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一歩(彼の場合)
久しぶりに誰かと家でご飯を食べている。
別に人とご飯を食べないわけではないが家に人がいるというのが久しいのだ。
彼女が何度か僕の顔を見ている。
けれど、何かを尋ねる訳ではない。
「これから、どうしようか?」
僕が尋ねる。
彼女は何を言っているのかわからないといったような顔をする。
「私たちは死に向かう。ただ、それだけではないのですか?」
「そうだね。でも、死ぬ前にしたいことってないの?自由に時間を使ってね。」
「自由に・・・。」
彼女がつぶやく。
「そう。自由に。僕はあるよ。」
「私もあるかもしれないです。でも、時間がかかるから。」
「いいよ。最終目的地が死なんだから。」
僕がそういえば彼女は微笑んだ。
「私は親に干渉されずにK大学を受けたい。通いたいとかそういうことではなく、合否を出したいです。」
「そう。僕は君を横で応援しよう。時間なんて気にしなくていいから。」
彼女と目が合う。
「二人で死まで歩いていこう。」
僕は彼女の目をしっかり見て言った。