ヤンデレな弟ですみません
姉さんは祖父同士の口約束で藤咲一路と結婚することになっている。
なんで爺さんはそんな約束をしたんだ?!
約束をした爺さんに腹が立った。
むしゃくしゃした。
姉が婚約していることを知った俺は暴れて部屋中のものを壊して母さんに怒られた。
そんな俺とは違って、姉さんは藤咲一路の姿が見えると飛んでいく。藤咲一路が行くと聞けば自分も参加し、藤咲一路がやっていると聞けば自分もやる。それが将来の妻の心得だからと。
姉さんは父さんに甘やかされまくって、我が家のお姫様だ。我儘にならなかったのは母さんが窘めるおかげで、うちのお姫様は実害のない可愛いお姫様だ。
ただ、愛が重い。
母さんは父さんが姉さんを甘やかすことで口煩くなるが、その理由は姉さんを窘めるのが自分になって姉さんに嫌われたらどうしてくれると言うものだ。
姉さんは父さんに甘やかされまくっていたが、父さんが母さんを蔑ろにしていることも、母さんが姉さんを疎んでいることもない。
そして、父さんに甘やかされている姉さんは俺を甘やかす。
姉さんが俺を甘やかしている間は、用なしの父さんは母さんの傍にいるしかない。
姉さんを甘やかす父さんだが、父さんは母さんとも仲が良い。
用なしで母さんと一緒にいるしかないのに、父さんは母さんと一緒にいることも楽しそうだ。
つまり、父さんは姉さんを甘やかしていても、姉さんから用なし扱いされて母さんのところに追い払われてもどちらでも構わないということだ。
何なんだ。
それなら母さんとこに行っとけよ!
そんなこんなで我が家は至って平和で、シスコンだと自覚している俺には藤咲一路のところに行く姉さんを藤咲一路から引き離す仕事がある。
家族以外の前では完璧なお嬢様として通っている姉さんも、俺や父さんや母さんの前では可愛いただのお姫様でしかない。甘えたことも言うし、すぐに泣く可愛いお姫様。
父さんが姉さんを甘やかしまくって良かったことは、姉さんが自分がブラコンと呼ばれてもおかしくないことにも気付かない言動をしてしまうことだ。
家族以外には完璧なお嬢様である姉さんが弟をデロデロに甘やかしまくっているブラコンだと誰が気付くだろう?
父さんも母さんもブラコンな言動をする姉さんを特に注意しないので、家では俺は甘やかしてくれる姉さんに好きなだけ甘えることができる。
膝枕も膝枕したまま耳かきもしてくれるんだぞ。
姉さんに興味のない藤咲なんかしてもらえないものでも、俺が強請ればしてくれるんだぞ。ざまあ。
とは言っても、学校だとうるさいからな!
姉弟でも同級生からからかわれるのは勘弁してほしい。
そんなある日、藤咲一路が女を連れまわすようになった。
姉さんは勿論、飛んで行って抗議した。
姉さんが藤咲一路のものであるように、藤咲一路は姉さんのものである。それが祖父たちの勝手な約束だ。
当たり前のことなのに、藤咲一路にとってはそうではないらしい。
なんのかんの言って、女を連れ歩くことを止めない。
本人が思っている以上にのめりこんでいることも気付かずに・・・。
そして、女は俺にも接触してくる。
ああ、煩わしい。
お前は藤咲一路だけで十分だろ?
それだけにしておけよ。
何故、藤咲一路がこんな女に入れあげているのかわからない。
まあ、いい。この女のおかげで藤咲一路を排除できるなら。
姉さんには俺たちがいればそれでいい。
藤咲一路が馬鹿な真似をしでかして、姉さんとの婚約が流れた。
藤咲の家はまだ学生のやることだからと放置するようだが、父さんと母さんは我慢ができなかったようだ。
俺は知らされる。
父さんと母さんは姉さんの両親ではないことを。
姉さんの両親は姉さんが生まれて数か月後に死んだことを。
彼らは父さんの弟夫婦で、叔父は愛する女性を捨てて、父さんの愛する女性を誑かして手に入れた。
父さんは慢心から彼女ではなく自分の役割を取ってしまった。
齎された結果は我が子の成長を見ることのできなかった夫婦と愛していた相手を亡くした男女と親のいない赤ん坊。
叔父を愛していた女性は姉さんを見るのも嫌だった。
愛していた女性の娘を手元に置いておきたかった父さんは、姉さんに最高の母親を与える為に母さんと結婚したということを。
俺が抱いている思いが弟のものではなくなっていることも、それが罪だと思っていたことも、うちの可愛いお姫様を悲しませる相手になどには任せられないと明かされた秘密で障害はなくなった。
元々言う気のなかった想いだが、それを告げることを許された。愛する麗を手放したくない俺がする方法は一つだろ?
俺たち家族はこれからも家族でいられる。