第3話:子どもの時間
夕べ寝ながら考えましたが、アイラが13歳になったころからがお話が動く様になる予定です。
おはようございます、暁改めアイラです。
アニスが生まれてきて、毎日楽しい。
朝起きるとアイリスのことは寝かせたままでアニスの様子を見に行くのが日課になった。
アイリスはもう自分である程度身支度できるからね
アニスは日によって朝から起きてたり寝てたりするけれど、起きていたらボーナスタイム、朝からかわいい妹とのお遊び。
眠っていたら残念ながらちょっと顔を見てから、アイリスの世話をしに戻る。
アニスが生まれてから母がしばらく仕事にでないので、ボクとアイリスはたまに、家で過ごす日がある。
実際には僕たちが生まれてきた時みたいに、赤ちゃんだけ家で面倒をみてほかの子は教会に行かせるつもりだった様だが、珍しく次女がゴネ、三女も便乗してゴネ、長女が擁護したので、1週間のうちボクとアイリスは一日ずつ、家ですごす様になった。
わがまま言ってごめんね?
妹と居たかったんだ。
まぁ、ボクは手間があまりかからないので、親も安心してみていられるらしいので、プラマイゼロくらいに考えてもらおう。
アイリスの分は・・・知らない。
そして今日はボクが家で過ごす日だ。
「あーアニスかわいいよ、アニスー」
アニスが頭の上で手を交差させながらグッパグッパしている。
その手に指を当てるとギュッと掴んでくる。
やわやわな手が一生懸命にボクの指を握り締める。
(癒される・・・。)
もう片方の手をアニスの口もとにやると、アニスはパクリとボクの指を咥えて、舌で指先を押した。
アイリスもかわいいのだけど、アイリスが赤ちゃんのときはボクも赤ちゃんだったからこんな風に自由に遊べなかったものね。
今ハンナ母さんはボクのための食事を作ってくれている、その間ボクはアニスの面倒を見ることができる。3歳だけど+15歳だからね。
今日は教会の日、アイリスはトーレスと、ボクはサークラと手を繋いで教会へ向かう、とはいっても狭い村なので、アイリスのだらだら歩きでも3分ほどで教会についてしまう。
教会についてちょっとお祈りしてから右奥のドアの向こうの部屋に入る。
ここに今のボクにとっての日常があるのだ。
「おはよートーレス!」
ボクたちが部屋に入るなり、アホの子かわいいオルセーが駆け寄ってくる。
7歳のオルセーはちょっとわかりやすすぎるくらいトーレスのことが好きだ。
というよりも今教会にいる女の子の中でキスカ以外はたぶんみんなトーレスのことが好きだ。
10歳になったトーレスは、ますますイケメン化が進みエドガーお父さんから剣術と算術を習い、母からは文字と作法を仕込まれている。
地方の村長とはいえ長男だしね、跡継ぎ教育だね。
それに対して他の男の子たちはちょっと小粒すぎる。
15歳のサルボウは性格も頭もいいが、すでにキスカのことが好き過ぎて、他の女の子のことが見えていないため論外。
9歳のカールは体格はなかなか立派なのだけれど、ケンカ早く女の子を叩くこともあるのでやや嫌われ気味、常日頃からサークラに、「俺の嫁にしてやる」としつこく言い寄っていて、大体玉砕して終わっている。そもそもスカートめくりとか突然正面から胸を触っていって怒られてるのに「嫁にしてやる」とか嫌われるだけだよね
8歳のピピンはカールほどではないけれど、むっつりタイプで同い年のケイトが汗をかいて服を着替えている時なんかにこっそり覗いているのを確認している
というか8歳で異性の裸が気になるものなのかな?
ボクの前世のその年頃の時はそんなの興味なかったし、この世界の性教育は少し早いのかもしれない、文化レベルが中世くらいっぽいし。
4人しか男の子がいない教会の中ではそれは、ハイスペックなトーレスが人気になるのも頷ける
そんな人気のトーレスをめぐってキスカとサークラ以下ウェリントン家の女以外はみんな、水面下で火花を散らしている。
ただオルセーのあまりにも幼い好意の示し方に対しては牽制するわけにもいかず、みんな傍観に徹している。
そして兄トーレスはそんなオルセーのことを結構好意的に想っていて、いつも頭をなでたり、膝の上に乗せて遊んだりしている。
今のトーレスはオルセーのことをアイリスと同じ様な妹扱いしているけれど、ボクは将来オルセーのことを姉さんと呼ばないといけなくなる気がしているんだけど・・・。
さて今日も楽しい楽しいお勉強とお遊戯だ。
ウェリントン村での生活は基本的に変化に乏しく代わり映えのない毎日をただただのんびりと過ごしているけれど、ボクが4歳のとき事件がひとつあった。
これまでずっとトーティスを一筋に想ってきたキスカが唐突にサルボウと婚約した。
サルボウはこれまでもずっとキスカ一筋であったので、とてもうれしそうに見えた。
キスカが何でトーティスを諦めたのか定かではなかったけれども、みんな心のどこかであぁやっぱりねって感じたと思う。
サルボウとキスカはお似合いだからね。
キスカは教会の保育スペースから出る直前に、サルボウの子を身籠った。
保育スペースで生活しているといってもほとんど大人扱いで、下の子たちのお世話をするために残っている、というのが正しくほぼほぼ勉強することは終わっているので農作業の手伝いをしている日も多いしね。
この世界ではまぁよくあることだそうで、みんなで祝福した。
それで妊娠を機にまだ教会に通ってるうちから結婚して新居暮らしが始まっていたのだけれど、ボクが5歳になる少し前に流産してしまった。
キスカはすごく消沈して泣き沈んでしまい、サルボウとの関係も少し悪くなってしまったそうで、サルボウは毎日キスカを慰め労わる日々が続いている、元は10年の片思いをしていただけあって、サルボウはキスカのためあの手この手で元気付けようとしていて、見ているほうは少しハラハラさせられるがそのうちにキスカも元気になるだろうと、信じることができる。
先ごろ5歳になった
ボクは年相応の子ども(ちょっとおませさん)目指して毎日を楽しく過ごしている。
正直なところ、神楽がどうなったかとか、天音様や姉や乾様がボクを探しているのかもしれないなど気がかりは多い。
それでも今の家族に対する後ろめたさがあるので、実際に何かに出会うまでは極力考えない様にしようと決めた。
アニスも1歳になる前くらいから生活の場を教会の敷地に移したけれど、それからさらに1年と少したってもうすぐ2歳になる。
さて昨年はキスカの赤ちゃんが流れてしまい悲しい年だったが今年はなんと教会に新しい仲間が加わっている。
モーラとノラの弟ソラが生後3ヶ月から教会に顔を出す様になった、他の家と比べて教会に通わせるのが早いのはシルバーレイク家の仕事のひとつである船渡しがお父さん一人では厳しいからだ。
アニスとはまた違った愛らしさを見せるソラは女子たちから大人気でアニスともども室内に設けられた赤ちゃんフェンス内でゴロゴロさせられている。
このソラは普段非常に無愛想な赤ちゃんでそんなに笑うわけでもないのだけれど
アニスが今まで自分が受けた愛をそのままソラにすべて渡すかの様に寵愛を傾けていて赤ちゃんフェンスの中ではいつもソラにべったりのアニスをみることができる。
それがソラにもわかっているのか、他の人といると無愛想なことが多いソラが、アニスと並んでいるときはよく笑う。
いつかボクのかわいいアニスを連れ去る憎い男になるかも知れないソラだけれどもそのかわいさは底知れない。
いつも無愛想なのに時折狙い澄ませたかの様なタイミングで見せる赤ちゃんらしい微笑は、ボクの父性なのか母性なのかよくわからない部分を直撃しキュンキュンさせる。
アニスもそうだったけど、赤ちゃんってのは周りの人間にかわいいと思わせるプロだね、ボクはもうメロメロの骨抜きだ、おひねりはどこに挟めばいいのかな?
しかしながらソラが一体どのような男になるのか今はまったくわからないから、いつかアニスを嫁によこせといわれても応じるかは判らないからね?まだ弟の様なものだなんて思ってやらない。
なにせこのシルバーレイクの姉二人はぜんぜん似てないからね、本当に姉弟なの?っていいたくなるくらい性格も容姿も異なるのだ。
モーラはカールに負けず劣らずのやんちゃで、いつも男の子たちと外を駆け回り、川にいっては魚を獲り、森に入ってはウサギを獲り毎日泥だらけになって帰ってくる。
赤茶の短い髪を頭の両側にちょんと結び豪快に笑う11歳の女の子
それに対してノラはモーラの4つ下のもうすぐ7歳で髪の色はモーラとほぼ同じ赤茶だけれど少し伸ばしていて後ろ側で二つ結びにしている。顔に少しソバカスがあるのと、前髪がすぐはねるのを気にしている。
目立つところのない真面目な女の子で自己主張もあまりないが、いつもアニスやソラの面倒を見てくれている世話好きでもある。
ついでにボクとアイリスがまだ2歳くらいのときにはよく一緒にお昼寝をしていた仲で、気心も知れている。
ある日のこと恒例となっている庭での剣の稽古をする12歳のトーレスと33歳の父エドガーとを見ていたボクは、今まで口を出したこともないのに、ついつい口を出してしまった。
いや口に出したつもりもなかったのだけれどなんとなく見ていたときにトーレスの左足の踏み込みや間合いを取るときの裁き方が悪いことを呟いてしまったらしい。
今までも懐かしくて剣の練習をじっと見てきたのだが、これまでの見学で父の動きの癖も兄の未熟なところも大体理解しているつもりだ。
そんなボクの呟きを聞き取った父が、何を思ったのかボクに木剣を持たせて、稽古をつけてくれるらしい。
正直、父の動きに見習うべきところはあまりない、暁時代に身に着けた体捌きや兵法への見識は、今の父よりも上で。
この体はまだ5歳女児のそれのため体力的には圧倒的に不利であるけれど、暁の身に着けていた体術や剣術の型は生きているのだ。
ただ、暁が持っていた能力である、跳躍や光弾といった特殊能力は使うことができなかったが・・・
それでも磨きぬかれた武技と、北条院流の奥義の一つ「加速」を使うことができる以上父のレベルの武技では何の足しにもならない。
それでも5歳児が最初から父を圧倒する動きをするのもおかしいと考えて、ボクは上手にできないけれど父から教えられたら1発でできる様になる天才肌の子どもとして目の前で成長して見せた。
父は大変に喜んだ。
「すごい才能だなアイラは!これならウェリントンから嫁に出すよりも、軍官学校に送りだした方が嫁入りが早そうだ」
と謎のほめ方をした。
そうかボクもいつかは嫁入りしないといけないんだな・・・と少し憂鬱になったのは内緒だけれど。
「すごいねアイラ、ボクもアイラの半分でも飲み込みが良ければなぁ」
とトーレスがボクを羨んだ。
村の子どもたちの中で一番、トーティス以上に剣の熟練が進んでいるトーレスでも剣術の腕はその努力によるものである。
剣術の型を一人で朝も昼も繰り返すことでモノにしている彼であるが、力量の近いものが居ないため、対人での動きがどうしても覚束ないのだ。
「アイラは教えれば教えるだけ強くなるな・・・これなら1ヶ月もあれば、トーレスに追いついてしまうかも知れない」
と父が感嘆する。
(それトーレスの目の前で言ったらだめなんじゃないの?)
そうおもってトーレスのほうを見るとさほど気にしてない様子で素振りを続けながら。
「本当にね、アイラは兄の欲目を別にしても、すごくかわいいし、すでに読み書きも算術もサークラ姉さんに匹敵している、礼儀正しいお利口さんだし、妹たちの面倒も良く見てくれる、10歳くらいから手伝わせる様な細かい作業もできるし、体力も5歳にしてはあるし、魔力も結構あるらしいし、今日は剣術の才能もあることがわかった・・・・本当に何にでもなれそうだね。」
と絶賛してくれた。
読み書きできるのは、赤ちゃんのときから理性があったから。
算術ができるのは前世の知識があるから。
礼儀正しいのも、妹の世話が焼けるのも、剣術に馴染み易いのも前世があるからだ・・・そこまでほめられても面映いばかりであるが生まれ変わりを才能と誇ってよいのだろうか?
でも一つだけ判りやすくアイラをほめたものがあったので、そこに食いついておこう。
「ボクはかわいいですか?」
近くにいる父の方にたずねると父はすぐさま反応して
「おぉかわいいとも!もし父さんがハンナと出会ってなくって、アイラと先に出会っていたら間違いなく結婚を申し込んでいたよ」
と判りやすく(親バカ的に)ほめてくれたのでうれしそうに笑いながら。
「お父さんのお嫁さんはお母さんだけです。ボクはお父さんとお母さんと一緒がいいです。」
と答えておいた。
すると間髪いれずにトーレスも
「僕もアイラが妹じゃなかったら間違いなく、結婚を申し込んでるよ」
なんて冗談みたいなヨイショをしてくるのでちょっと意地悪いいたくなった
「ボク兄さんの赤ちゃんなら産んであげてもいいですよ?」
と、からかってやった。
実際村の男の子の中では一番マシだしね、兄妹でさえなければ。
「僕が、20になっても結婚できなかったら、お願いするかもね?」
と苦笑いしながら答えたトーレスの顔は赤かった。
狼狽しなかったのはさすが兄さんだ。
お父さんもちょっとは見習いなよね、口がパクパクしてるよ?
男女問わず幼い子が膝の上に乗ってこちらを振り返ってみるのが可愛いと思います。