第99話:展開
こんにちは、暁改めアイラです。
ユーリとクレアリグルの婚約式の式場内の予定を消化し、街中をねり歩きながら王国との講和、皇帝の崩御、ユーリとの婚姻、大陸全土を巻き込む平和への夢想を語り城まで戻るつもりが、式場を出た時点で囲まれていた。
内通したものがいるとは思いたくないけれど、ボクはクレアの希望に則り、無血での突破を目指した。
式場からは建物の死角になっている広場、30mくらいの距離だったので、ある程度正確に跳躍が出来た。
跳躍による視界の暗転が明けると、目の前に先ほど城で対面した好々爺が、驚愕した顔でまだ空に見えている収束中の火の玉を見上げていた。
背後にいるボクに気付いた様子はない、3歩歩けば内務卿を殺せる距離だけれど、ボクはそうはせずに近づいてすぐ後ろから声をかけた。
「ギエン内務卿閣下、どうも先ほどぶりです。」
そういうと、内務卿はビクリと振り返り、ボクの姿を認める
「まさか・・・・な、本当にそなたの様な子どもまで、潜入した王国兵だったか。」
ボクを見た内務卿は複雑な表情を浮かべた。
(本当に・・・?)
「先ほどとは装いも、まとう雰囲気もまるで違うのう、ソレがそなたの本当の姿かね?あぁやめておけ・・・そなたらではこのお嬢さんには槍を向けることすら出来ぬ。現にココに至るまで誰もその姿を見咎めなかったのだろう?」
周りに居た兵士たちが剣や槍を構えようとしたが、ギエンが先に止めた。
意外と目も反応もいい、もしかすると以前は武官だったのかもしれない。
「内務卿閣下、ボクはそもそもメイドでもまだ軍人でもありません、王国の軍学校に通う学生です。」
ボクの言葉にギエンは眉間に皺を寄せた。
「ただの・・・学生が、それもそなたの様な幼い少女が、敵国の真っ只中に切り込んできているというのか?」
ギエンは信じられんと首を振り、周囲の兵士たちも同様にうなずいた。
「グリム盆地で出会った、魔剣使いカナリアに、姫を救出して欲しいと頼まれました。姫は戦争を望んでいないから、助けて欲しいと・・・今の火の玉は見ましたね?あれもボクが放ったものです。」
ザワつく兵士たち、こんな子どもが?とかこんなふざけた格好をしているのに?
なんて声が聞こえる。
彼らの言いたいことも分かる、ボクだって目の前で絶望的な力の差を見せ付けられて、その相手がおよそ戦闘用とは思えない薄い服を着ているなら当然だろう。
ボクはクレアの式でエストラスガールを務めた。
エストラスガールは、前世で言うリングガールの様に結婚式のお手伝いをする子どものことだ。
ただ運ぶものは指輪だけではなく「受胎」「発情」を運ぶとされている。
そのいわれのためエストラスガールは3~13歳の間くらいの、新郎新婦に縁のあるもので特に見目麗しく新郎新婦が早く子どもを作りたいと思うような、理想的な子どもが選ばれる。
今回は突然日付が決まった秘密の式だったので、そういった人物を呼びつける暇もなく適した人も衣装も用意されて居なかったので、偏向機でイメージに近い鎧衣を選びボクが役目を果たした。
今回選んだ鎧衣はボクも知っている人物の鎧衣であったためちょっと気恥ずかしかった。
システムの開発元の一つである、中家家の双子の姉の方、中家夢葉様が使っていた鎧衣「白花の妖精」これは空間制圧能力に優れた鎧衣で、プリセットした下級の魔法を背面にある2対の翼から無詠唱無反動で連続発射できる形態、自分自身は近接戦闘するもよし、詠唱の必要な魔法を撃つもよし、逃げ回るもよしの便利な鎧衣、惜しむらくは翼が飛行用でないため、飛行魔法は別個に自分で使わねばならないことか。
見た目は体部分が純白のシフォン地のビスチェ(すごく透ける)ドレスで膝丈のスカート部分は多段の花柄レースが重なっている。肩から胸元までが大きく開いているのでソレをやはりレースの花刺繍のショールで隠す様になっている、本来であればビスチェの胸部分に薄紅色のカップを下につけていて、ソレがレースの間からうっすらと透けて見える様な大人デザインだそうだけれど。
偏向機の自動判定で、カップ不要とされたらしくボクの着ているそれには反映されていない
背中には前述の2対4枚の天使の羽、頭にはデイジーを模した花冠、足元は全体がレースの低いヒールのブーツになっていて、外側に長いリボンがついていて可愛い。
腰にはシフォンの大きなリボンがついていて長い尾が伸びている。
あつらえた様に結婚式向きな色合いだ、朝トリエラの手で整えられたおさげのツインテールも変身した際に三つ編みを後頭部で巻きつけた様な髪型になっている。
(まぁ戦闘しようという格好ではないよね。)
「それで、どうしますか?ボクたちは出来れば戦争はもう終わりにしたいです、グリム盆地でも既に多くの死傷者がでていますし、ツェラーやフェムスでも同様でしょう。クレアリグル姫が無血での停戦をと願っていますし、ボクも人殺ししたいわけではないので、このまま和平交渉をさせてもらえるとうれしいのですけれど、ソレが成らないなら、ボクたちは姫を連れて城と軍施設と城壁を破壊して前線に向かいます。前線に姫を連れて行けば、末端の将兵たちは戦いを止めるでしょうから。」
末端の将兵がクレアの顔を知らなかったらどうしようもないけど砦の大将くらいならしってるよね?
「うぉぉぉぉ!」
後ろから兵士が一人槍を構えて突きかかって来たので光輝剣を使って、振り向き様に暁光で槍を切り裂き、そのまま兵士の首近くに暁光を添える。
「ヒッ!?」
兵士は槍が枯れ枝の様にたやすく寸断されたことに怯えて身動きがとれなくなった。
「次はないから、お話の邪魔をしないでおとなしくしててね。」
そういって軽く胸の辺りを手のひらで押すと兵士は3歩後ろに下がった。
それを見ていたほかの兵士たちも、心なしか後ずさった。
ココ以外の兵士たちは、空を灼いた火の玉に怯えたのか、突然内務卿からの指示が飛んでこなくなったためか少しざわついている。
やや間があってから、目を瞑ったままギエンがつぶやく・・・
「姫様、王国兵の強さ、このギエン侮っておりました。姫様の仰る通り。今代の王国ならば姫様の夢、理想、確かに追い求めることも出来ましょうぞ・・・・」
それから顔をあげて拡声器を使い。
「ギエンの名において全兵に告げる、此度の賊徒侵入と姫殿下誘拐は誤報であった、彼の者たちは王国よりの使者であり、姫殿下の輿入れ先でもある。総員イルミナス通り沿いに整列し、姫の晴れ姿をその目に焼き付けるが良い!」
ちょっと、物分りが良すぎないだろうか?
姫様の仰るとおりって辺り、今朝の朝食の時点で何らかの情報をクレアがギエンに漏らしていた可能性がある?
(というかひょっとして内通者って姫様?)
そう考えればこの謎の展開の早さも納得がいくけれど・・・・。
兵士たちの動きは早かった。
式場の正面、城に向かう道の横道や広場に散っていた兵たちは正面の道沿いに城の方へ移動しだし、式場を囲う様に配置されていた兵たちは今ボクがいる辺りの道に向かって並びだした。
どこに混ざっていたのか普通の街人たちもたくさん道沿いに並びだした。
「ほれ、アイラお譲ちゃんもはよぅ姫様の下に戻らんか。」
一体どこからどこまでのことが本当で、どこまでの事が嘘なのか・・・分からなくなってきた。
でもとにかくもうギエンはこちらに敵意はなくなっている様なので、ボクは再び跳躍して式場のほうへ戻った。
式場の前に戻ると、ユーリとアイリスが駆け寄ってくる。
「お帰りアイラ、良くわからないけれどとりあえず終わりでいいのかな?」
「お帰りアイラ!」
そしてクレアは少し申し訳なさそうな顔を浮かべているものの、相変わらずただの夢想がちな姫ではない笑みを浮かべて。
「騙す様なまねをして済みませんでした。とにかく一旦城に戻りましょう、そこでお話します。」
ボクたちはクレアとユーリを先頭に全員で堂々と城への道を歩いたが、複雑な表情をしつつもクレアにおめでとうと声援を送ってくれている帝国兵たちはたぶんクレアの事を好きなんだね。
帝城に入ると、クレアは迷うことなく歩いていく。
クレアが入った部屋はどうやら謁見の間のようだ。
クレアはまっすぐ玉座のほうへ進むとユーリに玉座を勧めた。
居合わせた兵たちがざわつく。
見知らぬものを長らく座るものがなかった玉座に座らせようとしているのだから
「クレアさすがにここには座れないよ」
ユーリはすぐさま断るが
「ユークリッド様、いいえ、貴方様が、この戦争を終結させるまでの間帝国を指導してくださいませ。」
クレアがそういってもう一度玉座にユーリを導こうとする。
すると今ボクたちが入ってきたのと同じ扉から、朝姫と話していたギエンを含む3人ともう一人見知らぬ初老の男性がやってきた。
「姫様!良い方と婚姻成った様ですね!」
その初老の男は、クレアに対してうれしそうに話しかける。
(誰だろうか?)
「えぇモール、貴方の策どおりです。」
なんと彼が料理長モールらしい、
(謁見の間に内務卿や大臣?と一緒に入ってくる様な仲なのか・・・。)
というか彼が帝国の敗北にかけてたってことだよね?
「さて、ユークリッド様が玉座についてくだされば、今回の件のタネ明かしをしましょう、あぁそうだ、誰かイスを持ってきて頂戴、長い話になるしここに来たのはユークリッド様を玉座に座らせるためだけなので、座って話をしたいわ。」
そういってクレアが命じると人数分のイスが運び込まれた。
その後クレアは人払いを命じ、この場に残ったのは・・・。
ボクたちエイラを除いたホーリーウッド第二迎撃部隊と神楽、クレア、ギエン内務卿、モール料理長、ソムド外務卿、カモフ法務卿の13名。
そしてユーリが諦めて玉座に座ると、クレアは妃用の玉座に座り話を始めた。
少し長くなりそうだ。
「我々帝国は長く王国との休戦を続け、交易や話し合いも徐々に進み和平への道を進みつつありました。王国のジークハルト陛下も我々と広い範囲で国境線を接しているホーリーウッド侯爵エドワード閣下も善良な方で、父同様和平への望みを持ち、3者一丸となって講和の道を探っておりました。ところが、今から6年前のことです、結果から言えば現ゲイズシィ将軍の父親に当たる、当時のゲイルズィ将軍の私兵隊が、国境線を間違えホーリーウッド領に侵入し村を一つ滅ぼす事件がありました。」
(!?)
「この一件は当時我々には賊徒の仕業だと報告されましたが、外交上重大な禍根となりホーリーウッド家との関係が急激に冷え込みました。が、当時ゲイルズィ将軍からの報告は一切なく、情報も隠蔽されてしまい、我々も陛下も情報を把握しきれずに対応が後手に後手に回りました。その村との国境に面していたのがゲイルズィ将軍の領地であったため一先ず賊徒を野放しにした責任として、将軍は失脚しましたが、隠居して息子に代替わりするにとどまりました。」
ソムド外務卿が言葉を繋ぐ。
でも正直ボクはそれどころではない、ボクはその事件ををよく知っているからだ。
そしてこの場にいる、アイリスとエッラも・・・。
「ソレから3年ほどたって内容は明らかになりました。ここにいるモール料理長は当時の帝国12将に数えられるほどの武官でしたが、彼はその事件の頃ゲイルズィ将軍の領地で、兵の訓練をしていたそうなのです、丁度その事件の頃に1中隊が森で全滅したという話を聞いていました。その部隊は将軍の領地内で、不当に駐留する流浪民やソレに協力した村からの私掠を許可された・・・」
「山賊部隊ですね?」
クレアの発言中だというのに思わず、声を挟んでしまった。
クレアは少し驚いた顔をした。
「驚きました、アイラさんは強いだけではなく世情にも詳しいのですね。」
そんなことはない、ボクはこの世界の常識的な部分にはどちらかというと疎い方だ。
「クレア姫は、その滅ぼされた村の名前を御存知ですか?」
思わず冷たい声が出る。
アイリスやエッラには思い出させたくなかった。
「えぇ、確かウェリントンと・・・ん・・・?え・・・・?アイラさんまさか・・・。」
「その滅ぼされた村はボクたち姉妹とエッラの出身地です。」
事情を知らないマガレ先輩と帝国のおじさんおじいさん4名があからさまにうろたえる。
こんなところにその村の生き残りが3人も居て、しかも帝都を滅ぼせる力を持っているのだ。
(さぞや怖かろう・・・でもボクは平和主義だから、そんなことはしないよ?)
「エドワード閣下がお怒りになるはずですね、嫡孫の婚約者の実家を滅ぼしたとなれば・・・。いいえソレよりも申し訳ありませんでした!」
まぁそれ以前に被害者の中にエドワード様の異母弟が混ざってるんだけどね。
「別にクレア姫のせいではないのでしょう?故郷のこととなりつい口を挟んでしまいましたが、話を続けてください」
場の空気がボクのせいで険悪になってしまった気がするけれど、話が進まないのでもう一度続きを促す。
クレアはやや俯きながら続きを話し始めた。
ただボクがその村出身だと知った後の神楽の表情が、すごく辛そうというか、泣き出しそうになっているのが少し気になった。
クレアがギエンたちとの企みの内容を話そうとしたところ、アイラが口を挟んでしまい、話が途切れてしまいました、
仕事疲れなのかパソコンに向かうと5分くらいで眠くなってしまい一日ほとんど寝てすごしてしまいました・・・・。