、会いたいと思っています。」

 暁にとって神楽は命よりも大切な女性だった。

 ならばアイラにとっての彼女は一体何であるべきだろうか?

「今よりもっと小さいころからずっと気になってました。この夢に出てくる少年の大切な女の子が、無事に生きているのだろうか、と」


「そもそもこの夢をボクが見続けるのはなんでなんだろう?って、夢を見た後は決まって、涙が溢れてくるんです、カグラに会いたい、カグラに生きていてほしいって寂しくなるんです。」

 自分が何を言いたいのかわからなくなってきている。

 エドガーはこんな支離滅裂な子どもの戯言を、ただ無言で聞いてくれている。


「ボクはひとりでこっそりなきました、ボクは本当は・・・っ!」

 アイラ・ウェリントンなんかじゃない言いかけて言えなかった。


「アイラ、君がたまにひとりで泣いていたことは知っている。」

 エドガー父に抱きしめられた、しゃべれないほど強く。


「このまま聞いてほしい、君がどんな悩みや、辛い記憶を持っていたとしても、アイラ・ウェリントンはうちの自慢の次女だ強気だけど礼儀正しい、矜持はあるが思いやりを忘れない、強くて賢い、出来すぎた5才だ。泣いてくれていい、心配かけてくれていい、ただどんなことがあっても、お父さんたちがアイラを愛していることを忘れないでほしい。その上でアイラが彼やそのカグラさんのことが気になるのなら、きっと力を貸すからやりたい様にやりなさい。その剣以外の遺品も少し残してある。」


 そういうとエドガー父は一度部屋に戻りすぐにまた戻ってきた。

「ここに残してある遺品がある。」

 そういうと持ってきた袋をボクに渡す。

 エドガー父の顔を見ると無言で頷いてくる、あけてみろということか


 袋を開けると中には、いつだったかのお祭りで神楽と贈りあった体温で色が変わるおもちゃの指輪と神楽が2度目の婚約記念日にくれた宮国神社の安産祈願の御守が入っていた。

(普通男が女に贈るものじゃないの?って聞いたら『安の字しか読めなかったんですけど、安全安心の安だから、きっと暁さんを護ってくれますよね!』なんて言ってたなぁ・・・)

 また涙が出た。


 エドガー父さんはそれ以上は言葉を話さず、ただボクの頭を少し乱暴になで続けた。


 その後、剣術の稽古に遅れてきた兄トーレスが、父がボクを苛めてるのだと思い父を責めたが、父は否定しなかった。

 


 ボクはこの家族を愛している。

 ボクはアイラ・ウェリントンなのだから、彼らを愛している必要があった。

 でもそうじゃない、ボクは彼らが愛すべき家族だから、愛していられる。

 彼らを愛していたい。


 そう思ったから、今夜は父エドガーとお風呂に入ることになった。

 何を言っているんだ?って思う人もいるかも知れないけれど、一緒にお風呂に入るってすごく愛の深い行動だと思うんだ。

 

 服も着てないし、武器も持ってない、そんな中2人きりでいられるのなんて、家族くらいだ。

 家族でも仲良しじゃなきゃ一緒になんて入らない。

 まぁ仲良い家族でも、気恥ずかしさとかで一緒しないかもだけどね。


 そういうわけで、エドガー父とは物心ついてから(ボクは生まれつきついてるがこの場合拒否できる様になってから)一度も一緒に入ったことがない。

 そんな父と2年半ぶりくらいに一緒に2人で入浴することにしたのは、昼間の出来事が大きく関係している。


 いざ一緒にお風呂に入るとなるとちょっと恥ずかしい、前世でも最後に父と風呂に入ったのは3歳のころまで、それから5歳までと、何回か姉と入った以外は一人で入浴していた。

 

 現在アイラは5歳ちょっとで女の子だ、こちらの世界で1桁の子が異性の親とお風呂に入るのは普通らしいけれど、何歳くらいまで普通なのだろうか。


(ちょっと恥ずかしくなってきた・・・・やめとこうかな?)


 こちらの世界のお風呂は生活魔法道具「結露のひしゃく」を使って水を湯桶に溜め、生活魔法道具「アイロンバー」を使い水を温めるものだ。

 魔法道具は魔法の力を行使し易くするため術式を封じ込めた魔石回路を組み込んだ道具で、魔力ゼロでさえないならば魔法の力を行使できる道具だ。

 特に生活魔法道具はよほど貧しい家でなければ用意してあるらしく、一般の人でも毎日気軽に湯浴みができる。

 

 タオルの代わりに使うのは、小型魔物ダイバーラットの毛皮を加工したもので通称バラトといわれるものであるが、本格的にタオルの代わりに使われているのでタオルと呼ばせてもらう。

 

 タオルにしっかり泡を立てて体を洗う、今でこそなれたものであるが幼い女の子の肌というのはとてもデリケートでやさしく洗わないと真っ赤になってしまうし、汚れを残すとかぶれる。

 特に敏感な部位だとそれが顕著で、いつも洗うのに気を使う、結局は指を使って洗う。


 父が体を洗っているボクをじっと見ている。

 その目には大きくなったなぁといった感慨は見えるのだけれど娘の裸を見ることに何の躊躇もない。

 一応目を反らすくらいしてほしいものだ。

 

 自分の体をひとしきり洗ったので次は父の背中を洗う、タオルをしっかり泡立てて父の背中をこする、当時9歳の神楽に15歳の暁が擦ってもらってももの足りなかったのだ今エドガー父さんはきっと物足りなさとむずがゆさを感じているはずだ。

 それでも我慢してもらおう、これは愛なのだから。

 

 前は大丈夫だと父に言われたボクはエドガー父さんに頭からお湯をかけられて湯船に入った。疲れとか汚れ以外の何かが体から溶け出していった気がする。


「アイラにしては珍しく、緩みきった表情だ。」

 湯船の中のボクの頭をなでながら父が言う。


「いろいろお話できたので、楽になったのかも」

「そうかお父さんも話せば楽になるのかな・・?」

 ボソリといって遠い目をする父エドガーに、胸がざわつく


「父さんも何か隠し事があるんですか?」 

 話して気が楽になるなら聞いてあげよう、不倫とか悪事だったら許さん、そんな男じゃないけどね。

 エドガー父さんは一瞬縋る様な視線をボクに向けて、すぐにちょっとかなしそうな表情に変わって。


「アイラ、お父さんの秘密は父さんの一存で人に話せることではないんだ。ハンナ、お母さんも知らない、ただアイラにひとつだけ覚えていてほしい。もしもいつか父さんに何かあって、生活に困ったとき、オズワルドという男の使いが来るかもしれない。そのときは悪いことにはならない筈だから、頼りにしていい。その名前だけは覚えていてほしい。」

 

「いやです」

「アイラ・・・」

「冗談でもそんなこと言わないでください。ボクにもアイリスにも、もちろんアニスにもまだまだ父さんが必要です。」

 言ってて涙が出る、前世で両親が死んでも涙ひとつこぼさなかったのに。

 アイラはまだ子どもなのだ。

(父さんがどうにかなるだなんて・・・・そんなの想像だってしたくない)



「そうだな、まだ5歳のアイラにもしもの話なんてするべきじゃなかったな、ただオズワルドの名前だけは覚えていてほしいんだ」

「それで父さんの気持ちが落ち着くなら覚えておきますから、もう言わないでください」


 まとわりつく不快感を断ち切る様に話を打ち切る。


 父には何か予感があったのだろうか?

 それとも何かの偶然だったのだろうか?

 この日からわずか半年ほど後、ボクはオズワルドの名前を思い出すことになるのだ。



早くアイラを幸せにしてあげたいです。がんばって書いてみます。

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