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8:充電

真っ黒な【黒刃金】がシールドガンを撃ち放っている。不快な金属音を無視し佑奈は事前に通達されている作戦通りに建物から建物を移動しつつ、定められた場所に設置してある爆弾の設定を遠隔操作一括で設定して離れる。

≪佑奈、ルート変更だ。B4棟からC6棟に移動≫

「了解」

新たに入った指示を受け、佑奈は手すりに括り付けてあるワイヤーで一気に滑り降り、下に止めていたバイクに乗って目当てのC6棟に向かう。その途中で視線を上げれば、【黒刃金】がバックユニットのメインブースタを吹かせて建物の間をすり抜けるように突撃して行くのが見えた。恐らく志和の指示で右往左往しているんだろうが、それでもあの機動性はかなりの物だった。一度乗せられたから分かるが、あれに乗ってかかるGはかなりきつい。それをああも勢いを付けて動き回ってあの軟弱男は大丈夫なんだろうか。いや、何を考えているんだ私は。今は作戦中なんだから他人など気にしてはいられるはずがない。

バイクのアクセルを吹かし、速度を上げていく。C6棟に滑り込むように停車し、最上階の階段の手すりにワイヤーガンを発射し腰のハーネスにワイヤーガンを装着する。ワイヤーガンのボタンを押せば自動的に巻き上げられて最上階まで一瞬でたどりつく。

≪着いたみたいだね。対大型用バズーカは持ってるね?≫

「ああ」

≪よし、爆破装置の操作を終わらせたらそこで待機だ。バズーカを西向きで発射可能にしておいてくれ≫

まるで見えているかのようにこっちの動きを正確に把握している志和の指示をこなし、バズーカを西向きに設置して待機する。

≪B5棟は今誰が居る?≫

≪俺っす。伊藤っす!≫

≪分かった。君は北向きで待機だ。C1棟は?≫

≪俺が向かってる!≫

≪急いでくれ。出来れば三分以内に作業を終わらせる目標で頼む≫

次々と聞こえる騒がしい通信。どうやらここの広場に追い込んで集中砲火する予定らしい。

バズーカの発射動作の確認と安全装置の解除。対ショック装備でバズーカを固定し、あとは敵が射程内に入ってくるのを待つだけ。現在の戦況を確認するため、佑奈はリストフォンのアプリを起動する。事前に上空を飛ばしておいたこちら側の偵察機から送られてくる上空からの戦況を受信し、ノイズ交じりの映像が映し出される。

三機の【甲士】に囲まれた【黒刃金】。しかしどちらも目立った損傷はない。シールドガンを構えつつ【黒刃金】が右手のグレネードキャノンを構えて一番近い位置の【甲士】にグレネードをぶち込んだ。吹き飛んだ【甲士】が胸部装甲を激しく損傷しながら地面に転がっていくのを見て、かすかに佑奈の顔がほころんだ。しかし、一機抜けた穴を埋めようとでもいうのかさらに三機の【甲士】が近づいていた。おまけに倒れた一機もまだ完全に停止していない。

≪誰かあれのコックピットの中に入って止めてくれ!無駄弾打ちたくない!≫

アイツの声が聞こえるが、一体誰が行くんだろう。私があの場に居ればやったかもしれないけど、ここに居るのはほとんどがアイツを疑ってる面子だ。行けるとすれば、多分一人だけだ。

≪分かった!俺が行くからあいつらの注意逸らしてくれ!≫

≪やってみる!≫

案の定聞こえた斉人の声。確かに斉人くらいしかアイツに手を貸す奴はいないだろう。小型バイクに乗った斉人らしき人影が倒れた【甲士】のコックピットに迫っていく。【黒刃金】がバックで残りの【甲士】を誘導していった。コックピットのハッチを爆破して突入していく斉人。やがて、立ち上がろうとしていた【甲士】は動きを止めた。

≪そろそろだ。一真君、C棟区画に移動してくれ≫

≪分かった。だけど全部連れてくるかもしれねえぞ≫

≪大丈夫だ。赤土、存分に暴れてくれていいよ≫

≪うぉっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!≫

騒々しい声に思わずリストフォンを外したくなる。だが戦力としては十分。子分引き連れて一斉にバズーカを放ち、二機の【甲士】が爆炎に包まれ無人のA3棟に叩き付けられ、一足先に遠隔操作で爆破されていき、残りの三機を【黒刃金】がシールドガンで牽制しつつ誘導していく。そろそろ出番のようだ。

リストフォンから視線を外し、肉眼で迫る四機の大型二脚を確認してバズーカの引き金に指をかける。【黒刃金】が足元のパイルバンカーで急制動をかけて停止しグレネードキャノンを撃った。狙いが定まってなかったのか直撃はしなかったが、敵の動きを止めることには成功したようだ。

≪今だ。C6、B3、C4の順で撃て!≫

言われた通り一番最初にバズーカを打つ。真っ先に真ん中の一機の編み笠の中が爆発した。反応したのか左右の二機か私の方を向くがまた順番に編み笠の中を爆発させて倒れていき、中央に纏まっていった。

≪おし!とどめ!≫

【黒刃金】がグレネードキャノンで三体まとめて頭部を吹き飛ばした。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



やっと三機の【甲士】の動きが止まった。だけど、すでにディスプレイには残りエネルギーが半分以下の46%まで消耗していると表示されていた。戦闘開始からわずか三十分で28%も消耗していたら、あと一時間半の作戦時間を乗り切るなんて出来ない。と言うか燃費悪すぎるだろこれ。

「しょうがない、使うか」

言われた通り膝のあたりのスイッチを押し、ディスプレイを操作して操縦桿を動かしてみる。すると【黒刃金】は右手首部分のケーブルを左手で掴んだ。そのままディスプレイで動かない【甲士】の装甲の隙間にある整備用のエネルギー供給用の差込口を指定してみれば、【黒刃金】はケーブルを結構手早く接続してくれた。

≪おい何をやってる!作戦中だぞ!≫

「エネルギー回復してる!このままじゃ動けなくなるんだよ!」

少しは事情を知ってるはずのあのイカレ女が真っ先に大声張り上げてきたあたりにちょっと腹立つ。けど、よく考えたらエネルギー不足は斉人にしか言ってないんだからしょうがないかもしれない。まあ、そう考えれば説明不足かもしれない。

そんなこと考えながらもディスプレイを見れば、なんだかものすごい勢いでエネルギーが回復していく。ちょっと目を離した隙に既に79%まで回復していた。オッサンの言ってた通り、この【黒刃金】は燃費の悪さをエネルギー供給率の高さと供給方法の数で埋め合わせているらしい。

その時また激しい爆発が起きた。モニターを動かして見れば、予想通り赤土達が居るあたりからだった。しかも数が二機から四機に増えている。ちょっとまずいかもしれないけど、エネルギーは86%で十分いける。最悪もう一度貰えばいいだけの話だ。

ケーブルを抜き、グレネードキャノンを構える。攻撃範囲が広いこいつを下手にぶちかますことはできない。流れ弾や爆風で吹き飛ばすわけにはいかない。さすがにあのゴリラでも死んでしまう。既にシールドガンは弾切れ。だけど結構温存しておいたグレネードキャノンはまだやれる。

「そっから離れろ!」

取りあえず声はかけておいて、ワンテンポおいてから一番奥の一機にグレネードキャノンをぶち込む。爆炎を上げて胸部装甲を吹き飛ばして倒れてるけど、あれでは完全には倒しきれていない。シールドガンで防御しつつ突撃して残り三機の真ん中あたりに陣取る。

「さっさとコックピットの中に入って止めろ!早くしねーとまた起き上がるぞ!」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



もうここに用は無い。対ショック装備を解除してバズーカを背負って立ち上がり、ワイヤーを伝って地上に降りてバイクに飛び乗ってそう遠くないD5棟に向かう。ちょうどそこにアイツが吹き飛ばした【甲士】がもがいているハズ。なら、私で一機動きを止める。

こちらの動きに気づいたのか、【黒刃金】が右に移動していく。変なところに気が利く奴だ。戦闘の衝撃で時々バイクが持っていかれそうになるがそれを渾身の力で堪えてD5棟とD6棟の間に倒れている【甲士】の首元のコックピットを探す。のんびりしていたら起き上がってまた攻撃してくるかもしれない。

そんなことを思っていたから、私は倒れた【甲士】にぶち込まれたバズーカ弾に心の底から驚いた。

「きゃっ…!?」

「おらおらおらぁ!」

赤土は佑奈のことなどまるで気づかずに手当たり次第に手下が渡す重火器をぶちかましていた。前も同じようなことをしていたからそのこと自体には驚かなかったが、ついさっき斉人が【甲士】の動きを止める一番簡単な方法がアイツの言うとおりにすることだと証明したばかりなのに、そんなことなんて知ったことじゃないとばかりな態度なのが信じられない。

やがて【甲士】の装甲が限界に達したのか、【甲士】が派手な爆発を起こして機能を停止した。

「なんだぁ?志和のお気に入りのお姫様がなんでここに居んだよ」

赤土がいつも私を見るあの見下した視線と笑っている声音でバカでかい声を上げた。アイツは赤土のことをゴリラ呼ばわりしていたが、私にしてみればそれ以下の下品さを持つ何かだ。手下どももこいつの下に居れば何でも許されるとでも思っているのか、一人の時は私にびくびくしているくせに今はニヤニヤと気色悪い笑顔を浮かべている。

「お前に無駄弾撃たせないつもりだっただけだ。無駄だったみたいだけど」

「ははははは!なんだお前、あのお坊ちゃまの言うこと信じてんのか?いっつも誰も信じないなんて吹かしてる割には素直だなオイ」

「効率的な戦闘方針を示しているんだ。それに従うのは当然だ」

「それがやたら素直だっつってんだよ。あのお坊ちゃまに惚れでもしたか?」

手下どもが一気に声を上げて笑う。思わず唇をかむほど苛立つ。惚れただのなんだのは特に気にならないが、要するにアイツの言ったことを聞きたくない我儘を私への嫌味で隠しているのが腹立つ。そしてそれを赤土の後ろを安全地帯と勘違いして安心しきっている連中にも腹が立った。

「無駄弾を使ってあとで後悔したくないだけだ。弾切れ起こしてから存分に後悔するんだな」

まるで負け犬の捨て台詞みたいだったけど、それ以外言える言葉は無かった。

佑奈は大声で笑い続ける赤土達に背を向け、移動した【黒刃金】を追いかけた。

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