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7:開戦

ディスプレイを操作し、プラズマジェネレータをチャージから再稼働用にアイドリングに切り替える。モニターにチャージ不足を示す警告が現れるが、どうしようもないしさっさと消しておく。

≪みんな、もう一度作戦を説明しておく。これから私達は地下行きエレベータに向かうべく移動を開始する。そこで君たちには、非戦闘員が移動を終えるまでここで奴らの足止めをしてもらう。ただ今回からは一真君と、彼の操縦する重量二脚機を戦力の中核に据えていくことだけは理解しておいてくれ。最終的には仕掛けておいた爆破装置で足止めとかく乱をしている間に離脱すること。合流地点はさっきも言った座標だ。何か質問はあるかな?≫

志和の声が集音器越しに響いて来る。俺の名前が出たあたりでこの機体に視線が集まったらしく、モニターにあのゴリラ含むこっちを胡散臭げに見る連中の姿がアップで映った。それにしても、そろそろ斉人が工場からかっぱらってきた武装を運んでくるはずだが…。

モニターにこっちに近づいて来る大型トラックが二台アップで映る。どうやらあれらしい。実物はまだ見ていなかったけど、かなり大型のトラックで運んでるから結構大きそうだ。

トラックが両腕の下に止まり、積荷を覆っていたカバーが自動で外れる。注文通りグレネードキャノンとあの剣だ。出来れば剣じゃなくてバズーカの方が良かったけど、無い物ねだりは出来ない。

≪持ってきたぞ。さっさと取れ≫

「はいはい…ってなんでお前?」

≪斉人に頼まれた。人手が足りんそうだ。お前に協力したがる物が居ないらしい≫

「一々嫌味な女だな。ま、そんでもお前が協力してくれるだけマシか」

イカレ女が何も言わずに拡声器を隣の斉人に投げつけて歩いていった。明らかに不機嫌そうな後ろ姿だったが、まあ別に機嫌取りたいわけじゃない。だけど、やっぱり進んで協力してくれる面子は今のところ斉人一人と言うのが改めて思い知らされてちょっときつい。

「やっぱ嫌われてんのかね」

≪ま、見つめ合っただけで惚れられるようなあり得ねえチート野郎じゃないんだからしょうがないんじゃないか?ふつう人間関係って時間かけて作るもんだろ≫

「かもな」

どうやら外部スピーカーがオンのままだったらしい。ちょっと気にしてた独り言を聞かれた恥ずかしさを隠そうとぶっきらぼうに返し、ディスプレイをタッチする。

≪離れろ。動かすぞ≫

斉人が慌ててトラックから離れていくのを確認して操縦桿を倒し、【黒刃金】が足元のトラックの荷台に積まれていたグレネードを拾い上げ、右腕にしっかりと装備した。左腕に装備したままのシールドガンの残弾を確認し、まだ半分以上残っていることを確認する。あまり効果は無さそうだけど、無いよりはあった方がいい。

≪おーい!剣はどうすんだよ?≫

「そこに転がしとくさ。もう両手塞がってるし」

遠くから聞こえる斉人の声に返事をしつつ、一真はもう一度ディスプレイを操作する。この機体のレーダーが作動し、半径二十キロ圏内の敵機の機影を探す。どうやら敵機はまだ来ていないようだ。

だけど、偵察機はもう来ていたようだ。

咄嗟に操縦桿を握りしめ、【黒刃金】の左腕を上空に向ける。

「偵察機だ!耳塞いでろ!」

それだけ言って、一真は操縦桿の引き金を押した。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



斉人に無理やり付き合わされ、ようやく解放されると同時に佑奈7は目当ての相手を旧公園の休憩所に見つけた。急ぎ足で駆け寄り、出来る限り冷静に声をかけようとする。しかし、先に相手はこちらに気づいていた。

「佑奈。どうしたんだ?」

「なぜ私が非戦闘員の護衛なんだ。私も残って戦う」

私は志和を睨みながら拳を握りしめる。作戦の時は必ず最前線を志願しているのに、志和はあまり叶えてくれない。やはり、こいつも私を女扱いして甘く見ている。

「最前線だけが戦場じゃないさ。優秀な奴を大事な戦えない人たちの護衛に回すのは当然だろう?佑奈は、赤土みたいなやつにそんな役を任せられると思うかい?」

「それとこれとは話が違う!」

柱を殴りつけ、渾身の怒りを込めて志和を睨む。だけど、志和は相変わらずの薄目で感情が見えなかった。表情すら変わってないあたり、私のことなど見えていないのかもしれない。

「護衛なんてやってられるか。私も、結局は赤土と同じだ。常に何かと戦ってないと…何かを壊さないと気が済まないイカレ野郎なんだ!」

「そうかい?でも…」

「私は絶対に残って戦う。それを許さないって言うのなら、私はここを離れるだけだ」

言うだけ言って志和に背を向け、小走りで武器庫に使っている一軒家に向かう。

「分かったよ。君ほどの戦力は失いたくないからね。護衛は他のメンツに任せるよ。存分に戦うと良い」

志和の声を背に、私は武器庫の扉を開けると同時に、あの腹立つ声と爆音が響いた。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



爆炎を上げて墜落していく偵察機をモニターで確認し、一真はすぐさま最大範囲にレーダーを設定する。さっきまでより感知能力は落ちるが、半径五十キロ圏内の敵機をある程度補足してくれるレーダーには、すでに四機の敵が反応していた。

「四機北西から近づいてる!たぶんまだ来るぞ!」

通信機の音量を上げて叫ぶ。

≪分かった。でも移動は進めておくけど、全員安全区域にたどり着くまで後二時間はかかるはずだ。それだけ時間を稼げるかい?≫

≪んなもんどうでもいい!さっさと始めろってんだ!≫

≪ほ、ほんとに大丈夫かぁ?生き残れんのかよ俺たち…≫

次々と通信に聞こえてくる声たち。あまりにうるさくて通信を切りたくなるけど、そんなことして重要な指示を聞きのがすようなことはしたくない。大型特殊二脚免許の教習所で習ったうちの一つが、どんなことがあっても通信は切るな、だった。

レーダーの反応を元に予測進路と到達時間を計算し、あと十五分後に戦闘可能区域に侵入することを確認して全員共用のリストフォンのナンバーに送る。これで少しはメンバーからの受けが良くなればいいけど、あまり期待しない方がよさそうだ。

両腕の武器の接続をもう一度確認し、プラズマジェネレータを本格的に稼働させる。ディスプレイに現れた、残り72%のエネルギー残量に視線が行ってしまうが、無理やり視線を逸らして各種チェックを進めていく。それでもやっぱり中途半端な残量は気になる。まあ、あの剣を使わなければいけるだろう。

≪やあ一真君!戦いを前にして絶賛武者震い中かな?≫

腹立つ声がまた聞こえた。無線のスイッチを切りたい衝動に駆られるが、そんなことしてられない状況と分かって通信してきている。こいつはそんな奴だと心底わかった。

≪報告してくれないから全然そっちの情報が分かんないケド、【黒刃金】の整備状況から見て作戦前でしょ。勝つ自信あるかな?≫

「アンタと喋ってると闘争心が失せてくのが分かるよ。用がないなら黙っててくれ」

≪用があるから連絡してるのさぁ≫

「語尾を伸ばすな、語尾を」

寒気がするほど腹立つ喋り方に自然と顔がゆがむ。どこまで人を小馬鹿にしたオッサンだこいつは。

「で、要件は何だよ。俺を冷かしたかったなんかじゃないだろうな」

≪違うってば。一真君、【黒刃金】のコックピット内に幾つかスイッチがあるのはもう分かってるだろう?≫

言われて改めてコックピット内を見渡す。確かに、モニター以外にも操縦桿から遠く離れたところにも幾つかスイッチがあった。

≪じゃあ、座ってるシートのちょうど膝のあたりにあるスイッチが分かるかい?≫

「こいつか。なんか出るのか?」

何の気なしにスイッチを押してみる。しかし、何も起きない。

「何もでねーぞ」

≪そうかい?じゃ、ディスプレイを確認してみてくれないか≫

「ちょっと待てよ…」

モニターをでかでかと占拠しているオッサンの顔を押しのけて空間ディスプレイを投影する。すると、ディスプレイに機体の右腕部分の変化が表示されていた。どうやら何かしらケーブルが伸びているらしい。

「何だぁこれ?」

≪緊急時エネルギー供給システム。ソイツ、滅茶苦茶燃費が悪いでしょ。だからいざって時には味方の機体からエネルギーを分けてもらう仕組みになっているんだ≫

「味方って、味方居ないじゃん」

≪居なけりゃ敵から奪えばいいだろう?敵のプラズマジェネレータに直接そのケーブルを差し込むだけでエネルギー回復出来るんだ。動けなくしてエネルギーを奪えれば、補給と撃破が一緒にできて一石二鳥と思わないかい?≫

「そりゃすごいな。で、どうやって敵のジェネレータに接続するんだ?」

なんとなく気になってあちこち操作しながら聞いてみた。

≪そりゃ知らないよ。詳しいマニュアルなんか残ってないし。君で調べて≫

また一つこのオッサンに対する怒りと苛立ちが誕生した。

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