第103話:血戦
こんにちは、暁改めアイラです。
ユーリたちと二手に別れて、停戦交渉と治癒術担当とで行動していたボクたち、突然のアイリスの叫びに驚かされもしたけれど、なんとか落ち着き、直後の轟音にボクは幕舎を飛び出した。
その轟音は砦の逆側から響いたものだった。
「いったい何が!?」
幕舎から出たところで、砦が壁になり向こうのことは見えない。
「アイラ!ユーリが心配だから先に行って!!」
アイリスがそう叫んだので、ボクは・・・
「アイリス、一緒に行こう!結界魔法はできるでしょ!」
たった今アイリスを置いていかないと誓ったのだ、こんな距離位、と思わなくもないけど、アイリスは決して守られるばかりの娘ではないのだから、一緒に愛しいユーリの元へ向かおう。
「う、うん!」
アイリスに手を伸ばすとアイリスが力強くボクの手を握る、そうしてボクはアイリスを抱き寄せて飛翔した。
しまった、月の献身のままだ・・・まぁいいか、鎧衣の補正なしでも戦えるのだし。
砦の上まで来ると響いた轟音の正体がわかった。
「連中!!」
停戦交渉に応じて置いて交渉中に砲撃を始めたのか
こちらは司令たる義父が交渉に出ている。
現場は混乱するかもしれない
(あぁ・・・ここにはサリィがいるか)
「サリィ姉様!帝国側からの砲撃です、兵たちが混乱しない様に姉様が抑えてください!」
そういって下を見ると既にジル先輩が浮遊と防御の結晶を用意しているところだった。
「アイラちゃん!早くユーリくんの元へ行ってください!」
「ココは私と姫様とで動揺を抑えます、アイラちゃんたちはこの砲撃とユーリ様たちをお願いします。」
そういってサリィとジル先輩、それにメイド達も無言でうなづいてゴーサインを出してくれる。
「いこう、アイラ!」
「うん!」
ボクとアイリスはうなずきあって、盆地中央ルルカ湖の方向へ進路をとった。
盆地の中央ルルカ湖の少し手前の中立地帯の辺りに簡単に設営された幕舎で話しあいをしていたはずだけれど敵の砲撃はそこから離れた両翼からアンゼルスめがけて行われている。
一応クレアとの約束で余り急いで殺さないことになってるので先に警告からだね。
「右から制圧するね」
アイリスに伝えてから北側の森へ
取り敢えず物理的砲塔は破壊しよう。
この間と同じやり口(キャノンブレイクというブラフ)でいいよね?
砲兵隊のほぼ直上に着いたボクはアイリスを守るため最新の注意を払いつつ声を上げた。
「帝国兵に告げます!直ちに砲撃を止めてください!無能でないのなら頭上を取られたことの意味はわかるはずです。」
ボクは目下の砲兵隊32人に高圧的な態度で語りかける。
仮想バレルならともかく、物理砲塔の砲兵は直上にはほとんど抵抗できない、すんなり従えばよし、従わないなら・・・従わないなら?
ボクはアイリスの前でこの兵たちを殺すのか?
さっき怪我人たちを世話するのに心痛めていた優しいこの妹の前で、この姉が自ら殺戮をするというのか?
(ちょっと避けたいかな・・・)
「人が、女の子がういてるぞ?」
「王国の魔法使いか!?」
「対空ぅ!!」
一瞬の動揺の後すぐに火矢や石弾が飛んできた。
(ちょっと?わざわざ警告したのにいきなり撃ってきたよ!?)
でも対空戦闘自体に不慣れなのか精度は悪く至近弾はなし、燃費の良い月の献身なのがかえって幸いしたかも、オートシールドを最大にして再び声をかける。
「武装を解除してください、あなた方に勝ち目はありません!」
ボクは必死に呼び掛けるけれども・・・
「こちらを攻撃出きるならはじめにやってる、飛行魔法が出来るのはたいしたものだが経験がないから、同時にイロイロは出来ないやつらだ、われわれの策略に対応できず、取り敢えず寄越した斥候に違いない!ここで降るは、停戦に合意したふりという恥をさらしてまで敵に隙を作ったエヴィアン将軍に示しがつかぬぞぉ!!」
「おぉ!!」
余計なことを言う指揮官にノる砲兵たち、それに停戦の合意のふりが恥?
その言葉にもっと恥じるべき部分があるだろう。
それに残念だが・・・
せいぜい下級の通常攻性魔法ではボクのシールドすら抜けない、それでも稀に至近弾があればシールドが激しい音をたてる
「ひぅっ!?」
干渉を避けるため自分ではシールドを張っていないアイリスがそのたびに小さく可愛らしい悲鳴をあげる
「アイリス、大丈夫?怖くない?」
「うん!大丈夫!アイラと一緒なら大体のことは大丈夫だよ、でも私のことはもう気にしないでいいから、早くユーリのところに行こう?」
可愛らしいだけではなく賢い妹が時間浪費の愚を教えてくれた。
ボクたちの目的は制圧ではなく、ユーリの元に駆けつけることなのだから。
「わかった」
ボクはアイリスと見つめあうと、兵士たちに最後通告をする。
「これで最後です、今すぐ武装解除して陣に帰ってください、死なないですみます。」
そういってボクはアイリスをもっと強く抱き寄せて少し後退をする。
気にしなくていいといわれても、アイリスにはやっぱり直接見せたくはない。
「ハハハ腰ぬけのガキどもめ口では大きなことを言っても所詮はガキの浅知恵よ。さぁ!対岸のソミン隊に負けるな!間断無く砲を撃ち、やつらの砦を崩すのだ!」
あの場所にはセーラの様な若い士卒は居なかった
(全員がエヴィアン将軍配下の正規兵だと祈ろう・・・)
ボクは対岸に見える様に派手な攻撃を選択した。
まずは基点にする光弾、それから・・・
「~万能者たる神の王よ、その権の証を顕せ~サンダークラウン!」
光弾の周囲を電気の筒が覆う
「~炎輪よ、母たる地を焼き廻れ廻れ廻れ~ブレイジングホイール!」
炎の輪がその周囲をを高速で回転し、周囲に熱を放ち始める、さらにここに・・・火燕魔法で発生させた小さな炎をまばらに放り込む。
火魔法ならばブレイジングホイールに吸収されてしまうが、この世界の魔法ではない火燕魔法ならば吸収されず、サンダークラウンとの間の力場に届く。
ピシッピシッと皹の入る様な音を立ててその光と炎の輪は激しく発光する。
「熾天の光冠!」
さっきの兵たちにも見えるはずだけれど、コレで引いてくれたりはしないだろうか?
十分に熱量とエネルギーを持った、ただの浮遊体、この時点ではさしたる火力を持たない。
前回はコレを光弾で圧縮してから開放爆発させる「赤色巨星」を仮想バレルで打ち上げて
花火代わりに使ったけれど、アレは範囲が広いから地上に向かって撃つのは危険だろう。
もっと別のもの、先ほど敵の物理砲塔マーカーはつけたので誘導して撃って、周辺を小さく巻き込む様な魔法がいい。
よしアレでいこう。
ボクは回転させていたコロナの向きを敵側に変えた。
森の中からは今も魔力砲が構えられていて
あぁ、また撃ち始めたね。
とりあえず火魔法で魔力砲を反らす、魔砲は近くに落とす程度でいい、逆側にもちょっと威嚇効果狙おうかな。
脅し程度の位置にマーカーをつける、合計21箇所か、爆発半径は3mくらいでいいかな。
「光条」
威力を調整してから、エネルギーに方向性を持たせる。
目の前の森に17本、対岸の砲撃の発射してるポイント付近に3本、盆地の中の砲塔が見える拠点に1本、ただ破壊をもたらすだけの光の線が延びる。
準備に少し時間がかかる分、威力命中精度共に申し分ないね。
目の前の森の部隊はほぼ全滅、数名生きている様だけれど、ひどい火傷状態なのが感知できる、たぶん死んでしまうだろう。
対岸から飛んできた光線にびっくりしたのか、対岸の砲撃も止まった。
その後先ほどと同様、頭上から飛来し、ソミン隊を脅迫、おとなしく物理砲塔を手放したので、砲塔だけ焼き溶かしてルルカ湖の方へ飛んだ。
「ユーリ!みんな!」
勇んで交渉の場に飛び込んだものの、既に決着はついてしまっていた。
幕舎内にはおびただしい血痕、阿鼻叫喚の部屋の真ん中で「盾の剣」を床に突き立てるユーリ、今まで一度も見た事がないなぞの風魔法を纏って幕舎内に浮いているエッラ、味方側は全員無事、敵?はたぶんエヴィアンというやつだろう、偉そうな鎧を着たやつが一人無事で生き残っていて、他は全て腕や足を押さえて蹲っていた。
(そういえば勇者と槍王と魔剣使いが同行してるんだからそうそうピンチなんてないんだったや・・・。)
こうしてホーリーウッドと帝国の前線、グリム盆地における最期の戦闘行為が終わった。
殺戮の雨を降らせるメイド姿の金髪幼女・・・怖いですよね?
プロメテウス・コロナはもう何度か出す予定の魔法です。
明後日が休みなので、明日の夜からちょっと頑張って他者を進めようと思います。