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5:死闘

一体何言ってんだこのオッサン。やっぱり馬鹿だろ、どう考えても。

しかし無線機越しのオッサンの顔は満面の笑顔だ。気持ち悪いくらいに。

「ふざけんのか?」

≪いやいや、僕は至って真面目だよぉ。実際、君だって何度か死にかけたんだろう?≫

「まあそうだけどさ…ってかそもそもアンタに騙されなきゃこんな目にあわずに済んだんだろうが!」

≪騙したのは悪かったよぉ。でもさ、もうそこに居る以上は腹くくってやってくれない?動かし方はマニュアル通りで後は初期設定決めるだけだからさぁ≫

けらけら笑うオッサンの全てに腹が立つ。そもそもなんで俺はこんなオッサンに騙されてしまったんだ。生活苦だったとか、日給七万に惹かれたとかいろいろあったけど、結局は国家権力を振りかざした詐欺に引っかかってしまった俺が悪いのか。そうか………。

全身の力が抜けてコックピットの背もたれにもたれかかる。軽い頭痛で目頭を押さえて下唇を噛む。ちょうどその時、また激しい振動が走って思わず下唇を切ってしまう。慌ててコックピットから這い出ると同時に何かが激しく崩れていく音が聞こえてきた。それに合わせて小刻みな振動も感じる。

「外壁が壊されたか…!」

イカレ女がハンドガンを構え斉人が武器を探してあちこち歩き回る。そして俺の居る場所からは、すでに三体の【甲士】が武器を構えつつこの工場内に侵入しているのがハッキリ見えた。このままでは、間違いなくあいつらはここに入り込み、俺たちは全滅する。それが分かっているから、斉人もイカレ女もそれぞれの武器でせめてもの抵抗をしようとしている。そして今、俺の手の中にある武器は――――――――

「オッサン。初期設定のやり方と武器の場所教えてくれ」

≪やる気になってくれたかい?OK。じゃ、僕の言うことをよく聞いてくれ。まずは――――――≫



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「撃て!」

志和の号令を受けて順番に対大型用バズーカが放たれ、次々と三体の【甲士】の背中に爆発が起こる。これで恐らく【甲士】たちの注意はこちらに向いた。それを確信した志和は拡声器を片手に声を上げる。

「よく聞け!奴らの弱点は精密機器の集中する頭部だ!頭部を狙え!歩兵なら楽に狙えるはずだ!」

指示通りに動く十人の仲間たち。事前の報告では一体のはずだったが、到着した時には三体に増えていた。まあ発見されてから時間がかかっているのだから増えても不思議ではない。しかし、問題は三体も居ると言うことだった。このくらいの戦力で大体一体くらいを奇襲して倒しているのがいつもの戦法だと言うのに、それが三体なうえに奇襲と言うえるほどでもない中途半端な攻撃をせざる負えなかった。出来ることなら、手短に三人を回収して逃げるのが最善だが………。

「佑奈!斉人!無事か!?」

志和は無線に声を送るが、帰ってくるのは雑音だけ。思わず舌打ちして再び戦況を確認するが、やはり芳しくない。倒れているものは居ないが、バズーカを構える暇がないほど向こうの攻撃が激しい。このままでは、最悪のパターンも考えておかねばならなくなる。

志和が思わず舌打ちし、もう一度無線機に声をかけようとした時、【甲士】たちの背後の壁が激しく吹き飛んだ。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



初期設定を設定し終え、一真はようやくこの【黒刃金】の起動シークエンスに入る。目の前のモニターがあの忌々しいオッサンの顔から機体のコンディション表示に変わり、真っ黒だったメインモニターが周囲の映像を映し出す。

「か、一真!何やってるんだ!?」

「みりゃ分かるだろ!こいつであいつ等を蹴散らす!」

「出来るのかよぉ!?」

「動かし方くらいは分かる!」

狭苦しいコックピットの中で隣の二人が口々に色々言ってくるが、もうそれに細かく説明できる余裕はない。モニターを操作して主に足元の安全確認。大型二脚を動かす際は、周囲、特に足元に人が居ないことを確認するのは教習所で真っ先に学ぶことだ。誰も居ないことは分かっているが、それでも大型二脚を動かす以上は条件反射でやってしまう。

完全に起動を終えたのを確認したのか、【黒刃金】の全身に繋がっていたチューブが外れ、作業用の足場が折りたたまれていく。そして、【黒刃金】の左右の手元に厳重に保存されていたケースが落ち、蓋が開く。中から出てきたのは、右手側に大型用の真っ黒な日本刀。そして、左手側には内側にライフルを内蔵したシールド。空中投影型タッチパネルを操作してそれらを【黒刃金】に装備させていく。

「行くぞ!二人とも舌噛むんじゃねーぞ!!」

「ま、まじかよ!?うおぁ!!」

「っ…!」

二人の同意を待たず、一真は一気にフットペダルを思い切り踏み込む。バックユニットのスラスターが点火し、強烈なGが襲い掛かってくる。隣で二人が軽い悲鳴を上げるも、そんなことに構っていられる余裕もなくタッチパネルを操作しシールドガンを正面につきださせる。激しい振動と共に壁を突き破り、黒い機体が日の光を浴びて輝く。しかし、そんなことに感慨深く思ってはいられない。

「正面か!」

すぐ目の前に一機目の【甲士】が機械的な動作でライフルをこっちに向ける。咄嗟に右の操縦桿のスイッチを押しながら前に押し倒す。それに連動して【黒刃金】の右手が日本刀を振るい、【甲士】の右腕の肘関節から下を切り落とす。しかし、そのせいでその他の二体から最優先攻撃対象と認識されてしまったらしい。奥の方の一機がライフルを撃ちつつ距離を取り、右手を失った一機と顔の部分を破損した一機がそれぞれブレードを構えて近づいて来る。

「さすがに適応が速いな…!」

「機械が動揺なんかするか!?早く避けろ!!」

一真の耳元で佑奈が騒々しく騒ぐ。思わず顔をしかめながら再びタッチパネルを操作し、フットペダルを踏み込む。初期設定中に課長から教えられた、この【黒刃金】の設計コンセプト。

正面の装甲の隙間から小型のスラスターが現れ、さらに左肩の装甲の隙間からも小型スラスターが現れる。そして足の裏のローラーは、最新技術で作られた大型重量二脚用の360度ローラーであり、直線移動とほぼ同じ速度で自由にカーブが可能。

右に高速で機体を移動させ、直線移動しかできない【甲士】は反応できずついさっきまで【黒刃金】が居た場所を通り過ぎていく。

軍用二脚がどんどん巨大化し、重装甲型になりつつある現代。いずれ始まる予定であったロボットバトルにおいて、他国がそれらを重要視する中で、日本の技術者たちは真逆の発想、高速機動で敵の攻撃を回避する機体を秘密裏に作ろうとしていた。そして、この【黒刃金】はその記念すべき第一号だった。

「動きはいいけど…流石にGがきついな…!」

手先がわずかに痺れ始めてきた。高速機動に伴う激しいGで血液が背中に集まって指先に血液が届いてないらしい。だが、敵は予想外の動きに適応できずにブレードを空振り体勢を崩す。そして、2体の【甲士】の首のメンテナンス用コックピットハッチが視界に入る。

「そこ!」

痺れる指先でロックオンし、フットペダルと操縦桿を再度押し込む。強烈なGで肺の中の空気が抜けていくのを感じる。押し戻されそうになりながらも必死の思いでレバーを押し続け、半分自動で【黒刃金】が日本刀を振るい、目前の顔を損傷した【甲士】の首元の装甲に刃が入る。だが、刃が弾かれてこっちが体勢を崩しかけてしまった。

「くそ、そもそもなんで日本刀なんだよ!対軍用二脚ならブレードだろ!」

「耳元で叫ぶなぁ!」

イカレ女がお返しとばかりに俺の耳元で大声を上げる。しかもコックピットの中に響くくらいの大声で叫ぶせいで斉人が若干耳を押さえた。

だが、そんな馬鹿なことばっかりやっている場合ではない。日本刀からシールドガンに切り替え、至近距離で手近な【甲士】に狙いを定めてスイッチを押す。装甲越しに発砲音と金属音が響き、着弾を示す派手な火花がモニターに映る。だが、警告音が鳴り響き俺はスイッチから手を放して操縦桿を引く。俺の動きに連動して横向きにGがかかり、背後に回っていたもう一体の片腕の【甲士】がブレードをシールドガンで受け止める。

「邪魔だ!」

再びタッチパネルを表示し、装備を日本刀に切り替えようとしたその時、斉人が「おい!なんか書いてあるぞ!」と叫んで横からパネルに触れた。

斉人が触れた部分に視線を落とし、モニターに【HEAT UP】の表示と三分のカウントが現れたのを見つける。しかし三分のカウントは全く減ることは無く、それ以外の変化はコックピット内には無かった。

「何やったんだよ斉人!?」

「お、俺は知らねーよ!」

「お前のせいだろう!?」

「佑奈まで俺のせいってかぁ!?」

斉人がまたひときわ大声で叫ぶ。だが、変化はコックピット内ではなく機体に現れた。

日本刀の柄の下部分が開いてチューブが伸び、日本刀を握る腕のコネクタに刺さる。そして、三分のカウントが下がり始めた。

「カウントダウン!?何のだ!?」

叫び声が聞こえたかのようにディスプレイに日本刀にエネルギーが溜まっていく構図が表示される。そして、日本刀が高熱に熱せられて黒にわずかな赤が混じる。

混乱する一真のことなど気に留めるはずもなく、後ろから顔を損傷した【甲士】がブレードを構えて突撃してくる。その後ろには無傷の【甲士】がライフル片手に追いついてきた。目の前の片腕の【甲士】も一歩も引きさがることなくブレードを押し込んでいた。

「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

最早やけくそだ。このままではやられる、と言う思いだけを込めて操縦桿を押し倒す。【黒刃金】が一真の動きに連動してシールドガンを振り上げて目の前の【甲士】を突き飛ばし、そのまま日本刀を振るう。

本来なら不愉快な金属音と一緒に弾かれるはずだった。だが、日本刀はジュッと言う音と共に目の前の【甲士】の装甲が溶断される。

「融けてる…!」

超高熱で敵の装甲を溶断するヒートブレード。これこそが日本の新型の真骨頂だった。

タッチパネルを操作し、フットペダルを思い切り踏みしめる。両肩のスラスターが火を噴き、高速で方向転換を果たして迫ってくる【甲士】に向き合い、バックユニットのメインスラスターを点火する。機械的な動きで【甲士】がブレードを突き出し、一真はシールドガンを操作してそれをいなす。そしてがら空きの腹部に日本刀を入れ、真っ二つに溶断した。

機能を停止し、動きを止める二体の【甲士】。残るはあと一体。だが、そんな時に限ってイカレ女が耳元で声を上げる。

「カウントが…!」

「は?」

イカレ女がモニターを指差す。残りカウントがすでに後二十秒を切っていた。

「ちょ、早!」

「言ってる場合じゃないでしょ!?早くとどめを刺さなきゃ!!」

喋っている間にさらにカウントが十秒を切る。

慌ててフットペダルを踏み込み、強烈なGに耐えつつタッチパネルを操作してシールドガンを前に突き出して【甲士】が放つライフルの銃弾を防ぎながら突き進んでいく。

操縦桿を一思いに押し倒し、連動して日本刀が振り下ろされる。だが、その直後にカウントがゼロになった。

【黒刃金】が動きを止め、コックピット内も最小限の電源を残して動かなくなる。メインスラスターがいきなり消えた上に機体そのものの動きが止まったせいでまともに制御ができず、慣性の法則にしたがって真っ黒な機体は日本刀を振り下ろした体勢のまま足裏のローラーに任せて滑り続け、目の前に建っていたビルを避けられずそのままビルに突っ込んで倒れ込んだ。

「マジかよ!?くそ、どうすりゃ…!!」

あちこち色々弄り、何度も操縦桿を動かす。だが、全く動かない。辛うじて残っているのはメインモニターだけで、しかもそれが映しているのは一歩一歩近づいて来る【甲士】の姿と言う鬼畜仕様。

もはやこれまでか、観念して脱出すべきだろう。せめてこんなところでぎゅうぎゅう詰めに押し込まれた状態で死にたくはない。

「逃げるぞ」

「ああ…」

「………」

斉人も佑奈も反論せず、コックピットから出ようと動き始める。

その時、迫ってくる【甲士】が何度も爆発した。

メインモニターに映る、無駄のない動きで【甲士】を囲む十人。全員対大型用バズーカを構え、一斉に【甲士】目がけて放つ。爆炎に呑み込まれ、一瞬【甲士】の姿が見えなくなった。

≪三人とも、無事か?≫

「し、志和さぁん………」

斉人がこっちまで気が抜けそうなほど情けない声を出した。佑奈もわずかに安心した顔を見せ、気づけば一真も全身の力が抜けていた。

≪無事ならそれでいい。あの一体は俺たちにまかせておけ≫

その声が聞こえると共に、一真は思わず意識を失った。

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